三つ滝の宿

小説練習家

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攻め合い

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広間に沈黙が落ちたのは一瞬だった。
最初に、それを破ったのは誰かの小さな舌打ちだった。

「……結局さ」

低い声で、隼人が言う。

「全員、何かしら怪しいってことだよな」

その言葉を合図に、矛先は一人ずつ、確実に向けられていった。

「まず岡村さん」

鋭い視線が、浩二に向かう。

「首を絞めたって話なら、一番力あるのはあなただよね」
「抵抗されても、押さえつけられる」

浩二は顔をしかめた。
「待てよ、それだけで俺か?」
「力があるってだけで犯人扱いかよ」

「でも、"できる"のは事実でしょ」

その一言が、場を冷やした。

次に、愛莉へ視線が移る。

「愛莉さ最初ギルドの中心に居たのに、恵美が来てから中心の位置取られちゃったよな」

愛莉の眉が跳ね上がる。

「……だからって何?」
「嫉妬してたって言いたいの?」

「否定できる?」

返事に詰まった一瞬が、致命的だった。

「別に……好きじゃなかった、とは言わないけど」
「だからって殺すなんて──」

言い終わる前に、視線はもう別の人物へ移っていた。

「いや、そういう隼人だってさ」

今度ははっきりとした声。

「昨日、喧嘩してたよな。声、結構響いてたって聞いたけど」

隼人が立ち上がる。

「それだけで疑うのか?口論したカップルなんて、山ほどいるだろ」

「でも、"最後に揉めてた"って事実は残る」

隼人は唇を噛み、何も言い返せなかった。

誰かの視線が、颯太へ向いた。

「……そういえばさ」

誰かが、思い出したように言う。

「颯太、朝ひとりで風呂行ってなかった?」

空気が一気に張り詰める。

「俺ら、誰も一緒に行ってないよな」
「正直、どこにいたか分かんないんだけど」

疑念が、はっきりと言葉になった瞬間だった。

颯太は、一瞬だけ目を伏せた。
それから、静かに顔を上げる。

「それは違う」

声は、思ったより落ち着いていた。

「俺、朝は一人じゃない。
    そこの探偵さんと一緒に温泉入ってた」

そう言って、颯太は黒川を見る。

「時間も覚えてるし、ちゃんと一緒だった」

一斉に、視線が黒川へ集まる。

「それにさ」

颯太は、少し語気を強めた。

「俺、もうすぐ結婚するんだ」
「今の時期に、殺人なんてするわけないだろ。全部失うの分かってて、やると思うか?」

誰も、すぐには言い返せなかった。

だが、疑いが晴れたわけではない。
ただ、別の場所へ移っただけだ。

最後に、松ちゃんが、苦笑いを浮かべた。

「じゃあさ」

軽く両手を上げる。

「頭いいギルドマスターの俺が、この場所選んだんだから」
冗談めかした口調で言う。
「最初からトリック考えてて、完全犯罪狙ってた……って線も、なくはないよね」

笑いは起きなかった。

最後に、誰かがぼそりと呟く。

「……じゃあ、誰なんだよ」

その言葉で、場の空気は完全に壊れた。

黒川は、その様子を一歩引いた位置から見ていた。
ここにいても、これ以上は悪くなるだけだ。

──調べに行くか。

警察に協力するか。
それとも、独自に動くか。

黒川は、静かに決断の岐路に立っていた。

──────────────────

警察に協力する
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