血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
83 / 1,289
第5話

(16)

しおりを挟む



 こんなに切羽詰った気持ちでラブホテルに入ったのは、学生のとき以来かもしれないと、ベッドの傍らに立った和彦は室内を見回す。
 渋滞に巻き込まれながら、とにかく一刻も早く二人きりになれる場所を探すとなると、取れる手段は限られている。シティーホテルを見つけるより先に、たまたま空室のラブホテルが目に入り、車を進めていた。
 普段であれば、自分たちが同性同士であることや、立場のこともあり、人目が気になってこんな大胆な行動は取らないだろう。だが、燃え上がった欲望は、なりふり構わず二人を行為へと駆り立てた。
 人と会わなくて済むガレージ式の部屋だからこそ、ここまで大胆になれたのかもしれないが、と和彦はひっそりと苦笑を洩らす。
「――先生、何か飲むか?」
 三田村に声をかけられて振り返る。ネクタイを解いた三田村に向けて首を横に振ると、次の瞬間には、やや乱暴にベッドに押し倒されていた。
 いきなりスラックスのベルトを外され、下肢を剥かれる。その間に和彦も、自分が羽織っているジャケットの前を開き、三田村に脱がせてもらった。
「すまない、こんな場所で……」
「車の中で、というわけにもいかないだろ。ぼくの部屋となると、もっとダメだ」
 和彦がちらりと笑いかけると、三田村の手が頬にかかり、車の中ではできなかった濃厚な口づけをじっくりと味わう。体に触れられたことがありながら、三田村と唇を重ねたのは今日が初めてだった。だからこそ夢中になる。
 舌を絡ませながら、互いの唾液の味を覚える。口腔を舌で舐め回され、感じる部分を探り当てられて、涙ぐむほど反応してしまう。
 三田村の愛撫は丹念で、優しかった。和彦の肌に痕跡を残さないよう配慮しているのがわかり、着ているTシャツを脱がされながら胸元に唇が這わされ、たまらず和彦は三田村の頭を抱き締める。
 和彦の意図がわかったのか、ようやく三田村がきつく肌を吸い上げ、ちくりと微かな痛みが走る。そうやって肌に、鮮やかな鬱血の跡を残されていく。
 硬く凝った胸の突起を吸い上げられ吐息をこぼすと、誘われたように三田村が顔を上げ、唇を触れ合わせるだけのキスを繰り返す。
 このまま穏やかな愛撫が続くのかと思ったが、長嶺父子だけでなく、三田村もやはり激しかった。
「ああっ」
 両足を抱えられ、左右に開かれる。そこに三田村の頭が潜り込み、和彦のものはあっという間に熱く湿った粘膜に包まれた。
 きつく吸引され、濡れた舌が絡みつく。むしゃぶりつくという表現が頭に浮かぶほど、三田村の愛撫が激しくなる。性急な愛撫に否応なく官能を高められながら和彦は、体で感じるだけでなく、こんなにも求められていたのだと、心でも悦びを感じていた。
「ふっ……、あっ、あっ、んあぁっ……」
 身をしならせながら和彦は、自ら愛撫を求めるように三田村の髪に指を差し込む。すると三田村が、一度和彦のものを口腔から出し、打って変わった丁寧さで和彦のものに舌を這わせ始める。
 頭を緩く左右に振りながら、和彦は声を上げる。透明なしずくが滲み始めた先端に唇が押し当てられ、微かに濡れた音を立てながら何度も吸われると、ビクビクと腰が震えてしまう。そしてまた、口腔深くに呑み込まれていた。
「はあっ……、は、あぁ……、い、い。気持ち、いい――」
 三田村の口腔によって、和彦の欲望は高められ、悦びのしずくを滴らせ、溶かされる。括れを唇で締め付けられながら、根元から指の輪で扱き上げられると、たまらず誘うように腰を揺らしていた。
「……先生を何度も抱いてきたような、そんな錯覚に陥るときがある」
 和彦のものの先端に舌を這わせながら、三田村が言う。
「組長や千尋さんに抱かれる先生を見たり、声を聞きながら、いつも考えていた。俺なら、先生をどんなふうに感じさせてやれるか。……二人に嫉妬はしなかった。俺の欲望をそのまま忠実に実行してくれていると感じていたからな」
 先端に歯が当てられ、悲鳴を上げて和彦は悶える。だが次の瞬間には、甘やかすように舌が這わされていた。
「自分の欲望とうまく折り合いをつけているつもりだったのに、どんどん強くなっていくんだ。先生に触れてみたい……、自分の指や舌で先生を感じさせたい、って衝動が。そして、こうして実行しちまってる」
 両足をさらに抱え上げられ、腰の位置を上げられる。三田村の舌は、これまで何人もの男の欲望を呑み込んで喘いできた和彦の内奥へと這わされていた。
「あっ、それ、嫌、だ――……」
「組長に同じことをされて、同じような声を上げていたな、先生。……ここも、感じるんだな」
 硬くした舌先でくすぐられ、体を貫かれるような快美さに襲われた和彦は、小刻みに体を震わせる。

しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

帝は傾国の元帥を寵愛する

tii
BL
セレスティア帝国、帝国歴二九九年――建国三百年を翌年に控えた帝都は、祝祭と喧騒に包まれていた。 舞踏会と武道会、華やかな催しの主役として並び立つのは、冷徹なる公子ユリウスと、“傾国の美貌”と謳われる名誉元帥ヴァルター。 誰もが息を呑むその姿は、帝国の象徴そのものであった。 だが祝祭の熱狂の陰で、ユリウスには避けられぬ宿命――帝位と婚姻の話が迫っていた。 それは、五年前に己の采配で抜擢したヴァルターとの関係に、確実に影を落とすものでもある。 互いを見つめ合う二人の間には、忠誠と愛執が絡み合う。 誰よりも近く、しかし決して交わってはならぬ距離。 やがて帝国を揺るがす大きな波が訪れるとき、二人は“帝と元帥”としての立場を選ぶのか、それとも――。 華やかな祝祭に幕を下ろし、始まるのは試練の物語。 冷徹な帝と傾国の元帥、互いにすべてを欲する二人の運命は、帝国三百年の節目に大きく揺れ動いてゆく。 【第13回BL大賞にエントリー中】 投票いただけると嬉しいです((꜆꜄ ˙꒳˙)꜆꜄꜆ポチポチポチポチ

奇跡に祝福を

善奈美
BL
 家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。 ※不定期更新になります。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

オム・ファタールと無いものねだり

狗空堂
BL
この世の全てが手に入る者たちが、永遠に手に入れられないたった一つのものの話。 前野の血を引く人間は、人を良くも悪くもぐちゃぐちゃにする。その血の呪いのせいで、後田宗介の主人兼親友である前野篤志はトラブルに巻き込まれてばかり。 この度編入した金持ち全寮制の男子校では、学園を牽引する眉目秀麗で優秀な生徒ばかり惹きつけて学内風紀を乱す日々。どうやら篤志の一挙手一投足は『大衆に求められすぎる』天才たちの心に刺さって抜けないらしい。 天才たちは蟻の如く篤志に群がるし、それを快く思わない天才たちのファンからはやっかみを買うし、でも主人は毎日能天気だし。 そんな主人を全てのものから護る為、今日も宗介は全方向に噛み付きながら学生生活を奔走する。 これは、天才の影に隠れたとるに足らない凡人が、凡人なりに走り続けて少しずつ認められ愛されていく話。 2025.10.30 第13回BL大賞に参加しています。応援していただけると嬉しいです。 ※王道学園の脇役受け。 ※主人公は従者の方です。 ※序盤は主人の方が大勢に好かれています。 ※嫌われ(?)→愛されですが、全員が従者を愛すわけではありません。 ※呪いとかが平然と存在しているので若干ファンタジーです。 ※pixivでも掲載しています。 色々と初めてなので、至らぬ点がありましたらご指摘いただけますと幸いです。 いいねやコメントは頂けましたら嬉しくて踊ります。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

処理中です...