三つ滝の宿

小説練習家

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湯気の中に、低い足音が重なった。

沈黙を突き破るように、引き戸が立て続けに開く。冷たい外気が一瞬だけ流れ込み、白い湯気が揺れた。

「……あ、颯太。やっぱりここにいた!」

若い声が弾む。
湯船の縁に肘をかけていた男――颯太が、こちらを振り返って笑った。

「おお、松ちゃんたちも来たか。まじでいい湯だぜ、ここ」

ぞろぞろと若者たちが湯に入ってくる。沈んでいた浴場の空気が、一気に騒がしくなった。黒川は視線を伏せ、会話だけを拾う。

「……いや、そんなことよりさ」

少し低い声が割って入る。

「恵美がいないんだけど、誰か知らない?」

一瞬、湯の音だけが残った。

「え、恵美が?ごめん、俺は見てないな。」
「大丈夫そう?」

短い言葉が、ばらばらに飛ぶ。

「とりあえず、紗香が探しに行ってくれたけどさ」

「心配やな~」
誰かが肩まで湯に沈みながら言った。
「俺、もう温まったし、先に出て探してくるわ」
颯太と呼ばれたその男は立ち上がりながら言った。

湯船の縁で水を切る音がする。

「てかさ、隼人も探さなくていいの?」
茶化すような声。
「一応、彼氏だろ?」

名前を呼ばれた男は、少し間を置いて鼻で笑った。

「うーん、いつものことだからなぁ」
肩をすくめる。
「どうせトイレで寝てるんじゃね?」

何人かが小さく笑った。
冗談として受け取ろうとする空気が、無理に作られている。

黒川は、湯の中で静かに目を閉じた。

湯は変わらず温かく、滝の音は遠くで規則正しく響いている。
それが、なおさら不自然だった。

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