三つ滝の宿

小説練習家

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聴取(続き)

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警察が山へ向かったあと、宿は奇妙な静けさに包まれた。
騒がしさも、ざわめきも、すべて置き去りにされたようだった。

黒川は、宿の一室で若者たちを順に迎え入れた。
事情を整理するため──そう説明すれば、誰も拒まなかった。

──

松川誠

「23です。
趣味は、まあ……ゲームですね。仕事でシステムエンジニアやってるのもあって。今日も『ディフェンスサバイバーゲーム』のオフ会で集まってるんですよ」

そう言って、少し照れたように笑う。

「ギルドのマスターやってます。
 今回の集まりも、俺が声かけました」

黒川は、湯呑みを置きながら尋ねた。

「今回が初めての旅行でしたね」

「はい。今まではご飯会だけで」

「赤司さんとは?」

「普通に、仲間です」

一瞬、言葉が止まる。
だが、それ以上は続かない。

──責任者という立場が、彼を必要以上に目立たせていた。

──

岡村浩二

「31です。
    趣味は筋トレですね」

岡村は、腕を軽くさすりながら言った。

「毎日ジム行ってます。
    体動かしてないと落ち着かなくて」

「昨夜も?」

「さすがに旅先では。
    でも、部屋で軽くストレッチはしました」

何気ない言葉だが、
"体力がある"という印象は、強く残る。

──

石田隼人

「26です」

短く答える。

「趣味は……特に」

赤司の話題になると、視線が少し逸れた。

「付き合ってました。だから、心配してます」

それ以上は、語らない。
言葉を抑え込む態度は、
誠実にも、隠し事にも見えた。

──

宮下颯太

「29です」

颯太は、気負いなく答えた。

「趣味はキャニオニングとか、温泉に入って景色見る事ですね」

黒川は、軽く頷くだけだった。

「小さい頃から自然が好きで」

説明はそこで終わる。
誇示も、詳細もない。

──ただのアウトドア趣味。
今は、それ以上でも以下でもない。

──

早河愛莉

「22です。趣味は……あまり」

言葉を探すように視線を落とし、
やがて小さく付け加えた。

「私、心配性で……」

黒川は、少し間を置いて言った。

「何か、気づいたことは?」

愛莉は、一瞬だけ周囲を気にしてから、声を落とした。

「松川さんが……
    恵美のこと、ちょっと気になってたみたいで…」

「どうしてそう思いましたか」

「よく話しかけてたし、
    今回の旅行も、恵美が行くって言ってから
    決まった気がして……」

愛莉は、慌てて首を振った。

「でも、悪い人じゃないです。
    本当に、ただ気になっただけで」

黒川は、その言葉を否定も肯定もしなかった。

──

聞き取りを終え、黒川は一人、部屋に残った。

年齢。
趣味。
関係性。

どれも、決定打にはならない。
だが、誰にでも「物語」はある。

責任を背負う者。
体力に自信のある者。
恋人。
好意を抱く者。
ただ、場にいる者。

──この中に、嘘をついた者がいるとは限らない。

黒川は、静かに立ち上がった。

警察が戻るまで、まだ時間はある。
そして、真実はいつも、
人の言葉の外に残る。

──────────────────

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