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第5話
(19)
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「本当に、大した度胸だ、先生。うちの組の連中だったら、口が裂けても言えないだろうな。――俺が怖くて」
「……おとなしくあんたに殺されてやろうかと思っていたけど、気が変わった。他人の職場どころか、人生まで奪った男に、文句を言われる筋合いはないからな」
「先生、世間じゃそれを、逆ギレって言うんだぜ」
「ヤクザ相手に道理を語るのがいかに無駄か、ぼくはよく知ってる。だから、ヤクザの流儀に則るんだ。……欲しければ、どんな手を使ってでも自分のものにするのが、あんたたちのやり方だろ」
突然、賢吾に片手を差し出される。少しの間戸惑いはしたものの、和彦はぎこちなく歩み寄り、賢吾の手を取った。次の瞬間には引き寄せられ、首を絞められるぐらいのことは覚悟したが、そうはならなかった。
引き寄せられ、賢吾の膝の上に座らされはしたものの、与えられたのは貪るような口づけだった。
「あっ、あっ……」
強引に両足の間に片手が入り込み、コットンパンツの上から和彦のものは乱暴に揉みしだかれる。
ビクビクと腰を震わせながら、それでも和彦は、求められるまま賢吾の口づけに応え、舌を絡め合う。さんざん三田村に愛撫され、精を搾られた和彦のものだが、賢吾の強引な愛撫に、じんわりと快感めいたものを感じ始めていた。
「ここはたっぷり舐めてもらったか?」
「あ、あ……」
「尻には、熱い液体をたっぷり出してもらったか?」
和彦が浅く頷くと、賢吾に唇に軽く噛み付かれた。そのまま互いの唇を吸い合いながら、合間に凄みのある声で囁かれる。
「――お前は、俺のオンナだ。大事に大事に愛してやって、金もかけている。今もこれからも、俺は、お前を手放す気は毛頭ない」
和彦の中を絶望感が駆け抜ける。そんな和彦の顔を、賢吾はじっと見つめていた。
「前に、俺は言ったな。欲しいものがあったら、なんでも言え。金や、俺の力で手に入るものなら、なんでも与えてやると。……腹が立つことに、三田村は、俺の力で先生に与えてやれるものの一つだ」
「まさか、三田村さんを……殺す、のか?」
覚悟を決めたから、平気というわけではない。自分のせいで三田村が殺される事態など、避けたいに決まっているのだ。
賢吾が目を細め、ひどく酷薄そうな表情となる。このとき和彦の心臓は、確実に賢吾の見えない手に鷲掴みにされていた。
「そうしてほしいか? そうなる覚悟で、三田村と寝たんだろ」
「……だったら、順番はぼくが先だ。先にあの男を手にかけたら、金輪際、ヤクザに手を貸してやらない」
賢吾の目の中で、大蛇がゾロリと身をしならせたような気がする。巨大な体で和彦をギリギリと締め上げてくるのも時間の問題かと思われた。
本当は、賢吾に向けてこんなことを言う恐怖に、身も心も凍りついていた。些細な衝撃で砕け散っても不思議ではないほどだ。
しかし賢吾は、和彦を手荒に扱おうとはしなかった。それどころか、また唇を吸ってくる。もちろん、その口づけに応える余裕は和彦にはない。されるがままだ。
「やっぱり肝が据わってるな、先生」
「これがぼくなりの、ヤクザらしい駆け引きだ。……与えられるばかりじゃ、退屈する。たまには、自分から欲しがらないと……」
「俺のオンナなら、それぐらいふてぶてしくて、逞しくないとな。見た目は色男で、体は、どんな男でも咥え込む淫奔ぶり。中身は、ヤクザの立派なオンナときたら、申し分ない。手放すなんて、惜しくてできない」
目の前で賢吾がしたたかに笑う。その笑みの迫力に、和彦は呑まれていた。
正直、三田村との関係を知った賢吾は怒り狂うか、情の一片すら見せず、自分を手にかけると思っていた。しかし現実は、賢吾は、和彦程度の人間が読みきれるような底の浅い男ではなかった。いや、普通の男ではなかった、というべきだろう。
見つめ合いながら賢吾の指先にうなじをくすぐられ、たったそれだけで和彦の心は服従させられる。
自分から賢吾の唇に唇を重ね、濃厚な口づけを与えてもらう。その口づけの合間に賢吾に囁かれた。
「――今この瞬間から、三田村のことは呼び捨てにしろ」
「な、に……?」
賢吾の両腕にしっかりと抱き締められ、和彦も賢吾の背に両腕を回す。鼓膜に刻みつけるように賢吾は言葉を続けた。
「俺だけじゃなく、お前も、あの男の飼い主になったということだ。立場が上になったんだから、呼び捨てにするのはケジメとして当然だ。飼い主は、犬を自由に扱える権利がある。頭を撫でて可愛がろうが――寝ようが、な」
にわかには信じられなくて、まばたきも忘れて賢吾の顔を凝視する。露骨に警戒する和彦の反応が楽しいのか、賢吾は低く喉を鳴らして笑った。
「なんだ、キスはもう終わりか、先生」
「……おとなしくあんたに殺されてやろうかと思っていたけど、気が変わった。他人の職場どころか、人生まで奪った男に、文句を言われる筋合いはないからな」
「先生、世間じゃそれを、逆ギレって言うんだぜ」
「ヤクザ相手に道理を語るのがいかに無駄か、ぼくはよく知ってる。だから、ヤクザの流儀に則るんだ。……欲しければ、どんな手を使ってでも自分のものにするのが、あんたたちのやり方だろ」
突然、賢吾に片手を差し出される。少しの間戸惑いはしたものの、和彦はぎこちなく歩み寄り、賢吾の手を取った。次の瞬間には引き寄せられ、首を絞められるぐらいのことは覚悟したが、そうはならなかった。
引き寄せられ、賢吾の膝の上に座らされはしたものの、与えられたのは貪るような口づけだった。
「あっ、あっ……」
強引に両足の間に片手が入り込み、コットンパンツの上から和彦のものは乱暴に揉みしだかれる。
ビクビクと腰を震わせながら、それでも和彦は、求められるまま賢吾の口づけに応え、舌を絡め合う。さんざん三田村に愛撫され、精を搾られた和彦のものだが、賢吾の強引な愛撫に、じんわりと快感めいたものを感じ始めていた。
「ここはたっぷり舐めてもらったか?」
「あ、あ……」
「尻には、熱い液体をたっぷり出してもらったか?」
和彦が浅く頷くと、賢吾に唇に軽く噛み付かれた。そのまま互いの唇を吸い合いながら、合間に凄みのある声で囁かれる。
「――お前は、俺のオンナだ。大事に大事に愛してやって、金もかけている。今もこれからも、俺は、お前を手放す気は毛頭ない」
和彦の中を絶望感が駆け抜ける。そんな和彦の顔を、賢吾はじっと見つめていた。
「前に、俺は言ったな。欲しいものがあったら、なんでも言え。金や、俺の力で手に入るものなら、なんでも与えてやると。……腹が立つことに、三田村は、俺の力で先生に与えてやれるものの一つだ」
「まさか、三田村さんを……殺す、のか?」
覚悟を決めたから、平気というわけではない。自分のせいで三田村が殺される事態など、避けたいに決まっているのだ。
賢吾が目を細め、ひどく酷薄そうな表情となる。このとき和彦の心臓は、確実に賢吾の見えない手に鷲掴みにされていた。
「そうしてほしいか? そうなる覚悟で、三田村と寝たんだろ」
「……だったら、順番はぼくが先だ。先にあの男を手にかけたら、金輪際、ヤクザに手を貸してやらない」
賢吾の目の中で、大蛇がゾロリと身をしならせたような気がする。巨大な体で和彦をギリギリと締め上げてくるのも時間の問題かと思われた。
本当は、賢吾に向けてこんなことを言う恐怖に、身も心も凍りついていた。些細な衝撃で砕け散っても不思議ではないほどだ。
しかし賢吾は、和彦を手荒に扱おうとはしなかった。それどころか、また唇を吸ってくる。もちろん、その口づけに応える余裕は和彦にはない。されるがままだ。
「やっぱり肝が据わってるな、先生」
「これがぼくなりの、ヤクザらしい駆け引きだ。……与えられるばかりじゃ、退屈する。たまには、自分から欲しがらないと……」
「俺のオンナなら、それぐらいふてぶてしくて、逞しくないとな。見た目は色男で、体は、どんな男でも咥え込む淫奔ぶり。中身は、ヤクザの立派なオンナときたら、申し分ない。手放すなんて、惜しくてできない」
目の前で賢吾がしたたかに笑う。その笑みの迫力に、和彦は呑まれていた。
正直、三田村との関係を知った賢吾は怒り狂うか、情の一片すら見せず、自分を手にかけると思っていた。しかし現実は、賢吾は、和彦程度の人間が読みきれるような底の浅い男ではなかった。いや、普通の男ではなかった、というべきだろう。
見つめ合いながら賢吾の指先にうなじをくすぐられ、たったそれだけで和彦の心は服従させられる。
自分から賢吾の唇に唇を重ね、濃厚な口づけを与えてもらう。その口づけの合間に賢吾に囁かれた。
「――今この瞬間から、三田村のことは呼び捨てにしろ」
「な、に……?」
賢吾の両腕にしっかりと抱き締められ、和彦も賢吾の背に両腕を回す。鼓膜に刻みつけるように賢吾は言葉を続けた。
「俺だけじゃなく、お前も、あの男の飼い主になったということだ。立場が上になったんだから、呼び捨てにするのはケジメとして当然だ。飼い主は、犬を自由に扱える権利がある。頭を撫でて可愛がろうが――寝ようが、な」
にわかには信じられなくて、まばたきも忘れて賢吾の顔を凝視する。露骨に警戒する和彦の反応が楽しいのか、賢吾は低く喉を鳴らして笑った。
「なんだ、キスはもう終わりか、先生」
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