相合傘

シィータソルト

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第1話

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 「あ、傘忘れた」
今年は梅雨入りが早いってニュースで見たばかりだというのに、傘もバックの中の折りたたみ傘も置いてきてしまった。今は、授業が終わった放課後の学校の昇降口前。ザーザー降りの目の前に、濡れるのを我慢するか、止むまで帰るのを我慢するのかを天秤にかけている。濡れるのは、すぐ帰れば風呂で温まれば良い。だが、濡れている最中の服が湿気て濡れて肌に気持ち悪く纏わりつく感覚を家まで味わねばならない。気持ち悪い。常にカタツムリとナメクジを眺めているような感覚になる。むしろ、自身がこれらになってしまったかのようなぬめぬめさだ。
 一方で、止むまで我慢は、すぐに解消されるかもしれないし、途方に暮れるまで待たねばならないかもしれないし、とにかく貴重な時間を浪費せねばならない。家帰ってからしたいことと言えば、撮りためたドラマや好きな芸能人のSNSの更新を見ることだ。たくさんいるから時間かかるし、何より、プライベートが充実しているって感覚で幸せだ。だから、宿題と風呂とご飯は早く済ませたい。
 さて、どちらを取るか。
「あの……、傘、忘れたの?」
私より背の少し高い男性が話しかけてきた。先輩だろうか。
「はい、天気予報見てたんですけど、うっかり傘を置いてきてしまって……」
「梅雨入り早いって言ってたのに、傘を忘れたとか面白いね。良かったら、入っていくかい? 家はどっちの方面?」
「え、良いんですか? ではお願いします。家はこっち方面です」
 指で右を指し示した。
「良かった、同じ方向だ。校門までとかにならなくて本当良かった。じゃあ、行こうか」
 プライベートの時間は無事確保できそうだ。それにしても、親切な方だ。見ず知らずの私のことを傘に入れて送ってくれようだなんて。この人のことを少し知りたくなった。
「あの、傘入れてくださってありがとうございます……学年は?」
「3年だよ。あなたは?」
「私は2年です。やはり、年上の方だったんですね」
「やはりって、年上だってよくわかったね」
「なんだか、見た目が大人ぽかったから」
「そうかな……? 自分じゃわかんねーや」
「どうして、私を傘に入れようと?」
「早く帰りたいだろうなって感じたから」
「私、そんなに早く帰りたいオーラ発してたかしら?」
「家ですることが充実しているのかな?」
「え、はっはい……」
「俺は今日この雨で部活がなくなったから寂しい」
「何部なんですか」
「サッカー部だよ。部室で筋トレ案もあったんだけど、最近休みがなかったからって久しぶりの休みさ」
「そうでしたか、私は帰宅部なので、家で芸能人の活動を追うのが活動です」
「そうかそうか、それなら毎日何かしらあるから楽しい活動だね」
「えぇ、とても。風呂、ご飯、宿題をさっさと済ませて活動するんです」
「それなら、俺も兼部できそうだな。誰好きなの?」
「とにかく、多いです。絞り切れない程に」
「男女問わず?」
「そうですね、どちらも好きな方が多いです」
「そうなんだ、俺は、サッカーばっかやってるから疎いんだよな。良かったらオススメの人教えてよ」
「あぁ、それも絞り切れない……、では、毎日誰かしらを教えていくのは、いかがでしょう?」
「それ、いいね。じゃあ、LINE交換しよう」
「良いですよ」
私達は傘の中で濡れないようにスマホを取り出し、LINEを交換した。
なんて、やりとりをしている間に私の家に着いた。
「あ、私の家ここなので、ありがとうございました」
「そうなんだ、俺の家、向かいのあそこだよ、結構近所に住んでたんだね」
「また、良かったらお話しましょう」
「こちらこそ、ありがとう。楽しいひと時だったよ」
名残惜しいけど、傘から抜け出し家へ入っていく。扉閉める時に振り返ったが、家の中に入るまで、見守っていてくれていた。気遣いができる人なのだろう。とても優しい人だということがわかった。私の早く帰りたいオーラも察してくれた程だったし。
風呂をさっさと済ませて、冷えた体を温めて、母親が用意してくれた夕飯をかきこみ、宿題をさっさと済ませる。そして、今日、傘を入れてくれたあの方にお礼のLINEを送った。これからは、あの人も芸能人追っかけの沼に引き入れてやろうと思った。一緒に語れる人ができたら楽しいと思えるだろう。クラスメイトにもいるけども、年上にも居て良いだろう。ある程度LINEしたら、芸能人の活動をチェックしよう。
 私のプライベートに、傘入れてくれた人からのLINEチェックが加わった。
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