910 / 1,292
第37話
(22)
しおりを挟む
「先生が鷹津に連れ去られたと聞いたとき、俺は、もう二度と先生に会えないんじゃないかと絶望しかけていた。鷹津は事前に準備をしていた。つまり、覚悟を決めていたということだ。だが、あいつは先生を解放した。……意味がわからない。いや、何か意味があるからこその行動だろう」
「それは――、組長たちにも何度も言ったが、鷹津が何を思ってあんなことをしたのか、ぼくにはわからない。ただ連れ回されて、ホテルに一泊しただけだ」
「一緒に逃げようと言われなかったか?」
三田村に対して、いくつもの隠し事はできなかった。
「言われた」
和彦は、快感に酔わされていたとはいえ、鷹津のその誘いに頷いた。いまさらながら罪悪感に気持ちが揺れかけたが、三田村の唇が耳元に這わされ、その感触に気を取られる。
「――でも、先生はこうして、俺の側にいてくれている。先生とあいつとの間にどんなやり取りがあったのか、根掘り葉掘り聞くつもりはない。俺には、今こうしている瞬間が、何より大事だ。先生を抱いているのは鷹津じゃなく、俺だということが」
誠実で優しい男が示す独占欲は、控えめではあるが、静かな情熱を確かに感じさせる。今はこの男だけを見つめて感じていたいと、強く和彦は願う。すると三田村が、不安そうに顔を覗き込んできた。
「先生、気を悪くしていないか?」
「まさか。……でも、あんたのせいで、自分がますます傲慢な人間になっていくのが怖い。たくさんの男と関係を持っているのに、それでもあんたが想ってくれて。いつか、呆れられて、大事なオトコもなくしてしまうかもしれない」
「なんの心配もいらない。俺は、先生から要らないと言われても、離れるつもりはない。それこそ執念深すぎて、先生のほうが、呆れるかもしれないな」
三田村の言葉に心底ほっとする。長嶺の男たちのことを言えない。和彦は、欲しい返事を三田村からもぎ取ったのだ。
「……三田村、背中、撫でたい」
甘えるように訴えると、握り合っていた手を離して三田村が上体を起こす。勢いよくTシャツを脱ぎ捨ててから、和彦のシャツも脱がせてくれた。
重なってきた熱い体にしがみつき、思う存分、三田村の背に両手を這わせる。猛々しい虎を宥めるためではなく、駆り立てるために。
最初は和彦の好きなようにさせてくれた三田村だが、ふいに顔を近づけてくる。反射的に和彦が目を閉じると、こめかみに唇が押し当てられた。閉じた瞼の上にも吐息が触れ、ゾクリと体の奥が疼く。内奥に呑み込んだままの欲望を締め付けると、三田村が軽く腰を揺すった。
「あっ、あっ……」
情欲の火がじわじわと再燃し、内奥が再び蠕動を始める。それを待っていたように、三田村がゆっくりと律動を刻み始める。
「いっ……、い。気持ち、いい――」
「ああ、俺も……」
激しさよりも、こうして繋がっている時間が少しでも長く続くようにと、三田村の動きは慎重だった。反対に和彦のほうが箍が外れてしまい、容赦なく三田村の背に爪を立て、自ら腰を揺すり、快感を貪ろうとする。
三田村が欲しいという衝動もあるが、もう一つ、無視できないものが自分の胸に巣食っていることを、不承不承ながら和彦は認めていた。
脳裏に、守光や南郷の顔がちらつく。そのたびに、不穏という言葉をどうしても連想してしまう。
自分のせいで、三田村に今以上に迷惑がかかったら――。
和彦がパッと目を開けると、見下ろしてくる三田村の視線とぶつかった。
「――つらいか、先生?」
「いや……、どうしてだ」
「今にも泣き出しそうな顔をしているから」
三田村の唇が目元に押し当てられ、和彦は小さく喘ぐ。
「……できることなら、もう二度と、先生が泣く姿は見たくない。子供が泣いているようで、痛々しかった」
うん、と頷いた和彦は、三田村の肩にそっと歯を立てる。それが急激な欲情の高まりを生んだのか、大きく身震いをした三田村が、乱暴に腰を突き上げてくる。和彦は鼻にかかった呻き声を洩らすと、もう一度、今度は強く三田村の肩に噛み付いた。
三田村の情愛に満たされた充足感と気だるさに、和彦は深く息を吐き出す。横向きにした体を背後から抱き締めてくれる三田村の腕の感触と体温が心地よかった。
「……先生、腹は空かないか?」
耳元に唇を寄せ、ハスキーな声が囁いてくる。くすぐったくて笑い声を洩らした和彦は、半分寝ぼけた状態で答えた。
「ぼくはまだ平気だ。気にせず、先に食べてくれ」
「いや、俺もあとでいい」
三田村のゆっくりとした息遣いを感じながら、ウトウトとまどろむ。現実と夢の境が曖昧になり、眠っていながら起きているような感覚に陥る。
「それは――、組長たちにも何度も言ったが、鷹津が何を思ってあんなことをしたのか、ぼくにはわからない。ただ連れ回されて、ホテルに一泊しただけだ」
「一緒に逃げようと言われなかったか?」
三田村に対して、いくつもの隠し事はできなかった。
「言われた」
和彦は、快感に酔わされていたとはいえ、鷹津のその誘いに頷いた。いまさらながら罪悪感に気持ちが揺れかけたが、三田村の唇が耳元に這わされ、その感触に気を取られる。
「――でも、先生はこうして、俺の側にいてくれている。先生とあいつとの間にどんなやり取りがあったのか、根掘り葉掘り聞くつもりはない。俺には、今こうしている瞬間が、何より大事だ。先生を抱いているのは鷹津じゃなく、俺だということが」
誠実で優しい男が示す独占欲は、控えめではあるが、静かな情熱を確かに感じさせる。今はこの男だけを見つめて感じていたいと、強く和彦は願う。すると三田村が、不安そうに顔を覗き込んできた。
「先生、気を悪くしていないか?」
「まさか。……でも、あんたのせいで、自分がますます傲慢な人間になっていくのが怖い。たくさんの男と関係を持っているのに、それでもあんたが想ってくれて。いつか、呆れられて、大事なオトコもなくしてしまうかもしれない」
「なんの心配もいらない。俺は、先生から要らないと言われても、離れるつもりはない。それこそ執念深すぎて、先生のほうが、呆れるかもしれないな」
三田村の言葉に心底ほっとする。長嶺の男たちのことを言えない。和彦は、欲しい返事を三田村からもぎ取ったのだ。
「……三田村、背中、撫でたい」
甘えるように訴えると、握り合っていた手を離して三田村が上体を起こす。勢いよくTシャツを脱ぎ捨ててから、和彦のシャツも脱がせてくれた。
重なってきた熱い体にしがみつき、思う存分、三田村の背に両手を這わせる。猛々しい虎を宥めるためではなく、駆り立てるために。
最初は和彦の好きなようにさせてくれた三田村だが、ふいに顔を近づけてくる。反射的に和彦が目を閉じると、こめかみに唇が押し当てられた。閉じた瞼の上にも吐息が触れ、ゾクリと体の奥が疼く。内奥に呑み込んだままの欲望を締め付けると、三田村が軽く腰を揺すった。
「あっ、あっ……」
情欲の火がじわじわと再燃し、内奥が再び蠕動を始める。それを待っていたように、三田村がゆっくりと律動を刻み始める。
「いっ……、い。気持ち、いい――」
「ああ、俺も……」
激しさよりも、こうして繋がっている時間が少しでも長く続くようにと、三田村の動きは慎重だった。反対に和彦のほうが箍が外れてしまい、容赦なく三田村の背に爪を立て、自ら腰を揺すり、快感を貪ろうとする。
三田村が欲しいという衝動もあるが、もう一つ、無視できないものが自分の胸に巣食っていることを、不承不承ながら和彦は認めていた。
脳裏に、守光や南郷の顔がちらつく。そのたびに、不穏という言葉をどうしても連想してしまう。
自分のせいで、三田村に今以上に迷惑がかかったら――。
和彦がパッと目を開けると、見下ろしてくる三田村の視線とぶつかった。
「――つらいか、先生?」
「いや……、どうしてだ」
「今にも泣き出しそうな顔をしているから」
三田村の唇が目元に押し当てられ、和彦は小さく喘ぐ。
「……できることなら、もう二度と、先生が泣く姿は見たくない。子供が泣いているようで、痛々しかった」
うん、と頷いた和彦は、三田村の肩にそっと歯を立てる。それが急激な欲情の高まりを生んだのか、大きく身震いをした三田村が、乱暴に腰を突き上げてくる。和彦は鼻にかかった呻き声を洩らすと、もう一度、今度は強く三田村の肩に噛み付いた。
三田村の情愛に満たされた充足感と気だるさに、和彦は深く息を吐き出す。横向きにした体を背後から抱き締めてくれる三田村の腕の感触と体温が心地よかった。
「……先生、腹は空かないか?」
耳元に唇を寄せ、ハスキーな声が囁いてくる。くすぐったくて笑い声を洩らした和彦は、半分寝ぼけた状態で答えた。
「ぼくはまだ平気だ。気にせず、先に食べてくれ」
「いや、俺もあとでいい」
三田村のゆっくりとした息遣いを感じながら、ウトウトとまどろむ。現実と夢の境が曖昧になり、眠っていながら起きているような感覚に陥る。
70
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
悪役の僕 何故か愛される
いもち
BL
BLゲーム『恋と魔法と君と』に登場する悪役 セイン・ゴースティ
王子の魔力暴走によって火傷を負った直後に自身が悪役であったことを思い出す。
悪役にならないよう、攻略対象の王子や義弟に近寄らないようにしていたが、逆に構われてしまう。
そしてついにゲーム本編に突入してしまうが、主人公や他の攻略対象の様子もおかしくて…
ファンタジーラブコメBL
シリアスはほとんどないです
不定期更新
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる