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第21話
(11)
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和彦は、鷹津に言われた通りの場所を告げる。なぜか中嶋は、意味ありげな眼差しを寄越してきた。
「なんだ……」
「先生、知ってます? そこ、夜景がきれいだということで、ちょっとしたデートスポットなんですよ」
和彦の脳裏で、鷹津が皮肉っぽい笑みを浮かべている。
「……嫌がらせだな。あの男なら、絶対そういう陰湿なことをやる」
「あの男?」
「鷹津――、前に、ぼくとお茶を飲んでいた刑事だ。君にも紹介して、確か携帯で隠し撮りをしていただろ」
悪びれた様子もなく、ああ、と声を洩らして中嶋は頷いた。
「それで、本当にデートなんですか?」
「笑えない冗談だな……。あの男にはいろいろと調べてもらっているんだ。組関係じゃなく、何かと厄介なぼくの実家のことを」
ウソではないが、事実でもない。総和会だけではなく、賢吾とも繋がっている中嶋を相手に、何もかも打ち明けるわけにはいかなかった。面倒を避けるなら、一人で鷹津と会うのが一番なのだろうが、和彦をマンションに送り届けることなく中嶋が一人で帰るはずもなく、だからといって、マンションに帰宅してから鷹津を呼び出すのも時間がかかる。
あまりコソコソしすぎて、余計な疑念を周囲の男たちに持たせる事態は避けたかった。
心の中で何を考えているかはともかく、中嶋は深く詮索することなく、目的地まで車を走らせてくれる。後部座席で物思いに耽っていた和彦は、あることを思い出し、いつも持ち歩いているアタッシェケースを膝の上に置いて開いた。
人に見られても困らないような書類しか基本的に持ち歩かないのだが、バレンタインデーを過ぎてから、ある包みも一緒に入れている。まさに、今夜のような状況に備えてのことだ。
鷹津が指定した場所に向かうまで、和彦はちょっとしたドライブ気分を味わった。車のライトや照明、ネオンで明るい街を抜け、静かな住宅街へと入り、そこからさらに高台に向かっているのだが、景色が変化に富んでいる。
「暖かい時期だと、この時間でもけっこう車の行き来があるんですが、さすがに今は少し寒いのか、車がまったく通りませんね」
中嶋の口ぶりから、デートスポットとして利用した経験があることはうかがえたが、突っ込むのは野暮だろう。なんといっても、ヤクザになる前はホストをしていた男だ。それでなくても、この外見と、少しクセはあるものの物腰は穏やかなため、女性からの誘いは多かったはずだ。
「……そんな場所に向かうのは、悪徳刑事とヤクザの組長のオンナ。つき合わされる切れ者ヤクザぐらい、か」
「俺はゆっくりと、二人のデートを見物させてもらいますよ」
見物したことを、一体誰に報告するのか――。
和彦は、バックミラーに映る中嶋をちらりと見てから、外を流れる景色に目を向ける。次第に住宅は見えなくなり、ぽつりぽつりと街灯だけが灯る暗い道が続いている。恋人同士でこの道を通るときは、ロマンチックな夜景への期待を十分盛り上げる効果となるのだろう。
ようやく高台に出て、公園の入り口が見える。ただし、門は閉まっていた。思わず中嶋を見ると、和彦の言いたいことを察した中嶋が教えてくれた。
「夜のデートスポットとして人気なのは、駐車場ですよ」
そう言って中嶋が薄暗い駐車場に車を入れる。斜面に沿って造られた駐車場はさほど広くはないが、一目見て、どうしてデートスポットと言われているのかわかった。街の夜景がよく見下ろせるのだ。ここなら、車に乗ったまま夜景が楽しめる。
駐車場には、先客がいた。隅に一台、見覚えのある車が停まっている。中嶋は少し離れたスペースに車を停め、和彦を振り返った。
「向こうの車まで、ついて行きましょうか?」
「大丈夫。あの男の扱いは慣れている」
和彦の返事に、中嶋は口元をわずかに緩める。アタッシェケースから取り出した包みを持って、和彦は車を降りる。それを待っていたように、先に停まっていた車の運転席のドアが開いた。
「――遅いぞ」
車から降りた鷹津がぼそりと洩らす。先日はまともな格好をしていたというのに、今夜はもう黒のセーターにジーンズ、ブルゾンという姿だ。そんな鷹津を頭の先から爪先まで眺めて、和彦は言い返した。
「こんな辺鄙なところを待ち合わせ場所にするからだ。別に、街中の道路脇で会ってもいいだろ」
「情緒のない奴だな。ホテルに呼び出してほしかったのか?」
鷹津にどんな罵倒の言葉を浴びせられるより、今言われた言葉のほうが傷つく。蛇蝎の片割れとも言われるほど嫌な男に、『情緒がない』と言われたのだ。
唇をへの字に曲げた和彦の反応に満足したのか、鷹津は情緒の欠片もない説明をしてくれた。
「なんだ……」
「先生、知ってます? そこ、夜景がきれいだということで、ちょっとしたデートスポットなんですよ」
和彦の脳裏で、鷹津が皮肉っぽい笑みを浮かべている。
「……嫌がらせだな。あの男なら、絶対そういう陰湿なことをやる」
「あの男?」
「鷹津――、前に、ぼくとお茶を飲んでいた刑事だ。君にも紹介して、確か携帯で隠し撮りをしていただろ」
悪びれた様子もなく、ああ、と声を洩らして中嶋は頷いた。
「それで、本当にデートなんですか?」
「笑えない冗談だな……。あの男にはいろいろと調べてもらっているんだ。組関係じゃなく、何かと厄介なぼくの実家のことを」
ウソではないが、事実でもない。総和会だけではなく、賢吾とも繋がっている中嶋を相手に、何もかも打ち明けるわけにはいかなかった。面倒を避けるなら、一人で鷹津と会うのが一番なのだろうが、和彦をマンションに送り届けることなく中嶋が一人で帰るはずもなく、だからといって、マンションに帰宅してから鷹津を呼び出すのも時間がかかる。
あまりコソコソしすぎて、余計な疑念を周囲の男たちに持たせる事態は避けたかった。
心の中で何を考えているかはともかく、中嶋は深く詮索することなく、目的地まで車を走らせてくれる。後部座席で物思いに耽っていた和彦は、あることを思い出し、いつも持ち歩いているアタッシェケースを膝の上に置いて開いた。
人に見られても困らないような書類しか基本的に持ち歩かないのだが、バレンタインデーを過ぎてから、ある包みも一緒に入れている。まさに、今夜のような状況に備えてのことだ。
鷹津が指定した場所に向かうまで、和彦はちょっとしたドライブ気分を味わった。車のライトや照明、ネオンで明るい街を抜け、静かな住宅街へと入り、そこからさらに高台に向かっているのだが、景色が変化に富んでいる。
「暖かい時期だと、この時間でもけっこう車の行き来があるんですが、さすがに今は少し寒いのか、車がまったく通りませんね」
中嶋の口ぶりから、デートスポットとして利用した経験があることはうかがえたが、突っ込むのは野暮だろう。なんといっても、ヤクザになる前はホストをしていた男だ。それでなくても、この外見と、少しクセはあるものの物腰は穏やかなため、女性からの誘いは多かったはずだ。
「……そんな場所に向かうのは、悪徳刑事とヤクザの組長のオンナ。つき合わされる切れ者ヤクザぐらい、か」
「俺はゆっくりと、二人のデートを見物させてもらいますよ」
見物したことを、一体誰に報告するのか――。
和彦は、バックミラーに映る中嶋をちらりと見てから、外を流れる景色に目を向ける。次第に住宅は見えなくなり、ぽつりぽつりと街灯だけが灯る暗い道が続いている。恋人同士でこの道を通るときは、ロマンチックな夜景への期待を十分盛り上げる効果となるのだろう。
ようやく高台に出て、公園の入り口が見える。ただし、門は閉まっていた。思わず中嶋を見ると、和彦の言いたいことを察した中嶋が教えてくれた。
「夜のデートスポットとして人気なのは、駐車場ですよ」
そう言って中嶋が薄暗い駐車場に車を入れる。斜面に沿って造られた駐車場はさほど広くはないが、一目見て、どうしてデートスポットと言われているのかわかった。街の夜景がよく見下ろせるのだ。ここなら、車に乗ったまま夜景が楽しめる。
駐車場には、先客がいた。隅に一台、見覚えのある車が停まっている。中嶋は少し離れたスペースに車を停め、和彦を振り返った。
「向こうの車まで、ついて行きましょうか?」
「大丈夫。あの男の扱いは慣れている」
和彦の返事に、中嶋は口元をわずかに緩める。アタッシェケースから取り出した包みを持って、和彦は車を降りる。それを待っていたように、先に停まっていた車の運転席のドアが開いた。
「――遅いぞ」
車から降りた鷹津がぼそりと洩らす。先日はまともな格好をしていたというのに、今夜はもう黒のセーターにジーンズ、ブルゾンという姿だ。そんな鷹津を頭の先から爪先まで眺めて、和彦は言い返した。
「こんな辺鄙なところを待ち合わせ場所にするからだ。別に、街中の道路脇で会ってもいいだろ」
「情緒のない奴だな。ホテルに呼び出してほしかったのか?」
鷹津にどんな罵倒の言葉を浴びせられるより、今言われた言葉のほうが傷つく。蛇蝎の片割れとも言われるほど嫌な男に、『情緒がない』と言われたのだ。
唇をへの字に曲げた和彦の反応に満足したのか、鷹津は情緒の欠片もない説明をしてくれた。
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