夫が宇宙人になりまして...

ハミデタニク・イトヲカシ

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 ドアベルが鳴った。
 タカシが女を連れて入ってきた。昨日見た女の子だった。

美貴みきさん、こんにちは。クルパピナンカニハミデタニクムリと申します。私の彼氏のジャンケルポリスマハゲテルマッチョがお世話になり、いろいろとありがとうございました」
 タカシの彼女は美貴に深々とお礼をした。

「ジャ...??」
 美貴は固まった。タカシが照れた。
「オレの名前だ」

(みんな長いんだ...どこまでファーストネームで、どっからファミリーネームなんだろ...ミドルネームとかあったりして...)
 美貴が遠い目で二人を見た。

「美貴のお腹の子はたかしによく似た元気な男の子だ。副作用はないから心配しないで」
 タカシが嬉しそうに言うと、美貴は寂しそうな目でタカシを見つめた。
 泣きそうな美貴を気遣うようにタカシが笑った。
「美貴、今までありがとう。君に出会えてよかった。地球は素晴らしい生き物がいっぱいで、本当にいい星だ。それに素晴らしいもあるしね。いいレポートが書けた」
「レポートの課題は決まったの?」
 美貴が訊いた。
「ああ。地球の挨拶についてだ」
「挨拶?」
 クルパピなんとかが、きょとんとした顔でタカシに尋ねた。

 タカシはニヤッと笑い、
「昨日のだよ。君がすごく気持ちいいと喜んでたアレだ」
「ああ! アレ? アレがこの星の挨拶なの? すごく気持ちよかったわ! とっても素晴らしいわ!!」
「だろ?」
 クスッと、タカシのドヤ顔を美貴は死んだ目で見ていた。

(やはり...昨日、ッたんだな...人の夫の体で...この野郎...)

「美貴、喬にオレが喬の体を借りたこと、借りてる間に起こったことを全部伝えておくよ」
「ちょっと待って! 昨日のことは二人に伝えないで! 伝えると面倒なことになるから!」
 美貴は焦った。

「あー! そうだった!! 忘れてた! 既婚者がアレを他人とやるとお金を払わなきゃいけないんだ。昨日のことは体の持ち主に伝えちゃダメだ。いいね?」
 タカシはクルパピなんとかに強く言った。
「まあ! あんなに素敵な挨拶なのに? もったいない...」

 美貴はまた死んだ目で二人を見た。
(...そもそも挨拶じゃないし...タカシめ、地球について何をどう書くつもりなんだろ.....)

 訝しげな顔をしている美貴をよそに、タカシは帰る準備をした。
「美貴、お別れのときだ。今までありがとう」
 タカシが美貴の頬に軽くキスをした。
「喬の体を貸してくれてありがとう。君に返すよ」

 そう言ってやさしく微笑むと、タカシはその場で横になった。目を閉じて、しばらくすると鼻から透明のアメーバが出てきた。直径5センチくらいのピンクに光るアメーバだった。
 クルパピなんとかはアメーバを手にのせ、虹色に輝くタケノコ型の宇宙船にアメーバを入れた。

「美貴さん、本当にありがとうございました。私達の星に帰ります。さようなら」
 クルパピなんとかは美貴に丁寧に挨拶し、ピンクのアメーバが入ったタケノコを持って家を出た。
 バタン!とドアが閉まると、

 <美貴、ありがとう!>

 タカシの声が聞こえた。美貴の頬を涙が伝った。
「タカシ、ありがとう! 元気でね!」

 美貴が涙を拭いていると喬が目を覚ました。
 体を起こしキョロキョロしていた。

「美貴...」
 呼ばれて美貴が振り返った。
「喬....喬なの?」
「美貴...オレ、宇宙人に体を乗っ取られてた?」
「...うん」
「やっぱ夢じゃないんだ...」
 目覚めたばかりの喬はボーッとしていた。

 美貴は喬をジッと見た。
「喬、私の一番好きなもんじゃの具は何?」
「え? タコだろ?」
「喬!!」
 美貴は喬に抱きついた。
「喬に戻ったのね!」
 美貴はまた泣いた。

 喬もギュッと抱き締め返した。
「イカも好きだよね。なんせ軟体動物が好きなんだよな。結婚式の前日に海鮮もんじゃ3人前食ってたもんな。ははは」
「思い出し過ぎ!」
 美貴はぷぅ~と膨れた。
「それはそうと、浮気しただろ?」
 喬は不意をついて訊いた。
「ええ!? してないわよ!」
 美貴は焦った。
「オレじゃないヤツとッただろ?」
 喬の目を見て、美貴の目が泳いだ。

「い、言っときますけど、お腹の子は正真正銘あなたの子です!」
「やっぱりヤッたんだな」
 美貴は冷や汗をかいた。喬は笑った。

「1ヶ月早く子供がほしいからって、なんで簡単に騙されちゃうんだよ」
 しっかり者の美貴が何も言い返せずタジタジになっている姿が喬にはおもしろく映った。
「今回だけ見逃してやる」
 喬は美貴をやさしく抱き締めた。
「喬...」
 美貴は甘えるようにしがみついた。

 二人が抱き合ってる向こうの空に、一筋の光が上へ向かって輝いた。


 1年経ったある日、美貴は赤ん坊を抱っこしながらベランダにいた。
 泉田いずみだと女装した真佐希まさきがジャックとモモコを連れて公園を散歩するのが見えた。
「いい感じね~。自由に恋愛したり、自由に生きるって、簡単なようで難しいのよ」
 美貴は首がすわったばかりの息子に言った。

 たまに真佐希が泉田を連れて喬の母のもんじゃを食べに家に遊び来ていた。ジャックとモモコも連れてくるのだが、不思議なことに、喬はジャックとモモコと会話ができるのだった。

「ま、ちょっとした後遺症だろ」
 そう言って喬はその能力を楽しんでいた。

「こうして平和でいると、去年のことがウソのようだわ」
 美貴は息子を見た。
わたるが生まれる前にね、実はここに宇宙人が来たのよ~。パパの体に入ってね、おもしろかったんだから~」
 亘はキョトンとした顔をしていた。
「ふふふ。その宇宙人はね、空の彼方、土星のずっと向こうから来たのよ~。すごいよね、宇宙人と遭遇なんて」
 美貴は空を指差して亘に言った。
 亘は違う方向を指差し、
「あー、うー」
 と美貴に言った。
「え? なぁに? そっちの方向になんかあるの?」
 美貴は亘が指差す方を見たが、ただの青空だった。

 喬が歯磨きしながらベランダに来た。
「土星はこっちだよって亘が言ってるんだ」
 そう言うと、喬は洗面所へ行った。
 ソファで喬の母が孫の靴下を編んでいた。髪をオレンジ色に染め、見た目が若くなっていた。
 母は洗面所にいる喬の様子をチラッとうかがった。喬は口をすすぐとペッと吐き出した。母はホッとして靴下を編んだ。

 美貴は亘を見て、亘が指した方向を指しながら、
「あっちに土星があるの?」
 と半信半疑で訊いた。
 ウンとうなずく亘に美貴は口を開けてビックリした。

「.....もしかして、見えるの!?」

 亘は美貴を見て満面な笑みを浮かべた。

 美貴は空を見上げた。
「タカシぃ~~! うちの子、めちゃめちゃ後遺症あるじゃんか! コラ~~~ッ!!」

 美しい快晴の空に美貴の叫び声が鳴り響いた。


<完>
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