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ソウル

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竜槍物語

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 大陸を真っ二つに分けたクリムナル大戦の折、北の大魔術士の呼び寄せた奈落の女王によって世界は一変した。

 クリミアのエルフは精霊界への扉を閉ざして世界から姿を消し、
 山ドワーフは奈落の女王の軍勢との戦いで壊滅した。      生き残った山ドワーフは指の数くらいだといわれている。
 奈落の女王に従った人間やオーク達は世界を自分達の住めない地に変え、結果死んでいった。
 女王は世界を奈落の入口へと変えたことに満足し自らの住み慣れた地へと帰っていった。


 世界は人ならざるものによる混沌で埋め尽くされ、大陸中央では混沌が「支配している」という言葉がふさわしい。

 世界の中心に位置する一つの支配者の領土を囲むようにして二つの支配者が存在し、その二つの支配者の領土を囲むようにして四つの支配者が存在する。
 中央の支配者が勢力を広めようとする時、六つの支配者はその侵攻を食い止めるために動くであろうが、女王が奈落に帰ってから一千年、中央の支配者はそのような動きを見せていない。
 それだけ中央の支配者は六つの支配者達の恐れる存在であり、互いの勢力が互いを侵攻せずに領地を保ってきている大きな要因となっていた。


 七つの支配者の最北の領土を支配するエリザベスは玉座に座して嬉しそうに口元を歪めた。
「人間にお目にかかれるなんて何年ぶりかしら。どこでみつけたの?」
 胸元と腹部を露出させた衣装はエリザベスの身体のラインを美しく見せ、その視線は全ての男を虜にする危うさを放っていた。
    エリザベスの目線の先は王宮の冷たい床にうずくまり震える人間の女へ向けられている。
 人間の女の傍らには細身で初老の男が立つ。(というよりは宙に浮かぶようにして揺らめいている)
 老紳士はこの魅力的な女王を目の前にしても眉ひとつ動かさない。眼窩にはめ込んだ片眼鏡を右手で調整しながら深くお辞儀をして答える。
「詳しい場所はわかりません。愛しの少女からの献上品です。」
 男の表情に変化はなく、むしろ片眼鏡の奥の眼差しは暗く冷たい。
「あの娘がこの人間を・・・」
 エリザベスは少し考えたのち、愛しの少女のもとへ向かい他に人間がいないかを見てくるように老紳士へ命じた。口を割らないようなら調査と監視を行いなさい。人間の女は「いつもの部屋」に連れてくるように。そう言うとエリザベスは玉座から立ち去った。
 玉座の奥にはエリザベス専用の通路があり、その通路は「いつもの部屋」まで続いている。暗闇でよく見えないがエリザベスの足音がシュルシュルと滑るような音に変わった。片眼鏡の男はすすり泣く女の腕をつかみ立ち上がらせる。
 この後、人間の女は「いつもの部屋」でエリザベスの糸に包まれたのち頃合いをみて捕食される。それを女主人は楽しみのひとつとしているが、所詮、不死の亡霊である自分に蜘蛛の気持ちは理解できないと考えながら玉座の間を退出した。

 山ドワーフのフォージーは傷ついた身体を預けるようにして平らの岩にもたれかかると独り、愚痴をこぼした。
「まったく。待っては見たがレスもスルーフットもいっこうにやってこんではないか。」
 五年に一度(十五日間だけ)夜空に光る赤い星がでている間に再会しようと五年前に誓いをたてていた。赤い星がでて七日、予定であれば先の間道で仲間と落ち合っているはずだったがそれは叶わず、山ドワーフは一人で混沌が蔓延る難所をこえなければならなかった。
「おかげで兜を失ってしもうたわい。それに、なにより」
 山ドワーフは今にも叫びだしそうな形相で顔を赤くする。そして腰にぶら下げている酒樽を見つめて大きなため息をついた。
「あと何日酒を我慢することになるのか」
 二日前、奈落に落ちたミノタウロスの不意打ちにより酒樽に穴を開けられ中身を失ってしまった。
    酒を失った時のフォージーは極めて危険なことを仲間達は知っている。誰も彼の酒を好んで貰いにいこうとしないのもこのためだ。(かといって彼が勧める酒を断ることも絶対にしない)
    山ドワーフはもともと怒らせると恐い種族であるが、この山ドワーフはそのはるか上をいく。
 ミノタウロスは四体でフォージーに襲いかかったが、本来の力を解放したフォージーにミノタウロスごときがかなうはずはなく、脇腹に負った傷はミノタウロスの両角をへし折る前にミノタウロスの突進を受け止めて負ったフォージーにとってはカスリ傷のようなものだ。
 フォージーは毒づいてはみたものの先の間道で仲間と会えなかったことに一抹の不安を感じていた。
    次の待ち合わせ場所で会えなければいよいよ最終目的地での再会となるわけだが、もしや一足先に着いて到着を待っているかもしれん。そう思うと重い腰を上げずにはいられなかった。

 一千年前に滅びた山ドワーフの王国跡を旅立ってはや十日。フォージーの旅は順調であった。クリミア湖を渡るために大嫌いな船に乗ることはなかったし、臭いどぶゴブリンとの遭遇もなかった。ミノタウロスの不意打ちによって酒を失ったが最終目的地までの残り三日間を我慢すれば、ゴディアカスの地下水を使ったうまい酒がたらふく飲めるだろう。
 干し肉とほんの少しの水で朝食を済ませニ時間ほど歩いただろうか、丘を登り切った先に独特な風貌をした木が山ドワーフの目に映った。
 高さ十五メートルから二十メートルのその木はガスカブの木と言われ幹の太さは十メートル以上ある。こんがりと焼けたパンのような色合いで、木のてっぺん付近までは一切枝分かれせず真っ直ぐに立っている。木のてっぺんでようやく枝が生えだすが無数の枝の先に葉はほとんど存在しない。
 その風貌からある有名学者は男性器が大地を突き刺しているかのようだと言ったがあながちわからないでもなかった。(女性植物学者リンネは植物の研究に熱心である一方、男への欲望も人並み以上だ。などとからかうものもいた)
 木はてっぺんにいくほど先が細くなるものや幹の太さのまま伸びているものもある。様々な形のガスカブを眺めながら進むと進行方向に沿って道の両脇を綺麗に並ぶガスカブの並木道に入った。
 遠方まで一直線に続くガスカブのその不思議な景観と天に向かって伸びる圧倒的な存在感は訪れる者を魅了する。
    無論、奈落のやつらにはこの感動はないだろう。そのようなことを考えながらフォージーは並木道を進んだ。小一時間歩いたのち並木道を外れてニ本の木が抱き合うように絡むガスカブへ向かう。
 このニ本の木は五年前にレスとスルーフットと別れる前に偶然見つけたもので先の間道で落ち合えなかった場合はこの木を次の待ち合わせ場所にしようと決めていた。
 久しぶりに会う仲間との再会にフォージーは胸躍る気分となったが、威厳を見せねばならんと考え、ゆるみかけた口元を固く結んだ。
 十分ほど歩くとニ本の絡み合うガスカブに到着した。

 だが、そこに仲間はいなかった。
 ガスカブに近づいてみると絡み合った木と木の間に手紙が挟まっている。レスからの手紙だった。

 信頼おける友達へ
 私は今、重大な任務についている。
 そのため、みんなとの再会の場へ行くことができなくなってしまったことを許してほしい。
 重大な任務に関しては今はまだ言えないがみんなが知ることになるまでそう時間はかからないだろう。
 近いうちに再会できることを願って。         レザンサロス

 フォージーは人差し指を口にあてて時折舐めながらレザンサロスの手紙を読んだ。手紙を持ったときに指に静電気が走ったためだ。
     レスだけでなくスルーフットの姿もないことを確認した山ドワーフはなんとも空虚な気持ちになった。あの憎たらしいワズーリでさえ今のフォージーには気を紛らわしてくれる相手になったであろう。

 フォージーは仕方なく最終目的地へ向けて歩を進めたが、そもそもレスのいないパーティーのところへ自分が行く必要などあるのだろうか。どうせダレスと喧嘩になるのがオチだし、ダレスを助けるメイザーがいて、味方になってくれるレスがいないなんて。
 山ドワーフは歩くのをやめ、その場にしばらく立ち止まった。目を閉じ空を仰ごうとしたとき、ふとエルフのライテミアの顔が浮かぶ。その後ライテミアの恋人ミストファングの顔が続く。
「フン。煩わしいエルフとの盟約があったわい。逃げたと思われてはかなわん。」
 山ドワーフは再び目的地へ向かい歩き始めた。

「賭けは僕の勝ちだね。」
「どうやら俺の負けのようだ、しかしスフーの見つけてきたものはこの先の冒険でも役に立つかもしれんな。」
「当たり前だろ。僕の持ち物で役に立たないものなんてないんだから。例えばこのフォークとナイフ。持つ部分がロープでできてるから、背負い袋の中にいれてもちっともかさばらないんだ。まあ、食べるときは持つ部分がくたっとしちゃうから先の方を持って食べるんだけど、その時に食べ物が指についたりしてちょっと嫌な気分になるかな。」

 周辺に誰もいないはずなのにフォージーはどこからかヒソヒソと話す声を聞いた。
 フォージーは歩くスピードを遅めてなるべく自分の足音をたてないようにして耳をすました。

「スフー、この効力はどのくらいの時間続くんだい?」
「あれ?そういうこと気にしたことなかったなー。」
「もしかしてずっとこのままだったらそれはそれでおもしろいかもね。」
「フォージーだけ見えてないなんて、そうだ、ちょっと腰にぶら下げている酒樽を蹴っ飛ばしてこようかな。」
「よせ、よすんだ、スフー。」

 かすかにだが確かに誰かが自分の名前を呼んだ。
 奈落の亡霊の仕業に違いない‼︎
 フォージーは自分の身の丈の三倍はあるハルバードの柄を強く握りしめた。この長槍戦斧そしてスパイク付きの金槌は普段はフォージーの台車に乗って運ばれている。
 フォージーがハルバードを一振りすればどぶゴブリンや奈落のオークなどは落石によって潰れたそれと同じく肉片のみを残して絶命するだろう。
    そしてその瞬間はやってきた。目の前にニつの影がうっすらと現れ始めたのだ。
 ハルバード先端の槍と斧は銀の輝きと鋼をしのぐ強さの金属でできており、実物のない亡霊をも突き刺し斬ることができる。
 フォージーが二歩も踏み出せば亡霊をハルバードの餌食とするには充分な距離だ。ハルバードを振りかざし山ドワーフは雄叫びをあげて最初の一歩を踏み出した。

 フォージーのはるか後方を歩いていたレザンサロスとスルーフットだったが、いつの間にかフォージーを追い抜いていた。スルーフットがフォージーの酒樽にいたずらをしようと近づきそれをレスが必死になって止めたためだ。
「まったくお前ってやつは。命知らずにもほどがあるぞ。」レスが言うと
「あっ!」スルーフットが悲鳴にも似た声をあげ、レザンサロスはこのワズーリの視線の先を追う。目の前でフォージーがハルバードを振り上げているのが見える。
「待って待って!」
 スフーが懇願するがフォージーのハルバードは容赦なくレスの胴体とスフーの左首を狙って美しい弧を描く。
 ハルバードの戦斧はそのまま振り抜かれ二人の命を奪う、はずだった。
 スフーの叫び声に気づいたフォージーはハルバードの勢いを止めようと力をいれ、レスとスフーは倒れこんで間一髪ハルバードの一撃を頭上へやり過ごした。

「なんじゃ、これは。どういうことだ。」
「奈落の亡霊が現れたと思ったらレスとスルーフットが現れおった。お前らは本当にレスとスルーフットなのか?」

 しばらく茫然とするフォージーを見ながらレスとスルーフットもまた、死の一撃を目の当たりにし目と口を見開くばかりだった。

 ワズーリ(無邪気でずる賢く、このいたずら好きな小人族)が見つけてきた「不思議な紙」は数秒触れるだけで触れた者に魔法をかける。魔法にかかった者は生き物が自分の視界に映らなくなるということがわかっている。それも長い時間は続かないことが今回のいたずらでわかった。あとでわかったことだが聴力も大幅に低下する。数回使うと紙に宿る魔力はなくなるようで、持っている枚数は言わないがスルーフットはこの紙を大事に小箱の中に保管している。
 レスはフォージーに謝罪し、この不思議な紙の効力が山ドワーフにも効くのか、はたまた今はこの不思議な紙の本当の使い道がくるときに備えて色々試しているなど必死に弁解をするが、なぜそんなことをする必要があるのかと山ドワーフは不機嫌のままだ。
 フォージーはニ人を亡きものにしてしまったかもしれない自分が許せなかったのだ。
「フォージー、あの紙を持った時に指に電気が走ったでしょ?電気がくるって気をつけていれば、たいてい魔法にはかからなくてすむから、覚えておくといいよ。」スルーフットが親切ぶって教える。
「スルーフットよ。どこで見つけてきたか知らんが、そんな役に立たんボロ紙は早く捨ててしまえ!!」
 しばらくフォージーとスルーフットのやりとりが続きそれを眺めてレスは懐かしい記憶が蘇ってくる。
 レスはフォージーを呼ぶと
「なんじゃ?レス」フォージーが返事を返す。
「五年間、無事でなにより」
「ああ、そうじゃった」

 久しぶりの再会にレスは膝をついて山ドワーフと抱き合った。以前までは背丈が腰ほどまでしかない山ドワーフを抱き抱えていたが、それをするたびに山ドワーフから怒られるため、今は尊敬を込めてこのようなかたちになっている。スルーフットはフォージーの背中に乗っかるようにして抱きつき、相変わらず怒られていた。

 三人が最終目的地の入口に到着する前の森の中では、常に誰かに監視されているようだったし、そのたびに自らの名前を名乗ったり素性を明かしては誰かいないか問いかけなければならなかった。
 そうしなければ入口を教えてくれる案内人は現れない。
 入口は森を抜けた先の岩山のどこかにある。連なった岩山の外周は百キロメートルに及び、なだらかな勾配の箇所もあれば最も高い地点は高さ千メートルとも言われている。岩山からは湧水が流れ落ち、湧水は滝となってところどころで地面を叩きつけている。
 岩山の外周に隣接する森を半日ほど彷徨ったのち道案内人は現れた。
 そして案内人の導きのおかげで五年ぶりの再会から三日、赤い星がでてからは十三日目にしてレス、フォージー、スルーフットはようやく目的地入口に到着した。
 地上からニ百メートル以上の高さにある岩山の入口は大人一人が通過できるほどの大きさで、場所も五年前の位置から変更されている。付近では頭上から細い滝が流れ落ち、水滴をのせた心地良い風が吹いてくる。
 道案内人、レス、スルーフット、フォージーの順で入口を通過する。暗い通路が続き、道案内人のランタンの灯りを先頭に一行は無言で通路を進む。レスは途中途中で通路の壁に直径二十センチほどの穴が空いていることに気づくが横目にするだけで気づかないふりをして通り抜ける。
 スルーフットもレスと同時かそれよりも早く壁の穴に気づいたようで、穴に顔を近づけて突然大きな声をあげた。
「壁の穴の中に目があるよ。ジロリとこちらを見ているんだ。」
「監視しているのさ。奈落のものたちを通すわけにはいかないからな。」レスが答える。
「薄っきみ悪い目だったよ。早くこの通路終わんないかなぁ。」
「槍や毒針がでてこなかっただけよかったというもんだ。」フォージーが皮肉った。

 十分ほど歩くと前方から陽の光がさしてくる。通路を抜けた先は崖の上に作られた踊り場で、眼下にはゴディアカスの街並みと豊かな緑が広がっていた。左手には緩やかな勾配が続いていておりここから崖を下りることができそうだ。
「これでようやく酒にありつける。野蛮なミノタウロスどもに大事な酒樽をやられてから、長かったわい。」
 フォージーは歓喜の声を上げて背伸びをした。
 スルーフットは崖の下をのぞいたり、柵に登って歩いたり。ワズーリという種族は皆こうなのかとレスは鼻で笑いながら五年ぶりの街並みを眺めた。
 遠くからでも街の大通りを行き交う人々が見える。大通りの先にはドーム上の巨大な建築物がある。
 言い忘れたがゴディアカスは外界からは岩山ですべて覆われており、いわば地中の世界である。そしてその地中の暗闇を照らし出している装置がドーム上の建築物の中にある。
 ドームの入り口は堅牢な扉と屈強な衛兵によって守られており、レスや多くの街の人々がその装置を目の当たりにしたことはない。ゴディアカスの有力者のみが出入りを許されている格式の高い場所である。

 装置は岩山内の暗闇を照らし出す人々の希望だ。
 奈落の女王が世界を混沌の地へ変えてから一千年、善良なヒューマンはこの岩山内で混沌から身を隠し暮らしている。   
 暗く明かりのない岩山内を明るく照らしてくれるこの装置は人を人として保ってくれる貴重なものだと街のドルイダス・ティーレミネスは言っていた。
 この装置なしで常に暗闇とともに育っていたらレスの中のヴァンピールの血は人としての正気を失い今のようにはなっていないだろうとティーレミネスは言う。
 このように光と闇を語る時の彼女をレスはいつも口うるさく感じていたし、また勝手にそう思っていればいい、偏屈者め、と心の中で反抗していた。
 しかしゴディアカスへ戻ってきた以上、彼女に挨拶をしないわけにはいくまい。そう思いながらレスはもう一度街並みを眺めた。

 町の外れにある宿泊施設兼酒場の「黒い水溜り亭」でダレスは昼間だというのにすでに六杯目のエールを飲み干そうとしていた。
 久しぶりの仲間との再会が楽しみで酒がすすんでいるわけではない。ここに来ればこれが普通のペースだ。
 大酒を飲むためには稼ぎが必要だが、ゴディアカスの新たな出入口を開通させる工事中に砕けない大岩があるということで、二日前に出向いてみごと粉砕し日当を稼いだ。
 その前まではゴディアカスで最も貧しいと言われている地域で自警団の暗躍に手を貸して収入を得たり、はたまた商人と貴族で構成される組織から、ある情報を集める依頼を受け時には力づくで時には知恵を使い成果を出した。
 これらのいづれの仕事でもダレスに知恵や情報を与えているのがメイザーだ。  
 メイザーは卓越した知恵のみでなく、相手の力を抜け殻にする強力な魔法を持っている。一匹狼だったダレスを変えたのはこの魔術師でメイザーと組んでからはこれまでにない大金を得ることも一度や二度ではなかった。もっとも変わっていない部分もある。金があれば使うという点だ。後先を考えているのかいないのかわからない、といった男がダレスだ。
 メイザーと出会った後、レスや他の仲間たちと出会うわけだが、ダレスが重要な判断に迫られたとき自身の考えを確かめる最初の相手はメイザーをおいて他にいない。
「もう来ますよ、彼らが。それと別に一人。今日中には着かないかもしれませんが。」
 メイザーは目の前の焼いたカエルの太腿を手に取り、口にしながら小声で話す。
 メイザーは時折、人の未来が見えるらしいが力が弱ってる時は外れることもあるという。
 今回は誰の未来が見えたのか、おそらく先ほどから視線を向けているテラスに設けられたテーブル席のどちらか二人、この後に再会する未来でも見えたのか。ダレスは深く詮索はせず七杯目のエールを注文した。

 エルフのライテミアとミストファングはブラックプール(黒い水溜り亭の別称)の緑に囲まれたテラスで軽めの昼食をとりそれぞれハーブティーと珈琲で食後の余韻を楽しんでいた。
「このまえ珈琲を試してみたけど、やっぱり駄目だったわ。身体の力が吸い取られるように立っていられなくなるの。」そういってライテミアはハーブティーを口に運ぶ。
「人間の料理は時折驚かされることがあります。ですが、我々はクリミアのエルフの血が流れているのです。無理に彼らの文化に馴染む必要はないでしょう。」そう言いながらミストファングは今日も食後の珈琲を美味しそうに飲み干した。
 ライテミアはため息をつくと一呼吸おいて続けた。「それにしてもあそこのテーブルは空気が淀んでいるわ。あの魔法使いは何を考えてるかわからないし。」
 ミストファングと話しているときにメイザーが自分をじっと見ていたことを伝え、ライテミアは悪態をつく。
「また人の未来を勝手に覗きこんでいたのかもしれませんね。本当に得体の知れない人物です。彼が魔法を使ったあとの相手から吸い取ったエネルギーを探知したことがあります。エネルギーは彼の後方で黒い渦になって消えていきました。自然界ではありえないことです。」
「ありえないことなど何度も見てきてる。」
「・・・・」ライテミアの厳しい口調にミストファングは口を閉ざす。
 そのとき「黒い水溜り亭」の出入口が大きな音をたてて開いた。
「フォージー、レス!」ライテミアはブラックプールの新たな客の姿を見るなり駆け寄って二人の手をとる。
「ねえ。ダレス達もいるよ」スルーフットがレスの脇をすり抜け、飛び跳ねながら奥のテーブルへ向かう。
「おお!これはこれは偉大なワズーリの長よ。さあさあ旅の疲れを癒そうではないか。店主よ、この偉大な長に乾杯のマスカットソーダを」少しからかうようにして迎えたのはゴディアカスのサイエンスアカデミー三本の指に入るといわれるラーム。
「いらっしゃい。これはサービスだ。」店主のオムルがレスとフォージーのエールをラームの隣りのテーブルに置いた。「空いているテーブルを使って自由にやっておくれ。マスカットソーダもすぐ持ってくるからね。」
 六十人は入るお店もあいにく今日は少なく、レス達八人をあわせても十五人程度だった。空いているテーブルを横並びにさせて大宴会の始まりとなった。

 ゴディアカスの近辺は広大な森が広がっており、森の中にはゴディアカスに近づく者を監視するための集落がある。スタークは「黒い水溜り亭」へ向かう前にここへ立ち寄ることにした。この集落の存在はゴディアカスに住むほんのひと握りの人が知る事実だったが、口が堅く実直な性格ゆえスタークもこの集落を知る一人であった。
 集落に入るとスタークを迎える者はおらず、集落の長がいる住まいへと向かった。住まいといっても骨組みした木や枝の上に皮剥で剥いだ樹皮を被せ風雨をしのぐだけのもので、地面に大量の藁を敷き長は座っていた。長は目の前に岩のようにして立つ頑強な男と対峙して尋ねた。
「さて、長らくここには来てないようだが・・・」長は長年刻みこまれたシワを眉間に寄せてスタークの顔をまじまじと見つめる。喉から名前をしぼりだそうとするが、なかなかでてこない。
「スタークです。伝説の武器を探しにニ度目の旅から戻りました。収穫は得られませんでしたが。」
「ほう、そうか、それはそれは。スターク、スタークねぇ」長は何かを思い出すかのように目をつむった。
「スターク・ソウルブレイズ、サイモンの息子です。」
「そうか、思い出したぞ。あのサイモンの・・・。いや、失礼した。長旅疲れただろう、こんなもので申し訳ないがまずは座ってくれ。」長は自身の尻に敷く藁の半分をスタークの足元へ置き、スタークが腰をおろすと同時に話し始める。「六日前に集落の女一人が森にでたが、まだ戻っておらん。今晩、捜索隊を派遣する。スターク、おまえにもこれに参加してほしい。おまえ自身もサイモンの不名誉を振り払うにはひとつのいい機会ではないか?」
 スタークは気難しい顔を長に向けるが、表情を和らげて答える。
「長よ。父のことは・・いや、仮に父のことがなかったとしても私は参加しているでしょう。ただ私はこの後ゴディアカスへ入り仲間に会いにいかなければいけません。捜索隊との合流はそのあとになります。もちろん、必ず戻りますので。」そういってスタークは腰を上げた。

 レス達八人の宴会が始まり十時間が経とうとしている。宴会中、ダレスとフォージーの些細な口論は腕相撲に発展し、場外では腕相撲の勝敗にお金が賭けられた。腕相撲の勝敗は十一勝十一敗の結果にたいして一番儲けたのはレスの十四勝・銀貨八枚だった。(メイザーの参加が許されなかった)腕相撲が終わり、しばらくするとトランプが始まった。
 トランプでビリになった者はエールやビールを一気飲みしなければならない。酔っ払って一番最初に一時的に記憶を失ういわゆるブラックアウトになったのは意外にもメイザーだった。人以外のものは予測できないらしい。もしくはこんなことに消費する能力はさらさらないのか。とにかくニ回一気飲みした時点で呂律が回らなくなり、三回目の一気飲みの途中で意識がとびグラスごと床に崩れ落ちてリタイアとなった。
 悲惨な犠牲者のニ人目はスルーフットだ。もともと酒が苦手なスルーフットは一回目の一気飲みでダウンした。かわいそうなほど酒に弱いため、皆スフーの参加を止めたのだが、本人が言うことを聞かないのだから仕方がない。
 まあ、この結果は誰しも予測できたことだった。三人目はエルフのミストファングだ。彼はトランプをしながら、いびきをたてて眠ってしまった。
 ミストファングがそうなったのをみてエルフの代表として黙っていられなかったのか、ライテミアが参加したが、彼女も今やほぼ夢の中か、言っていることにまとまりがなくなってきている。そろそろレスかフォージーが彼女にレフェリーストップをかける頃だ。間違いなく次にビリとなったときはそうするだろう。

 そんなとき、零時を回った夜遅くにブラックプールへ新しい客が訪れた。
「スターク!」
 駆けつけたのはレスだった。
「久しぶりだね。レス」
 お互い満面の笑みで肩を組む。スタークは席に座るとライテミアから遅いだの、勝負はこれからよ、などと意味不明に喰ってかかられ困惑したが、一転厳しい表情で話し出した。
「ゴディアカスの道案内人の女性一人が森の中で行方不明になったんだ。今晩、捜索隊をたてて私も彼女を探しにいく。そこでみんなにも協力してほしいのだが。」   
 単刀直入にスタークはお願いする。
「待て待て。話しだけなら聞くが。この状態をみてみろ。それに今何時だと思っている?」不機嫌に回答したのはフォージーだった。長旅が終わりせっかくの酒を楽しんでいるというのにと付け加えるのをフォージーはグッと堪えた。
 タイミングが悪いな。酒の途中ではフォージーはなんともならん。レスは心の中で思った。それに俺もそろそろ限界に近い。ライテミアがリタイアしたあと次にリタイアするのは自分だろう。
「女一人がどうだというんだ。それより、おまえの持ってくる仕事はいつも無償か小銭程度で話しにならん!まずは交渉の仕方から学んだほうがいいぞ、スターク。」ライオンが吠えたかのようにダレスが説教をする。
 スタークは一瞬言葉に詰まったが不満の表情をうかべ、ダレスに言い返そうとした。その時レスがすぐにスタークの肩に手をやった。
「こんなことになるとわかっていたら、酒を控えるべきだった。何時から捜索が始まるんだ?まだ時間はあるのだろう?」
 スタークの表情はさらに厳しいものとなった。
「すでに第一陣は出発している。最終の組みが出発するのが一時間後だ。」すぐにでも出発したい気持ちを抑えスタークは返答する。
「俺は大丈夫だ。行くぜ。スターク。」       
 ラームから救いの合いの手が入った。
「すまない、スターク。俺は睡眠が必要だ。」
 レスが続ける。「フォージーとダレスへは一時間後にもう一度俺から頼んでみる。それでいいか?」レスが頭を低くしてスタークにお願いした。
「レスのいうことに反対する気はない。私も皆の今の状況を見ていうべきだった。すまない。」
「よし、ではラームとスタークは先に向かってくれ。ラームはレンジャーの道標を八十メートルごとに木に打ち込んで進んでくれ。」
 一時間後の出発を想定していち早く休んだほうがいいとレスは皆に告げる。
「フォージー、ダレス、一時間後に出発したい。力を貸してくれ。」
 そこまで言うとレスは力が抜けたのか、大きくため息をついた後ふらふらとたちあがり「では一時間後に・・・」そう言って宿に泊まるためにニ階へ上がっていった。
 ニ階の受付で仲間達全員の宿泊料を払い、酔い潰れている者をそれぞれの部屋に運んでもらうようチップを渡した。部屋に入りベッドに仰向けになると疲れが幾分か和らぎ眠気が一気に押し寄せてきた。長旅の披露をベッドがすべて吸収してくれるかのようにレスは深い眠りに就いた。


「レザン・・スさん。・・サロスさ・、・・時間・・・・た。起きて・・・・」


 はっとなって、レザンサロスはベッドから上半身を起こす。今何時だ?
「しまった」
 部屋の時計の針を見て後悔の念が押し寄せてくる。レスは約束の時間よりも一時間遅れて目を覚ました。宿の受付から部屋まで伸びている目覚まし用の管は蓋がしてあり、受付の呼ぶ声にうるさいと怒鳴って蓋をした記憶があった。レスは慌てて顔を洗い、タオルに水を浸して絞り身体を拭く。机の上にあるゴディアカスの地下水が入ったボトルをコップにうつし一杯を飲みほすと部屋をでた。
 階段を降りると酒場ではまだフォージーが飲み続けていた。同じテーブルにスルーフットもいる。
「レス。聞いておくれよ。僕が飲んだビールに魔法がかかっていたんだ。それで記憶を失っちゃって、起きた時にはニ階の部屋に運ばれそうになってたんだよ。」
「僕はまだトランプをやりたいんだ。それなのにみんないなくなっちゃって。早く席につきなよ。」スルーフットが元気いっぱいに呼びかける。
「スフー、トランプもいいが、次は宝探しならぬ人探しはどうだ?見つかれば喜んでくれる人もでる。」レスが尋ねると「うん。悪くないね。僕が見つければ僕は人気者になれるってこと?」「ああそうだ。」まるで三歳児を相手にしているようだが、注目を浴びる・好奇心・チャレンジがスルーフットの原動力だ。そんなスフーにレスはいつも勇気づけられている。もちろんどうでもいい発言も多いが。
「よし。そのときは喜んでくれた人から人探しのチャンピオンベルトを貰うぞ。」
 スフーはそう言って自身のへその下辺りに両手で輪っかを作る。スフーの衣装は寄せ集めのガラクタで作られたようで、バッヂ、羽飾り、腰ベルト、肩掛けペンダント、数珠、ぬいぐるみ、他人には理解できないものが無数についている。スフーに飽きたといわれたガラクタは数日後には衣装から取り外されていて、本人に尋ねると決まって内緒という返事が返ってくるがおそらく捨てられている。
「フン。何がチャンピオンベルトだ。そんなことで一本の数えならワシは千本、二千本は貰っとる。」
「そっかー、フォージーはベルトいらないのか・・そうだよね!お腹がでてきてすぐちぎれちゃうもんね。アハハハッ」
「まったく、スフーは。フォージー、手伝ってくれるか?」
 レスが間髪いれずに質問した。その間もスルーフットは笑い続けている。
「もちろんだ。スルーフットに任せていたら死ぬまで探した挙げ句、ゾンビにでもなっとるわ。」
 それを聞いたスルーフットがゾンビのマネをしてフラフラと酒場の出入口に向かっていく。スフーの笑い声はまだ止まらない。レスとフォージーは少しの間だけスフーに視線を送っていたが、レスはくるりと踵を返し「みんなが起きているか確認してくる。」と言ってさっさと階段を上がっていった。
「オムル!ビールを一杯頼む!」
 階段を上がっていくレスを見てスルーフットのことなど何もなかったかのようにフォージーは最後の一杯を注文した。

 レンジャーの道標はニ等辺三角形の形をしていてこれが木に二つ打ち込んであれば道標を打ち込んだ者がどちらから来てどちらの方角へ向かったのかわかるようになっている。さらにラームとレスは九人の仲間の中でも一、ニを争うレンジャースキルを持っている。ラームが残したしるしを探りながらレスは進む。
 しるしは草を不自然に切った後だったり、落ちない木の実が不自然に落ちていたりさまざまだ。
 辺りは以前、夜の闇に包まれていて通常であればしるしを辿り道標まで進むことなど不可能な暗さだ。しかし夜目がきくレスにはそれができた。ヴャンピールの血が半分流れているからだ。
 フォージーも同じく暗視能力を持っていて灯りは必要ない。一番後ろを歩くスルーフットだけがランタンを手にして歩いていた。
 またレスがラームの残したレンジャーの道標を間違いなく辿っていけるもう一つの理由があった。
 それはほとんど人が入ったことのない森だということだ。森に入ってしばらく歩いてみてレスにはそれがわかった。
 そのぶん進む際は注意して進む。
 獣が潜み襲いかかってきたら思わぬ痛手となる。また毒蛇に噛まれ命の危険を味わうこともありうる。
 横に畝りながら伸びる木々は不気味で木に穴が空いていて、そこに何か潜んでいるのじゃないかという妄想がはたらく。 
 時折バサバサッと聞こえる鳥の羽ばたきが一行をびっくりさせる。
 しかしレスは鳥の正体を知っていた。
 ブラックプールで仲間のダレス、メイザー、ライテミア、ミストファングを各部屋の前まで呼びにいったが、顔をだしたのはメイザーのみで皆酔い潰れて出発できる状態ではなかった。そのためメイザーに「使い魔」を一羽だしてもらうことにした。そして使い魔はレス達三人の五十メートル後方からついてきているはずだ。
 ダレス、ライテミア、ミストファングが出発できるようになれば、メイザーの使い魔を道案内役にしてレス達の後を追う算段になっている。
 ただしフォージーとスルーフットには使い魔のことは教えていない。もし教えでもしたら全力で追い払おうとするだろう。
 フォージーに関してはメイザーの使い魔のことをデビルバードと呼ぶしまつだ。
 確かに片目三つ、合計六つの黄色い目の黒鳥ではそう呼ばれても仕方がないが。
 いったいこの鳥はどこから現れるのか、メイザーが何者なのか、レスでも考えることがある。

 三人が森に入りスタークとラームを追いかけて一時間くらいになる。
「助けて」
 突如フォージーの耳に助けを求める声が飛び込んできた。フォージーは辺りを見渡すが声の主は見つからない。声は耳から入ってきたというより、脳に直接呼びかけてくるようだった。
「今、聞こえたか?」
 フォージーの問いかけにレスとスルーフットは眉をひそめたが、「いや、聞こえた、助けてと子供の声だ」とレスが続ける。
「ニ人ともどうかしちゃった?何も聞こえないけど」
 聞こえないのはスフーだけだ。レスもフォージーと同様、子供の声が耳から入ってきたとは感じず、頭に響くような感覚だった。
「お願い、殺さないで」
 しばらく進んだのちにニ度目の少女の声が聞こえた。やはり聞こえたのはレスとフォージーだけで一度目のときと同じ感覚だ。森を進むにつれて少女が呼びかける回数は増えていき、ついにスタークとラームの通った道を外れることとなった。
 フォージーが先頭となり続いてスルーフット、レスは自身の通った道にしるしをつけて、もと来た道へ戻れるようにして進む。
「どこ行くの?」
 突如、さきほどの子供の声がフォージーの足元から聞こえた。フォージーは驚いてその場で足を数回バタつかせる。が、瞬時に長槍戦斧の柄を左手で思い切り手前に引っ張ると身の丈の三倍あるハルバードの刃が後方から凄いスピードで迫り、タイミングをみて右の二の腕で竿部分を下から突き上げる、と武器は真上に軌道を変え、刃がフォージーの脇をすり抜ける。
 軌道を変えたハルバードを右の逆手で掴み左手を添えると一瞬にして下段の構えとなって少女に対峙した。
 少女はぬいぐるみを抱えて上目遣いで三人を見る。
「レスとフォージーが言ってた子って、君のこと?ねぇ、君が呼びかけてたの?」
 スルーフットがランタンを前方に掲げて近寄ろうとしたがレスが止めた。少女がこんな夜中に一人森の中にいるなんて不自然だ。頭ではわかっているが言葉がでてこない。心にある堰が言葉を止めてしまっているような何か物が胸に詰まるような感覚だ。
「助けに来てくれたの?」
 少女は立ち上がり両手を広げ差し出してくる。背丈はスルーフットと同じくらいで年齢は七~八歳くらいだろう。
「私を置いていかないで」
 少女に見つめられたフォージーはハルバードを構えてみたものの、両手の握力が抜けて今にもハルバードを落としてしまいそうだ。
「早くこの森から出たいの」初めは何かに抵抗していたかのように意識を集中させていたレスとフォージーだったが少女の声を聞くうちにその意識は薄れていく。
 スルーフットがレスから解放され少女に近づいたときには少女に対する警戒心は微塵も無くなっていた。
「まずはこの子をゴディアカスまで連れて行くべきだ。」フォージーが言うと「もっともだ。スタークとラームには悪いが、きっとニ人でもそうするだろう。」レスが答える。スルーフットは「ニ人が言うならしょうがないや。」と肩をすくめて両手をあげた。
 レスを先頭にしるしを辿りもと来た道へ戻る。三十分くらいは歩いただろう。森が開けたかと思うと目の前に洞窟の入り口が現れた。
「あれ~、こんなところに洞窟があるよ。不思議だな~、行きには通っていない道にきちゃったね、レス。」
 スルーフットは困ったなぁとしおらしくしているが、目線は洞窟の入り口に釘付けだ。
 レスとフォージーは無気力な歩き方で少女を連れて無言で洞窟に入っていく。
「あれ!ニ人ともおいてかないでよ~」  
 レスとフォージーのあとをスルーフットが軽快なステップで追いかける。

「うわっ、なんか絡みつくな」
 洞窟の中に入るとすぐにスルーフットが悲鳴をあげた。
「これ、蜘蛛の糸だよ。」
 続けて悲鳴をあげるがレスもフォージーもお構いなしにどんどん進んでいく。
「ねぇねぇ、どうしたのさニ人とも。さっきから口にチャックなんかしちゃってさ。あっ!フォージーの口に蜘蛛の糸が絡まって本当にチャックみたいになってら。」
 スルーフットはおかしくて笑い転げそうになるが開けた口の中に蜘蛛の糸が入ってきて無様に顔をしかめる。
 蜘蛛の糸の通路を抜けた先の洞窟は天井のない空洞の大広間になっており、赤い星の明かりが洞窟内に差しこんでいる。もうそろそろ夜が明ける頃だ。
 赤い星の明かりに染まるレスとフォージーはまるで歩く死体のようだとスフーは思った。
 少女はというと今、気づいたが少女だけ蜘蛛の糸が全くついていない。
「ねぇレス。この子、いつから森に一人でいたんだろう?人間が外にいるだけでも珍しいのにそれが子供だなんて、不自然だなぁ。」
「不自然?」
 ・・・不自然・・そうだ不自然だ!
 まるで頭にかかっていたもやが晴れたかのように、心にかけられていた鍵がスフーの言葉によって解かれた。 正気に戻ったようだ。
 なぜ自分が洞窟の中にいるのか、はっきりと覚えていない。
 レスは少女を連れるフォージーを見て
「フォージー!」と大声で呼び止めた。 
 フォージーの虚ろな目が少し輝きを取り戻すが、すぐに失われ定まらない焦点でレスを見る。
 そのとき、レスは後方から何かが迫る気配を感じた。
「何か来る!」
「スフー、前方に通路がある、そこまで走るぞ!」
 レスの警告に「フォージーはどうするのさ?」とスルーフットが聞き返す。
「こうするのさ!」
 そういってレスはフォージーに向かって突進する。フォージーに近づくと流れるような動きで腰から下がる酒樽を掴み腰紐ごと引っこ抜いた。
「何をする!?」
 フォージーが叫んだ。
 それを見てスルーフットは満面の笑みで走り出す。
「冗談が過ぎるぞ!」
 フォージーの目は先ほどの焦点が合わない目からすっかり回復している。
「スフー、受け取れ!」
 兎が飛び跳ねるが如く一瞬でフォージーの横をすり抜けていくスルーフットにレスが酒樽を放り投げた。
「何の真似だ、こんな子供じみたこと!」
 酒樽を見事受け取ったスルーフットをフォージーが追いかける。
「っと!」
 前方を走るスルーフットが突然立ち止まったため、フォージーは前のめりになった。
「なんだかまずいことになってきたよ。」
 スルーフットが震える声を振り絞った。
「フンッ!鬼ごっこが終わった次は肝試しでもやるつもりか?」
 フォージーは怒り口調でスフーから酒樽を取り上げ、何事かと前を見た。大広間の先は右と左に通路が続いており、両通路から巨大蜘蛛がワラワラと向かってくるではないか。
 フォージーが後ろを振り向くとレスとの間にも巨大蜘蛛がニ匹、はるか頭上に張ってあった巣から糸を垂らしてぶら下がっている。レスの三十メートル後方では、ざっとみても十匹はこえる巨大蜘蛛が通路から大広間へ溢れかえっている。 
 ぬいぐるみを抱えた少女は口が裂けるほど笑ったかと思うと実体が上に引っ張られていくかのように霧となり、いなくなった。
 フォージーはハルバードをひとまばたきの速さで上段から振り下ろす。ぶら下がっている巨大蜘蛛の腹部から頭胸部が一直線で切り裂かれ薄透明の血液と腸内の得体の知れない消化物がぶちまけられた。
 頭上の巣からぶら下がっていたもう一体は地面に着地しようとしている。レスは大蜘蛛が着地したところを狙い第一から第四の右歩脚の基節を見事な剣捌きで切り離した。巨大蜘蛛は片足を失い前進できずに頭胸部分を軸にその場でぐるぐる回り出した。

 前方の巨大蜘蛛は右側の通路へ集まりがちだ。
「フォージー、左の通路へ行くぞ!」
「言われんでもそのつもりだったわい」
 レスの指示にフォージーが応える。スルーフットはというと、右通路の奥で松明の灯りが遠ざかっていくのが見える。いったいどうやってあの巨大蜘蛛の群れを突破したのか。三十匹近くの巨大蜘蛛に囲まれている今はそれ以上考えることはできなかった。
 フォージーがハルバードを中段に構えるのをみてレスは左へ迂回して距離をとる。フォージーが構えたハルバードを思い切り横に振り回すと向かってきた巨大蜘蛛ニ匹を吹き飛ばした。
 一回転したのちに一歩前進した右足を軸にして一回転、左足を踏み出して一回転、フォージーの回転は止まらない。まさに殺人スクリューとなって、向かってくる大蜘蛛をなぎ払い、吹き飛ばし、粉砕していった。
 右側通路に固まっていた巨大蜘蛛がフォージーとレスに向かってくる。レスが一足先に左側通路へ突入しフォージーがそのあとに続く。
 ニ人は通路を全力で走るがフォージーの歩幅では追いつかれてしまう。フォージーがハルバードの槍で牽制し槍をすり抜けてきた蜘蛛はレスが斬り捨てる。通路ではハルバードを振り回すほどの広さがなくレスへの負担が増える。
 そのときだ!
 レスが巨大蜘蛛を切り捨てた瞬間にもう一匹の蜘蛛がレスの右腕に噛みついた!レスは少し反り返った片刃の剣を左手に持ち替えて噛みついてきた蜘蛛を脳天から突き刺した。
 レスは悪寒や戦慄をおぼえ自身の首から右肩にかけて皮膚が赤く腫れあがっていくのを確認した。蜘蛛の毒腺による抗体反応かもしれない。右腕から流れる血を口で吸い取り吐き出すが寒気は消えない。
「大丈夫か!」
 レスの異常に気づいたフォージーがレスと蜘蛛の間に立ち応戦する。
 赤く盛り上がった皮膚はすぐに治まったが震えが止まらない。全身から力が抜けいつのまにか片膝をつくと嗚咽が走った。仕方ない・・・
 レスは遠のく意識に抗いながら自身のナイフを取ると左の手のひら薬指より三センチ下めがけて思い切りナイフを突き刺した。
 血液が逆流するような感覚とヴァンピールの血が目覚めてくる感触、自身のアドレナリンをしぼりだす。強く明るい青色の目は淡いスカイブルーへと変わり飢えと殺戮の記憶が蘇り心を黒く染めていく・・
 しばらくすると悪寒と嗚咽は消え、いつものレスに戻っていた。人間の血を一時的にヴァンピールの血に入れ替え抗原を殺したのだ。
 その間に四~五匹を葬ったフォージーもまたいくつかの傷を負ったようだが、彼にとっては擦り傷にも値しないようだ。
「すまない。もう大丈夫だ。」
「便利なもんじゃのう」レスの回復をみてフォージーが言う。
「厄介ともいう。」レスが答える。
 ニ人は通路のさらに奥へと走った。

 スルーフットは大蜘蛛の群れを目の当たりにしてひるんだが、大蜘蛛のはるか後方に青白く光るなにかが奥の通路へ消えていくのを見た。
 こうなるとスルーフットを止めるものは誰もいない。興味の趣くまま青白い光にむけて駆け出していた。
 一匹目の大蜘蛛の腹部をスライディングで潜り抜けると、向かってくる大蜘蛛の群れを大ジャンプして一気に飛び越える。ジャンプと同時にスルーフットの両靴の底からはバネが現れ、バネの先端は地面に突き刺さり、バネは地面に残ったままスルーフットを前方高くへ押し出したのだ。
「うわわわわ!」
 バネの強さは身軽なスルーフットを洞窟の壁面まで飛ばす勢いだ。大広間に溢れる大蜘蛛の多くがスルーフットのジャンプに反応し右側の通路へ集まる。
 スルーフットは壁面に四つん這いで受け身をとるとそのまま落下して猫のごとくしなやかに地面に着地した。ワズーリ族は三半規管が発達している。さらにスルーフットは前後左右への素早い動きと百メートルを五秒で走る走力を併せ持っている。能力と奇妙な道具で大蜘蛛の群れをやり過ごすとスフーは青白い光を追って右の通路を駆け出した。

 大蜘蛛に追われ、洞窟の通路をいくつも分岐し走ってきたフォージーとレスだが、すでに迷いこんでしまった感はある。
「だいぶ走ったが、わしらはこの洞窟から抜け出せるのか?」
「最初に蜘蛛の群れと遭遇したところまではなんとか戻る自信はあるが、」
 フォージーが聞きレスが話している間にも大蜘蛛が一匹襲ってきて、フォージーの長槍の突きとレスの片刃の一閃で大蜘蛛は戦闘不能になる。
「なにせ、洞窟に入る時は正気を失っていて記憶があいまいだったからな。戻ったとしてそれが正しいのかどうか。」
「つまりは迷ったということだな?」
「まあ、そういうことだ。洞窟の入口はスフーが知っているはずだ。」
 レスの答えにフォージーが深いため息をつく。と、その時、目の前が真っ暗になる。暗視で見えるはずが何も見えない。まさに真っ暗である。同時に下に滑り落ちていくのがわかる。
 落とし穴にかかったのだ。 
 後方の大蜘蛛に目をやり、前に向き直ったレスは目の前を走るフォージーが突然いなくなったことに目を疑ったが足元に一メートル四方の穴とそこから聞こえてくるフォージーの叫び声でこの穴に落ちたと認識した。穴の先は急斜面となっているようだ。
「くそっ。なんとでもなれ!」
 フォージーの叫び声が微かに聞こえるまで足踏みしたが意を決してレスは穴に飛びこんだ。
 ものすごい速さで相当な距離を滑り落ちている。フォージーは時折、腕や尻を凹凸にうちつけ、遅れてレスが呻き声をあげる。
 五十メートルは滑っただろう。滑り台の終着点でフォージーはドスンと音をたて尻と腰を強打すると、フォージーに覆いかぶさるようにしてレスがぶつかり苦痛の叫びとともに前方に転がっていった。
「ブハッ・・」
 フォージーは抱き抱えている酒樽の安否を確認する。
「まったく、とんでもないめにあっとるわ。」と吐き捨て、やっていられないとばかりに酒樽の口を開けゴクゴクと飲み干し溜飲を下げた。
「落とし穴とわかっていて飛び込んだ俺の気持ちにもなってくれ。」レスがぼやきながら身体についた土埃を払う。
 幸いニ人に大きな怪我はない。レスは自身のナイフで突き刺した左手を見て流血が止まっていることを確認すると応急処置で巻いていたガーゼをその場に投げ捨てた。食事をとり一日眠れば明日の朝には傷痕もわからないほどになるだろう。

 落とし穴の最終地点から三分岐ある通路のうちニ箇所の調査が終わった。いくつかの広間や行き止まりを経て二つの分岐点はつながっていることがわかった。      
 広間や行き止まりで遭遇した十数匹の大蜘蛛を屠り、再度落とし穴の最終地点に戻ってきた。ニ人の顔色は赤みが薄れ、肌に艶や張りがない。フォージーに関しては目の下にクマができている。
「休憩するかね?」
 レスは自分よりもフォージーが疲労している様子を気遣った。
「フンッ!思ったより蜘蛛どもが少なくて拍子抜けしとるわ!」
 フォージーはそれ以上何も言わず残された通路へと向かう。言葉は強気だがニ人の体力は確実に消耗してきている。
 その後もニ分岐三分岐した通路を進むと先が見えないほどの蜘蛛の糸で覆われた広間にでた。
 高さ三メートルほどの天井から管状の網が何十本も垂れ下がっている。いくつかの網の底には大蜘蛛が身動きせず息を潜めている。レスはなるべく蜘蛛の視界に入らないように気をつけるが、見た目では蜘蛛がエサを狙い身を潜めているのか、活動を停止しているのか区別がつかない。
 そもそもこいつらは眠ったりするのだろうか?クリミアのエルフ・ミストファングから言わせると昆虫も眠りにつくらしい。ミストファングには何がみえているのか、宿屋に戻ったら聞いてみようとレスは思った。
 とにかく、向かってこないものに剣を振るう気力や体力はない。レスとフォージーは蜘蛛の糸をかき分け進んだ。進みながらわかったことは、管状の網は何十本ではなく、何百本はあるということだ。そして管は天井を突き抜けて上階へつながっている。洞窟中の蜘蛛がここを巣としているのかもしれない。

 ところでフォージーはすこぶる耳が良い。ブラックプールの酒場に入りきらないくらいの人海の騒然たるなかであっても離れた席の会話を聞き分けることができる。聞きたくもないことが聞こえてくるためか、それが祟って愚痴が多いのがたまに傷である。
「人のうめき声がするぞ。」
 フォージーの言葉に倣いレスは耳を澄ましたが、何も聞こえてはこない。
 フォージーは空気を伝い振動してくる音源の方向を辿る。
「こっちだ」
 声を辿り闇雲に進むフォージーだが、レスは広間の入口を南と定め、今向かっている方角と頭の中の地図を照らし合わせて進む。
 先が見通せないカーテンのような蜘蛛の巣は、子供の頃、外に干した何十枚もの布団カバーの中でオークごっこをして遊んだのに似ている。まだヴァンピールの集落が存在していた頃の記憶だ。
 その心覚えも網の底で息を潜める巨大蜘蛛が突如脇に現れ、一瞬で吹き飛んだ。

「とんでもないものが網にかかっとるぞ。」
 フォージーが蜘蛛の糸を取り払っている。網の底でうめき声をあげていたのはラームだった。
「ラーム!大丈夫か!?」
 よほど抗ったのかラームは息も絶え絶え気を失いかけている。
「スタークは?スタークはどこにいる?」
 ラームの返事はない。
 腐った鹿の角や蹄の成分が入った瓶をレスが皮袋から取り出し瓶の蓋を開ける。なんともいえない鼻をもぐ臭いがし、レスは息を殺しながら水分が含まれた布を瓶の口に押し当てた。
 布に臭いが染み付いたと思ったところで瓶の蓋を閉め、布をゆっくりとラームの鼻に近づける。
「っ!ごほっ、ごほっ」
 気付け薬の鼻をつんざく臭いでラームは目を見開きむせ返る。レスの肩を借りてようやく歩けるまで意識が戻ったラームだったが足取りはおぼつかない。
「いったん落とし穴の部屋まで戻り休息をとろう。」
 フォージーは今度ばかりはレスに従うしかなかった。

「おかしいなぁ、いなくなっちゃった。」
 スルーフットは洞窟の行き止まりで立ち止まっていた。巨大蜘蛛の群れをぬけて青白い光を追いかけてきたはいいが、光は突如消えてしまった。
「こっちに来たのは間違いないんだ。」
 スルーフットは行き止まりをくまなく調べてみた。脇に転がる岩のかげもしっかり調べた。隠し通路らしきものはみつからない。
「そうだ!」スルーフットは背負い袋から自慢の小道具を取り出すと岩かげに隠れる。

 ピー、ピッピッピッピッピッピッ
 チュンチュチュチュチュチュチュ
 ピーーーーーー、ピーーーーーーー
 スルーフットが取り出した小道具は吹くと小鳥の鳴き声を再現してくれる十センチの縦笛だ。ニつの縦笛を口に咥えニ羽の鳴き声を巧みに再現する。
 レスやフォージーがいればすぐに止めたであろう。しかしニ人のいない今は面白がって吹くのを止めない。(この音に何かが気付きスフーの前に現れるまで)

 小鳥のさえずりが始まって十分が経つ。(そういえば蜘蛛って音が聞こえるのかなぁ?この音で蜘蛛が集まってきたら面倒くさいな。でもその時はまた逃げればいいか!)
 (思い出すな~、トマスやエドワード、エミリーも。みんな元気でやってるかな~)三十分、一時間、ニ時間、時間はあっという間に過ぎてゆく。

 来た!
 何者かが近づいてくる。スフーはすぐさま笛を吹き止め、息を潜める。
 ランタンを洞窟の行き止まり付近に置いたため、相手の姿は見えないが気配はゆっくりと近づいてきている。そして気配はピタリと足を止めた。どうやら巨大蜘蛛ではないようだ。二足歩行の生き物だ。
 岩かげからほんの一瞬だけ覗き見してスフーはギョッとした。
 暗闇の中でランタンの灯りに反射した二つの眼がこちらをじっくりと見ていたからだ。
 巨大蜘蛛なんかよりずっと怖い、獲物を仕留めるために息を潜めている眼だ。
 お互いが息を潜めて一分が経過した。気配に全神経を集中させているためか、ほんの数分が一時間にも感じられる。
 おそらく自身の快速をもってしてもすり抜けて逃げることは敵わない相手だろう。
 先に仕掛けるか、このまま待つか、その選択肢を決めかねていると右側に違和感を感じた。感覚と同時にスフーは左側に飛び跳ね、スフーを襲うそれを間一髪で回避する。
 飛び跳ねた先で体勢を立て直そうとするが、着地を狙っていたかのように次の刺客がスフーを襲う!刺客は両腕を伸ばし、尖った爪をスフーの両肩に突き立ててスフーを捕まえた。スフーと刺客は勢いあまって、もつれあいながら地面を転がる。
 暗闇の眼以外にも刺客が近づいていて、襲ってきた。気配を感じさせることもなく、それも二体もだ!
 スフーが刺客の右腕に噛みつくと、刺客はスフーを振りほどき右腕を押さえてスフーと距離をとった。 
 ランタンの灯りで相手の姿が照らし出される。相手は三人。三人とも長髪を絡ませてロープのような束形状のドレッドヘアのいずれも女である。
 前隠しで陰部は隠してはいるものの上半身は乳房を露出させ身体の各所にペイントを施している。
 その眼は野生動物のそれで、スフーも見たことがある豹の眼だ。
 スフーの正面で対峙する女は腰まで伸びるシルバーの髪に白いペイント、獣の牙を紐で連ねた装飾を額や首、腕にまいている。
 右側に立つ女はおでこにキツネの仮面、キツネの体毛で作られた赤茶の腕巻き、顔部分では口元とエラ以外に赤色のペイントを施しているのが特徴的だ。
 そして暗闇で威圧感を放っていた女は刃渡り七十センチはある槍を右手に持ち、牙のような赤いペイントを顔、身体、脚に施している。槍の刃の根本には鉤爪のような刃が三箇所、鍔や相手を引っかけるために突き出ている。

 槍の女が戦闘の吠え声をあげる。
 キツネの女が尖った爪でスフーを襲う。
「待った待った!おいら何か悪いことしたか?」
 スフーはキツネの女の一撃、ニ撃をかわしながら必死に助けを乞う。
 キツネの女の攻撃を避けた行き先には白の女が待ち構えている。連携のとれた動きだ。
「話しを聞いてくれよ!」
 白の女が捕獲しようとしたところをスフーは身を低くして右側の足元からすり抜けた。

 槍の女が先程とは違う吠え声をあげた。するとキツネと白の女は足をとめ鉤爪を下ろした。
 槍の女の後ろから、編み目の服を着ているようなドレッドヘアで全身に緑のペイントを施した女が現れる。
「我らの長に会わせてやる!ついてこい。素早きものよ。」
 編み目の女はぶっきらぼうに言うと踵を返して歩きだす。編み目の女はそれ以降、長に会うまでスフーと会話をすることはなかった。
 槍の女はスフーが従うのを待ち、スフーへ自分よりも前を歩くように槍で命じる。キツネと白の女はスフーの両脇を歩く。
 スフーは興味本位でしばらく話しかけていたがどうやら言葉が通じるのは編み目の女だけのようだ。
 スフーは話すのを諦め、前を歩く編み目の女のお尻が揺れるのを眺める。スフーはそのお尻に魅力を感じ、自分がパンツを履くようになったのはいつからなんだろうとふと疑問に思い、パンツを履くべきか履かないべきかあれこれ考えることにした。


「ここでスタークと離ればなれになったんだ。」
 ラームは隆起する土くれの前までくるとレスとフォージーに向き直って言った。
 大蜘蛛の巣を抜け、左に折れる道と直進する道とに分かれたが三人は上り坂の直進する道を選んだ。その後ラームが落下した大蜘蛛の巣の真上にあたる階を通り過ぎここまで辿りついていた。
 洞窟内を探索中に地震がおき横壁や天井が崩れラームとスタークは離ればなれとなった。
 ラームの話しでは地震というよりは何か大きなものが洞窟の壁や天井にぶつかってきた衝撃だったという。何かの手段でひとつの洞窟に別の洞窟がぶつかってきたのではないかとラームは言う。
 考えにくいことだがラームに言われてレスは地表を確認したが、たしかに隆起した土くれの地表は同じ洞窟内のものとは異なっていた。


 愛しの少女は燃える緑毛の虎に姿を変える仲間への苛立ちを抑えられなかった。
 一年前に初めて会った時はとても役に立ってくれていた。それがここ最近姿をみせなくなり、ほんの数時間前に愛着のある住処をぐちゃぐちゃにした。その罪は重い。
 過去には人間を捕獲できたし今もそれらしい者達を五人誘いだすことができているのはよい。だが有るまじきことか豹の亜人がこの洞窟に入りこんでいる。入りこんでいるというよりは緑虎が力を行使したのだ。ヘルストーン(奈落の石)を使わなければなし得ない力を。
 豹の亜人は奈落の住人で広義では同胞だが、蜘蛛を食す恐れがあるデミヒューマンだ。とはいえ同族の蜘蛛達も餌としてデミヒューマンを襲うのだが。
 そのため共生などという言葉がうかぶことはない。もしかしたら共生というのは弱い者達にしか使われない言葉なのかもしれない。
 愛しの少女は迷路と化した洞窟を自身の住処まで壁をすり抜けて進む。霊体化の能力を長い距離使用できるようになったのは緑虎からの授かりものだ。青白く光る身体は自身の本体を実としたときの虚である。
 緑虎の能力のおかげで愛しの少女の行動範囲は大幅に広がり利用できるものは利用させてもらっている。しかし排除するものは排除するという考えに変わりはない。豹の亜人がまさにその対象ではあるが、それでも豹の亜人を排除するのはまだ先だ。
 まずは迷いこんだ人間を捕獲し貴重なエネルギーを我が物にするのだ。
 奈落の力に屈しなかった人間はなかなか姿をみせずその生命から得られる活力、英気、精力のもとは奈落の女王へのこの上ない献上品となる。そして自らの能力のかけらとして世界へ落としていった女王の産物ヘルストーン。このヘルストーンへ女王の恩恵を加えて女王の力を具現化させることができるのも人間のエネルギーである。
「人間の騎士はどっちの取り分にするんだ?」
 壁をすり抜けた先の通路で男が話しかけてきた。男は行き先をさえぎるかのようにして立っている。
 縦長の頭襟の下に怪しく光る死人のような白目。男の顔の皮膚は爛れ、頬から口周りを覆った長い黒髭からは犬歯のような歯を覗かせている。汚れたモスグリーンの法衣を纏い、法衣からのぞく胸元には人間の女の半顔が見える。
 ひどく醜悪な外見である。
「数日前に捕食した人間がまだ取り込めていないじゃない。次はあたしの番よ」
 愛しの少女の視線を追い、男は慌てて胸元から覗く女の顔を隠す。
「いや、でもよ、俺がいっているのは
 話し合いはなしか?ってことだぜ?」
「間違ってたか?間違ってたら言ってくれ?」
 めんどくさいやつだ、それに加えてしつこい。下手に言い返すと延々と不毛なやりとりが続くのはこの半年でわかっていたため、愛しの少女はだんまりを決め込むことにした。もちろん人間の騎士は自分がいただく。
 愛しの少女からきつい視線をあびた醜悪な男は肩をすくめる。
「まあ、いいさ。俺もやることがある。」
 男はみるみるうちに虎へと姿を変えると燃え盛る緑毛の余韻を残してその場から立ち去った。


 額に緑の石が埋め込まれた豹族の長がする話しをスルーフットはとても面白がって聞いていた。
 左手に持つ杖ともポールウェポンとも言える武器を時折左右に揺らしながら若い女豹の長は話す。
 話しによるとこの豹族というのはめっぽう蛇が好物で、とにかく蛇を食べ続けていたそうだ。
 すると蛇達の中から豹族に対抗するかのように変異種が現れた。 そして変異種の王バジリスクが生まれる。
 豹族は蛇の王の奇襲を受けて住まいを脅かされるようになり、しばらく木の上で生活することになった。 
 さらに不幸はかさなる。
 ヘルストーンの力を使って作られたと言われるアーティファクト・ブラックスカルを持つ「黒骸骨のオーク」やあらゆる骨をアクセサリーとして身につけたトロール「死の骨」が現れ、全ての木がなぎ倒された。
     そして豹族はついに住処を失ってしまった。
 蛇のくだりにはまったのか、この苦労話しをスフーはゲラゲラ笑いながら聞くものだから、赤ペイントの槍の女が激怒しスフーの首をその刃で掻き切る勢いだった。      
    しかしそれは長の静止で事なきを得て、それでも気にせず子供のように話しを聞くスフーに長は今までの苦難を忘れるかのように話した。そのうち長はすっかりスルーフットのことが気に入ってしまった。
 スフーもブラックスカルはオークのもとリーダーの頭蓋骨だ、ということやトロールが敵を殺すか動けなくししたあとに手の届くところに他の敵がいなければ、戦いを忘れて相手を食べ始めてしまう、といった話しを目を輝かせて聞いた。
 一族も長がこんなに話しをされるのは珍しいとばかりに二人のやり取りを見守った。
 住処を失った一族は食糧がなくなり枯れ木や混沌の虫を食べてその日をなんとか生き延びた。豹族の内臓はとても頑丈で棘のある虫などもお構いなしに食す。
 実際、後にスフーは豹族と一緒に混沌の虫を食べることになるがその全てを食べるふりをして自身の小袋の中にしまい、その後そっと食糧庫へ戻すことになる。
 住処を失った豹族は深い森の中を彷徨い暮らす日を何日も続けた。すると一族に助言する者があらわれる。燃え盛る緑毛をした虎だ。緑虎が言うには巨大蜘蛛の巣食う洞窟へ連れていってくれるという。豹族は満たされない空腹感ゆえ緑虎の助言に従うしかなかった。
 長の話しは自身の額に埋め込まれたクリソベリルの宝石にまで及んだ。スフーが興味本位で聞いたからだが、長は丁寧に答える。
 もともとクリソベリルは強い輝きを放つ黄色か黄緑か緑の鉱石だが、額に埋め込み呪い師の呪術で青緑、赤、ハニーカラー、アップルグリーンに色を変えていく。
 青緑や赤に変色したクリソベリルはアラサンドクリソベルと呼ばれ、かつて混沌の世になる前、皇帝アラサンドが好んで装飾品として身に付けていた。支配の力を与えてくれるといわれ、名前の起源も皇帝の名がそのまま使われている。
 ハニーカラー、アップルグリーン色に変わればクリソベルキャッツアイ。石の繊維状組織が一つの方向に集まり、光を当てた時に一番厚みのある部分に線状の光が現れ、それが猫の目のような紋様となることからそう呼ばれている。クリソベルキャッツアイは先を見越す力を与えてくれるという。
 しかし、この若い女豹の長のクリソベリルはそのどちらの色でもない、変色する前の緑のままだ。呪い師達は長がまだ若いことと自分達の力不足をあげているが、長のカホウはそれが慰めだということをわかっている。
 カホウは自身の力の無さで一族を苦しめていることに引け目を感じていた。呪い師からは一族の団結力の強さを幼い頃から教えられてきたが、自分の未熟さがそれを崩してしまうのではないかと弱気になるのだった。そして、そうやって卑屈になる自分が嫌いだった。


「ラーム!ラーム!」
「聞こえるか?聞こえていたら返事をしてくれ!」
 地震が起きたと思った直後、スタークとラームの間に突如現れたもうひとつの洞窟は二人を引き離した。スタークの呼びかけも虚しくラームからの返事はない。目の前に積み重なる大岩を崩せないか、押したり剣の柄頭で叩くなどしてみるがびくともしなかった。
(落ち着け、落ち着くんだ!)
(こういう時こそ冷静さを保たなければならない!)
 集落の捜索隊とはぐれ、気がついたら二人とも洞窟に迷い込んでいた。ラームと離れ離れになったのは洞窟の出口を探していた矢先のことだった。
「寒いな」
 動揺を鎮めるために、何をするでもなく、その場に立ち尽くして半刻近くが過ぎる。
「どこか暖かいところを探さねば」
 集落に戻らない女性を捜すという正義感はどこかへ消え去り、保身のためにただ足を動かすスタークは、思考が停止した木偶の棒の如く騎士と呼ぶにはほど遠い心の持ち主だった。
 それもそのはず、仲間との再会を果たすまでのこの五年間、スタークは伝説の剣を探すなんていう旅にはでていない。ダレスやメイザーと顔を合わせないようにゴディアカスでひっそりと暮らしていたのだから。
 森の集落の長から女を捜す依頼を受けたときや「黒き水溜り邸」でラームしか賛同せず二人で森を歩いているときなどは心ここに在らずで、取り繕って心にもないことを言ったり、無言で歩を進めるなどして演じきった。
 だが今は違う。取り繕って自分をよくみせようという相手はどこにもおらず、本来のスタークが洞窟内を彷徨い歩く。
 暖をとろうと歩きだしてからしばらくして、自然の洞窟にはそぐわない立派な両開き戸が現れた。
 スタークは扉に手をかけるでもなく、扉から十数歩先まで後退して自らの腰を下ろした。そして険しい視線を向けると一刻も目を離すことなく扉を睨み続けた。

 レスはここまでの地図を頭に思い描きこの先の進路を決めねばならなかった。
 とはいえ、レスとフォージーが落ちてきた穴を登るとなると身体が重く手足の短いフォージーでは相当の体力を削ることになる。自身やラームの疲労も考えると残る道は大蜘蛛の巣の先にある左へ曲がる道を行く以外にない。
 大蜘蛛の巣の真上の階の地面は綻びやすい箇所がいくつもある。そこに足を踏み入れてしまうとたちまち足場は崩壊し大蜘蛛の糸に絡められることになる。綻びやすい箇所は蜘蛛の糸でできており、巣穴の蓋となっている。蓋の裏側は真っ白だが、表側は周囲と同じような泥や苔が張り付けられているため、周囲との見分けがとても難しい。
 幸い、三人が最初に通過した道をラームがレンジャーの道標で示していたため、それほど時間をかけずに通り過ぎることができた。
 大蜘蛛の巣の先にある左へ曲がる通路から紆余曲折、一筋に光が射す洞窟内へたどりついた。地上からどのくらいの距離があるかわからないが、天井にあく直径十㎝ほどの無数の穴が洞窟と地上をつないでくれている。
 頃合いでいえば真昼を過ぎた頃だろうか、幻想的な風景に安堵し一行は休息をとった。
 ラームが「黒き水溜り亭」から持参した干し肉と塩味のきいたビスケットを配り、それをおかずに変わらずフォージーは酒を飲む。
「ネズミの干し肉も食い飽きたわい。」
「ワニの干し肉をためしたことがあるが部位が悪くてとても食えるもんじゃなかったよ。」
 フォージーの愚痴にレスが応える。大蜘蛛との戦闘もなくニ度目の休憩ということもあり、フォージーとレスの体力は回復傾向にある。
 ラームは目の前の山ドワーフと半吸血人のやりとりを聞きながら、二人を頼もしく思うと同時に、人間とは違う質量をもっていると改めて感じていた。しかし、自分にはアカデミーでの経験と知識がある。サイエンスは人間が他種族の能力に追いつくために欠かせないものだとラームは教わってきた。二人には真似できないものだ。
 三人が洞窟を数時間彷徨うと前方から激しく争う物音がする。この洞窟に入ってから嫌というほど耳にしてきた大蜘蛛の金切り声と獣の威嚇する声が聞こえてくる。
 引き返し、別の道を行くこともできるが関心のほうが勝った。ゆっくりと進み、一行が前方つきあたりの右側へ折れる道に近づいたその時、
 後方に大蜘蛛が現れ、ほぼ時間を違えずドレッドヘアで上半身裸の亜人が前方から飛び出してきた。
 前方の亜人はゆっくりと後方の大蜘蛛は五十メートル先から八本の脚を忙しなく動かし迫ってくる!
「フォージー、大蜘蛛を頼む」
 そう言ってレスは亜人の女へ歩を進めた。
 豹の目をした亜人は刃渡り三十センチほどの鉤爪を両手に握り鋭い眼光を向けてくる。間合いをつめながら片刃の剣を地に曳きレスが仕掛けた!
 ガチンと乾いた音をたてて互いの刃がぶつかる。
 レスが先に仕掛けたにも関わらず亜人の鉤爪はレスの懐に入り込み、逆手で剣を突き上げて受けなければ、あわや切られているところだった。右手の鉤爪は受けたがまだ左手の鉤爪がある。レスは力任せに左足で亜人を蹴ると後ろに倒れ込むようにして片膝をついた。
 力で負けていたら左手の鉤爪の餌食となっていただろう。それほどに亜人の動きは早い。
 右膝を地につけ半身で亜人に対峙するレスは、盾ももたずいわば左半身ガラ空きの状態だった。亜人は蹴りを受けたにもかかわらず痛みも介さず間髪入れずにレスに襲いかかる!
 左手で右腰の短剣に手をかけたレスは向かってくる亜人の眉間めがけて瞬時にそれを投げた!
 亜人はダガーを腕ではね返し鉤爪を振り下ろす。
 レスは右肩から倒れるようにして転がり亜人の鉤爪をかわすと襲ってくる亜人の腹めがけて片刃の剣を突き刺さした。    
 ダガーを防御しようとした一瞬の動きが亜人の生と死を分かつこととなった。
 
 レスが振り返るとフォージーがすでに大蜘蛛を一体倒している。続く大蜘蛛へラームが手に持っているスティックを投げつけた。スティックは大蜘蛛に命中すると眩い光を放って破裂する。動きの止まった大蜘蛛をフォージーが斧で真っ二つに叩き斬る。
 亜人が現れた通路からはさらに別の亜人が現れ、レスにやられた仲間を見て応援を呼ぶようにして吠えた。
「まずい!退こう!」
「なぜだっ!」
 フォージーがレスに異を唱える。
「とにかくだ!」
 急いで来た道をもどるように三人は走った。
 別れ道でまだ行ったことのない左の道から亜人の吠え声にいち早く駆けつけて迫ってくる小さな影がある。
 小さな影は恐るべき速さでみるみるうちに三人に近づいて来た!
「スフー!」
 影の正体はスルーフットだった。
「レス!ラームもいるじゃない!」
 レスが亜人に追われていることとスフーが亜人の長と友達になったことの情報を交換しあう。
 しかしそれ以上話している時間はなさそうだ。亜人の追跡の速さはスルーフット並みだ。亜人は間近まで迫って来ていた。
「狙われているのは俺だけのはずだ。すまないがしばらく身を潜める。」
 レスは所持品から握りこぶし二つ分の大きさの袋をとりだす。
 袋の中に入っているのは灰だ。
 この灰は五年間の旅の間にヴァンピールの村で手に入れた魔法の灰だ。ヴァンピールにのみ効果を発揮する。
 レスはそれを自身の頭上にすべてばら撒いた。灰はキラキラと光りながらレスの全身に降り注ぐ。
 レスの身体は薄れていき、やがてその場から完全に姿を消した。

 どのくらいの時間が過ぎたのかはわからない。眺めていた両開き戸の片側が開き、スタークは咄嗟に立ち上がった。
 扉を開けてでてきたのは体長三十センチほどの小型の蜘蛛だ。一匹、二匹、小蜘蛛は襲ってくるでもなく、次々とでてくる。陣形を整えるかのように十匹以上の蜘蛛が通路、壁、天井に埋め尽くされる。
 やがて扉は大きく両開きに開くとその先に青白く揺らめく少女が現れた。ロングの黒髪を前に垂らし白い服の少女はその場でうずくまりスタークを見ている。
 スタークもまた盾を構えて少女をじっと見る。
「やれ」
 脳へ直接響くような少女の声を合図に十を超える小蜘蛛が一斉にスタークへ襲いかかった!
 スタークは左半身を大楯で護りながら大剣を左下から右上に大きく振り上げる。
 補足するが、スタークがゴディアカスで暮らしていたこの五年間、何もしなかったわけではない。欠かさず行ってきた素振りの効果は大剣に破壊とスピードをもたらした。
 正面から来る小蜘蛛をふき飛ばし、右側面から襲ってくる数匹を切り裂いた。右上段まで振り上げた大剣をさらに振り下ろす。左側面の小蜘蛛は大楯で防ぎながら六匹が大剣の獲物となるはずだった。
 だが現実に斃れているのは二匹。残り四匹は霊体と化してスタークの腕、脚、身体に張り付いた。大楯で阻んでいるはずの数匹も盾をすり抜けてスタークに纏わりつく。
 振り落とすこともできず、スタークはかまわず向かってくる残りの小蜘蛛を切り続けた。
 愛しの少女はその光景を張り裂けんばかりの笑みで眺めた。
「霊体の蜘蛛」は愛しの少女が人間を喰らい自身のエネルギーから生み出した分身。その分身が騎士の身体に張り付き今や騎士の精神力を根こそぎ奪いとろうとしている。
 十数匹の霊体の蜘蛛がスタークの全身を覆うとスタークの動きは止まった。


 片眼鏡の老紳士カロクは眼前の光景を疑った。
 蜘蛛の女王エリザベスの命により愛しの少女の洞窟に辿り着いたカロクの眼前では死者の国の豹族と蜘蛛の女王の大蜘蛛らが戦争さながらの死闘を繰り広げていた。
 カロクは訳あって女王エリザベスの下僕となっているがもともとは大陸南東を支配する「不死の王」の住人である。その「不死の王」の住人である豹族がなぜここにいるのか。
 豹族の亜人がどのようにしてこの地へ辿り着いたのか気になるところだが蜘蛛の女王はどういうわけか今回のカロクの行動をすべて把握している。豹族への接触はできない。
 しばらく戦況を見守ったカロクは大蜘蛛を撤退させることにした。
 豹族と戦う大蜘蛛どもに自らの思念を送り大蜘蛛どもを一時撤退させる。豹族が死骸となった大蜘蛛を食料として回収するさまを疾視して、自身も大蜘蛛と共にその場を去った。
 カロクは愛しの少女のもとへ戻るように大蜘蛛へ思念を送り洞窟内を進む。

 (もってあと一時間くらいか)
 レスが使用した光る灰は吸血人種を所持品ごと見えない霧へと変化させる。純血種のヴァンパイアであれば不要なものだが、人とヴァンパイアの混血種であるヴァンピールには貴重な灰だ。その効果が切れる前に洞窟の出口を探し移動していた。
 逃げるのか!と今にもフォージーの叫びが聞こえてくるようだ。
 彷徨うこと小一時間、蜘蛛の糸で埋まった通路を抜けると洞窟の出入口をみつけることができた。灰の効果は切れている。
 外は赤い星が見える最後の夜となっていた。余談だが、この惑星では東から上った太陽は頭上の一番高いところで折り返し、再度、東へ沈んで日中が終わる。惑星は太陽に対して北が前向きに傾いているため、惑星最南端は常に夜で太陽を拝むことはない。
 レスもまたヴァンパイアであったのなら太陽を拝まず朝日に感じられる希望を抱くことはなかったのであろうか。
 しかし、レスはヴァンピールだ。朝日を拝み希望を抱いている。
「待たせたな。」
 暗闇の先から声がする。
 レスとブラックプール亭に残っていた四人が一日ぶりに合流した。

 暗闇から声をかけてきたのはダレスだった。
 レスがダレスと出会ったのは十年以上前になるが、当時二十過ぎたばかりの若者は自信に満ちていた。判断が速く反応速度に優れ人並み外れた身体能力と膂力の持ち主だった。
 そして五年ぶりに酒場で見たダレスに衰えは感じられない。それどころか身体は一段と大きくなったように見えるし自信溢れる表情は以前より増している。
 ダレスの後方には煌めく銀の長髪で左手には魔力を帯びた長弓を握り、戦闘服に着替えたライテミアの姿が見える。隣りに歩くのはライテミアの元婚約者のミストファングだ。
 一行を連れてきたのはメイザーの使い魔、黒鳥だ。黒鳥はレスとスルーフット、フォージーが洞窟に入ったことを確認したあと黒い水溜り亭へ引き返し、ここまで先導してきた。フォージーやスフー、いや恐らくダレス以外、レスもメイザーの正体に不信を抱いている。が、レス自身の直感と慧眼を信じてメイザーと接してきた。
 事実、得体の知れない能力だが仲間としてはとても頼りになる。ダレスに言わせてみればその一点で充分、その他の点に目を向けることすらない。
 混沌が支配してきた一千年、人間に未知の力が備わったとしても不思議ではない・・・自問したあとレスは町のドルイダス・ティーレミネスの顔が脳裏に浮かび首を横に振る。
「状況を聞かせてください。」
 漆黒の髪と肌に赤色の瞳が光る。
 暗闇の中で見るその男は一瞬奈落の者かと見紛うほどであるが、レスは構わず応える。
「助かるよ、メイザー。状況はこうだ。」
 

 騎士の動きが止まり、いつとどめを刺そうか窺っているところへ「分身」から知らせが入った。
(えっ、カロクが?なんで?)
「蜘蛛の霊体」を二匹見張りに立てておいてよかった。愛しの少女は足早にその場を離れて近づいてくるカロクの方へ向かう。(騎士は私のものよ)奈落の者の本能が身体に告げている。
(しかしあの騎士・・・)
 愛しの少女は騎士のしぶとさに違和感を感じていた。そこへ大蜘蛛達と一緒にカロクが現れる。
「愛しの少女よ、この洞窟内で何が起きている?」
「さあ?私にも何が何だか。それよりなんでここにいるの?」
「私の行動はすべてエリザベス様の意思によるもの。」
「それならちょうどいいじゃない。あの豹族を見たんでしょ?滅ぼすために手を貸してよ。」
 一年前から利害関係が一致していた緑虎のことをカロクには話さないが、すでに不要と判断した。緑虎はみつけたら滅ぼしてやる。 
「じゃあさ、カロクは大蜘蛛の巣で待ち伏せね!場所はそこのキャノっちが知ってるから!」
 従属するカロクの様をみて愛しの少女の軽快さが増す。
 愛しの少女が言うキャノっちとはキャノピースパイダー(天蓋の蜘蛛)のことだ。縦長の巣に自身で蓋をする黒い蜘蛛がカロクについてこいというかのように動き出した。
「大蜘蛛とキャノっちと棘吹きもいるから。棘吹きは一回ごとの棘をだす間隔が長いけどそのぶん強力だからね!」
 いってらっしゃい!そう言って愛しの少女はカロクと蜘蛛達を見えなくなるまで見送った。  
 その後、分身の一匹を住処よりさらに離れたところへ監視用に向かわせた。分身もそう遠くへはいけず、せいぜい自身から離れても二、三百メートルが限界だ。
 (とんだ邪魔が入ったものね)少女はため息をつきながらさっきから胸騒ぎの元凶となっている騎士のもとへ向かう。

「おい!このチビ助!なぜわしらは牢獄に入れられとるんだ!」
 フォージーが癇癪を起こしている傍らでラームは鉄格子周辺の地盤に緩い箇所がないか探っている。
「フォージーがレスと一緒に逃げていたところを見たって、豹族のひとりがうるさいんだよ。」
「僕と同じゴディアカスの住人ってことは伝えたからさ。もう少し待っててよ。」
 スフーは鉄格子ごしのフォージーを憐れむように見て答えた。別場所に運ばれた二人の持ち物の中から酒樽をかすめてきたことを伝えて鉄格子の前に置く。
「まったく最悪な気分だわい」
 と言いながら、鉄格子に顔を張りつけて一杯やるフォージー。気付けばスルーフットはすでにいない。
 しばらく酒を飲んでいると右奥の通路先が騒がしくなる。
 そして左手から豹族の亜人が何人も牢の前を走り過ぎた。
「おい!どうした?なにがおきてる?」
 ラームが大声をあげるが答えは返ってこない。
 やがて右手の通路から火の手があがりさらには豹族の亜人を噛み殺して大蜘蛛の大群が迫ってきた!
「まずいぞ。」ラームが慌てるなか無言のフォージーが重い腰を上げる。
「七日か。」
 奈落のミノタウロスを屠ってから経った日数のことだ。
 身長、百四十センチのフォージーの体がみるみるうちに大きくなり、身長の倍、いやそれ以上の高さに伸びていく。
 体と四肢の筋骨は鋼鉄のごとく、膨れ上がる体で着ていた鎧は外れたが、鋼の肉体というもっと丈夫な鎧をつけて、フォージーが巨大化する。
「お主の前で見せるのは初めてだったな。」
「あぁ、聞いたことはある。山ドワーフの中には化け物がいるって。」
 膝が震え腰が抜けたラームをよそにフォージーは鉄格子を指でつまむ。
 鉄格子は難なく左右に広げられた。
「さあ、いくぞ!」とラームへ手を差し伸べる。
 自分の顔以上あるその拳を見て殴られたら即死するだろうと考えながらラームは恐る恐るそれにつかまった。
 牢屋を出てラームを先に左手に走らせるとその後フォージーも向かう。だが天井の低い洞窟ではいささか身体が大きすぎる。
「使いどころを間違ってないか?」
「そんなことあるものか!」
 ラームの指摘を否定してフォージーは近づいてくる大蜘蛛を屈みながら踏み潰した。
「どうやら二回目の戦が始まったようだな!」
 何十体もの大蜘蛛を踏み潰したのち大広間へ出ると豹族と蜘蛛どもが乱戦になっていた。何の躊躇もなく素手でその場へ躍り出るとフォージーは大蜘蛛を鷲掴み、放り投げ、蹴飛ばした。
 一人、群を抜いた背丈のドワーフが次から次へと大蜘蛛を倒していく姿を大広間にいる豹族の誰もが目にしていた。


 レス、ダレス、メイザー、ライテミア、ミストファングの五人は大蜘蛛の待ち伏せにあい周りを囲まれていた。
 ラームがはまった大蜘蛛の巣に似た場所だがさらに広い場所でのことだ。
「半分は俺がやる!手を出すなよ!」
「任せるがやり過ごした蜘蛛の数はしっかりと伝えてくれよ!」
 ダレスはレスの注文を聞き終える前に鋭い踏み込みで右手の大蜘蛛二匹を大剣で薙ぎ払う。
「余計な心配ってもんだ!」
 さらに左に跳んで正面と左手の大蜘蛛三匹を切り裂いた。
 (本当に人間か?)ミストファングは助走なしで五メートル近く跳ぶダレスの跳躍を見て思った。ダレスの一連の動きを見ながら放っていたチャクラムが大蜘蛛の脚を切断して戻ってくる。ミストファングはチャクラムの輪の中を指一本で受け止めると間髪入れずに次の一撃を放つ。
 ライテミアのファイヤーアローとメイザーが唱えた黒い影の魔法で二匹の蜘蛛が絶命している。
 レスはライテミアやメイザーに近づこうとする蜘蛛を牽制しつつ、ようやく目の前の一匹を葬った。
「スコア9-6だ!」
 楽しそうにダレスが発するカウントはダレスが倒した蜘蛛の数と他四人が倒した蜘蛛の数のことだ。

 (人間とエルフ!)カロクはこんなにも早く目当てのものに遭遇できたことと人間どもの強さの両方に驚いていた。
 カロクは棘吹きに一斉射撃を放つように遠隔で指示をだす。
 
 直径三センチ長さ二十センチの蜘蛛が放った三十を超える棘が四方八方からレス達を襲う。
 ミストファングが洞窟内に流れる僅かな風を突風に変えてライテミアと自身を守ったがそれでも全てを防ぎきれない。レスは自身の顔や頭を守るのが精一杯で腕、身体、脚に五箇所の傷を負った。そのうちの一本は左脚太ももへ直撃して重症だ。ダレスとメイザーは剣技と魔法で無傷だ。
 頭上から天蓋の蜘蛛が一行を襲う!
 天蓋の蜘蛛は縦長の網状の蜘蛛の巣を振り子にして飛んでくる。ライテミアはその蜘蛛の巣に絡められ身動きがとれなくなってしまった。その間にも大蜘蛛の噛みつき攻撃は継続され棘吹きは次の一斉射撃までの準備を整えている。
「次に棘を吹かれたらやばい!」
 状況を全員に伝えるレスは悲鳴同然だ。一瞬スタークとラームがレスの脳裏に現れて消える。今はスタークの盾とラームの化学は護ってくれない!

(今までの蜘蛛達とはわけが違う!)レスは軍隊のように規律のとれた蜘蛛に違和感を感じた。そしてその違和感を感じたのはレスだけではなかった。
 ミストファングは蜘蛛に話しかける。正確には言霊を送りその反射で返ってくる音波をとらえる行為である。
「蜘蛛を操っているやつがいる!戦士よ!右奥だ!」
 そう言ってミストファングはチャクラムを思い切り投げた。
「久しぶりに聞いたぜ、その呼び方!嫌いじゃない!」
 ダレスがチャクラムを追いかけるようにして駆け出す。その先に一つの影。
 ダレスは速度を下げるどころかさらに加速させて弧を描き返ってくるチャクラムと数センチの間隔ですれ違う。
 ダレスが大地に大穴をあけ、跳んだ!その行き着く先へ思い切り大剣を振り上げて。
 ダレスの一撃が正体不明の影と大地を破壊する!
 蜘蛛を操っている影のいた場所で爆発の音と粉塵が舞い上がった。
 棘吹きの蜘蛛は統率を失い突進したりバラバラになって棘を吹いたりで防ぐのは容易だった。中には逃げ出す蜘蛛もいる。
 向かってくる蜘蛛をすべて倒し戦いは終わった。
 蜘蛛の死骸だらけの中で立ち尽くすダレスにレスは話しかけた。
「どうした?何かあったか?」
 
「逃した。」
 ダレスは退屈そうに話すと蜘蛛の死骸を蹴り飛ばした。


 愛しの少女の悪い予感は的中した。
 目の前の騎士が動く気配はないが、霊体の蜘蛛が騎士の精神力を奪っている様子もない。
 (この騎士に精神攻撃は効かない)
 そう覚り次の一手を考えることにした。洞窟内の蜘蛛達を呼び集め物量で騎士を仕留めるのだ。
 しかし愛しの少女は知らない。洞窟内に二百以上いた蜘蛛達は今や半数を切っているということを。

 四半刻待って愛しの少女のもとへ集まってきた蜘蛛は二十匹ほど。騎士を確実に仕留めるにはあと倍はほしい。
 さらに待つと洞窟内の蜘蛛の動きを察知したのか緑虎が現れた。
 (滅ぼしてやろうか)とも思ったが蜘蛛達の集まりの遅さから様子を見ることにした。
「手こずっているようですね」
 緑虎は醜悪な人の姿でしゃっくりのような薄気味悪い笑い声を二度鳴らす。
「俺様がいただいてもいいのだがな。」
 そういってまた同じ笑い声を鳴らす。
 正直、参っている。騎士といい、この司祭といい。カロクの存在も煩わしく思えてきた。騎士をやる前に司祭を先にやってしまおうか、愛しの少女が考えをめぐらせていると見張りの分身から新しい侵入者の知らせが入った。
「人間とエルフだ、こっちに向かってきているよ!」先ほどまでの煩わしさが嘘のように晴れて心が躍る。
「久しぶりの獲物ですね。」
 三度目の笑い声を緑虎があげるが愛しの少女はもう気にならない。
 集まった蜘蛛達をそれぞれ配置につかせて悦びの笑みで侵入者を待つ。

 ダレスはレスよりも数歩先に愛しの少女と緑虎が待ち伏せる広間へ入ると隠れ潜んでいた蜘蛛達の奇襲にあった。
 右上と左上から大量の蜘蛛の糸がダレスに降りそそぐ!
 ダレスはかまわず左上に飛び跳ねると天井に張り付く大蜘蛛三匹を一閃切り裂いた。
 地面にへばりついた大量の糸をレスは剣で振り払い除こうとするが剣に絡みつき上手く払えない。左太腿の傷も癒えておらずブーツで踏み入ると糸の粘着度合いが強く抜けるまでに時間がかかりそうだ。
 レスがもたついているなかライテミアは天井を這って近づいてくる大蜘蛛へ炎の矢を連続して放つ。ライテミアの長弓に物理的な矢は必要ない。弦を引くだけで炎か氷の魔法矢を自在に放つことができる。
 ミストファングもライテミアに遅れずチャクラムを投げつけた。ライテミアの矢は二本とも一体の蜘蛛に命中し蜘蛛は炎とともに天井から落下した。ミストファングのチャクラムは蜘蛛の片脚二本を見事に切断して弧を描き手元に戻ってくる。
 炎に包まれた大蜘蛛が地面の糸の上に落ちると炎が糸に引火して一気に燃えだした。
 油を含んでいるのか!
 炎で舞い上がる煙は白色からあっという間に黒く変色し有毒なガスが天井を伝い通路へ流れてくる。
 ミストファングが風を操り黒煙を押し戻そうと試みる。しかし瞬発力に富み持続力に乏しい風の能力は、絶え間なく広間から流れてくる風に押され黒煙をわずかに押し戻しただけに過ぎなかった。
 それどころか広間の大蜘蛛が次々と糸を吐き出すため火力は増して黒煙が充満しだした。そしてついには通路を後退せざるをえなくなった。
 
 胴の断面を無惨に晒した蜘蛛の死骸と同時にダレスは地面に着地した。
 着地先では待ち構えていたかのように大蜘蛛が集まっていて周りを囲まれる。
 一匹、二匹と切り倒すと右手の広間入り口から火の手が上がるのが見える。どうやら仲間とは分断されたようだ。
 かまわず大蜘蛛を切り続けるが八匹あたりからどうも様子がおかしい。
 はじめはさほど気にならなかった蜘蛛の糸の粘着度が今では重い。十五匹ほど屠ったであろうか。完全に息があがってしまった。激しい疲労感だ。
 (こんなことが・・初めてのことだ)
 片手で扱っていた大剣の柄をいつのまにか両手で握り、両腕をだらりと垂らして残り二十匹はいる大蜘蛛と対峙する。

 愛しの少女は自身の分身である霊体蜘蛛を人間の騎士から離し自身の両脇に戻していた。騎士の相手をさせるために両開き扉の前には大蜘蛛と小蜘蛛を十匹待機させる。
 そして待った。
 目の前の大剣の戦士が疲労し動けなくなるしばらくの間を。
 
 全身に纏わりついていた十数匹の霊体蜘蛛が一斉にいなくなり、スタークは両膝を地面につける。
 まだ体力は残っている。両扉の先から戦いの騒がしい物音が聞こえる。彼を見ている者が誰もいないのをいいことに、視線だけを扉からそらさないようにしてスタークは倒れ込むようにしてその大きな身体を地面に横たわらせた。

 燃え盛る炎を通過してライテミアの氷の矢が糸を吐き続ける大蜘蛛へ次々と突き刺さる。氷の矢は一本として大蜘蛛を外すことがない。
 これはミストファングが言霊で蜘蛛の位置を把握し、同時に風を操ってライテミアの氷矢を誘導させる、いわば二人が得意とする連携攻撃である。
 二人の力で糸を吐く大蜘蛛の六匹を倒すと火の勢いが弱まった。
 そこへメイザーが球体の黒い影を火の中心へ放り投げる。炎は影に吸い込まれるように縮みメイザーが魔力を強めるほどに炎はパチパチと音をたてて影に吸い込まれ弱くなっていく。やがて炎はメイザーの作り出した黒い影とともに消えてなくなった。
 ミストファングはそれを眉をしかめて見届けると振り向いてメイザーを無言で凝視する。その表情は悪を睨みつけるそれだ。
 ドサリ
 音をたてたのはライテミアで矢を射すぎたのか肩で息をし、やがて倒れこんでしまった。
「そんなはずは!」ミストファングが驚き、彼女は矢を二百本射てもこんなことにはならない!と大声をあげた。
 魔力を帯びた赤い目のメイザーが続けて口を開く。
「奥で身を隠している緑の司祭がいる。どうやら原因はそれのようだ。」
 見ればライテミアだけでなく広間で戦っていたダレスの動きも鈍い。
「いまわかった!呪力だ!」大蜘蛛を倒すたびに倒した者の体力が削られる、緑の司祭の呪いだ!とメイザーが叫ぶ。

 残り二十匹ほどいる大蜘蛛を倒して緑の司祭まで辿りつけるのか?
 レスがこの試練に不安を感じた矢先、脳に少女の声が響く。
 (殺してはだめ!)
「聞こえたか?耳を傾けては駄目だ!」とレス。

(殺すたびに力は失われてしまう。だから殺してはだめ!)
 二度目の少女からの呼びかけでミストファングの目はすでに虚ろになりかけている。
「しっかりしろ!正気を保て!」
 レスはミストファングを励まし両肩を力強く掴んだがミストファングはそれを振り払った。目は虚ろで洗脳されていくミストファングを見てレスは危険を感じミストファングから離れる。
 メイザーは魔法に集中しており、少女の影響は受けていないようだ。メイザーは霧のような影をダレスの周りに作り、ダレスが動くたびに影も動きダレスを守る。影に触れた大蜘蛛は脚をバタつかせて逃げるようにして次の獲物であるレスへと向かってくる。
 レスは片刃の剣を構えると意を決して大蜘蛛の群れへ飛び込んだ。

 愛しの少女は状況を分析した結果、自身の分身である十五体いる霊体の蜘蛛を二人のエルフに向かわせることにした。女のエルフは体力を失って倒れこみ、男のエルフは術にかかっていいなりだ。霊体の蜘蛛で精気を吸い取ることができればおそらく大きな力が手に入るだろう。その力で霊体の蜘蛛を増やし、さらに強力な催眠術を他の人間にかけることができるようになる。
 通常、十年かけて一体増える霊体の蜘蛛が、人間を喰らうことで増えるのである。
 また霊体の蜘蛛で吸い取るエネルギーはどんな生物であれ美味だった。死にゆく生物の絶望と哀しみ、そして時にその生物が過去に味わった喜びの感覚まで味わえるときがある。
 さあ、楽しませてちょうだい!
 愛しの少女の行動の根幹がそこにあった。

 メイザーが仲間の一番後方でダレスの支援に集中していると霊体の蜘蛛がライテミアとミストファングに近づいてくる。
 その数は十五匹。ミストファングに抵抗する様子はない。メイザーはひと目見て小蜘蛛が魔法か魔法の武器でしか倒せない相手だとわかり詠唱を始める。
「ザーザードゥ•ハラ•スクリム•メイミーナス」
「黒き影の住人スクリーマーよ、我は汝に命ず。慟哭を矛と成して障害を追い払う盾となれ!」

 メイザーの背後で空間が一瞬歪んだかと思うと斜めにひび割れ、黒い影が空間のひびを押し広げるように這い出る。
 影に髪や体毛は一切なく両手両脚のある怪物を象ると筋骨隆々の両腕で空間の歪みをこじ開けた!目も耳も鼻もない黒い表皮に口だけを大きくあけて、怪物は嘆きの鳴き声を上げる。
 霊体の蜘蛛九匹が仰向けにひっくり返り脚をバタつかせ、残り六匹はあわてふめき四方八方へ進路を変えて逃げていく。
 メイザーの使い魔・黄色い六つ目の黒鳥がいつのまにか何十羽も現れライテミアとミストファングの鎧やら服を掴み二人を空中に持ち上げた。
 ライテミアの意識は戻らないがミストファングにかけられた術はスクリーマーの効果で解けたようだ。
 愛しの少女はミストファングに再度催眠の術を試みながら霊体蜘蛛の攻撃対象を赤目の魔術師に切り替えた。

 レスが大蜘蛛の群れに飛び込んでからすでに七匹を葬っていた。
 大蜘蛛に囲まれ背中から全身にいたるまで傷のない箇所はないくらいに大蜘蛛の攻撃を受けている。傷を負い大蜘蛛を倒すたびに命が削られていく。当然それは覚悟していた。

 だが違った。

 大蜘蛛を倒すことで力がみなぎる。魔法にかかったかのように、大地を蹴れば飛ぶように跳躍し、剣を振れば葉を切るように大蜘蛛を切り裂いた。
 十匹倒したところで気がつく。傷を負うことでヴァンピールの血が反応しレスを吸血鬼に変えていく。レスに傷を与えた大蜘蛛は逆に精気を吸い取られているように見えた。
 二十匹いた大蜘蛛が残り五匹になると緑の司祭はレスの異常を察知したのか残り一つの通路からさっさと逃げてしまった。

 脳に響く少女の声はもう気にならなかった。チャクラムが霊体の蜘蛛に命中するが魔法がかかった武器でしか倒せないと悟り、ミストファングは身体に括り付けた紐をほどき背中の槍を掴む。
「魔法使い!この鳥をなんとかしろ!」
 メイザーが黒鳥へ指示したのか、それとも黒鳥がミストファングの言葉を理解したのか、黒鳥は霊体の蜘蛛の真上までミストファングを運ぶとミストファングを離した。
 ミストファングは落下の勢いを利用して霊体の蜘蛛を串刺しにする。そして流れるように槍を操ると向かってくるもう一匹を薙ぎ払う。槍は刀身が六十センチ、柄の長さが六メートルあり持ち運ぶにも扱うにも通常では難であるが、ハイエルフ太古の木といわれるセーヴァーの末裔から作られた柄は自然を操るミストファングの能力によって伸縮される。
 持ち運ぶ時は柄は短く、戦いとなれば最長に伸びる。
 ミストファングは自身の腕力を補うために風の能力を使い七kgある槍を自在に操っていた。
 柄の部分に風を竜巻状に巻き付けて、大蜘蛛へ命中時に能力を一旦解除させる。次の行動へ移る際に再び風を操り槍を振り回す。持続力に欠ける風の能力を継続的に使うためだ。
 ロングレンジから連続して繰り出すミストファングの槍術は敵を寄せ付けず次々と霊体の蜘蛛を倒していく。
 そして倒した数だけミストファングの体力は削られる。三匹倒したところで両腕から背筋にかけて筋肉痛が走り息が上がってきた。
 五匹倒したところでミストファングの動きは止まり霊体の蜘蛛がミストファングに貼り付いて精気を奪っていく。 
 
 メイザーはミストファングが霊体の蜘蛛を倒し緑の司祭の呪いで体力が削られていく様を冷静に眺めていた。ミストファングが霊体の蜘蛛を三匹倒したところで六つ目の黒鳥を愛しの少女へ突進させる。
 黒鳥の攻撃は嘴でつつくか足の爪で切り裂く単調なものだが何十羽で連続して行うため少しづつ少女に傷をつけていく。愛しの少女は自身が霊体となって宙に浮きながら黒鳥を両手で締め付けたり口から吐く冷気で黒鳥の精気を奪っていく。
 少女に一つ傷をつけるのにニから三羽の黒鳥が葬られていく。締め付けられたり精気を吸い取られた黒鳥は赤く光ったかと思うと燃え尽きる炭のように灰色になって地面へ落ち粉々に砕け散った。
 少女が黒鳥から精気を吸い取るたびに黒鳥につけられたわずかな傷が塞がり少女の生命力を回復させる。メイザーはそれを知りながらもなお自身の背後の影から黒鳥を呼び寄せ愛しの少女へ突進させる。
 愛しの少女は始めこそ締め付け攻撃を混ぜながら黒鳥を攻撃していたが次第に黒鳥の攻撃が増してきて傷の回復が追いつかなくなってくると冷気の攻撃で黒鳥の精気を吸い取ることに専念しだした。
 愛しの少女の下の地面が黒鳥の灰でいっぱいになるが少女の傷は一向に塞がらず逆に生命力が削られていくのがわかる。メイザーの黒鳥はニ十羽が灰になったが少女の周りにはその倍をこす黒鳥が飛び回る。
 ニ十一羽目の黒鳥が灰になったときメイザーの左手首に五センチほどの切り傷が走った。ミストファングは十匹の霊体の蜘蛛に取り憑かれている。

 愛しの少女は異変に気づいた。
 エルフや黒鳥から精気を吸い取っているのに黒鳥から受ける傷は増えて広がっていく。異変が何なのかわからず自身の周りの何十羽の鳥をひたすら倒した。
 愛しの少女は動きが鈍くなるのを自覚しつつも黒鳥への攻撃をやめなかった。
 愛しの少女の動きが止まる。
 黒鳥はその隙を逃さない。一斉に少女へ襲いかかり少女の全身を鋭い嘴でつつき肉を抉り抜いた。
 愛しの少女は最後まで異変の理由を知ることなくありとあらゆる肉を抉られ絶命した。

 愛しの少女を倒したメイザーは左手首を必死に押さえていた。冷や汗を額に滲ませ「それ」が収まるのを待った。

(黒鳥を犠牲にした当然の報いか)

 メイザーの作戦は黒鳥を愛しの少女に一羽でも多く倒してもらうことだった。
 黒鳥がやられるたびに少女の生命力を削る。そう、緑の司祭がダレスやミストファングに使用した呪術を眼前で学ばせてもらったのだ。
 左手首の疼きが収まり顔を上げるとダレスとレスが残りの大蜘蛛を斬り伏せたところだった。

「エルフが派手にやられたな。」
 ダレスの表情には疲労の気配がみえる。
「大丈夫か?」
 レスがダレスを気遣う。
「何がだ?いや、今になって酒がまわってきたのかもな。」
 レスは強がるダレスの肩に手をかけるとこの屈強の戦士に洞窟を出る準備を依頼した。そして自分は両扉の先を確認してくると告げ、歩を進めた。
 両扉の先の通路ではスタークが横たわっていた。
「スターク!」
 レスは慌てて駆け寄り息をしていることを確認すると片膝をついて自身の右腿にスタークの頭を置いてやる。
「レザンサロスか・・・」
 スタークはやや疲れた顔で武器が通用しない蜘蛛に取り憑かれて気を失ってしまったとレスに説明する。
「起きれるか?」
「ああ、起きれるさ。ただすまないが少しの間だけ肩をかしてくれないか。」
「もちろんだ。さあ、皆のところへいこう!」
 スタークはしばらくの間、レスの肩を借りて歩いては止まりを繰り返すが、もう大丈夫だと告げて仲間のもとへ向かった。
 ライテミアとミストファングの意識はまだ戻らない。レスがライテミアを、ダレスがミストファングを背負い洞窟の出口を目指す。フォージーとラームに合流できたのはゴディアカスの町へ着いてからのことだった。


「何が起きたんだ!フォージー!」
「知らん!あいつらが襲いかかってきたんじゃ!」
 フォージーが大蜘蛛と格闘していると仲間の仇と叫び豹族の亜人二人がフォージーに襲いかかった。豹族の執拗な攻撃はついにフォージーを怒らせ、フォージーは一人を掴むと地面に叩きつけて絶命させてしまった。
 仲間をやられた豹族は標的を大蜘蛛だけでなくフォージーとラームにも向けてきた。彼女らの素早い攻撃に耐えきれずついに二人はその場から逃げることとなった。
 洞窟内のT字路で遠くから走ってくるスルーフットが見える。
 後方には豹族が続き、ついにはスルーフットを先頭にした豹族の追撃を受けることとなった。
 次にスルーフットに会ったときは思いきりこらしめてやる、とフォージーは誓うと洞窟の出口へ走った。
 洞窟の外にでてからも豹族の追撃の手は止まずフォージーは何人もの豹族を戦闘不能にさせた。
 ラームが見つけた窪んだ地形と横倒しの大木をうまく利用してなんとか豹族の追撃を免れるとその後は豹族に見つからないように移動した。
 二人がゴディアカスに到着したのは大蜘蛛の洞窟に入ってから二日目、赤い星が消える十五日目の夜だった。
 ゴディアカスの入り口付近で案内人が現れたが三日前に入国済みということとラームの顔がきいたため待たされることなくゴディアカスへ入ることができた。
 ラームとフォージーが人一人通れる通路に入ろうとしたとき背後の空がピカッと光る。
 振り向いた遠い空の先で隕石が燃え尽きて暗い夜空を照らした。

 
「ティーレ、二人は大丈夫なのか?」
 
「体力は回復させた。でもね、呪いの力が強くて意識は戻らないわ。」
 険しい表情だが冷静さを漂わせてレスの問いに答えるのは町のドルイダス・ティーレミネスだ。
 ティーレミネスは普段から好んで青のマスクを頭に被り髪を隠している。加えて町の指導者の一人として指示をだす立場であり町のどの男性よりも頼りがいがあり男らしい。

「この呪いは何なのかしら」

 ティーレミネスの声に深刻さが窺える。
 洞窟内での戦闘が終わりゴディアカスに戻ったのが夕暮れ。一行には休息が必要だった。しかしライテミアとミストファングの回復を何よりも優先させた一行は、頼みの綱としていたティーレミネスの言葉を聞き、何もない宙をただ茫然と眺めるほかなかった。

「南の方角です。そこに二人の意識を戻す何かがあります。」
 しばらくして重たい空気を破るようにメイザーが口を開いた。
「正直、ここにフォージーとスルーフットがいなくてホッとしているよ。」
 フォージーとスフーはメイザーの漠然とした提案に猛然と反対しただろう。思わずレスの本音が漏れる。
「何か見えたのか?」
 レスは続けてメイザーに訊ねる。
 レスがこう聞き返すとメイザーはいつもきまって無言でうなづくだけだ。メイザーの赤い目が燃えるようにレスに向けられる。この悪魔のような目を直視できるやつはどうにかしている、そう思いながらレスはメイザーから目を逸らした。
「ティーレ、俺たちを回復させる余力は残っているか?」
 レスが尋ねる。
「私を誰だと思ってるの?」
 ティーレの自信に満ちた姿を見て今は精神の休息が必要だと実感した。メイザーの予言を羅針盤にするしかない。
 近々ゴディアカスをでることをティーレに告げ、その間ライテミアとミストファングを看てほしいとお願いする。   
 ティーレミネスが頷くとレスは宿で休むことにするよ、ありがとうとティーレにお礼の抱擁をしティーレの館を出た。

 ダレスはブラックプールで酒を飲み、スタークとメイザーは自身の家に帰ることとなった。
 レスは後ほどスタークの家に行くことを決め、町の繁華街へ足を運んだ。

 繁華街は明日の食材を買い求める婦人やテラスで遅い夕食をとる若者、どこへ向かうのか足早に街路を往く男達などで溢れていた。
 人を斬ったときや今回のような血まみれの戦闘を終えたあとは、血が溜まる。
 レスはこの血を発散させるために女が不可欠だった。
 コントラバスの演奏に吸い寄せられ広場へ向かうとフラメンコギターの小気味良いリズムで踊る者達がいる。
 集団で踊る人達から外れて一人腿をあげてその場で軽快なステップを踏み踊る女性がいる。髪を後ろで縛り、細いが鍛えられている四肢を動かし時折足を蹴り出すようなステップでひたすら自分の中のリズムで踊っている。
 その激しい動きに目を向けたレスだったが次第に女性のスタイルの良さをじっと見遣る。いや、ダンスに目がいくと同時に最初からその視線を女性に向けていたのかもしれない。
 小ぶりな胸を揺らし、くびれた腰に肉付きのよいヒップからスラッと伸びる長い脚、白い肌からは想像できない力強いステップ。
「上手ですね。」
 気付けばレスは声をかけていた。
「ゲットファンシーですか?」
 最初の一声に女性の表情はこわばったが二言目で表情を緩ませ集中を切らしてダンスを中止した。
「邪魔をしてしまいましたね。」
「いえ、ちょうど息もあがってきたところでしたので。」
 レスの言葉に女性が応える。
「よければどうぞ。」
 レスは女性のダンスを見ている最中に広場の屋台で購入した二つのドリンクのうちの一つを差し出した。
 女性は遠慮気味に断るがレスがさりげなく手をとり笑顔で手渡したため、いいんですか?と聞き返しながら女性はドリンクで喉を潤した。
 レスは女性の足運びや締まった身体を褒め、町の劇団・暁(あかつき)に入ることを勧めた。
 数ある劇団の中で暁に入りたいと女性も思っていたためそのことをレスに打ち明け喜びの表情を見せる。
 柑橘系の炭酸ドリンクが美味しくさらに会話が弾む。
 二人は半刻近く話し込み、話の途中でレスがこれも覚えておくといいと言ってつま先とかかとで着地するステップを披露し手取り足取り女性に教えた。
 その後、レスは話ができてよかった、また機会があれば見せてほしいとつげたのち、さりげなく抱擁し女性と別れた。
 
 レスは一度スタークの家に戻りスタークの作ったビーフシチューで小腹を満たすとしばらくしてまた外出した。
 先ほどの広場に到着するとレスは女性が踊っていた場所に立つ。目を閉じ視覚以外の感覚が研ぎ澄まされていくのを感じると柑橘系の味が甦り、女性の香りや汗の匂い、また自身の匂い、それらが漂っている空間を探り歩を進める。
 辿りついたのは高い壁に縦長の小さな窓が二十以上ある大きな館だった。
 三階中央のルーフバルコニーに目を向けるとレスは手足を大の字に広げ徐々に壁を登っていく。その姿はさながらカエルか蝙蝠である。
 人通りが少ないとはいえ人が家の壁を登っていたらさすがに気づきそうなものだが手足を貼り付け動物染みた動きのレスに誰も気づく者はいなかった。
 最上階まで登りつめるとルーフバルコニーの柵を乗り越えテラスに膝をつく。   
 窓ガラスの向こうに人の気配を感じ視線を向けると先ほどの踊り子がレスを見ていた。
 女性は夜の街灯を眺め夜景を楽しんでいたのだろうが、突然現れた目の前の男に動揺を隠せないでいる。
 レスはゆっくりと横に歩を進め女性から離れるようにして動く。その間も視線は外さない。
 女性も目を離さず顔を見て相手が広場で話した男だと認識した。レスの青い目が淡いライトブルーに変わっていくのを息を呑んで見つめる。
 その瞬間、どうやったのかひとまたたきのうちで窓越しにレスが現れた。
 窓ガラス一枚が二人を隔てているがまるでレスに触れられているかのように女性は感じ、レスがゆっくりと左手を差し伸べると女性は窓の鍵を開けてその誘いに応じた。

 硬く猛々しい自分の男性自身が踊り子の秘めやかなぬくもりにつつまれレス自身を深く包む。
 事を終え館からの帰り道で、たがいに激しく、ときに止まっているかのようにゆっくりと腰を使い、互いが果てるまでのことをレスは何度も思い返した。溜まった血が精子に変わり体外へ放出されたときの高揚と快楽は一度きりではない。
 二人合わせて四度は果てた思いを順不同に繰り返し繰り返し思い返す。        
 あいにく五度目の最中で家の主に勘付かれ主が部屋に入ってくる前にルーフバルコニーから逃げ帰った。その記憶に思わずレスは軽く吹きだした。
 心身は癒え深い満足感とともに今日は眠れる、はずだった。が眠る前に一杯ひっかけようと「黒い水溜り亭」へ向かったのがよくなかった。向かう途中でフォージーとラームに会い、ラームが早々に部屋をとって一抜けしたのち、ジョッキを片手にフォージーの愚痴とダレスの歯に衣着せぬ物言いを朝まで聞かされることとなった。
 その後スタークの家には行かず「黒い水溜り亭」で空いている部屋を取ることにした。そして二日前にゴディアカスへ到着したときよりもさらに疲労した身体を寝床へ投げだした。

 正午から半刻ほどで目覚め、一階の酒場へ降りると祭りごとのように人が溢れていた。
「何があった?」
 レスは近くの男をつかまえて問いただすと
「お前、何もしらないのか!勇者の伝令が現れて北の支配者を勇者が倒したってよ!」
 男は興奮して話す。
「そんで今、その地の調査で先発隊を募っているんだよ!」
 あぁこれは忙しくなるぞぉ、などと独り言を口走りながら男は仲間のもとへ戻っていく。
 宿をでた通りでもその活気は収まることはなかった。通りから一番近い街の第三広場へ向かうとさらに人は溢れている。
「執政者はどこだ?」
 レスは情報を集めようと手当たり次第に住民をつかまえては同じ質問を繰り返す。ある住民から返ってきた応えは執政者達はいっさい黙りを決め込んでいるということだった。
 ティーレミネスは何をしているんだ!異常に盛り上がる群衆に苛立ちを覚え自然と怒りの声がこぼれる。
 ティーレミネスの館へ向かう途中の第五広場に立ち入ったとき緩やかな隊列を作る集団に目がいく。その中にスタークの姿があった。

「スターク!何をしている?」

「みればわかるだろ。先発隊に名を連らねるんだ。レスの名も記入しておくぞ。」
「勝手にするさ」
 レスは肯定とも否定ともとれる返事でその場から離れる。
 何が起きたっていうんだ。まだ夢から覚めない気分でレスは名簿をとる男に詰め寄る。勇者の伝令の居場所を聞き出そうとしたが、男は分からないと答えるだけだった。名簿はゴディアカスの執政者へ提出するためのものだという。
 奈落の支配者が人の手によって倒されたことが本当なら確かに驚くべきことだ。 
 しかし一晩でのこの街の変わりようにレスはまだついていけないでいた。
 
 ティーレミネスの館の前では彼女を慕う者たちとそうでない者たちでの諍いが起きていた。
 なぜ執政者達は何も動こうとしないのかと疑問視する者たちに対して、まだ様子をみている、ゴディアカスの住人一人一人の判断に任せている、まだ動く時ではないとティーレミネスを慕う者たちは説得を行なっていた。
 レスは群衆を抜けて門番に話しかける。
「ライテミアとミストファングの様子を看に来た。」
「今は誰も通すなと言われています!」
 屈強な門番二人がレスの進路を阻み言う。こうなるとティーレミネスの衛兵は頑固で何を言っても無駄だということは承知している。
 レスは来た道を戻り少し遠回りしてから館の西側、穀物が保管されている小屋まで移動した。小屋の様子は五年前にゴディアカスをでたときと変わっていない。
 この小屋の床には通路が隠されていてティーレミネスの館の地下まで続いている。ただ、一人で進むには危険な場所だ。執政者が用意した怪物が待ち伏せて侵入者を襲ってくる。また道を間違えると機械仕掛けの通路が進路と退路を変えて迷宮と化す。行き方次第ではゴディアカスのあらゆる要所につながっていると聞いたこともあるが。
 レスは静かに小屋を去ると五月蝿い街の住民に勇者の伝令はどこにいるのか手当たり次第に聞いて廻ったが結局のところ勇者の伝令は見つからず夜を迎えてしまった。
 その晩、執政者達の指示により、奈落の北の支配者の地域調査のための先発隊が二十人程選ばれた。
 先発隊の出発は二日後の明朝。
 以後一日おきに二番隊、三番隊と続き、各隊とは別に伝令馬を使用して各隊の状況報告を行い全隊の安全性を図る。三番隊以降の人員についてはまだ決まっていないらしい。

「なぁにがおこっとるんじゃ。やかましくて酒も落ち着いて飲めん。」
 まったく、と言って夕方近くに起きてきたフォージーがレスとスタークの夕食の卓に座り注文したビールを呷る。
 この耳のいい山ドワーフは黒き水溜り亭の外の雑音まで聴こえてしまうようだ。レスはフォージーへ大まかに事態を説明し、鶏の太ももにかぶりつくスタークに顔を向けた。
「ああ、そうだ。わかってる。わかってるよ、レス。」
 そういってスタークは口の中の鶏肉をすべて飲み込んでから続ける。
「しかし、これは栄誉なことだ。この私が先発隊に加われるなんて。」
「ほう、では、いよいよ儂らとは本当に別行動となるわけだな。」
 フォージーが少し眉をひそめてスタークを睨んだあと、意地悪そうな笑みを浮かべて言う。
「いや、そういうわけにはいかないぞ、フォージー。」
「なぜじゃ!」
 レスの間髪いれない異論に思わず声を荒げるフォージー。
「メイザーの言う南方と先発隊が向かう方角が同じだ。俺たちも先発隊に同行する。」
「ふん!またいつものことか。」
 しばらく口をあけてポカンとレスを見つめた後、フォージーは呆れたように吐き捨てた。
 

「神がこの地に舞い降りた!その神は赤い月よりきたれり!」
 その夜、黒き水溜り亭の酒場は新たな話題で持ち切りとなった。
 男の話しでは自分が神の啓示を受けたという。男が森の集落の者だということはあとで知った。
「神は私の前に現れて言った。化身を遣わすと。」
 酒場に入ってきた男はまず初めにイールに絡まれた。
 イールは背骨が大きく曲がっていて背丈は小さいが厄介な男だ。ゴディアカス最貧地区の自警団の一人で同地区で暗躍する盗賊団シャドウとの関係も深いと言われている。
「おい!イカれ野郎。」
 イールが威嚇するが預言者は怯まない。
「混沌による一千年の統治を終わらせるのだ!」
「ケンケンと喧しいんだよ!勇者の出現に舞い上がっちまってるのかぁ?あんまりうるせぇと俺の腰に収まる短剣でツンツンしちまうぞ、こらぁ!」
 テンションの上がったイールは素早く短剣を抜き、笑いながらその剣先を預言者に向けた。
 剣先と預言者の距離はわずか十センチほどだ。
 それでも預言者は続ける。
「神は私の意識から離れた。そしてしばらくすると空から眩い光が南方へ落ちていったのだ!」
「よせ!」
 スタークがたまらずに椅子を投げ倒して立ち上がる。
 イールの短剣は預言者の服を突き破りかすかな血が剣先につたってくるところで止まった。
「なんだぁ、まだツンツンされてぇやつがいるようだなぁ。」
 振り返りO脚で向かってくるイールに対して今度はフォージーが立ち上がり歩を進める。
「役人さん、何か勘違いをしているようだな。この男はあんたに言ったんじゃない。」
「そこの預言者に言ったんじゃよ。うるさい!とね。」
 言葉は争っていないが口調と表情は誰が聞いても喧嘩腰なのがわかる。素手ではあるがフォージーの気迫はうねりをあげて天井をつき破るかの如く凄まじい。イールはその気迫に圧され完全に沈黙した。
 フォージーはそれに気づくと気を鎮めて預言者をイールから離れたところに誘導する。
 それにわしも見たんじゃよ、隕石が燃えながら落下していくのをな。そう言ってフォージーは早々に喧嘩を終わらせた。
 その後、酒場の隅で悔しそうにしているイールを見たがフォージーは全く気にかけることなく酒を飲み続け、しばらくしてイールは酒場を出て行った。
 普段イールに大きい顔をされていた酒場の者たちもフォージーとスタークの行動に歓喜し預言者の話しを酒のつまみに盛り上がった。 
 預言者の話しを熱心に聞く者も何人かいてその中にスタークの姿もあった。
「また敵が増えたんじゃないのか?」
 レスが面白そうに言うと鼻息で吹き飛ぶやつが敵と呼べるものか。とフォージーは一蹴した。
 しかしレスもフォージーも知っている。一人の人間は大したことはなくても多くの人間が団結すると信じられない力を発揮することがある。それはゴディアカスの政治を見ていて感じることでもあるし、仲間九人が力を合わせることで体現していると徐々に感じてきていることでもあった。

 はるか遠くの暗闇の空から火球と思われる光の筋が南東方面に向かって飛んだ。火球の正体は地表に到達した時点で直径七メートルの小惑星だったが地表に衝突すると爆発し大爆音とともに径一キロ内の動植物を死滅させた。
 岩石や水、すすが巻き上がる中でクレーターの中心部には径三メートルの卵が存在していた。
 小惑星が大爆発を起こした際、岩盤が崩れ地下空洞への入り口が開けた。卵はその地下空洞に転がっている。
 卵の前には横長の大石が二つ積み重なっていて簡素な祭壇の様に見える。祭壇の上には木箱が一つ。鎖が頑丈にかけられている。
 黄土色の卵は熱を帯び中の新しい個体に生命を与える。そしてしばらくして卵の殻は粉々に砕け散った。

 孵化したのはドラゴンだ。

 竜は小さいながらもすでに形を整えていて頭部と体は細い。剣のように尖った皮膜が頭部や肘、さらには指から伸びている。胸に生えている鱗は数枚を重ねた大きな盾を連想させる。
 竜は祭壇上の木箱を何ら抵抗なく抱えた。
 フフッ向かって来ているな。
 鼻息で不敵に笑うと鋼の竜は天を仰ぎ小惑星が飛んできた方角を見つめる。
 自身が降下した地点へ何者かが向かって来ているのを悟ると竜は刃のような翼を広げて一瞬のうちにその場から飛び去りいなくなった。

 
 出発日の目覚め前にレスは夢を見た。
 それは昨日、ティーレミネスの館に到着してライテミアとミストファングの武器をティーレの衛兵に預けている夢だった。
 そこまでは現実と同じだったが意識の覚めないミストファングが幽体となってレスに話しかけてきた。
「レス、私の槍を持っていけ。」
 目覚めるとその言葉だけが頭に残り再び寝ようとするが眠れない。
 レスは眠い身体を鞭打ってまだ薄暗い朝、ティーレミネスの館に向かうことにした。
 館の入口で衛兵に用件を伝え労いの言葉をかけられて館に入る。そしてミストファングの槍を回収するとその足で第一広場へ向かった。
 先発隊の集合場所である第一広場へ到着するとフォージーが新しく真鍮したハルバードを携えて待っていた。 
「武器を変えたのか?」 
 いいや、さきの洞窟で戦いに集中しすぎて探すのも忘れて置いてきてしまったとフォージーは豪快に笑いとばす。
 探しに行くか?と尋ねるが武器一つに時間を割けるものか!とフォージーは口をヘの字にして言う。
 明らかに残念そうで少し寂しげな目をしているのがレスにはみてとれた。だができればあそこには戻りたくない。後から思えば損得勘定を働かせてしまったということだ。
 レスはハルバードの話には触れずフォージーとともに他の仲間の到着を待つことにした。

 先発隊として第一広場に集まったのはスタークを含めて全部で十五名。加えてレス、ダレス、フォージー、メイザー、ラームの五名は別行動であるが唯一、先発隊に同行を許されていた。

「先輩!よろしくお願いします!」
 言葉とは裏腹に不遜な態度でラームに挨拶をしてきたのはサイエンスアカデミー四番手といわれるアルバレスだ。
「おう、アル。」
 よろしく頼むよ、と年下のアルバレスに返すラームの声は小さい。アカデミー三番手であるラームだがアルバレスに抱いている感情は劣等感だ。
 レスと同様スリムなラームだがサイエンスアカデミーの中では体格が良い。
 学者体質のアカデミーではアカデミー長を除くほとんどの者が華奢だからだ。
 目の前のアルバレスは言うほど華奢ではないが背丈はラームより低かった。そして知能指数や魔力は上だ。少なくともラームはそう感じている。
 そして知能指数と魔力こそがアカデミーで最も求められる。
 洞窟内で大蜘蛛に使った破裂すると光るスティックはラームが考えた。  
 ゴディアカスで採掘できる白い石をスティック内の水の中に入れて蓋を閉める。しばらくするとスティック内にガスが溜まりぶつけて衝撃を与えることでガスが白く爆発する仕組みだ。
 こういった器を考えさらに魔力を加えて作るものがアーティファクトだが残念ながら古代のアーティファクトに匹敵するものは現存しない。
 アカデミーの一番手リオネルは筋力や精神力を一時的に高揚させるアーティファクトを作成するなど一定の成果を残しているが古代のアーティファクトのような半永久的に使えるものは作れていない。
 ラームからみたアカデミー二番手のキリーガンはアカデミーの一番手になることだけを考えているようにしか思えず、アルバレスは何を考えているのかわからない。
 そして自分はというと三人に比べて絶望的に魔力が欠落していた。
 
 先発隊のリーダーとして選任されているアルが名前の書かれたメモ用紙を見ながら点呼をとっているのをラームは眺めた。
 アルは名前を呼んだあと丁寧にひとりひとりに挨拶を返し笑顔を振りまく。
 そういえばアルは昔からその場を明るくすることがうまかった。そういった意味でも今回のリーダーは適任だとまたひとつアルバレスの才能を認めてラームは自分が嫌になった。

 なぁるほど、粒揃いだ。
 アルバレスは先発隊メンバーをみてそう思った。
 ゴディアカスの全執政者七人のうち最低でも五人の執政者が自身の護衛騎士を先発隊へ派遣してきている。最貧地区の自警団員や盗賊団シャドウ、教会、商人ギルドからも派遣されているようだ。
 アルバレスが知らない顔の者達は護衛騎士を目指す若き見習い達といったところか。吟遊詩人の身なりをした者もいる。
 今回、先発隊に課せられた北領土の調査は表向きのものだ。実際には調査で得た情報からどの地を誰が治めるのかといった覇権争いが裏ですでに始まっている。
 サイエンスアカデミー長は協調を好む人物であるがアカデミー二番手のキリーガンは利権優先主義者だ。
 アルバレスはキリーガンとの繋がりが強く、キリーガンの指示により年月をかけて密かにゴディアカスの権力者達へ顔を広めてきた。
 自身が行なってきたことが着実に成果につながっているとアルバレスは先発隊のメンバーを見て実感した。

 
「話が違うじゃないか!」

 酒場で揉め事を起こした自警団員イールの同僚で先発隊のメンバーであるフォッグが叫ぶ。
 フォッグは両手の手斧で敵の鋭い刃の攻撃を必死に受け流している。斬られた右肩からは出血が止まらない。
 ゴディアカスから五日離れ、東西の森に挟まれた草原で先発隊とレス達は奈落の巨大蜘蛛の集団に襲われた。鎧を着た一つ目の巨大蜘蛛によってすでに護衛騎士を目指す二人の若者が戦死していた。
 鎧蜘蛛の前脚四本の第二関節から先は巨大な剣になっていて前脚四本の剣が巧みに連続攻撃をしかけてくる。

「周りを囲まれたぞ!」
 ダレスは一つ目が蜘蛛のウィークポイントだと瞬時に判断し後ろに周って蜘蛛を鎧ごとぶった斬る。
「随分前からつけられていたかもしれないな。」
 前脚の攻撃を巧みにかわして鎧で守られていない蜘蛛の腹に潜り込み数回斬りつけては脱出してを繰り返すレスが応える。
 動きが鈍くなった蜘蛛にレスが最後の一撃を喰らわすとはらわたの内臓物をぶちまけて蜘蛛は動かなくなった。蜘蛛の剣をかわすより内臓物をかわすほうに神経を使う、とレスは舌打ちした。
「うむぅ。わしも大剣を一本用意しておけばよかったか。」
 蜘蛛の鎧を大破して屠るダレスの姿を見てフォージーがぼやく。とはいえ、ハルバードの先端にある鉾の部分で蜘蛛の一つ目を突いて抉り出し、すでに二体の蜘蛛を屠っている。
「どうもスッキリせん。」
 そういって三体目の目を抉り出す。
「気をつけろ!蜘蛛の鎧は身体の一部だ!身につけているわけではないぞ!」
 鎧のつなぎ目がないか探している護衛騎士を見てレスが助言する。
 別の護衛騎士三人は束になって巨大蜘蛛一体にあたっている。一人が蜘蛛と対峙して注意を引き、他の二人が後ろから蜘蛛の脚の第二関節から上を斬りつけて切断する。
 そして護衛騎士の中にレスの目を引く者がいた。その騎士は一人で戦っている。鎖帷子の上に赤い胴鎧を着て脚は左右の太ももまでを二枚に分かれた防具で覆っている。籠手もせず非常に軽装だが動きやすいことは間違いないだろう。
 その者に無駄な動きはない。腰に吊るした剣を鞘から抜かず静かに立っている。
 蜘蛛が攻撃を仕掛けると騎士は見事な足捌きで後ろに退がり蜘蛛の剣を間一髪でかわした。そして騎士が剣の柄に手をかけたかと思うと一閃、レスに勝る速さで蜘蛛の前脚を切断した。
 その後、剣を構えてからの騎士の一撃はそこまで速くはないがその動きには無駄がなく静と動を見事に使い分けた攻撃と防御だった。
 
 スタークとラームは二人で力を合わせて鎧蜘蛛と戦っている。
 鎧蜘蛛の連続攻撃をスタークは大楯で必死に受ける。蜘蛛の攻撃のうちの四回から五回に一回は大楯での防御が間に合わない時がある。
 ラームはそのタイミングを測って目眩しのスティックを大蜘蛛に浴びせスタークを守っていた。
 何十回と蜘蛛の剣の攻撃を受けて防戦一方の戦いだが、ある回数を超えて蜘蛛の剣が中央からボキリと音を立てて折れた。
 スタークの大きな身体を包みこむような大楯は縦に線が入るように尖っている箇所が四箇所ある。鋼でつくられたその部分に蜘蛛の剣があたるたびに剣は刃こぼれし、欠けて最後には真っ二つになった。
 前脚の一本が半ばから折れてバランスを失った蜘蛛だったが残りの前脚での攻撃は止まない。しかしその速度は落ち、やがて二本、三本と折れてついにその場に崩れ落ち身動きできなくなった。

 先発隊とレス達は仲間を守りながら移動し、戦場を変えフォーメーションを変え一時間ほど戦った。
 見渡せば死骸と身動きできない三十体以上の大蜘蛛が大地と草原の肥やしになっていた。
 先発隊の死者は二名。横たわる二体の若き騎士見習いからアルバレスが遺品を回収する。
 教会から派遣された先発隊唯一の女性マレンは重傷者を必死に看護している。特にひどい傷を負ったのは商人ギルドのコムランであと数センチ傷が深ければ助からなかったとマレンは思っている。止血、抗炎症、鎮痛の効果があるヨキショウの葉と根茎をすり潰しゴムの木からでる樹液と混ぜて作った治療薬をコムランの背中の傷に塗布する。ゴディアカス内で獲れるヨキショウは紫外線と暖かい環境が必要で希少価値の高い薬草だ。

「あの黒い空を見ろ!奈落の支配者は生きている!」
 全身に切り傷を受けて横になっている自警団員フォッグが毒付く。
 混沌が支配する大陸の空は常に曇っていて大地に光がさすことはない。そして奈落の支配者がいる上空はとくに暗い漆黒で覆われている。
 フォッグは遠い南の空の暗黒を目の当たりにして俺たちは騙されたんだ!と吐き捨てた。

「その通り。奈落の支配者は生きている。」

 一呼吸おいてメイザーが話す。そんなことはわかっていたと言わんばかりの落ちつきと冷静さだ。
「ただの人間ごときに支配者が倒されるわけがない。倒せるとしたら我々をおいて他にない。」
 メイザーは変わらず泰然自若に言う。
 それを聞いてハッハッハッハッと愉快そうにフォージーが笑った。
 その通りじゃ!たまには魔術師もいいことを言う!とフォージーは満悦そうにするとその勢いで酒樽の口を開けた。
「強さは見せてもらった。」
 腰を下ろして酒を飲もうとするフォージーに男が話しかける。フォージーの前へ立ち睨みつけるのは三人一組で鎧蜘蛛と戦っていた護衛騎士の一人だ。
「だが驕りは油断を招く。」
 騎士は分厚い胸板に肩パッドでもつけているかのような盛り上がる肩でフォージーに相対する。
 顔つきを見れば人となりがわかるというが騎士はいかにも頭の固そうな顔つきの男だ。山ドワーフも酒と金細工にかけては頑固一徹であるがそのようなものか。
 この騎士はいわゆる警告をしているのだろうが「驕り」というものがフォージーにはいったいどういったものなのか理解ができなかった。
 フォージーは片眉を上げて再度騎士を見返したあと無言で酒を口に運んだ。
 
 大蜘蛛との戦闘を終えた一行は四半刻の休憩をとった後、今日の行軍を諦め野営の準備を始めた。
 重傷者の治療を行い看護を続けるマレンにレスが話しかける。
「看護をするにも体力が必要だ。これを飲むといい。」
 そういって栄養ドリンクを渡す。
 マレンはお礼を言って栄養ドリンクを受け取ると一口、二口と飲み込む。
 少し急いだのか口元からドリンクがこぼれ落ち右頬に一筋の線が流れる。
 ドリンクを持ち替え慌てて拭おうとするマレンの右手をレスが制止し左手人差し指でマレンの頬の線を拭き取った。
 突然の行動に戸惑い見返すマレン。
 レスの目がコバルトブルーからライトブルーに変わっていく。レスは優しい笑みでマレンを見つめた。
 ふとマレンは強くまばたきをしたあと首を横に振って言う。
「なんのつもり?」
 荒げた語気で問われたレスは不意をつかれ、すまない。と謝った。
「夜の相手を求めているのだったら諦めなさい。私には夜中、護衛がつくことになっています。」
 はっきりものを言うマレンに出端を挫かれたレスは不機嫌な顔を隠さず、その場を離れた。
 
「おい、あの女にはどんな神様がついている?」
 スタークと一緒にテントの支柱用の穴を掘るラームにレスが尋ねる。
「あぁ、ルバーナ神のイシグルに仕える者だとか言っていたなぁ」
 気になるのか?とラームがニヤついて聞き返す。
「まさか!しかし信じられん!」と感情を露わにするレスに、
 あぁフラれたのか、とラームは笑いとばす。
「ルバーナ神ってのは欲望を超越すればするほどギフトを授けてくれるって神様だ。」
 欲望丸出しのレスには難易度が高すぎるだろう。諦めろ、と付け加えた。
 二回も諦めろと言われてレスは大人しく引き下がれない。諦めが悪いのが俺の持ち味だ、と火がついたが同時に幼ない頃の記憶が蘇る。
 レスがゴディアカスで暮らすことになってまだ日が経たない頃、ティーレミネスにきつく教えられた。うまくいかないことがあってもそれは相手のせいではない。自分自身の心に怒りの火がついたとしたらまず冷たい水で消火して執着は捨てろと。
 それに・・
 レスは過去の失敗を思い返して怒りをやり過ごすように努めた。
 ヴァンピールの血が働いているときは動物的と言おうか、今を生きることに飢えている。
 残酷であり野生的だ。
 過去の記憶の断片が突然でてくるなど一度もない。あるのは快楽と生への渇望のみだ。レスは突然湧いて出てくる過去の失敗の記憶に唇をかみしめながら自身にある人間の側面に苛立った。
 
 その夜、アルバレスを中心に会議が開かれた。
 支配者が生きている以上、行軍を進めるか退くかの決断ははっきりしているように思われた。しかし護衛騎士四名と騎士見習い一名は進むことを選んだ。
 吟遊詩人のエンワース、マレン、護衛騎士一名は退くことを選ぶ。
 盗賊団シャドウのケイフォード、自警団員フォッグはどちらともとれない態度をみせている。重傷のコムランからは回答を得られていない。

 この時点で進むが五票、退くが三票。

 アルバレスはあくまで多数決に従うことを宣言し自らは退くほうへ一票を投じた。一人でも死者が出ることは今までの人脈作りに少なからず影響がでるからだ。
 コムランの回答は待つまでもないという意見が退く側からでた。この意見に騎士見習いの若者が猛烈に反対する。それに俺は鎧蜘蛛に殺された仲間の仇をとりたいとつけ加えた。
「スターク殿はどのようなお考えか?」
 護衛騎士の一人がスタークに尋ねた。
「少し考えさせてはくれないか。」
 そういってスタークは答えを見送った。
「我々にはスターク殿のお仲間達もいる。奈落の手勢恐るるに足らず!そうではないか?レザンサロス殿。」
 仲間を代表して会議に出席していたレスは火を囲む先発隊達からは少し離れた場所でテントの支柱に背をもたげて話しを聞いていた。
 うつむいて話しを聞いていたレスは目線を護衛騎士に向ける。
「俺たちはたまたまあんた達と同じ方向へ向かっているだけだ。明日にでも行く道が違えることだってある。」
 レスは護衛騎士の問いをバッサリと遮った。
「それに帰りのことは考えなくていいのか?あまり深くまで行くと途中で帰りたいとなっても周りを囲まれて帰るに帰れなくなるぞ。」
 先発隊が奈落の手勢を相手できるメンバーではないということをレスは暗にほのめかした。奈落の手勢に人間が太刀打ちできるにはまだ早い、ダレスとメイザーを除いては。それがレスの結論だった。
 スタークの進退がはっきりしないこともあり会議はここまでとなった。
 アルバレスは二番隊を待つことも視野にいれゆっくり休むようにと指示する。ただし二番隊と合流しても進退に関しては二番隊の意見は先発隊には関係ないものとし、先発隊は先発隊の多数決のみで進退を決定することを皆に伝えた。
 そうして各自それぞれに解散する。

 スタークはテントに戻りしばらく考えていた。同じテントで過ごすラームはすでに横になっている。
 考えた結果、スタークは退くことに一票を入れることにした。そしてコムランが退くことを選べば多数決により先発隊の撤退が決まる。その時は先発隊の任を解いてもらいレス達と行動を共にしよう。
 それにもしかしたら先発隊の任を解いてくれないかもしれない。それはそれで仕方ない。いやどちらかといえばそうなってほしいという気持ちのほうが強かった。
 善はなんたらで真夜中にスタークはアルバレスのもとへ急いだ。アルバレスは護衛騎士と交代でテントより少し離れた場所で見張りをしているはずだ。
 テントから見張り野営地まで向かう途中、スタークの右方向でガサガサと草むらを揺らす音がする。
 暗闇ではっきりと見えないが鎧を着た騎士が立っている。

「誰だ!」

 スタークが問うが応えは返ってこない。フルフェイスの兜をかぶり鎧の騎士はゆっくりと近づいてくる。
 そしてスラリと剣を抜いた!
 全身黒鎧の騎士が一気に間合いを詰めて襲いかかってくる!
 慌ててスタークは黒騎士の一撃を剣で受け止める。しかしあまりの衝撃にスタークは十メートル近く吹き飛ばされた。
 自分の巨体が信じられない距離を飛んだことに驚き身体の痛みなど忘れるくらいだった。

「敵襲!敵襲!」
 
 アルバレスの声が真夜中の空に何度も響きわたり、それぞれが武器をもってテントから出る。
 眠りについていた者はテントから出るのに一分近くかかった。フォージーもそのうちの一人でフォージーが外にでたときには味方は武器を捨てて降伏していた。
「何がおきている!」
 血気に流行るフォージーをレスが止める。
「相手は人間だ。」
 落ち着いて話しを聞くことにしよう、それにかなりの数の弓で狙われている、とレス。
 レスの言うとおり暗視がきくフォージーにも自分たちの倍以上の数の射手が狙いを定めているとわかる。
「何本射抜かれようが全員倒せといえば倒すぞ。」
「被害が大きくなる。味方も相手も。」
 人間同士で争っている場合じゃないだろう、それに武器を捨てれば相手も話しがわかる連中のようだ。そう言ってまだ戦いの姿勢を崩さないフォージーにレスは武器を置くように宥めた。
 荒い鼻息をひとつついてフォージーはハルバードを地面に放り投げた。
 重低音の響きとともに戦いの幕は閉じた。そして次に待っていたのは眠いなかの深夜の行軍だった。手際よく武器を回収した相手から根城に案内すると言われ徒歩を強いられたのだ。
 フォージーがまたしても短気を起こすところだったが根城に酒はあるか?あるならご馳走してもらうぞとレスがおどけて、なんとかフォージーの怒りを和らげた。



「目覚めよ、老竜よ。」


「自慢の翼が苔にまみれて萎びた葉っぱになっているな。」


「森を寝具にいつまでも悠久の時が続くと思っているのか?」


「ええい!誰だ!我の眠りを妨げるのは!」
 気持ち良く眠っているところを邪魔された怒りは人も老竜も変わりはない。年老いた緑竜は咆哮にも似た大声をあげた。
 その響きで愛くるしい小動物達は驚き飛び跳ね、草花は千切れて宙に舞う。 
 小動物や草花が地に降りるとそれらは老竜の翼に引っ張られるように吸い込まれていく。それに留まらず周りの木々や草花、はたまた森で暮らす鳥や動物達がみるみるうちに老竜に吸い込まれ、緑竜の半径五キロ圏内の自然と動物達があっという間に消えてなくなった。

「私はお前の味方だ。敵は他にいる。」
 緑竜は一方的に話しかけてくる見えない相手をしばらく無視した。

「敵は連携を深めて迫ってくる。」
 「手を組む時だ!」
 敵だと!?アバンガルドのことか!緑竜は内心、血がたぎったが口にはしなかった。

「渡したいものがある。」
 そういって見えない相手は渡したい場所を指定してきた。
 それは天宮の離島オノボロで地上と天宮を結ぶドラゴン・パスの近くだという。
 ああ、もちろんドラゴン・パスは知っている。しかし疑い深い老竜はそこへは行かないことにした。



 いくつもの森を抜け木々が少なくなった場所に出るとレス達の眼前に巨大な岩山が現れた。高さ五百メートル、横幅四百メートルの四角くそびえ立つ岩山はゴディアカスと比べるとちっぽけだが絶壁が垂直に切り立っていて十分な迫力がある。 数キロ先にあるそれは木々の後方から顔をだし、まるで空中庭園のようだ。

「長いこと歩かせおって!」
 目の前の絶景に反してフォージーが口を開く。
「こんなところがあったとは・・」
 自然の雄大さを感じてレスが立ち止まって言う。そして、知っていたか?とフォージーに尋ねる。

「いや知らなかった。」
「長生きするのも悪くないものだ。」
 フォージーがぼそりと呟く。
 
 岩山は一枚岩でレンカーズロック(怨恨の大岩)と名付けられていて、レンカーズロックのリーダーは皆から岩山の勇者と呼ばれていた。
 勇者はレス達を出迎え、今宵は宴を開きその場で話しをしたいと申し出た。アルバレスはそれを快諾し、まずは休むための部屋を用意いただきたいと要求する。

 レンカーズロックに到着してからは驚きの連続だった。
 まず、岩山の麓に居住地があり、居住地は全長二キロの市壁で囲まれている。
 市壁には東西南の三箇所に門が設けられ門を挟むように見張り用の塔が建つ。
 市壁の中には八十を超える建物と整備された道が迷路のように巡らされ、切り立った崖を天然の防御壁とする城へと続いていた。
 レスが住人は何人か聞いたところ戦闘員の四十名程度だけだというから、この要塞は手に余る。
     
 城は掘りに囲まれた城壁で守られていて城門から跳ね橋が降りている。側塔や張り出し陣など対人用の造りからここが奈落に支配される前からある古来の要塞だということが推測できる。
 そしてなによりもレスとフォージーを驚かせたことは城の後方にそびえる岩山の頂上にあった。
 高さ五百メートルある岩山の頂上へ行くには城の裏口を抜けて崖に沿う階段を一時間かけて登る。城に到着したのち、ほとんどの者が大部屋で休息をとったため一行のなかでその日に頂上へ登った者はレス、フォージー、マレン、赤胴鎧の護衛騎士ロンザムの四人だけだ。

 レンカーズロックの頂上には光が差し込んでいた。

 普段、光が差しこむことのない大陸の空に僅かに明るい雲が見えた。地上から見たときには全く気づかない、だが雲の明るさからは想像できない光量が岩山の頂上一帯を照らしていた。
 光の恩恵で果樹類、野菜類、穀類の作物が一部作られていて中央には雨水がためられ作物の成長の助けになっている。

「ここでも芋の塩チップが作れるのか!」
 酒のつまみには最高だ!と兵士から話を聞いたフォージーが上機嫌だ。
「ここは昔、大地の神ニラガロアを祭っていたそうだ。野菜や作物が獲れるのは大地神と太陽神の恩恵が今も続いているからなんだろう。」
 レンカーズロックの兵士が言うと
「よければその大地神のことを詳しく教えてくれる?」
 イシグルを信仰するマレンが請う。イシグルはルバーナ神の五十二信徒の中で薬師の位置付けにある。薬草は大地との関わりが強くマレンは大地神のことが気になるらしい。
「城に文献がある。勇者様が持っているはずだから見せてもらうといいさ。」
「ありがとう。そうさせてもらうわ。」
「そういえばここに来る途中に川が流れていたな。あの川はひょっとすると…」
「あの川もこの岩山から涌き出てきている川さ。」
 レスの問いに兵士が答えた。
 その川の水は大中小さまざまな石の合間を蛇行しながら流れるとても綺麗なものだった。
 人が暮らすための条件がここには揃っている、とその場にいた皆がそう思った。

 その夜、宴が開かれた。
 芋の塩チップと蜥蜴の干し肉をつまみにエールで乾杯をするとその日一番のごちそう、兎の肉にサラダを添えて宴たけなわとなる。
 兎を飼育しているとはたいしたもんだ、とフォージーもご機嫌だ。
 紅一点マレンの周りはレンカーズロックの兵士が群がっているが先発隊のアルバレスと騎士二人が常に側ではりつき看守役となっていた。実はもうひとり宴には女性がいるのだが、刈り上げで三十センチほどあるとさかの赤髪で型破りな外見と歩けば男も道を譲る野生ぶりのため近寄るものは少ない。
 しかし酒に呑まれたレスはあのとさかを下ろして女性としての喜びを感じさせてやる、と独りよがりな勘違いで女戦士に近づいた。
 視線をそらさず歩くレスに女戦士も気付き、女戦士は近づいてくるレスに挑戦的な目を向ける。
 二人が話せる距離まで近づくとスタークに引けをとらない身の丈二メートル近い大男が女戦士の背後に現れた。黒い肌と無表情な眼差しで俺の女に何の用だ?と聞いてくる。間を開けず女戦士がレスの足元につばを吹きかけ踵を返して大男の背後へと消えていった。

 まったく昨日から何て日だ!
 レスは心のなかで毒づき、しばらくは誰とも話す気がしなかったため独りで不味い酒を飲むこととなった。

 宴が終わると先発隊とレス達は中庭の見える五部屋を与えられる。
 皆が疲れて休んでいるなか、ラームはひとり城内を散策していた。
 両脇に惜しげもなく鏡を使った美麗な回廊を進み、途中で左に曲がる。風の流れを感じたからだが、それ以外にもレンジャーとしての直感が働いた。
 外へ出る扉を二つ素通りすると階段が地下へと続いていた。通路のランプから灯される明かりは階段を左に曲がった先では届かず、ラームは一度通路に戻ってランプを拝借した。
 ランプの明かりを頼りに階段を左に曲がろうとしたとき、何者かが物凄い速さでぶつかってきた。
 何者かはラームの右脇をすり抜けあっという間に階段を上りきる。不覚にもバランスを崩し見上げると

「ラームじゃないか。」
 と聞き覚えのある声。

「スルーフット!」
 ラームは思わず目を疑ったが三つ編みで奇抜な格好の小人族を間違えるはずもなく。
 どうしてここに?と問いながらスフーが両脇に抱えているいくつものパンに目がいく。スフーのその様はいかにも盗人のそれだ。
 どうやら地下は食糧庫でスフーはパンを盗んで逃げるところだったようだ。
「ずいぶんたくさんあったからみんなで分けたほうがパンのためだよ。」
「それよりレス達に伝えておいて!ここから早く離れて遠くにいくようにってね。」
 しっかり伝えといておくれよ。と言ってスフーは駆け出す。
 ラームが階段を上りきった頃にはスフーは五十メートル先の扉を開けて早々にいなくなっていた。


 半刻ほど時間を戻そう。
 ラームが中庭の見える部屋からでていったのとほぼ同刻に部屋をでて単独で行動している者がいた。
 メイザーは中庭を抜けた先にある塔へ向かう。
 塔の唯一の出入口である梯子を登ると備え付けの機械で梯子を巻き取り誰も塔の中に入れないようにした。
 そのまま塔の最下層部まで進み今は使われていない地下の捕虜収容所へ足を踏み入れる。
 部屋の高さは三メートルくらいで直径三十メートルの塔とほぼ同じ広さの円状の部屋である。
 メイザーは部屋の中央に立つと右手を高く掲げて大きく手のひらを開いた。
 すると何やら瘴気のような黒い靄がメイザーの手のひらに集まってくる。靄は種々雑多の形となり靄同士が戯れるかのように絡みあい離れ、数を増やしていく。
 靄は瞬く間に広がると室内を黒く染めた。
           
 メイザーの全身からは異常な量の汗が吹き出している。
 そのうち狼やら鳥が踏み殺されるような甲高い鳴き声をあげてメイザーはうずくまり、身をよじらせて苦しみだした。
 その光景は人が見たら確実に目を背けたくなるほどおぞましい。
 永遠に続くかのように思われた地獄の時間は確実にメイザーの肉体と精神を蝕む。
 皆が時折得体の知れないものを見るようにメイザーを見つめ、同時に得体の知れない嫌悪を感じるのはこの儀式によるものなのだろう。
 儀式が終盤を迎えると室内を埋めている靄が膝をつくメイザーの前に集まり人の形を作っていく。
 現れたのはおでこからつむじまでの毛をもみ上げや口髭、顎髭にすべてもっていったような老人で彫りが深く眼差し穏やかな老人だ。
 顎髭にいたっては鳥の巣を髭の中に隠しもっているのではないかと思えるくらい丸く盛り上がっている。
 メイザーは顔も上げず床についた両手の片方を差し出す。
 指には何かの体毛が数本つかまれている。これは昨日の戦闘で死体となった鎧蜘蛛から採取したものだ。
 メイザーは鎧蜘蛛の体毛が音を消してくれる魔力を帯びていることを知っていてそれを老人に捧げた。
 これでメイザーの黒鳥は音をたてずに対象者に近づきより容易な追跡が可能になるだろう。
 しかし、これを見た老人は鼻で笑い、しばらく受け取ろうとしなかった。それでも差し出すのをやめないメイザーに押され、仕方なく鎧蜘蛛の体毛を受け取ると老人は消えていなくなった。
 メイザーは力尽きてその場に倒れ、少女に助けられるまで目を覚ますことはなかった。

 翌日、先発隊とレス達一行は昼食を済ませたあとで甘いお菓子を皆で食べた。レンカーズロックの恵まれた土地でとれるキビで作った黒糖と放牧で育てている羊からとれた羊乳を混ぜて弱火でじっくりと煮込んで作られている。少し固めの甘菓子は噛むと口の中で粘ついて歯にくっつく。歯がボロボロの自警団員のフォッグは一本歯が抜けてしまったほどだ。
 それでも二つ三つと食べてしまうくらい美味しい。
「ところで」
 アルバレスがおもむろにテーブルの四隅に視線を向けて喋る。
「そちらの少女が誰なのか聞いている方はいますか?」
 コムランとコムランを看護しているマレン、それにメイザーを除いた十五人が食卓を囲んでいるその長いテーブルで黒髪の少女はひっそりと座っていた。
 クセ髪でクルクルと円を描きながら背中まで伸びる黒髪は虚ろで垂れ目な少女をよりいっそう陰鬱な印象にさせていた。
 みな気になってはいたが、レンカーズロックの食膳係が違和感なく少女に食事を運んでいるのを見て、誰も口にしなかった。
「違うとは思いますが赤目の魔術師が少女に姿を変えている…なんてことはないですよね?」
 黙りこんでいる皆の反応をみて、冗談まじりにアルバレスが笑いを誘う。
「ハッハッ、そいつは傑作だ。それならいつもそうしていて欲しいもんだ。」
 自警団員のフォッグが茶化した。

 ドンッ!!!!

 テーブルが大きく揺れる。
 壊れるのではないかと思うほどの大きな音でダレスは右拳をテーブルに叩きつけるとゆっくりと立ち上がった。
 目がつり上がり悪鬼の形相である。
 皆が動きを止めて固唾を呑んでダレスを見た。フォージーだけが手を休めずにデザートを頬張っている。
「そうなのか!?」
 悪鬼の形相は少女に向けられた。
 さすがに大人げないと思いアルバレスが席を立ってダレスと少女の間に割って入り、怖がっていますよ、と少女を庇う。
 少女はうつむきカタカタ震えながらも、
 知っている…
 黒い肌の魔術師なら…どこにいるか知っている。
 と必死に応えた。

 塔の地下で倒れているメイザーを目にしたダレスは誰よりも早く側へ駆けつけた。メイザーの安否を確認して強ばった身体をゆるめた姿は落ち着きを取り戻した獣のようでメイザーへの依存度が目にみてとれる。
 塔から出る際に梯子を巻き取る備え付けの機械を見てフォージーがひどく関心を持ったようで、皆が梯子を降りたあと、ひとり残って梯子を巻き取ったり降ろしたりを繰り返した。フォージーはよくできていると満足気にうなづき梯子を降りて下から塔を見上げた。
 梯子を巻き取ったら誰も塔には入れなくなるのぉとふと思い笑みを浮かべるとフォージーはその場から立ち去った。
   
「スルーフットを見ただと!」
 塔で倒れていたメイザーを部屋のベッドに眠らせ、皆で集まって話しをしているなか、フォージーが怒鳴った。
「ああ、地下の食糧庫からパンを盗んでなにやらここを離れろと言っていた。」
 ラームが答える。
「昨晩、勇者がアルバレスに話した内容ではここが北の支配者の軍勢との最前線地点らしい。ここを離れるとしてもここから先はメイザーの千里眼を頼ったほうが賢明だ。」
 とレス。
「フンッ、それが本当ならこやつは若者二人を見殺しにしたということだ。」
 フォージーは横になっているメイザーを見て、一つ目の鎧蜘蛛に襲われたことを皮肉った。しかし、スルーフットのやつめ!今度顔を見せたときはけつの肉がなくなるまで叩いてやる!と続ける。
 どうやらフォージーはスルーフットのことしか頭にないようだ。
 フォージーの言うように自分達の命運が赤目の導士にかかっているのだとしたら…と考えると何とも言えぬ不安が押し寄せてくる。
 はたしてこの魔術師を信じていいものだろうか、荒波が押し寄せては引くようにレスの心を揺るがす。
 心の不安が治まらない、そんなときは過去に抱いた女を思い起こして妄想にふけることにしている。

「レスが黙りこんだぞ、これは駄目だ。さあ、みな部屋に戻れ。」
 そう言ってダレスはレス、フォージー、ラーム、スタークを部屋から追い出した。


「ボースナインの勇者ジョゼリトの御一行だったんですね。」
 岩山の勇者と向かいあって座るアルバレスが開口する。
 ボースナインとは自由と感情を司る炎の神で、勇者ジョゼリトはボースナインの神の力を再現することができると言われている。ジョゼリトは今から四年ほど前に奈落の北の支配者討伐のためにゴディアカスを旅立っていた。
 ジョゼリトに同行したゴディアカスの強者達は十人。その後、一ヶ月ごとに十五~二十人から成る部隊が五度派遣された。岩山の勇者は名をユダムといい、ユダムはその三度目に選ばれた派遣部隊のリーダーだった。
「私がジョゼリトと合流した時にはここより先の第四セクターでした。」
 ゴディアカス周辺を第一セクターとして、現在のレンカーズロックが第三セクター、奈落の北の支配者がいると思われるエリアを第六セクターと呼んでいるとユダムは説明してくれた。
「ジョゼリトと黒騎士の力のおかげで私たちは快進撃を続け第五セクターの手前まで進むことができました。」
 第五セクター手前からは奈落の支配者によって生み出される漆黒の闇が半径五十メートルを照らすトーチライトの効果を半減させて思うように進めないそうだ。
「私達は六十人いた部隊を四つに分け、各部隊を正方形に陣取るように配置して進みました。」
 さらに部隊から斥候を各一人たてて、それぞれの部隊から対角線三十五メートル外側に配置することで百五十メートル角の範囲をトーチライトで照らすことに成功させましたとユダムは語る。ユダムの口調は次第に早く、強くなり、やがておとずれる恐怖を思い出すかのように息切れし興奮しているのが伝わってくる。
「奴らは狡猾でした。」
 ユダムが青ざめる。
 ほんの数秒で四方の斥候四人が遠隔攻撃で倒され、私たちの視界は百メートル角に狭まりました。
「私は無能でした。」
 動揺する部隊を落ち着けと鼓舞することしかできなかったのです。
 アルバレスはユダムの肩に手を当ててユダムの懺悔を聞いた。
 ジョゼリトは自分の部隊の半数を引き連れて斥候の場所まで歩を進め三十メートル前方を炎の壁で照らします。
 黒騎士は他部隊を灯りでつなぐトーチライトの役割一人を残して集団で前進します。屈んで盾を構える者、中腰で盾を構える者、立って盾を構える者の三段で盾の壁を作り、倒れた斥候のところまでゆっくり進みました。
 ジョゼリトの炎で焼かれた蜘蛛は体じゅうから幾つもの棘が突き出ており、その棘を飛ばして斥候たちを攻撃したことがわかりました。
 蜘蛛たちは闇を利用して移動し私ともう一人の部隊を標的にしたのです!
 集団で押し寄せる蜘蛛、物凄い跳躍力で後方から一気に間合いを詰めてくる蜘蛛、目の前の地中から現れる蜘蛛。そのどれもが計算されたかのようにほぼ同時に私たちを襲いました。
 私ともう一人の部隊が崩れたことが全部隊の崩壊を招きました。
「私は勇者でも何でもないのです!」
 ユダムの感情の高ぶりが頂点を迎え大声で叫ぶ。
 私たちが生き残れたのは体を張ってその場に留まり、私たちが撤退する時間をくれたジョゼリトと退き口を切り開いた黒騎士のおかげです。
 アルバレスが隣にいることも憚らずユダムは声を震わせて涙が溢れだす。
「それ以降ジョゼリトは消息を絶ったままです。私の力が足りず引き起こしてしまった!」
 なぜ、なぜ私が勇者の名を…
 そう言ってユダムは泣くばかりだった。
「あなたのそういった人を想う気持ちが皆に伝わり、あなたは勇者の称号を引き継いだ。」
 アルバレスはユダムの両肩を両手で強くつかむ。
「レンカーズロックの部隊の統制もとれている。自分を責めるのはやめましょう。」
 弱音を吐く者へ笑顔で前向きな言葉をかけると精神の主従関係を作ることが容易だ。そのことをアルバレスは肌で感じてきた。
 表面化はしていないがゴディアカスでは利権争いが始まっていて、レンカーズロックの地がそのひとつになることは間違いない。自分に味方してくれる者をひとりでも多く増やすことが利権争いに勝利することだとアルバレスは思った。
「後続の二番隊、三番隊をここへ呼ぶために早馬をだしたい。ご許可いただけますか?」
 ユダムは涙を拭きアルバレスからの申請に頷いた。


 早くカホウに知らせてあげなくちゃ。
 パンが詰まった六つの手提げ袋を両肩と両手に抱えてスフーは豹族が待つ森へと急いだ。
 豹族は洞窟内で大蜘蛛らに勝利したかと思っていたがどこからともなく溢れでる大蜘蛛に圧倒され、洞窟を抜け出し、一時的に住まう森を見つけて身を潜めていた。
 森の中で豹族達が話している言葉をスフーは理解できないがカホウへの不満を口にしているのはなんとなくわかる。このパンをカホウに渡して皆にふるまえばカホウへの不満も少しは消えるとスフーは考えていた。
 川沿いを軽快なステップで駆け、緩い傾斜の森を抜けると小高い丘にでた。丘からは遠くの景色が見渡せ、丘を下った先は草原、その先にはいくつもの森、連なる山々が遠くに見える。
 スフーが丘に立ったとき、同じように森から人が現れ遠くから近寄ってくるのがわかる。
 しばらく様子を見ていたスフーだが、ゆっくり近づいてくるその影を待っていたら五分くらいはかかるだろう、そう思った矢先に影は森の中に消えてしまった。
 刹那、20秒ほどだろうか、木々がガサガサと音をたて始めたかと思うとスフーの30mほど先にその影が現れた。
 およそ四百メートルあまりの距離を30秒前後で、しかも木々の間をすり抜けてこの影はやってきたのだ。
「へぇー。今の全力じゃないよね?」
 スフーはニコニコしながら尋ねた。
 顔の皮膚は爛れ、ひどく汚れたモスグリーンの法衣を着る男は、頭襟の下から覗かせた死人のような白い目でスフーを睨み、眉を下げた。全力だといえば嘘になる。しかし驚かせてやろうと緑虎に姿を変えてまで駆けたことに間違いはない。すばしっこいということで知られているワズーリだが自分より足が速いとは司祭には到底思えなかった。
 一方、スフーはといえば、今の倍のスピードで到着できると思ってニコニコしているのである。
 緑虎が尋ねる。
「見つかったか?小人族よ。」
「あぁ。見つかったよ!あんたの言った通りだ」
 スフーが司祭に会うのは二度目だ。
 一度目に会ったときもどこからともなく現れて、パンが大量に置いてある岩山のことを教えてくれた。
「教えてくれてありがとう。あんたも気になってるんだったら行ってみたらいいじゃないか」
「ワタシは近づけないんだよ」
「あぁ、そう・・あの、教えてもらってこんなこと言うのもなんだけど、」
「どうして親切にしてくれるの?あんた悪そうだから。」
 ワズーリを愚かな種族と罵る者がいる。恐怖心よりも好奇心が勝り、命を落とす者が少なくないからだ。そして何よりも彼らが罵倒される多くの理由は口が災いするものが多い。
「ヒックヒック」
 司祭の顔が歪み、気味の悪い笑い声を上げる。
「ヒィ~ックヒィックヒィック、なぜかって?」
「ワタシがお前の味方だからだよ。」
「そうか!そうだよね!それじゃあ先を急いでるんだ!」
 言うが先かスフーはさっさとその場を走り去る。
「なんだぁ?そうか。かけっこか。それならワタシも得意だよぅ」
 司祭が緑虎に姿を変えてスフーを追いかける。

 二つの影が人外の速さで草むらを切り裂いていく。

 後方に気配を感じたスフーは追いつかれると思っていなかったため舌を巻いた。
「あんた、思ったより速いんだね!」
 じゃあ本気をだすか、
 一瞬何かが光ったかと思うとさらに加速するスフー。緑虎との距離をぐんぐんと引き離した。

「待て……!」
これまでどんな相手でも追い詰めてきた緑虎だっだが、今、目の前にいるそれは違った。まるで重力や摩擦を無視するかのように、風を切り裂き、消え去った。
「あれは……!」
スフーが加速した際に一瞬みえた翼を生やした神々しい光り。まさか、神を下ろしたのか……!!!
穏やかな南風だけが緑虎の言葉に耳を傾けたが、やがてそれも静かに消え去り広大な草原だけが残った。


 お腹を大きくした呪い師が全裸で両腕を上げて必死に呪文を唱える。残り5人の呪い師がその周りで膝をつき、同じようにして呪文を詠唱する。今、まさに豹族の新しい生命が生まれようとしている。
 豹族はほとんどの者が戦士として生まれるが時に呪いの能力を備えて生まれる者がいる。呪いの能力を給わった者は修行を積み、冥府の霊とのつながりを一生涯かけて探求する。冥府の霊は豹族の守護者であり、エネルギーに満ち溢れた男の老人である。そして、冥府の霊とつながった呪い師は豹族の新しい生命を授かることになるのである。
 豹族には女しかいない。それは冥府の霊と呪い師が望んで女を選択しているからだ。呪い師の未熟さにより、万が一、男が生まれてきた場合は、即座に一族の手によって冥府に送られることとなっている。その役目を果たす者が赤い牙のペイントを施した槍の女と自らのドレッドヘアで編み目の服を纏った編み目の女である。
 さらに奇妙なこととして、新しく生まれてくる者は年齢がそれぞれ異なるということだ。
 ヒューマノイドの常識からすると理解できないことであるが、つまりそういうことなのである。

 出産というのは緊迫感の伴う一大イベントであるが、豹族の出産はそういった事情から、より一層、緊迫感が増している。生む者も生まれてくる者も、またそれを見守る者も、命をかける。
 妊婦から産声が発せられるとお腹から光が漏れ、やがてゆっくりと妊婦を包む。妊婦の全身が光に包まれたとき、光が空中に飛び出し赤子、いや豹族が生まれた。
 
 妊婦のお腹の膨らみは消え、一族が新しい生命を見守る。新しい生命は紫色の長髪を滴らせ、自らの整った成人の胸をその手で確認すると立ち上がり言った。
「王の後継者は私と、そして我々と絆がない。我々は手札を戻し、新しい始まりを始めなければならない!」
 新しい命から発せられる言葉の意味を理解してはいなかったが、食糧に飢え、虐げられた気持ちになっていた一族はこの紫の賢者から勇気を授かり一斉に歓喜した。一族の長カホウは唾をゴクリと飲み込むと紫の賢者と目が合う。そして、そのまま意識を失い倒れこむ新しい生命をカホウはそのまま起き上がらないでほしいと願い見届けた。

 スルーフットが一族の元へ戻る頃には豹族内では紫の賢者を指示する者が増え、長のカホウはすっかり権威を失ってしまっていた。また、失うというより、もともと長とは形だけのものに過ぎず、生き抜くために形にこだわっている場合ではない、と多くの者が気づき始めたということだった。
 紫の賢者が目覚めて、まず始めに行ったことが一族の進路を呪い師達の呪いによって決めるのではなく、皆の意見を吸い上げてまとめることだった。紫の賢者は多くを語らず、意見をまとめて皆を説得する能力に長けていた。
 そのためスルーフットが帰ってくると皆に配ったパンに感謝を告げ、さらにスルーフットが話す計画を受け入れ、その計画が成功した暁にはスルーフットの願いを叶えることを一族に約束させた。
 その願いとは長カホウの明るい将来のために皆で支援していく、というもので具体的にはカホウの額にあるクリソベリルが緑色から何色に変化するのか、皆で見届けようという内容だった。

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