血と束縛と

北川とも

文字の大きさ
1,072 / 1,292
第42話

(9)

しおりを挟む
「誰よりも繊細だから、組長や俺たちは先生を大事にしようとしているんだ。でも、それだけじゃ足りないと思うことばかりだ。先生の繊細さは、こちらの想像も及ばないときがあるからな」
「――……冗談だ。悪かった、試すようなことを言って。ぼくは繊細どころか、図太い人間だと自覚してる」
「先生はタフだが、繊細だ。俺にはそう見えている」
 どんどん顔が火照ってくるのは、熱いラーメンを食べているせいだと、和彦は自分に言い聞かせた。
 食事を終えてラーメン店を出たとき、辺りはすでに薄闇が落ちていた。この瞬間、ふっと寂しさが胸を駆け抜ける。三田村との別れの時間がすぐそこまでやってきているのだ。
 物言いたげな和彦の視線に気づいていないのか、三田村が足早に車へと向かい、助手席のドアを開ける。黙って乗り込むしかなかった。
 ラーメン店に向かっていたときとは違い、帰りの車中は沈黙に支配されていた。膝に置いたダウンジャケットを撫でながら、和彦は何度か話しかけようとして、そのたびにためらう。
 仕事が休みの日に、わざわざ自分の送り迎えのためだけに来てくれた三田村を困らせたくないと思う一方で、もう少し甘えてみたいという衝動が湧き起こるのだ。
 そもそも賢吾は、どこまで許してくれるつもりだったのか――。
 大蛇の化身のような男の気遣いとは、甘くて優しい反面、残酷だ。和彦が煩悶することを見越していたのかもしれない。
 そう思った途端、和彦はようやく言葉を発した。
「三田村、コンビニで停めてくれ。お茶を買ってくる」
 頷いた三田村は、コンビニの駐車場へと車を滑り込ませる。和彦がシートベルトを外そうとすると、当然のように三田村が提案してくる。
「先生、俺が行ってくる」
「いいから。すぐに戻る」
 三田村の顔を見ることなく言い置いて、和彦は車を出る。すぐに寒さに震え上がり、慌ててコンビニに駆け込んだ。
 お茶を二本手に取り、一度はレジに向かいかけたが、少し考えてからカゴを持ってきて、お茶以外にミネラルウォーターのボトルや菓子なども入れる。
 精算を終えて駐車場に戻ると、三田村はわざわざ車の外に出て待っていた。
「車の中にいればよかったのに」
 駆け寄って和彦が言うと、三田村が小さく笑う。
「近くにいて先生の姿が見えないと、落ち着かないんだ」
 そんな言葉を聞いてしまうと、もうダメだった。衝動に歯止めが利かなくなる。御堂から聞かされた賢吾の話も気になるが、今は目の前の男との事情を優先させたい。
 和彦はさりげなく三田村に身を寄せ、通りから見えないよう自分の体で隠して、三田村の手をそっと握る。
「――……今夜は、一緒にいたい。組長への説明なら、ぼくがするから」
 三田村は、和彦の手からコンビニの袋を取り上げる。重みから、お茶以外にも入っていると気づいたのだろう。吐息を洩らすように三田村は呟いた。
「俺はずるいな。先生から言ってくれるのを待っていた」
 言われるまま再び車に乗り込むと、今度は三田村のほうから強く手を握ってくる。
「組長からは、先生を連れて帰るよう言われていたわけじゃないんだ。先生の好きなようにしてやれとだけ……。だったら俺から、先生を引き止めるわけにはいかない。だけど――」
「引き止めたくなったか?」
 ああ、と答える声は掠れて聞き取りづらかったが、それが三田村の静かな激情を物語っているようで、和彦は興奮のため小さく身を震わせた。

しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

悪役の僕 何故か愛される

いもち
BL
BLゲーム『恋と魔法と君と』に登場する悪役 セイン・ゴースティ 王子の魔力暴走によって火傷を負った直後に自身が悪役であったことを思い出す。 悪役にならないよう、攻略対象の王子や義弟に近寄らないようにしていたが、逆に構われてしまう。 そしてついにゲーム本編に突入してしまうが、主人公や他の攻略対象の様子もおかしくて… ファンタジーラブコメBL シリアスはほとんどないです 不定期更新

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...