1 / 5
はじまりは
しおりを挟む
静かな夜、満月が世界を照らして微笑んでいると絵本を読んで寝たあの日。また、同じような日々が続くと信じていたあの頃、少女はたくさんの騒がしい足音で目を覚ました。ガシャガシャと金属音を鳴らすのは鎧を着た騎士たちだろうか。眠たい目をこすって、お気に入りのぬいぐるみを抱えて部屋を出る。ずっと持ち歩いている薄汚れてくたくたの青い鳥のぬいぐるみはまだ少し暖かい。
蝋燭で照らされるだけの廊下は冷たく、素足だった少女は震えた。さっきまでの騒がしさとは打って変わって、静かすぎるのがなんとなく怖くなってぬいぐるみを抱きしめると少し安心する。そのとき、居間のほうから父の叫び声が聞こえて肩がはねた。もう眠気などどこかに消えて、少女は走り出す。
「――――――と、ととさま?」
わずかな光がこぼれた居間への扉を勢いよく開けると、少女はその先の光景に目を見張った。
「か、かかさま………?」
大好きな両親が折り重なるようにして倒れている。あんなとこで寝ていては風邪を引いてしまう。いつも眠くなってソファでウトウトしてしまう少女に、両親はいつもそう言って部屋に連れていってくれた。ベッドで絵本を読んでくれたのに、明日はお庭でご飯を食べようって言っていたのに。
「侯爵の娘か。まだ幼いが仕方ない。かわいそうだがこれも陛下の命だ。恨むなよ。」
そこで初めて誰かがいることに少女は気がついた。たくさんの騎士が囲んで立っている。
目の前を大きな剣がかすめて床に刺さった。一際大柄な男が呆けてぺたんと尻もちをついた少女に近寄ると、目線を合わせるようにしゃがんだ。首からさげていたペンダントの鎖が剣に切られて床に金属音を響かせて落ちる。
「陛下は息子の方のみを所望だ。すまないな。」
「…青い鳥は、幸福を運ぶんだって。」
「………ん?」
呆然と、目の前の男を認識していないかのように倒れた両親を見つめていた少女が、つぶやいた言葉を男は聞き取ろうとして一瞬動きが止まった。
「――――――逃げ…な、さい! マ、ルスを連れてっ早くっ!!」
その隙を、先ほどまで死んだと思われていた筈の侯爵がかろうじて体を動かし魔法を発動する。一瞬だったが最後の魔法は騎士たちの動きを止め、少女が逃げる隙をつくった。少女は切れたペンダントを掴むと、全速力で走りだす。まだ産まれたばかりの弟は、少女の隣の部屋にいるはずだ。背後から呼び止める男の怒号が追いかけてくるが、少女の父の最後の魔法が邪魔をしているようだ。そして、なぜか体が軽い。
勢いよく扉を開けて入ると、ベビーベッドですやすやと眠る弟の姿と、その側で寝ている乳母がいた。はやる心臓を抑えながら、はあはあと息をつきて飲み込む。
「マルス、全部嘘だったよ。青い鳥なんていないんだ。」
ベビーベッドに揺られる弟を囲みながら家族団らんを楽しんだあの時はもう戻ってこない。少女の頬に一筋の線がはしる。
父から託された、切れた青い鳥を象徴したペンダントは両親の血で赤く染まっていた。手が汚れるのも気にせずにそれを壊れるほどに握りこむ。弟を優しく自分のぬいぐるみと一緒に毛布で抱え込むと、少女は悲しげに微笑んだ。
その数分後、拘束をといた騎士たちが部屋にかけつけた時にはすでに姉弟の姿はなく、もぬけのからとなった揺れるベビーベッドと、胸から血を流して心臓を抜かれて息絶えた乳母の遺体のみがあった。
蝋燭で照らされるだけの廊下は冷たく、素足だった少女は震えた。さっきまでの騒がしさとは打って変わって、静かすぎるのがなんとなく怖くなってぬいぐるみを抱きしめると少し安心する。そのとき、居間のほうから父の叫び声が聞こえて肩がはねた。もう眠気などどこかに消えて、少女は走り出す。
「――――――と、ととさま?」
わずかな光がこぼれた居間への扉を勢いよく開けると、少女はその先の光景に目を見張った。
「か、かかさま………?」
大好きな両親が折り重なるようにして倒れている。あんなとこで寝ていては風邪を引いてしまう。いつも眠くなってソファでウトウトしてしまう少女に、両親はいつもそう言って部屋に連れていってくれた。ベッドで絵本を読んでくれたのに、明日はお庭でご飯を食べようって言っていたのに。
「侯爵の娘か。まだ幼いが仕方ない。かわいそうだがこれも陛下の命だ。恨むなよ。」
そこで初めて誰かがいることに少女は気がついた。たくさんの騎士が囲んで立っている。
目の前を大きな剣がかすめて床に刺さった。一際大柄な男が呆けてぺたんと尻もちをついた少女に近寄ると、目線を合わせるようにしゃがんだ。首からさげていたペンダントの鎖が剣に切られて床に金属音を響かせて落ちる。
「陛下は息子の方のみを所望だ。すまないな。」
「…青い鳥は、幸福を運ぶんだって。」
「………ん?」
呆然と、目の前の男を認識していないかのように倒れた両親を見つめていた少女が、つぶやいた言葉を男は聞き取ろうとして一瞬動きが止まった。
「――――――逃げ…な、さい! マ、ルスを連れてっ早くっ!!」
その隙を、先ほどまで死んだと思われていた筈の侯爵がかろうじて体を動かし魔法を発動する。一瞬だったが最後の魔法は騎士たちの動きを止め、少女が逃げる隙をつくった。少女は切れたペンダントを掴むと、全速力で走りだす。まだ産まれたばかりの弟は、少女の隣の部屋にいるはずだ。背後から呼び止める男の怒号が追いかけてくるが、少女の父の最後の魔法が邪魔をしているようだ。そして、なぜか体が軽い。
勢いよく扉を開けて入ると、ベビーベッドですやすやと眠る弟の姿と、その側で寝ている乳母がいた。はやる心臓を抑えながら、はあはあと息をつきて飲み込む。
「マルス、全部嘘だったよ。青い鳥なんていないんだ。」
ベビーベッドに揺られる弟を囲みながら家族団らんを楽しんだあの時はもう戻ってこない。少女の頬に一筋の線がはしる。
父から託された、切れた青い鳥を象徴したペンダントは両親の血で赤く染まっていた。手が汚れるのも気にせずにそれを壊れるほどに握りこむ。弟を優しく自分のぬいぐるみと一緒に毛布で抱え込むと、少女は悲しげに微笑んだ。
その数分後、拘束をといた騎士たちが部屋にかけつけた時にはすでに姉弟の姿はなく、もぬけのからとなった揺れるベビーベッドと、胸から血を流して心臓を抜かれて息絶えた乳母の遺体のみがあった。
0
あなたにおすすめの小説
“いつまでも一緒”の鎖、貴方にお返しいたします
柊
ファンタジー
男爵令嬢エリナ・ブランシュは、幼馴染であるマルグリット・シャンテリィの引き立て役だった。
マルグリットに婚約が決まり開放されると思ったのも束の間、彼女は婚約者であるティオ・ソルベに、家へ迎え入れてくれないかというお願いをする。
それをティオに承諾されたエリナは、冷酷な手段をとることを決意し……。
※複数のサイトに投稿しております。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
どうぞ添い遂げてください
あんど もあ
ファンタジー
スカーレット・クリムゾン侯爵令嬢は、王立学園の卒業パーティーで婚約もしていない王子から婚約破棄を宣言される。さらには、火山の噴火の生贄になるように命じられ……。
ちょっと残酷な要素があるのでR 15です。
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる