思いつきによる短編集

日野リア

文字の大きさ
上 下
9 / 15
FT

勇者と魔王 4

しおりを挟む

 魔王城への道は厳しいものだった。
 路銀も底をつき、街によるたびに何かしら仕事をしなければ、次の街へ行くこともままならない。仲間の魔女は仕事を嫌い、国での暮らしが捨てられず、野宿ばかりになりその日の食事を狩りでまかなうようになると、いつしかいなくなっていたのは清々する出来事だった。騎士団長の男もはじめは粛々と与えられた任務をこなしていたが、魔物が強くなり道が険しくなると離れていった。

「結局信じられるのは自分だけか。」

 このままどこか別のところへ逃げてしまおう。幾度となくそう思った。しかし、そうしたとしてどうなるというのか。ならば、行けるところまで行ってみればいい、と自問自答した結果、勇者は魔王城の前にいた。
 仲間はもういない。いや、はじめからそんなもの存在しなかったのだ。一人で戦うのは怖い。だが、ここまでたどり着いた勇者の実力は本物だった。

「魔王はいるか! 」

 一際大きな扉を開け開くと、広い部屋の奥、そこにぽつんと置かれている椅子に男が一人腰を深く沈めて座っているのが見える。あれが魔王か。資料で見た外見とそっくりなのに、なぜか視界がぼやけて朧げだ。なにかの魔術かもしれない。

「覚悟しろ! 」

 剣を構えて踏み込む。
 魔王は反撃してこなかった。剣に貫かれた魔王は表情を崩さない。痛みも何も感じないといったようで、ただそこにいる。
 頭がズキズキとなりはじめた。魔王だったものの姿が歪む。また、なにかの魔術か。そう、疑う意識の裏で、何かが叫んだ。

「危ないわ、勇者様! 」

「勇者殿! 」

 仲間だった二人の声。どこか嘲りをふくんだような声は笑っていた。かわいそうな勇者様。そう言われた気がして、振り返ると目の前に魔女の魔術と騎士団長の剣撃が迫っていた。
 ――――――避けられない。


しおりを挟む

処理中です...