【さっくり読める】幸福の黒い鳥【本編二話完結】

日野リア

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はじまりは

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 静かな夜、満月が世界を照らして微笑んでいると絵本を読んで寝たあの日。また、同じような日々が続くと信じていたあの頃、少女はたくさんの騒がしい足音で目を覚ました。ガシャガシャと金属音を鳴らすのは鎧を着た騎士たちだろうか。眠たい目をこすって、お気に入りのぬいぐるみを抱えて部屋を出る。ずっと持ち歩いている薄汚れてくたくたの青い鳥のぬいぐるみはまだ少し暖かい。
 蝋燭で照らされるだけの廊下は冷たく、素足だった少女は震えた。さっきまでの騒がしさとは打って変わって、静かすぎるのがなんとなく怖くなってぬいぐるみを抱きしめると少し安心する。そのとき、居間のほうから父の叫び声が聞こえて肩がはねた。もう眠気などどこかに消えて、少女は走り出す。

「――――――と、ととさま?」

 わずかな光がこぼれた居間への扉を勢いよく開けると、少女はその先の光景に目を見張った。

「か、かかさま………?」

 大好きな両親が折り重なるようにして倒れている。あんなとこで寝ていては風邪を引いてしまう。いつも眠くなってソファでウトウトしてしまう少女に、両親はいつもそう言って部屋に連れていってくれた。ベッドで絵本を読んでくれたのに、明日はお庭でご飯を食べようって言っていたのに。

「侯爵の娘か。まだ幼いが仕方ない。かわいそうだがこれも陛下の命だ。恨むなよ。」

 そこで初めて誰かがいることに少女は気がついた。たくさんの騎士が囲んで立っている。
 目の前を大きな剣がかすめて床に刺さった。一際大柄な男が呆けてぺたんと尻もちをついた少女に近寄ると、目線を合わせるようにしゃがんだ。首からさげていたペンダントの鎖が剣に切られて床に金属音を響かせて落ちる。

「陛下は息子の方のみを所望だ。すまないな。」

「…青い鳥は、幸福を運ぶんだって。」

「………ん?」

 呆然と、目の前の男を認識していないかのように倒れた両親を見つめていた少女が、つぶやいた言葉を男は聞き取ろうとして一瞬動きが止まった。

「――――――逃げ…な、さい! マ、ルスを連れてっ早くっ!!」

 その隙を、先ほどまで死んだと思われていた筈の侯爵がかろうじて体を動かし魔法を発動する。一瞬だったが最後の魔法は騎士たちの動きを止め、少女が逃げる隙をつくった。少女は切れたペンダントを掴むと、全速力で走りだす。まだ産まれたばかりの弟は、少女の隣の部屋にいるはずだ。背後から呼び止める男の怒号が追いかけてくるが、少女の父の最後の魔法が邪魔をしているようだ。そして、なぜか体が軽い。
 勢いよく扉を開けて入ると、ベビーベッドですやすやと眠る弟の姿と、その側で寝ている乳母がいた。はやる心臓を抑えながら、はあはあと息をつきて飲み込む。

「マルス、全部嘘だったよ。青い鳥なんていないんだ。」

 ベビーベッドに揺られる弟を囲みながら家族団らんを楽しんだあの時はもう戻ってこない。少女の頬に一筋の線がはしる。
 父から託された、切れた青い鳥を象徴したペンダントは両親の血で赤く染まっていた。手が汚れるのも気にせずにそれを壊れるほどに握りこむ。弟を優しく自分のぬいぐるみと一緒に毛布で抱え込むと、少女は悲しげに微笑んだ。





 その数分後、拘束をといた騎士たちが部屋にかけつけた時にはすでに姉弟の姿はなく、もぬけのからとなった揺れるベビーベッドと、胸から血を流して心臓を抜かれて息絶えた乳母の遺体のみがあった。


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