三つ滝の宿

小説練習家

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最終章

違和感

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静けさが戻ったはずの宿で、黒川は一人、ホールの椅子に腰を下ろしていた。

事件は終わった。
犯人は連行され、警察も引き上げた。
理屈の上では、すべて解決している。

──それでも。

胸の奥に、砂粒のような違和感が残っていた。

理由は分からない。
ただ、何かが噛み合っていない。

ふと、玄関先でのやり取りが脳裏に蘇る。

「確認に向かいたいのですが、ゴンドラの運行が珍しく三十分ほど遅れていて、ここで待機しているところです」

警官が、腕時計を見ながらそう呟いた声。

──なぜ、遅れていたんだろうか。

機械トラブル。
自然環境の変化。
そう片付けられていたはずの出来事。

だが、黒川は思い出してしまう。

愛莉の、あの言葉を。
「松川さんが……
恵美のこと、ちょっと気になってたみたいで…」

「どうしてそう思いましたか」

「よく話しかけてたし、
    今回の旅行も、恵美が行くって言ってから
    決まった気がして……」

偶然だろうか。

さらに、もう一つ。

冗談めかして誰かが言った言葉。

「頭いいギルドマスターの俺が、この場所選んだんだからさ」
「最初からトリック考えてて、完全犯罪狙ってた……って線も、なくはないよね」

笑い混じりの声。
誰も、本気にはしなかった。

──本当に?

黒川は、ゆっくりと息を吐いた。

「……まさか、な」

そう呟いた声は、誰にも届かない。

だが、その否定は、どこか頼りなかった。

外では、ゴンドラの低い駆動音が、夜の山に溶けていく。

その音を聞きながら、黒川は思う。

あれは、本当に「遅れただけ」だったのか。

答えは、もう誰にも確かめようがない。

─────────[完]
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