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 夜遅く帰宅したタカシはベロベロに酔っ払ってドアを開けた。
 すぐに美貴みきが駆けつけた。

「よかった。無事に帰ってきて」美貴はタカシを見てホッとた。「大丈夫? つかまって」

 タカシは美貴の胸をジーッと見た。
「美貴の胸は本物だね」
 キャバ嬢にやったの同じように片手で美貴の胸をタプタプ上下に手で揺さぶった。
 美貴はタカシの頭に空手チョップをした。
「何してくれてるの! ド変態宇宙人!! 今度、勝手に触ったら救急車呼んで病院へぶち込むわよ!」
「ごめ~ん、美貴た~ん。美貴たんのオッパイは本物でオレは嬉ちいよ。なんでみんなあんなの胸に入れてるにゃー」
「何語で話してんの? てか、あんなの胸に入れてるって..?」
「少し光る物体を胸の中に入れてる女の子がいるんだよ。なんであんなもの胸の中に入れるんだ。体によくないよ」
「??.....ああ、わかった。豊胸手術をしたってことね」
「あんなもの入れなくても美貴のオッパイみたいにペチャンコでもいいじゃないか」

 美貴は空手チョップをもう一回した。
「失礼ね! ペチャンコじゃないわよ!! だいたい、あんたら男が胸の大きい女の子がいいと言うから、女の子が大金はたいて手術するんでしょ!」
「そうなの? オレ、美貴のペチャンコ好きだよ。ニセモノはダメだな」
「ペチャンコって言うな~!!」
「男がいいと言うからって、なんで手術しちゃうんだ? 自分の体だろ?」
「女の子はね、男の子からいつまでもかわいいと思われたいの。そのためには、男の子がソレがいいと言うと、女の子はソレになるために努力するのよ。必死なんだから、軽々しくニセモノとか言っちゃダメよ。って、その前に透視しちゃダメでしょ! スケベ宇宙人め!」
「ふぅ~ん..」
 タカシは美貴の胸に顔を埋め、顔を左右に動かしながら胸の感触を楽しんでいた。

「ヘンタイ星人! 外で他の女性にこれやったら、即逮捕されるからね。やっちゃダメよ!」
 頭をゲンコツして怒鳴った。

 美貴はふと思った。
「...宇宙のかわいいってどんな?」
「宇宙のかわいいわね~..」
 タカシはスマホを取り出し、画面に指を立てピンクに輝かせた。
 画面の上に3Dの映像が現れた。
 虹色に輝くジェリーのような、手足のないクラゲのようなアメーバだった。

「こんな感じだよ。どう? すごくかわいいだろ?」
 タカシはうっとりした顔でアメーバを見た。
「う...うん」
「彼女はクルパピナンカニハミデタニクムリっていうんだ。宇宙一の美人だよ」
「そうなんだ...」
 美貴はそれ以上何も尋ねないことにした。

 翌朝。
 タカシはミルとジャックに会った。
「タカシさん、おはようございます!」
 ミルは嬉しそうに元気に挨拶した。
「おはようございます! ミルさん、今日なんか嬉しそうですね。いいことあったんですか?」
「ええ、今週、孫が帰ってくるの!」
「ああ、夏休みですもんね」
「ついでに、土曜日は孫の誕生日なのよ」
「あ、おめでとうございます!」
「よかったら、タカシさん、うちへいらっしゃらない? 奥さんもご一緒で。晩御飯を一緒に食べましょうよ。ジャックも喜ぶわ」
「え! いいんですか?」
「ジャックと話せるタカシさんを孫に紹介したいの」
「ありがとうございます! 参加させていただきます!」
ジャックとタカシはワン!と同時に言った。

 会社でタカシは、左を見ると向こう側のシマに座ってる恵理えりと目が合いウィンクされ、右を見ると向こう側のシマに座っている安藤あんどうと目が合いウィンクされた。
 タカシは何も考えずそれぞれウィンクし返した。
 それが地球流の挨拶の仕方だと思っていた。
(オレもだいぶ地球人らしくなったな...)
 ひとりドヤ顔を決めた。

 その夜、タカシは恵理と待ち合わせて、恵理希望のフレンチレストランに行った。

「おいし~! 本間ほんまさんとこんなおいしい料理を一緒に食べれるなんて嬉しいですぅ」
「オレも嬉しいよ」
 タカシはニコッと笑った。
 二人はコース料理を注文し、真鯛の白ワイン煮と牛フィレステーキを食べた。

 タカシは残念な顔をしていた。
(やっぱ鶏が一番だな...)

「奥さんとは相変わらず新婚で仲がいいんですか?」
「ああ、ラブラブだよ」
「じゃ、私の入る隙はないですね...」
 恵理は悲しげな顔をした。
「入るって、オレの家に入るってこと? 一緒に住みたいってこと?」
 恵理はドキッとし、照れながら言った。
「ま、まぁ、本間さんと一緒に住めたらいいなと思いますけど...」
「う~ん、今週末から母が引っ越してくるからね、もう部屋がないんだ。一泊するくらいならオレがソファーで寝るから大丈夫だけど」

 話が噛み合っていないことに恵理は戸惑っていたが、それでも前々から仕事ができると評判のタカシをラブラブ光線で見つめていた。
 そんな恵理の熱い眼差しはガン無視で、タカシは鼻をコーヒーにつけた。
(明日、美貴に鶏の唐揚げ作ってもらおーっと。あれが一番だな)

 ズズズ、ズズズ...

「本間さん...コーヒーを鼻で飲むんですか?」
 ドン引き顔の恵理が声をかけた。
 タカシはハッとしてコーヒーカップから鼻を離し笑顔を見せた。
「このコーヒーいい香りだね」
 タカシの鼻からコーヒーがポタポタこぼれた。


 恵理は帰り道、わざとラブホテルが多い通りを選んだ。
「この辺、きれいな建物が多くて好きなんです」
「へぇ~、確かになんかロマンチックだなぁ」
タカシは洒落た造りのホテルに感動していた。
「その建物、ラブホテルですよ」
「ラブホテル? あのセックスっていうをするところ?」
「やだぁ、もう~ハッキリ言っちゃって~」
「あれ? オレ、間違えた? 確かネットの情報だとセックスする場所って書いてあったと思ったんだけど..」

 恵理は少し間をあけて言った。
「..私、奥さんいても気にしません。本間さんだったらいいですよ」
「へ?」
 驚くタカシの目を恵理はジッと見た。
「中に入ってもいいですよ」
「オレとセックスするってこと?」
 恵理はうなずいた。
「やっぱ、セックスだ。当たってた? あーよかった。ネットでガセネタつかんだと思った」

 恵理はジーッとタカシを見ていた。
 タカシははにかんで言った。
「オレ、実はセックス下手なんだ。だからちょっと勉強するから時間をくれないか? 上手になったら、君をここへ誘いたいのだけど、いい?」
「..別に下手でもいいですけど...」
「いや、ダメダメ。上手にやりたいんだ。本当の地球の挨拶の仕方をきちんと学びたいんだ」
「.....」

 恵理はいまいち話が噛み合わないことに戸惑ったが、上手くいけばタカシをゲットできると期待だけがどんどん膨らんでいった。
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