血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
112 / 1,289
第7話

(3)

しおりを挟む
 子供のような仕種で頭を振った千尋の顔を、和彦はまじまじと見上げる。父親は、蛇蝎云々と話しながら悠然としていたのに、一方の息子は、牙を剥いていきり立ったかと思えば、すでにもう途方に暮れた犬っころのような顔をしている。
 和彦は、片腕で千尋の頭を抱き締めた。
「そんな顔するな。お前は、キャンキャン吠えて怒っているほうが、こっちも安心する」
「なんだよ、それ……」
 ふて腐れたように言いながら千尋が、和彦の体にかかったタオルケットを押し退けてしまう。熱い体にきつく抱き締められ、その生々しさに身じろぐ。安定剤の効き目はもう消えたようだが、秦の淫らな愛撫の余韻は、厄介な疼きとなって体内に留まったままなのだ。
「千尋……、ぼくについてきていた組員の二人はどうなった?」
 千尋の気を逸らすためというより、本当に気になっていたことを問いかける。
「大丈夫だよ。ただ、職質されただけ。多分、先生と引き合わせないよう足止めしたんだ」
「……つまり本当に、鷹津って刑事はぼくを連れて行くつもりだったのか」
 秦がやった行為はともかく、あの場は秦に救われたということだ。
「――先生、俺も聞きたいことがあるんだけど」
 息もかかるほど間近に顔を寄せ、千尋が言う。和彦はその千尋の下から抜け出そうとしたが、がっちり押さえ込まれているので動けない。
「なんだ……」
「先生を助けた秦って奴、何者?」
「……三田村から聞かなかったのか」
「総和会の中嶋さんの友人。クラブ経営者。――最近、先生と仲良し」
 最後の言葉を告げるときだけ、千尋の眼差しが険しくなる。自分の知らないところであれこれ邪推されて探られるのも嫌だが、直情型の千尋らしく真っ向から問われるのも、息が詰まる気持ちだ。
 和彦は心臓の鼓動が速くなるのを感じ、動揺を懸命に押し殺す。
「クリニックのインテリアのことで、相談に乗ってもらっているんだ」
「ものすごく、イイ男なんだって?」
「三田村から聞き出したな……」
「そこでなんで、自発的に三田村が教えてくれたと考えないかな、先生」
「キャラクターの違いというものを、一度じっくり考えろ――」
 不意打ちで千尋に唇を塞がれ、強引に下着を引き下ろされる。秦に体に触れられたことを悟られると思い、和彦は必死に身を捩ろうとするが、ムキになったようにのしかかられ、下着が足から抜き取られる。
「千尋っ……」
「甘やかしてよ、先生。今ここで、俺のことを目一杯、甘やかして」
 子供のようにせがみながらも、千尋は野性味を湛えた大人の男の顔をしている。
 ため息をついた和彦は、千尋の頬を手荒く撫でてやる。
「ぼくのことを、心配してくれたんだな」
「当たり前だろ。先生は、俺にとって一番大事な人だ」
「……心配してくれるのはありがたいが、のしかかってきて、甘やかせ、と迫ってくるのはどうなんだ」
 こう話している間にも、和彦の体はうつ伏せにされ、腰を抱え上げられる。唾液で濡らされた指に内奥の入り口をまさぐられたかと思うと、肉を掻き分けるようにして挿入された。和彦は唇を噛み、身を強張らせる。
 内奥が、淫らに蠢いているのは自分でもわかった。ローターと秦の指で中途半端に官能を刺激され、秦の欲望によってこじ開けられかけた場所は、ずっと肉の疼きを鎮めたがっていたのだ。
「千尋、今は、嫌だ――……」
「でも、先生の中、すごく発情してる。俺の指に、吸い付いてきてる」
 ねっとりと撫で回すように内奥で指が動かされると、たまらず呻き声を洩らす。もっと深い場所を、逞しいもので押し開いてほしいと体が要求していた。
 和彦の無言の求めがわかったように、背後で忙しい衣擦れの音がしたあと、千尋の熱く滾ったものが擦りつけられた。
「あっ、ああっ」
 硬く逞しいものが、まるで歓喜するかのように収縮を繰り返す内奥に挿入されていく。それでなくても脆くなっている襞と粘膜を力強く擦り上げられ、和彦は腰を震わせながら、喉を鳴らす。満たされる感触が、たまらなくよかった。
 軽く腰を突き上げた千尋が大きく息を吐き出し、和彦の尻に両手をかける。欲望を呑み込んでいく様子をよく見ようとしているのか、双丘を割り開かれていた。
「はっ……、あぅっ、んっ、んっ……」
「先生って、酒に酔ったぐらいで、ここまで乱れる人だったっけ? それとも、寝起きだから? 怖い思いをしたあとだと、いつも以上に欲しがりになるのかな」
 言葉で煽っているのか、本気で知りたがっているのか、そんなことを呟きながらも、千尋はしっかりと腰を進め、容赦なく和彦を攻め立ててくる。
「あっ、あっ、あうっ」
 枕を跳ね除け、敷き布団の端を握り締めながら、背後からの千尋の果敢な攻めに耐える。

しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

処理中です...