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第5話
(16)
しおりを挟むこんなに切羽詰った気持ちでラブホテルに入ったのは、学生のとき以来かもしれないと、ベッドの傍らに立った和彦は室内を見回す。
渋滞に巻き込まれながら、とにかく一刻も早く二人きりになれる場所を探すとなると、取れる手段は限られている。シティーホテルを見つけるより先に、たまたま空室のラブホテルが目に入り、車を進めていた。
普段であれば、自分たちが同性同士であることや、立場のこともあり、人目が気になってこんな大胆な行動は取らないだろう。だが、燃え上がった欲望は、なりふり構わず二人を行為へと駆り立てた。
人と会わなくて済むガレージ式の部屋だからこそ、ここまで大胆になれたのかもしれないが、と和彦はひっそりと苦笑を洩らす。
「――先生、何か飲むか?」
三田村に声をかけられて振り返る。ネクタイを解いた三田村に向けて首を横に振ると、次の瞬間には、やや乱暴にベッドに押し倒されていた。
いきなりスラックスのベルトを外され、下肢を剥かれる。その間に和彦も、自分が羽織っているジャケットの前を開き、三田村に脱がせてもらった。
「すまない、こんな場所で……」
「車の中で、というわけにもいかないだろ。ぼくの部屋となると、もっとダメだ」
和彦がちらりと笑いかけると、三田村の手が頬にかかり、車の中ではできなかった濃厚な口づけをじっくりと味わう。体に触れられたことがありながら、三田村と唇を重ねたのは今日が初めてだった。だからこそ夢中になる。
舌を絡ませながら、互いの唾液の味を覚える。口腔を舌で舐め回され、感じる部分を探り当てられて、涙ぐむほど反応してしまう。
三田村の愛撫は丹念で、優しかった。和彦の肌に痕跡を残さないよう配慮しているのがわかり、着ているTシャツを脱がされながら胸元に唇が這わされ、たまらず和彦は三田村の頭を抱き締める。
和彦の意図がわかったのか、ようやく三田村がきつく肌を吸い上げ、ちくりと微かな痛みが走る。そうやって肌に、鮮やかな鬱血の跡を残されていく。
硬く凝った胸の突起を吸い上げられ吐息をこぼすと、誘われたように三田村が顔を上げ、唇を触れ合わせるだけのキスを繰り返す。
このまま穏やかな愛撫が続くのかと思ったが、長嶺父子だけでなく、三田村もやはり激しかった。
「ああっ」
両足を抱えられ、左右に開かれる。そこに三田村の頭が潜り込み、和彦のものはあっという間に熱く湿った粘膜に包まれた。
きつく吸引され、濡れた舌が絡みつく。むしゃぶりつくという表現が頭に浮かぶほど、三田村の愛撫が激しくなる。性急な愛撫に否応なく官能を高められながら和彦は、体で感じるだけでなく、こんなにも求められていたのだと、心でも悦びを感じていた。
「ふっ……、あっ、あっ、んあぁっ……」
身をしならせながら和彦は、自ら愛撫を求めるように三田村の髪に指を差し込む。すると三田村が、一度和彦のものを口腔から出し、打って変わった丁寧さで和彦のものに舌を這わせ始める。
頭を緩く左右に振りながら、和彦は声を上げる。透明なしずくが滲み始めた先端に唇が押し当てられ、微かに濡れた音を立てながら何度も吸われると、ビクビクと腰が震えてしまう。そしてまた、口腔深くに呑み込まれていた。
「はあっ……、は、あぁ……、い、い。気持ち、いい――」
三田村の口腔によって、和彦の欲望は高められ、悦びのしずくを滴らせ、溶かされる。括れを唇で締め付けられながら、根元から指の輪で扱き上げられると、たまらず誘うように腰を揺らしていた。
「……先生を何度も抱いてきたような、そんな錯覚に陥るときがある」
和彦のものの先端に舌を這わせながら、三田村が言う。
「組長や千尋さんに抱かれる先生を見たり、声を聞きながら、いつも考えていた。俺なら、先生をどんなふうに感じさせてやれるか。……二人に嫉妬はしなかった。俺の欲望をそのまま忠実に実行してくれていると感じていたからな」
先端に歯が当てられ、悲鳴を上げて和彦は悶える。だが次の瞬間には、甘やかすように舌が這わされていた。
「自分の欲望とうまく折り合いをつけているつもりだったのに、どんどん強くなっていくんだ。先生に触れてみたい……、自分の指や舌で先生を感じさせたい、って衝動が。そして、こうして実行しちまってる」
両足をさらに抱え上げられ、腰の位置を上げられる。三田村の舌は、これまで何人もの男の欲望を呑み込んで喘いできた和彦の内奥へと這わされていた。
「あっ、それ、嫌、だ――……」
「組長に同じことをされて、同じような声を上げていたな、先生。……ここも、感じるんだな」
硬くした舌先でくすぐられ、体を貫かれるような快美さに襲われた和彦は、小刻みに体を震わせる。
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