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第5話
(18)
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「あっ……ん」
胸の突起を痛いほど強く三田村に吸われながら、和彦は腰を動かしていた。
「ぼくのせいであんたが殺されても、謝らないからな」
和彦の言葉に、上目遣いで見上げてきた三田村が微苦笑を浮かべる。
「先生は、怖いな。俺みたいな男に、先生のためなら殺されてもいい、なんて青臭いことを思わせるんだから」
「ぼくだって、こうしている意味はわかっているつもりだ。――ヤクザにとって、組長は絶対の存在だ。あんたはそのうえ、組長の忠実な犬だ。その犬が、組長のオンナに手を出した。そして、オンナであるぼくは、こうして犬のあんたを受け入れている。……忠実な犬を唆したのは、ぼくだ。本当は、あんたは悪くない」
「先生っ――」
「三田村さんを殺すなら、ぼくも殺せと言ったら、あの組長、どんな顔をするだろうな」
賢吾がたまらなく怖いはずなのに、ゾクゾクするほど興奮している。短期間の間に、自分は性質が悪い生き物に成り果てたのだろうかと思いながら、そんな自分が和彦は嫌ではない。したたかさや、ふてぶてしさがなければ、こうして三田村と結ばれることはなかったはずだ。
飽きることなく三田村と深い口づけを何度も交わし、三田村の欲望の感触を内奥に刻みつけるように、腰を動かす。
これで最後になるかもしれない交歓を終えることを、二人は惜しんでいた。だから、容易なことでは体を離せない。濡れた体でベッドに戻ってからも抱き合い、互いに触れていた。
ベッドに腰掛けた三田村の背を、てのひらで撫でる。三田村の背に彫られているのは、虎だった。太い足で大地を踏みしめ、見る者を威嚇するように咆哮の表情を浮かべている。
「……なんで虎なんだ」
和彦が背に舌を這わせながら問いかけると、三田村の体が微かに揺れる。どうやらくすぐったくて笑ったらしい。
「深い意味はない。組に入ったばかりの頃、刺青を入れたほうが箔がつくと言われて、それを鵜呑みにした。虎にしたのは、たまたま俺の周りに、虎の刺青を入れている人間がいなかったからだ」
「刺青を入れようとする人間の気持ちだけは、わからない」
「先生はわからなくていい。ただ、先生の体に刺青を入れたいという組長の気持ちは、俺にはわかる。そこまでしたくなる独占欲を、男のあんたは刺激する」
三田村の背に額を押し当て、和彦は呟いた。
「――ヤクザなんて、危ない男ばかりだ」
「今知ったのか」
肩越しに振り返った三田村に言われ、つい笑ってしまう。引き寄せられた和彦は、三田村と抱き合いながらベッドに倒れ込んだ。
マンションの部屋の前に立った和彦は、動物的な直感で、あることを感じ取っていた。
「先生?」
不審そうに三田村に呼ばれ、なんでもないと首を横に振る。だが実は、足が小刻みに震えていた。
カードキーを取り出しながら、三田村に向けてこう告げる。
「三田村さん、もうここでいい。どうせすぐにベッドに潜り込むだけだから」
結局、二人がラブホテルを出たのは朝になってからだった。ほとんど眠ることなく、一晩中、三田村と絡み合い、吐息を交わし合っていた。
部屋に戻るまでの間、予想したような悲壮さは二人にはなかった。三田村は覚悟を決めていたのかもしれない。和彦も、そのつもりだった。だが――。
「組長には、先生が見つかったと連絡を入れておく。そのあとのことは……」
珍しく口ごもった三田村の唇を、和彦は指先で軽く触れる。
「また顔を合わせられたら、キスしたい」
和彦の言葉に目を丸くした三田村だが、すぐに穏やかな微笑で応えてくれる。
「……俺もだ」
引き返す三田村の背を見送ってから、大きく息を吐き出した和彦はカードキーを差し込む。ドアを開けると、思った通り、玄関には大きな革靴が一足だけあった。
緊張のため指先が冷たくなってきて、恐怖で体がすくむ。吐き気すらしてきたが、ここでへたり込むわけにはいかなかった。和彦には、やるべき大事なことがある。
リビングに行くと、寛いだ様子で賢吾がソファに腰掛けていた。早朝だというのに、しっかりとダブルのスーツを着込んでいる。
和彦の顔を見るなり、賢吾がニヤリと笑いかけてきた。人を食らう獣の笑みだ。
「――三田村と、体の相性はよかったか、先生」
開口一番の賢吾の言葉に、スッと意識が遠のきかけるが、なんとか耐えた。ここで怯むわけにはいかない。
「最高に……」
声の震えを隠すため、必然的に低く囁くような口調となる。
賢吾の顔から偽りの笑みは消え、射竦めるような冷たく鋭い眼差しを向けられた。
「大した度胸だな。それで、他に言いたいことは?」
「三田村さんを、ぼくにくれ」
まるで和彦の言葉を予測していたように、賢吾は表情を変えなかった。
胸の突起を痛いほど強く三田村に吸われながら、和彦は腰を動かしていた。
「ぼくのせいであんたが殺されても、謝らないからな」
和彦の言葉に、上目遣いで見上げてきた三田村が微苦笑を浮かべる。
「先生は、怖いな。俺みたいな男に、先生のためなら殺されてもいい、なんて青臭いことを思わせるんだから」
「ぼくだって、こうしている意味はわかっているつもりだ。――ヤクザにとって、組長は絶対の存在だ。あんたはそのうえ、組長の忠実な犬だ。その犬が、組長のオンナに手を出した。そして、オンナであるぼくは、こうして犬のあんたを受け入れている。……忠実な犬を唆したのは、ぼくだ。本当は、あんたは悪くない」
「先生っ――」
「三田村さんを殺すなら、ぼくも殺せと言ったら、あの組長、どんな顔をするだろうな」
賢吾がたまらなく怖いはずなのに、ゾクゾクするほど興奮している。短期間の間に、自分は性質が悪い生き物に成り果てたのだろうかと思いながら、そんな自分が和彦は嫌ではない。したたかさや、ふてぶてしさがなければ、こうして三田村と結ばれることはなかったはずだ。
飽きることなく三田村と深い口づけを何度も交わし、三田村の欲望の感触を内奥に刻みつけるように、腰を動かす。
これで最後になるかもしれない交歓を終えることを、二人は惜しんでいた。だから、容易なことでは体を離せない。濡れた体でベッドに戻ってからも抱き合い、互いに触れていた。
ベッドに腰掛けた三田村の背を、てのひらで撫でる。三田村の背に彫られているのは、虎だった。太い足で大地を踏みしめ、見る者を威嚇するように咆哮の表情を浮かべている。
「……なんで虎なんだ」
和彦が背に舌を這わせながら問いかけると、三田村の体が微かに揺れる。どうやらくすぐったくて笑ったらしい。
「深い意味はない。組に入ったばかりの頃、刺青を入れたほうが箔がつくと言われて、それを鵜呑みにした。虎にしたのは、たまたま俺の周りに、虎の刺青を入れている人間がいなかったからだ」
「刺青を入れようとする人間の気持ちだけは、わからない」
「先生はわからなくていい。ただ、先生の体に刺青を入れたいという組長の気持ちは、俺にはわかる。そこまでしたくなる独占欲を、男のあんたは刺激する」
三田村の背に額を押し当て、和彦は呟いた。
「――ヤクザなんて、危ない男ばかりだ」
「今知ったのか」
肩越しに振り返った三田村に言われ、つい笑ってしまう。引き寄せられた和彦は、三田村と抱き合いながらベッドに倒れ込んだ。
マンションの部屋の前に立った和彦は、動物的な直感で、あることを感じ取っていた。
「先生?」
不審そうに三田村に呼ばれ、なんでもないと首を横に振る。だが実は、足が小刻みに震えていた。
カードキーを取り出しながら、三田村に向けてこう告げる。
「三田村さん、もうここでいい。どうせすぐにベッドに潜り込むだけだから」
結局、二人がラブホテルを出たのは朝になってからだった。ほとんど眠ることなく、一晩中、三田村と絡み合い、吐息を交わし合っていた。
部屋に戻るまでの間、予想したような悲壮さは二人にはなかった。三田村は覚悟を決めていたのかもしれない。和彦も、そのつもりだった。だが――。
「組長には、先生が見つかったと連絡を入れておく。そのあとのことは……」
珍しく口ごもった三田村の唇を、和彦は指先で軽く触れる。
「また顔を合わせられたら、キスしたい」
和彦の言葉に目を丸くした三田村だが、すぐに穏やかな微笑で応えてくれる。
「……俺もだ」
引き返す三田村の背を見送ってから、大きく息を吐き出した和彦はカードキーを差し込む。ドアを開けると、思った通り、玄関には大きな革靴が一足だけあった。
緊張のため指先が冷たくなってきて、恐怖で体がすくむ。吐き気すらしてきたが、ここでへたり込むわけにはいかなかった。和彦には、やるべき大事なことがある。
リビングに行くと、寛いだ様子で賢吾がソファに腰掛けていた。早朝だというのに、しっかりとダブルのスーツを着込んでいる。
和彦の顔を見るなり、賢吾がニヤリと笑いかけてきた。人を食らう獣の笑みだ。
「――三田村と、体の相性はよかったか、先生」
開口一番の賢吾の言葉に、スッと意識が遠のきかけるが、なんとか耐えた。ここで怯むわけにはいかない。
「最高に……」
声の震えを隠すため、必然的に低く囁くような口調となる。
賢吾の顔から偽りの笑みは消え、射竦めるような冷たく鋭い眼差しを向けられた。
「大した度胸だな。それで、他に言いたいことは?」
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まるで和彦の言葉を予測していたように、賢吾は表情を変えなかった。
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