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夏の夜の夢と、TSした甥っ子と、
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「……止んだか」
雨は退勤途中の電車の中で降り始め、駅を出る頃には土砂降りとなっていたが、どうやら それも にわか雨のようだった。俺は傘を畳んで軽く左右に振り、雨粒を払い落とす。街灯の灯りに照らされている自宅アパートは目と鼻の先だ。
厳しい暑さが続いている中での雨も一服の清涼剤とはならず、ただ不快な蒸し暑さが増すだけだった。
アパートは駅から多少離れた二階建ての古い建物だ。家庭持ちなら快適な生活は難しいかもしれないが、幸いにも、━━ その言葉が適切かは分からないが、俺は一人暮らしのため何ら不自由を覚えたことは無い。
錆だらけの手すりを掴まぬよう、俺は自室のある二階への階段を上る。
━━ ……ん?
俺の部屋の前で膝を抱えて うずくまっている女性と思しき姿が目に入った。一番奥の部屋だから決して見間違いでは無い。俺は やや緊張しながらも訝しげに近付いていくと、顔を覗き込むようにして恐る恐る話し掛けてみた。
「……あの、どちらさま?」
うずくまっていた人物は俺の言葉に反応するように顔を上げた。━━ やはり、女性だ。その女性は俺の顔を見るなり若干の疲れが混じった笑みを浮かべる。
「……あ……おかえり。おじさん」
「おじさん……?」
ぱっと見た感じ、十代後半から二十代前半と言ったところだろうか。俺には そんな年頃の女性から ”おじさん” と呼ばれるような関係性を持った人物に心当たりなど無い。
だが、俺の顔を じっと見つめたまま顔色一つ変えないのを見る限り、他の誰かと勘違いしていると節も無さそうである。
「えーと……君は……」
ここで、ふと、━━ 俺は女性の顔に既視感を覚えた。懐かしいとか、何かを思い出したとかでは無く、単純に ”似てる” と思ったのだ。俺は ぽつりと呟く。
「もしかして……懐樹……?」
「……うん。……やっぱ、分かる?」
「いや……まぁ、何と言うか……似てる気がしたからな……俺に。……何と無く」
「……そっか」
懐樹は俺を見上げながら力無い笑みを見せた。
どうしたものか、と俺は立ち尽くしながら懐樹に気付かれないよう軽く溜め息を吐く。
懐樹は俺の兄の息子だ。つまり ”甥っ子” である。
しかし、目の前に居るのは どう見ても女性の姿だ。スカートから覗く足の筋肉質は女性の それであり、何よりも膝を抱えていても胸の膨らみがシャツ越しに確認出来ている。
「……TS……か」
「……うん」
今度は気付かれても構わないくらいに大きく一つ溜め息を吐いた。
TSとはトランスセクシャル、━━ 性転換を意味している。
甥っ子ならば兄弟の息子なのだから俺に似ていても何ら おかしくは無い。ただ、まさか甥っ子が性転換をしているなど夢にも思わなかったため、今の女性としての懐樹の顔を見ても真っ先に思い浮かぶのが男性の頃の懐樹の顔では無く、血縁関係者としての俺自身の顔が浮かんだのだ。
「何で また そんな……」
非難の言葉に聞こえたのだろうか、懐樹は無言で目を伏せる。
かつては心身ともに多大な危険を伴う大手術以外では不可能だった性転換が、何ら副作用も無いTS薬の登場によって安全且つ容易に可能となったのだ。
肉体的に完全な状態に性が転換するのである。身体が作り変わると言った方が早いかもしれない。
結果、━━ 当初こそ多少の混乱はあったものの、それ以前より性の多様性が認められつつあった世界はTS薬を すんなりと受け入れ、今では望む人すべての元へと届くようになっていた。
「兄貴は お前が ここに居るのは知ってるのか?」
懐樹は無言のまま首を横に振る。どうやら兄貴には内緒で来たようだ。いや、━━ 内緒と言うよりは、むしろ何か訳ありと考えるべきなのかもしれない。
「そもそも お前が ━━」
そう呟いたところで俺は言葉を止めた。
━━ そもそも懐樹が性転換したことを兄貴は知ってるのか?
俺は膝を抱えながら目を伏せている懐樹を見下ろしながら三度目の溜め息を吐いた。いつまでも玄関前で話し込む訳にもいかない。
「まぁ、何だ……いつまでも そこに座ってないで……取り敢えず中に入んなよ」
「……うん」
懐樹は立ち上がるとドアの前から離れた。俺はポケットから取り出した鍵を鍵穴に差し込みながら懐樹に ちらりと目を向ける。
「……背……縮んだのか?」
「うん。……骨格も変わるから」
「そうか。……何か、不思議だな」
「うん」
昔より受け入れられるようになったと言っても、あくまで それはマイノリティに配慮するような世相や世論の流れに合わさなければならないと言う、言ってしまえば同調圧力に近いようなものが後押しした結果とも言えない訳ではない。
大手術も必要とせずに骨格さえも変化すると言う理由から、TS薬自体が一定数の人々からは受け入れられてないとも耳にしている。人は己の理解の範疇を超えると排斥したがる生き物なのだと改めて思い知らされたりもした。
俺でさえも見知った甥っ子が こうして女性の姿になったのを目の当たりにすると、まるで魔法を見ているように思えてしまうのだ。
ならば、━━ もっとも近しい兄や義姉の心中は決して穏やかで無いのは想像に難くない。
俺はドアを開けて懐樹を部屋の中へと促す。
「ほら」
「……うん。お邪魔します」
「電気点けて。直ぐ横の」
「……ん……あ、これかな」
玄関に電気が灯り、懐樹の姿が薄暗かった室外よりも一層 鮮明になる。びしょ濡れとなったシャツはブラジャーが透けており、反応に困った俺は思わず顔を しかめてしまった。
「……びしょ濡れじゃ無ぇかよ」
「傘持ってないから。……濡れちゃった」
「あー……じゃあ、そのまま風呂入れよ。そこの手前のドア。奥はトイレだから。……ガスとか分かるよな?」
「うん。多分」
「何も持って無いのか?」
「うん」
「晩メシは?」
「まだ」
「じゃあ、そこのコンビニで何か買ってくるから風呂入ってろ。……そうだ、何が良い?」
「何でも良い。好き嫌い無いから」
「……あー、そうだったな」
独り言のように呟きながら俺は鞄と傘を置くと玄関から外へ出た。玄関の横の浴室の窓から灯りが漏れ、換気扇が回り始める。それを横目に鍵を締めると、アパートの階段を降りながら俺はポケットからスマホを取り出した。
「……もしもし。兄貴か? ……ああ、そう。……いや、ちょっとな。調子はどうかなって……ああ、そうか。……そういや……懐樹は……どうしてる? ……は? 何だよ、あんなヤツなんて どうでも良いって。……ああ。……え? ……そう……か。懐樹が……か。……ああ。……ああ。……本当に それで……兄貴は本当に それで良いのか? ……ああ。……分かった。……ああ。……ああ。……じゃあ……」
通話終了をタップして俺はスマホの電源を切ると、何も映らない画面を やや暫く見つめてから、アパートの前の道路から二階の自室の方へと振り向いた。
『……知らん。……あんなヤツなんて どうでも良い』
『……あのバカ。……親に相談もせず勝手にTSしやがったんだよ』
『理由を問い詰めても何も言わないで……挙句に飛び出していきやがった。もう知らん』
『もし、そっちに行っても追い返せよ。助けようとなんかするな。放って置けば良い』
『……せめて、相談は欲しかったよ』
━━ ……どうしたものか……。
俺はスマホをポケットに しまって何度目かの溜め息を吐くとコンビニへと歩き出した。
TSは当事者だけの問題では無い。周囲の理解が あってこそなのだ。昨日まで男だった人間が翌日には女に なったとして、それを無条件で受け入れられる程、人も世界も まだ成熟はしていない。
━━ また、降るかな。
晴れるのか、はたまた ふたたび降りだすのか。━━ まるで、今の俺の何とも形容し難い気分を表しているかのような空模様だ。
━━ 最後に会ったのは いつだったか……。
コンビニで適当に弁当を選びながら俺は昔を思い出す。確か中学生だっただろうか。年相応よりも幼さを感じさせていた。
━━ 男子は女子よりも子供っぽいと言うが……そうか、そんな あいつも……もう大学生……だったか。
アパートの階段を上り、ふと自室へと目を向ける。ドアの横の窓からは まだ橙色の灯りが漏れたままだった。更に近付くと回っている換気扇から生暖かく湿気った空気の匂いも漂っている。
この壁の一枚向こう側に裸の女性が居ると言うのに、脳裏に浮かぶのは昔のままの、━━ 少年のままの懐樹の姿だ。
「……あー……そうか……」
俺自身も まだ、懐樹がTSをした事実を受け入れられていないのだ。
鍵を開けて部屋の中へと入ってから、もはや習慣付いてしまったようにテレビを点けると、ようやくバスタオルを用意しなければならないのを思い出す。
「あ……バスタオルか。……あ、しまった……」
バスタオルを収納ケースから取り出しながら、今の懐樹に合う下着が無いのに気付いた。俺は こめかみ辺りを指で掻きながら溜め息を吐く。
「……未使用はあるけど……男物……」
ブラジャーをしているのならば下だけが男物だとは考え辛い。だからこそ、どんな理由が あったのか分からない以上は、男物の下着を渡すのはTSをした者に対する ”当て付け” と捉えられてしまう恐れもある。
「……迂闊か。……まぁ、考え過ぎだろうが」
男の一人暮らしなのだから女物を用意してある方が おかしな話だ。取り敢えずは袋に入ったままの下着も持って風呂場へと向かうと、わざとらしく音を立てるように風呂場の扉を開けて浴室の半透明のガラス戸越しに呟き掛けた。
「バスタオル置いとくからな。……あと、シャツとジャージと……悪いけど下着は男物しか無くてな。……一応 未使用だから」
「あ……うん。大丈夫。……ありがとう……」
浴室のガラス戸は表面に不規則な凹凸のある ”型ガラス” だったため、浴室内の様子は はっきりとしたシルエットすらも判別出来ない仕様となっている。このガラス戸の向こう側に女性が居るのだが、やはり脳裏に浮かぶのは甥っ子の、━━ 男子としての姿だ。
俺は蒸した熱気から逃げるように風呂場から出ると直ぐに冷房を点けた。その冷風を受ける位置に腰を下ろすと、コンビニの袋の中身をテーブルの上に広げる。パスタ、おにぎり、サンドウィッチ、蕎麦、からあげ弁当、お茶、プリン、━━ 取り敢えず一種類ずつ買ってみました、とでも言うようなラインナップだ。
「……蒸すな……」
何を話しかければ良いのかとか、どのように接すれば良いのか、━━ と言うような変な緊張感は無い。そこは、やはり赤の他人では無いからだろう。
やがて、━━ 風呂場のドアが開く音がして、懐樹が居間の方へと姿を現した。
「出た」
「おう」
俺はテレビを見たまま敢えて懐樹の方を振り向かずに返事をする。懐樹はテーブルを挟んだ向かい側では無く横に座った。そこで、ようやく俺は懐樹の方へと振り向く。どうやら俺が風呂場に置いたシャツとジャージを着ているようだ。
一度目を向けて直ぐに背けるのも変な話なので、俺は まじまじと懐樹の姿を眺める。改めて直視すると面影は やはり昔の懐樹のままだった。
「……本当に……懐樹なんだよな」
「……うん。そうだよ」
疑う余地など無いのだが、それでも頭から信じられないのも事実である。
「濡れた服とかは洗濯機 使って良いぞ。……あと、ドライヤーも風呂場に置いてあるけど。……何なら ここで使っても良いぞ。風呂場は暑いからな」
「あ……うん。洗濯機 借りるね。びしょ濡れだし。……あ、そうだ。パンツわざわざ新品 出してくれてありがとね」
「……サイズとか合わないだろ?」
「うん。でも、大丈夫だよ。びしょ濡れのパンツ履きたくないし、ノーパンも嫌だし」
「……そりゃ、そうだ」
びしょ濡れが嫌だと言うならば今はノーブラなのか、━━ と脳裏に浮かんだりもするが、それ以上でも それ以下でも無かった。俺は ぼうっとしたままテレビを眺め続けるのみである。
一週間の仕事を終えた一人暮らしの金曜の夜など この程度のものだ。
━━ 明日の休みは……どうするかな。
洗濯機の回る音が聞こえて来ると、続けてドライヤーの音も聞こえて来る。
━━ ……どうしたものか。
そもそも、触れて良いものなのかさえ分からないような、━━ 実の親である兄貴でさえも知り得ない複雑な事情を抱え込んでいるのだ。
やがて、ドライヤーの音が止まると懐樹が ふたたび居間へと戻って来る。
「洗濯用のネットとかあるんだね。助かったよ」
「ああ。靴下とか纏めて放り込むと楽だからな」
「あー……生活の知恵的な?」
「そうそう。……ん? お前も使ったのか?」
「うん。ブラの形 崩れちゃうからね、ネット無いと。……ホントは手洗いが良いんだけど。そんな高いのじゃ無いから」
甥っ子の口から ”ブラ” と言う言葉が飛び出して来たのに若干の戸惑いを覚えてしまったが、それを察せられる訳にはいかない。俺は勤めて平静を保ちながら敢えて その話題に乗っかってみた。
「なるほど。……何だ、じゃあ、今やっぱりノーブラなのか」
「そうだよ。……何なら見てみる?」
思わず どきりとしてしまうが、やはり察せられる訳には いかない。面白半分に話しているようには見えなかったからだ。
「は? 何だよ、見てみるって」
「興味無い? 実際TSした身体とかってさ、見ること無いでしょ?」
確かに、━━ と俺は首を傾ける。完全に身体が変わると聞いてはいるが、実際に自分の目で確める機会など そうそう ありはしない。だからと言って興味半分で確めようとするのも何と無く心に引っ掛かるものがある。
「……言われてみれば……そうだな。気にならないって言ったら嘘になるけど……まぁ、別に……逆に変なところがあるって言う方が、見てみたい気もするかな」
「あはは! 何それ。でも、そうかもね。ホント普通だよ。普通の女子の身体だもん」
「……普通……か」
「うん。至って普通」
普通と言う言葉に色んな意味も込められていそうだが、そう言うのならば敢えて確める必要など ありはしない。俺は僅かに残った好奇心を打ち消すべく風呂場へと向かおうとする。
「そうか。……あ、そうだ。俺も風呂入って来るから、好きなもん食っててくれ」
「分かった。ありがとう」
風呂場に入ると洗濯機は既に脱水が始まっていた。もう直ぐ止まるかな、と脳裏に浮かべながら浴室へと入ると、やはり想定通りに終了を告げるブザーが鳴った。
俺がシャワーを頭から浴びている間に懐樹が風呂場へと入って来る。洗濯物を取り出しながらだろうか、懐樹の声が飛んで来た。
「おじさん」
「……ん? どうした?」
「ハンガー借りるよ」
「ハンガー? ……ああ、どうぞ」
更に一刻の後に、━━ 声が掛けられる。
「おじさん」
「……ん?」
「背中流して上げようか?」
「……あー……別に気を使わなくて良いぞ。飯食ってろよ」
そう呟きながら俺は懐樹が まだ小学校の低学年だった頃、一緒に お風呂に入ったのを思い出した。シャンプーが目に入って泣いていたのを今でも覚えている。
シャワーを止めると、━━ 唐突に浴室のドアが少しだけ開かれた。
「……おじさん」
「……あー……分かった分かった。頼むよ」
変に遠慮するよりも普段通りに振舞った方が良いだろう。俺は懐樹に悟られぬよう顔を伏せて溜め息を吐いた。
「よーし!」
気合を入れながら懐樹はジャージのズボンの裾を膝まで捲くり上げてから、━━ 何故かシャツを脱ぎ出し始めた。これには、さすがに俺も仰天してしまう。
「おい!?」
「だって、濡れちゃうじゃん」
「替えなら、いくらでもあるから!」
「分かった」
何が分かったと言うのだろうか、━━ とうとう懐樹は俺の目の前でシャツを脱いでしまったが、目を背けるタイミングを逸した俺は眼前の双つの山を凝視してしまう。
それは豊満と言う言葉が よく似合った物体だった。いや、━━ それ以上と言っても過言では無い。張りや艶も申し分無く、そんな巨大な物体が垂れもせずに重力に逆らいながら途轍も無い存在感を主張しているのだ。
上向きに付いている乳首も薄紅色で、あろうことか、━━ 恥ずかしげも無く ぴんと勃っていた。
「……お前な……」
「……えへへ……どうかな?」
懐樹は恥ずかしそうに笑みを浮かべながらも隠そうとせず、むしろ俺に見せ付けようとしている。正直言って懐樹が何を考えているのかは分からないが、俺としては性的に褒めるのでは無く、無難に先程の話の延長と捉えようとした。
「……ああ。そうだな……確かに変なところは無いと思う。世間で言われている通り、完全に変わっちゃうんだな」
「でしょ? ね、凄いよね」
懐樹は笑みを浮かべたままだったが、その心中は計り知れない。もしかしたら、━━ 性的に褒めて貰いたかったのかもしれない。
俺は今は一人暮らしだが、決して女性と付き合いが無かった訳では無い。これまでに何人かの女性と関係も持って来た。それを以ってしても、たった今 間近で凝視している懐樹の豊満な胸は大きさも形も一番だと断言出来た。
━━ ……それでも……な。
「……じゃあ、頼むよ」
「うん。分かった」
それでも、俺の中で湧き上がる衝動的な ”何か” は無かった。いくら女性の身体になったとしても懐樹は俺の甥っ子なのだ。俺自身が意識の根底から そう認識してしまっている。
だからこそ、素晴らしい身体を目の当たりにしても ”欲望” と言った類が湧き上がって来なかったのだ。
懐樹は俺の背中を洗い始める。何と言えば良いのだろうか、やはり女性の力の入れ具合だ。
「痛く無い?」
「全然」
「気持ち良い?」
「……何で小声なんだよ」
突然の悪戯っぽい思わせ振りな喋り方に俺は苦笑してしまった。
「……ねえ、おじさん」
「……ん?」
「おじさん。……今、お付き合いしてる人とか居るの?」
「……何だよ、唐突に。……んー……いや、居ないなぁ……」
互いに裸の この状況で女性関係を聞かれるのは何と無く居心地の悪さを覚えてしまうが、そんな俺の思いなど気にも留めずに懐樹は更に踏み込んで尋ねて来る。
「そうなんだ。……あの……前 会った時に話してた人は?」
「……前? ……あー……そうか、兄貴は言わなかったんだな。……亡くなったんだよ」
「……え? ……そうなんだ。……ごめんなさい」
「いや、良いさ。もう……五年も前の話だ。……事故でな」
そう、俺が最後に付き合っていた女性は五年前に交通事故で亡くなっていた。
何と無く気が合って、気が付けば どちらからとも無く付き合い始めていて、気が向いたら その内にでも結婚しようかと言い続けていた女性だった。
━━ もう、五年前……か。
互いに気を使うことも無く、一緒に居るだけで幸せな気持ちになれる人など、後にも先にも彼女のみだった。
「……やっぱり、辛かった?」
「そうだな。……生きる気力ってやつが本当にあるなんて、あいつが亡くなって初めて知ったな。何も手に付かなくて……まぁ、それでも……結局時間だよ。解決するのは……な」
「……そっか。……時間か……」
良い思い出もあれば悪い思い出も ある筈なのに、思い出すのは良い思い出ばかりだ。今となっては こうして突然 尋ねられても笑って話せるようになっている。
時間が俺を癒してくれたのだ。
「……もう、誰かと付き合いたいとか無いの?」
「……何だ、ぐいぐい来るな」
「良いじゃん。教えてよ」
「……そうだな。……まぁ……是が非でも欲しいとかは無いなぁ。……亡くなった彼女も そうだったけど……自然の流れで出会えれば……じゃ無いかな」
「……そっか。……じゃあ……例えばだけど、TSした元男性とかでも良いの?」
「……そうだな。考えたことも無かったな……そう言えば。……まぁ、好きになったやつならTSしてようが どんなのでも気にはならないだろ」
「男でも?」
「……そんなもんじゃ無いのかな」
「……うん。……そう……だよね」
心なしか懐樹の声が弾んだように聞こえたが、背中を預けている俺には その表情は窺い知れない。
「はい。終わり!」
「ああ。ありがとう」
「はい、タオル」
「……ん……ああ」
ボディタオルを受け取る際に ふたたび懐樹の胸が視界に入ってしまう。やはり性的な衝動は湧き上がらないが、だからと言って大っぴらに褒められた行為では無い。
大の大人同士なのだから あれこれ言う必要も無いと言えば それまでだが、取り敢えずは一言だけ忠告をしておく。
「……なぁ、懐樹。……TSしたのは女性に なりたかったから……なんだろ?」
「……うん。まぁ……そうなる……かな」
「だったら、もう、そうやって人前で簡単に肌を晒したりするなよ」
「……うん。……あの……おじさん。……わたしの胸見て……どきどきしたかな?」
俺は一瞬 言葉に詰まってしまった。質問の意図が汲めなかったからだ。
「……あー……いや、何か……嫌らしい言い方になるけど……何だ。……立派だとは思うけどな。……思うんだけど……正直なところ甥っ子としてしか見られないから……な」
「……そっか。……まぁ、そうだよね」
「昔の お前を知ってるからな、どうしても そうなるだろ。……すまんが今直ぐに女性扱いしろと言われても ちょっと難しいかもな。それこそ時間が解決してくれるとは思う」
「……うん」
「ただな、一つだけ言っておくけど、お前が男だろうが女だろうが俺と お前の関係は変わらないからな。お前は兄貴の子供で俺は お前の叔父だ。どんな姿だろうと、どんな事情があろうと俺は お前の味方だからな」
「うん。……ありがとう。おじさん……」
懐樹は その言葉と共に、背後から俺の首に腕を回して来た。当然のように、━━ 俺の背中には直接 ”あれ” が当たってしまう。
「な、懐樹……お前!?」
「女性扱いするの難しいんでしょ?」
「い、いや……そう言ったけど……」
背中に直接当たる感触は否が応でも その大きさを際立たせる。いや、大きさだけでは無い。柔らかさや張りまでもが背中越しに伝わって来た。その一方で中心から伝わって来る乳首の感触は乳房とは別の、━━ 固さと言うベクトルで主張をして来ている。
「……これでも……無理かな……おじさん」
「……懐樹……」
俺は ふと言葉では言い表せない違和感のようなものを覚えた。単純に懐樹が女性扱いして欲しいのか、それとも それ以上を望んでいるのかは明らかでは無いが、俺の覚えた違和感のようなものは そう言った色恋の類とは無縁だと直感した。
━━ TSするまでに……あるいはTSしてから……懐樹に何か あったのか……?
直接問い質せば話は早いのだが、そもそも問い質して良いものなのかどうなのかも難しいところである。人の心に踏み込むには相応の資格と覚悟が必要だからだ。
ただ一つ確実なのは、こうして直接 胸を押し当てられようが俺の中から”男”としての衝動が湧き上がっては来なかった、━━ と言う事実のみである。懐樹は兄貴の子供である以上、━━ 肉親に近い存在なのだ。
それに気付いたのか懐樹は俺の背中から離れると取り繕うような笑みを浮かべた。
「あはは……ごめんね、おじさん。変なこと言っちゃって」
「……ああ。……いや、まぁ……何だ。……さっきも言ったけど昔の お前が俺の記憶に残ってるだけだから。……時間が経てば ちゃんと女性として扱えるようになるさ」
「うん。……ありがとう」
そう呟くと懐樹は浴室を後にした。俺は高鳴る鼓動を抑えるために水シャワーを頭から被る。
━━ ……まったく。子供だと思ってたが……そうか、もう二十歳過ぎてる筈だよな。
背中に残る感触が熱を帯びて、それが今になって股間を反応させてしまう。だが、それは懐樹に反応した訳では無く、あくまで背中に残った女性の感触に対して反射的に反応を示しただけだ。
果たして、今の行為に何らかの意図は あったのか。単純に からかって来ただけなのか、それとも女性としての肉体を改めて確認して欲しかったのか、あるいは、━━ 俺に対して男女の関係としての好意を示してくれたのか。
━━ 何か……あったか……。
俺が覚えた違和感の正体は まだ分からないが、何かを抱え込んでいるのは確かなのだろう。そもそも ずぶ濡れのまま大した荷物も持たずに、俺の部屋の前で膝を抱えている時点で何らかの問題が発生していたのは確実である。
━━ TSか……。
両親に無断でTSする程、━━ 何かに対して思い詰めていたのだろうか。
浴槽に浸かりながら様々な可能性を考えてもみたが、所詮可能性の話に過ぎない。人に話して楽になると気付けば自ずと話して来るだろう。しばらくは そっと見守り続けるしかない。
溜め息を吐きながら浴室を出た俺の目の前に飛び込んで来たのは、洗濯ハンガーに吊るされた真っ白なブラジャーとパンツだった。思わず口から飛び出す言葉は ただの感想である。
「……でかいな……」
風呂場から出ると冷蔵庫へと直行し、火照った身体を鎮めるための至極の一本を取り出した。
「懐樹」
「……何?」
「ビール飲むか?」
「飲む!」
俺は もう一本取り出すと居間へと戻り、先程と同じ場所に座りながら懐樹の前にビール缶を差し出した。
「ほらよ」
「ありがとう! あっ、ビールじゃん!」
「だから、ビールだって言っただろ?」
「……いや、てっきり発泡酒かと……」
「……あー……週末くらいな……」
「お楽しみって訳ね」
「そう言うこと」
「お裾分け、いただきます」
「……ん」
プルトップを開けた缶を懐樹が差し出して来たため、俺は自分が持っている缶を それに軽く当ててみせた。
TSは十九歳以下は親の同意が必要だが、二十歳以上は自己申告のみで可能だ。懐樹は両親に相談せずにTSしたのだから二十歳は超えているのである。
━━ 酒は大丈夫と……。
未成年者では無いのだから取り敢えずは一安心と言えよう。
「まだまだ あるからな。遠慮しなくて良いぞ」
「ホント!? ありがとう!」
酒を飲みながらの会話は取り留めの無い話ばかりだ。懐樹も特に嫌がる素振りも見せずに男だった頃の話も交えて昔話に花を咲かせる。過去の自分を否定したい訳では無いのだと俺は一応の安堵を覚えた。
「わたし、おじさんと旅行 行くの楽しみだったんだよね」
「……あー、そう言えば俺が引っ越す前は毎年夏休みに お前と二人で旅行に行ってたな。兄貴も義姉さんも忙しい人たちだから」
「ホント楽しみだったんだよ。どこ行くか決めないでさ。一週間一緒に色んなとこ連れてってくれて」
「そうだな。楽しかった」
懐樹は昔から人懐っこい性格で俺にとっても甥っ子でありながら、弟のような存在だった。一緒に旅行に行って温泉に入ったり、兄貴や義姉さんたちに代わって悩みの相談なんかも受けたりしていた。
「引っ越してからは行ってないの?」
「まぁな。……そんな気も湧かなくてな」
引っ越して直ぐに彼女が亡くなったのだ。それ以来どこかへ旅行へ行く気にもならずに今日までを過ごしている。有り体に言えば無気力と なってしまったのだ。
「……そっか。……また行きたいなぁ……」
「そうだな。また行くか」
「ホント!? 行きたい!」
姿は変わってしまったが甥っ子を前にして俺も あの頃の楽しい時間を思い出していた。俺自身も今のままの無気力で良いとは思っていない。こうして懐樹が会いに来てくれたのが ちょうど良い切っ掛けになるのかもしれなかった。
━━ そうだ。俺も……いつまでも このままじゃ……な。
気が付けば、━━ 俺も懐樹も完全に酔いが回ってしまっており、テーブルの上は空き缶だらけとなっていた。もはや まともな会話にすらなっておらずに、ただ馬鹿笑いをしているだけである。
だが、心の底から笑えたのは本当に久しぶりだったかもしれない。
飲み干した何本目かのビール缶をテーブルに置くと、懐樹はアルコールで紅潮した顔に笑みを浮かべたまま俺の隣へと近付いて来る。
「おじさん……暑いよ。脱いで良い?」
「おう。脱げ脱げ」
「はーい! 懐樹、脱ぎまーす!」
言って懐樹は腕を交差させながらシャツの裾を持って一気に引き上げた。すると、風呂場でも見た巨大な胸が上下に何度も揺れながら俺の目の前に露となった。
「……お前……育ったなぁ……」
「おじさん。変態みたい……!」
「男は皆 変態だよ」
「あはは! そっかー……変態かー」
そう言いながら懐樹は自らの豊満な胸を両手で持ち上げるように寄せ上げると怪しげな笑みを見せて来た。
「……ねぇ、おじさん。……わたしのオッパイ……どう?」
「……そうだな。……凄いよ」
思わず生唾を飲み込んでしまう程だ。酔いが回っているせいなのか、意識の向かう先が甥っ子と言う立場にでは無く、完全に女体に向かってしまっていた。その証拠に股間に熱いものが流れ始めている。
懐樹は胸を持ち上げたまま俺の隣に来ると、そのまま俺の口に乳首を差し向けて来た。
「おじさん……」
「……な、懐……樹……!」
そう呟くために開いた俺の口内に、━━ 懐樹は乳首を差し入れて来た。一瞬 目の前が くらくらと回るような錯覚に襲われると、口内に甘い香りが漂い始める。
実際に そのような味が広がったのでは無く、耽美な状況が脳に そう認識させたのだ。
「……んっ……!」
気が付けば俺は両手で懐樹の胸を鷲掴みにしていた。指先に力を込めて柔らかさを楽しむように激しく何度も揉み上げてから、乳首を強調するように搾り上げると、そこで ようやく びんびんに固くなっている口内の乳首に吸い付く。
「おじ……さん!」
懐樹の甘く、甲高い声が漏れると、口内の乳首が益々甘く感じられた。声にならない声を漏らす懐樹を押し倒し、俺は吸い付いている方とは反対の乳首を摘んで激しく しごいていく。びんびんに尖った乳首は俺の指をも押し返すような弾力だった。
余りの必死さから俺は じゅるじゅると音を立てながら しゃぶるように吸い付いてしまっていた。
「は……あ……あっ……お、おじ……さん……!」
懐樹の激しい鼓動が吸い付いている口に直接伝わって来る。それが更に俺を興奮させた。
「んっ……お、おじさん……! そこ……!」
俺の手は自然と懐樹の下半身へと向かっていた。腰の辺りからジャージの内側へと手を忍ばせていくと、懐樹の履いているパンツは薄っすらと汗ばんでおり肌に張り付いていた。
「……懐樹……!」
俺は湧き上がる激しい衝動のままにジャージを下ろした。懐樹の履いているパンツは色気の無い男物だが俺の興奮は鎮まりはしない。肌に張り付いているパンツに指を掛けて下ろそうとするが、懐樹は必死に掴んで抵抗してみせる。
「……だめ……おじさん。……恥ずかしい……!」
「オッパイも確めたんだから……こっちも確認しないといけないだろ!」
「……うん。……そう……だね」
懐樹が手を離したのを見計らい俺は隠された秘部を想像しながら、━━ ゆっくりと下ろしていった。
「……!? 懐……樹!?」
そこで目にした物に俺は驚愕をする ━━。
「……ち……!?」
俺は唐突に覚醒した。どうやらテーブルに突っ伏して眠りこけていたらしい。空き缶がテーブルの上に所狭しと散乱している。部屋が消灯されているのは懐樹が消したからだろうか。
先程まで居た場所に懐樹の姿は無く俺は室内を見渡した。
━━ ……お。
目を凝らすと窓際で腰を下ろして外を眺めている懐樹の姿があった。
━━ ……夢……か。
酔っていたとは言え、とんでもない夢を見たものである。懐樹の豊満な胸を直接見ても そのような感情が湧き上がりは しなかったが、無意識の底では求めていたとでも言うのだろうか。
━━ まさかな。
単純に女性の肉体に飢えていただけだろう。無気力になって押さえ込まれていた精力が、女性の身体を前にして蘇ったのだと考えるべきだ。俺は夢の中で頬を紅潮させていた懐樹の顔を、窓際で腰を下ろしている実際の懐樹の顔に重ねる。
街頭の灯りに照らされた懐樹の顔は どこか儚げだ。そのまま消えてしまいそうな危うさのようなものを覚えた俺は、居ても立っても居られずに声を掛ける。
「懐樹……」
俺の声に ぴくりと反応を見せた懐樹は ゆっくりと振り向く。その顔に笑みは無かった。俺の脳裏に亡くなった彼女の顔が浮かぶ。夢の中での邪な感情は一瞬で消えた。
「……懐樹……お前……泣いてるのか?」
「……おじさん」
何が、━━ と言い掛けたところで俺は口を噤む。この期に及んで懐樹の心に踏み込むことに躊躇いが生じたのだ。両親に相談もせずにTSをした上に、行き先も告げずに着のみ着のままで俺の家にまで来た以上、━━ 抱え込んでいる事情は並大抵では無い筈である。
━━ ……懐樹……。
その時、懐樹の肩が小刻みに震える。感情が涙と共に静かに溢れ出したようだ。
「……懐樹……何か あったのか……?」
資格とか覚悟とか小難しいことは頭から完全に消え、言葉が自然に口から漏れ出していた。
懐樹は、━━ ぽつりと呟き始める。
「おじさん。……わたし……逃げて来たんだ」
「逃げて来た?」
「うん。……逃げて来たの。……全部……嫌になって……何もかも全部」
「……だから……TSしたのか?」
嫌になって、逃げ出して、━━ 新たな人生を始めるのならば、もしかしたらTSは打って付けなのかもしれない。
だが、━━ 俺は懐樹から放たれる言葉に自身の甘さを思い知らされることになる。現実は非情なのだ。
「ううん。……違う。……逃げたのは……TSしてから。この姿になってから……逃げ出したの」
「……女性の姿に……なってから?」
「……うん」
「つまり……その、何かあって……逃げるためにTSしたんじゃ無くて……TSしてから……何か あったと言うこと……か」
「……うん。……そう」
何かが切っ掛けとなってTSしたのでは無かったと言うのだろうか。俺は懐樹の近くに寄ると真剣な面持ちで相対する。
「懐樹。……話せるか?」
「……」
「話した方が楽になる時もある」
「……」
懐樹は無言だ。核心については話したくないようだ。ならば、これ以上 無理に聞いても悪戯に懐樹の心を傷付けるだけになってしまう。俺は小さく一つ頷く。
「……そうか。分かった。これ以上は聞かない。……でもな、懐樹。さっきも言ったが、何があっても俺は お前の味方だからな。話しても良いと思える日が来たら話してくれ」
「……」
やはり無言のままの懐樹に俺は ふたたび頷いてみせる。何かが あったのは確かなのだろう。だが、肝心なのは本人に話す意志が あるかどうかだ。それを無視して心の奥底にまで踏み込む訳にはいかない。
俺は懐樹から目を離して振り向こうとする ━━。
「……おじさん……!」
消え入りそうな声を搾り出す懐樹に俺は ふたたび顔を向けた。
「……懐樹……」
わたしね、━━ と声に ならない声を囁いてから懐樹は顔を伏せて、今度は震える声で呟き始める。
「……わたしね……好きな人が居たの」
「好きな人……」
居た、━━ と言う表現に俺は自分を重ねてしまいそうになった。
「……その人……男……だったの」
「……男……」
━━ そう言うこと……か。
男性を好きになってしまったがためにTSをして、告白をして、━━ 振られたのだろう。
掛ける言葉が見つからず、黙すことしか出来ない俺に懐樹が続ける。
「その人は高校の同級生で……優しくて一番の友達で……その頃から好きだったの。いつも一緒で……他愛も無いことばかり言い合ったし、彼女が欲しいとかも……勿論それに関しては わたしは話を合わせるだけだったけど。……それで、同じ大学に進んで……時間だけが過ぎて……日に日に感情だけが膨らんで……抑えられないようになって、このままで良いのかと思うようになって……その人の前で笑い続けるのも辛くなって。……それで、自分の感情に決着を付けようって思ったの。……完全に わたしの我が侭。相手の気持ちなんて何も考えてない……だから、罰が当たったんだわ」
「……罰……?」
ただ振られただけならば ”罰” なんて言葉が飛び出す筈も無い。俺は生温い夏の夜の湿った空気とは別の、何か背中に張り付くような心地の悪さを覚えた。
「……先週……もう、会えなくなるのも覚悟して……わたし、正直な気持ち伝えたの」
「それは……TS前?」
「うん。……そう、TS前。……わたしの顔見て只事じゃ無いと察してくれて……真剣に聞いてくれて……笑わずに……そしたら、その人……言ってくれたの。TSしてくれれば良いよ、━━ って」
「TSしてくれば……」
「うん。……わたし、浮かれちゃった。……深く考えないで、わたしの この気持ちを認めてくれたと思って……ちょっと考えればTSすれば良いよって即答するなんて……おかしな話なのにね。……そんなの……目的は一つしか無いよね……」
━━ 目的……。
いくら懐樹から告白したとは言え、女性になれば付き合えると返すのは余りにも相手にとって都合の良過ぎる条件だ。しかも、即答である。普通ならば同姓から告白されれば驚愕や苦悩が あって然るべきだろう。それをTSすれが良いと即答するのは むしろ、TSさせるために懐樹の恋心を利用しているとしか思えない。
そして、TSさせる目的と言うのは、━━ 当然、女性へと身体を変えさせるためだ。
ならば、何故 女性の身体へ変えさせる必要があったのか。━━ 理由は一つしか無い。
俺は苦虫を噛み潰したような顔で一言だけ声を絞り出す。
「……懐樹……」
「襲われたの わたし。……レイプされちゃった」
余りにも痛々しい自嘲気味な言葉と笑顔。
━━ やはり、そうか。
顔を伏せる俺に懐樹は淡々と続ける。
「舞い上がって……躊躇無くTSして……女性になった姿を早く見て貰いたくて、会いに行って……そしたら、その人わたしの姿を見て喜んでくれて……直ぐに一緒に来て欲しいって、どこか知らない場所に連れてかれたの。……わたし、何も疑いもしないで……そしたら……そこに四人の男が居て……」
「……四人……?」
「わたし……驚いて……どう言うことって聞いたら……い、今から……今から……」
懐樹の身体が震える。忌まわしい記憶、━━ 思い出したくない記憶が蘇っているのだろう。俺は咄嗟に懐樹の身体を支えようとするが触れる直前で手を止めてしまう。触れることが正しいのかさえ分からない。
懐樹は自らの傷口を抉るように言葉を吐き出した。
「今から……こいつら全員の相手をしてやってくれって……こ、こいつら女性経験が無いから……お、お前が……や、やら……やらせてやってくれって……わたし……嫌だって言ったのに……四人掛かりで無理矢理……お、押さえ込まれて……!」
俺は思わず顔を しかめてしまう。それが女性になったばかりの懐樹にとって、どれだけの恐怖だったのか計り知れない。
「あ、あいつら皆 笑ってて……誰一人 真面目じゃ無かった。……こんなの遊びだからって……お前も良い経験になるだろって。……と、友達だと思ってたのに……その人、大学で知り合った仲間に良い顔をしたいからって……どうせ、またTSすれば元通りになるんだから良いだろって……女性物の下着を着けてるの見て……わ、笑って……お、俺……ほ、本気だったのに……本気で好きだったのに……でも、そんなの全部 俺が勝手に相手を好きになっただけで……俺の独り善がりだった……!」
━━ だから”罰”……か。
一方的な愛は独善に過ぎないと、━━ 勝手な好意と思い込みを向けただけの独り善がりに対する罰が下ったのだと懐樹は解釈したのだ。
「結局、俺自身も そいつのこと何も考えて無かった。知ってたつもりになって、その実……何も知らなくて……好きになった相手に言われたことだから、無条件に信用して……俺の告白も冗談半分だと思われてて……笑いながら……か、代わる代わる……お、俺に覆い被さって来て……!」
懐樹の言葉遣いが男女入り混じり始める。感情の落とし所を見失っているのだろう。
「だから……俺……逃げて来たんだ。何もかもが嫌になって……こんな現実なんてって……でも、一番は自分……何よりも自分自身の馬鹿さと情けなさが嫌になって、全部捨ててしまいたかった。……消えてしまいたかった!」
好きな人のためにTSして、その人に尊厳を奪われたのだ。希望の象徴だったTSによって絶望の底へと突き落とされたのである。
「それで駅に着いて……ホームに立ってた時に……思い出したの。……おじさんと行った夏休みの旅行のこと。そしたら、楽しかった思い出が溢れて来て。……わたし……泣きながら電車に乗って……気付いたら おじさんの家に来てた」
━━ ……駅のホーム……か。
俺は そこで懐樹の絶望の程を知った気がした。懐樹の頭に過ぎったのは俺の想像で間違って無い筈である。ただ、そこで懐樹は俺と一緒に電車に乗って旅行へ行った時のことを思い出したのだ。
「……ごめんね、おじさん。……こんな話……本当……ごめんなさい。……迷惑掛けて、ごめんなさい……」
懐樹は肩で息をする。溜め込んでいた様々な感情を矢継ぎ早に吐き出したためだろう。顔を伏せては居るが涙の痕が街灯の灯りに照らされていた。
━━ ……懐樹。
中学生の頃からの成長を考えれば やはり小さな身体だ。TS ━━ 女性の身体に なったのだと改めて思い知らされる。果たして、━━ どれ程の間 思い悩み続け、苦しんで来たのかは筆舌に尽くし難い。
一体、━━ 俺に どんな言葉が掛けられると言うのか。心と身体に傷を負わされた甥っ子に掛ける言葉など俺には見付からない。
だが、━━ それでも、たった一つだけ どうしても伝えなければならない今の俺の正直な気持ちがあった。
「懐樹。……会いに来てくれて ありがとうな」
逃げ出して、駅のホームに向かって、━━ そこで最悪の事態を選択せずに、良くぞ俺に会いに来てくれた。俺には それ以上の言葉は見付からない。だが、それは俺の嘘偽りの無い言葉であり、紛う事無き本心だ。
「……おじさん……」
懐樹は顔を上げると俺を見つめる。そして、身体を震わせながら嗚咽と共に涙を溢れ出させた。
「懐樹……」
人に直接 傷付けられた以上、無断で抱き締めるのも憚られてしまう。俺は懐樹の その姿を見守るしか出来なかった。だが、それで良いのだろう。もっとも大切なのは俺が懐樹の味方であるのを示し続けることなのだから ━━。
少しずつで良いから前に進められれば、━━ それで良い。
━━ 今日も暑いな。
懐樹が俺の家に来てから十日程が経過した。表面上は元気を取り戻したようには見えるが、その心中までは推し量れはしない。大学の夏休みも あと数週間で空けてしまうが、その後どうするかは まだ決めかねているようだ。
その間は好きなだけ俺の部屋で住むよう告げてある。部屋の中には女性物が増え、男の一人暮らしの部屋が すっかり同棲カップルが住むような部屋へと変貌していた。
隣近所には何も説明していないが果たして、どのように見られているのだろうか。まぁ、近所の目など気にする必要も無いのだが ━━。
「……もしもし。兄貴か? ……ああ、そう。……あー……それがな。……今、懐樹が俺ん家に来てるんだよ。……そうは言っても話くらい聞くべきだろ? 一方的に兄貴の話だけ鵜呑みには出来ないし。……でな、兄貴。……懐樹に話 聞いたんだけどな。兄貴も一度ちゃんと聞いてやってくれ。……ああ。……俺から詳しい話は出来ないけど。……懐樹には懐樹にちゃんとした理由が あるんだよ。……だからな、兄貴。……俺としては兄貴や義姉さんの気持ちも理解はするつもりだよ。俺にとっても息子に近い存在だからな。勝手にTSして許せない気持ちも分かるよ。でもな、懐樹にも何も言えない理由が ちゃんと あるんだよ。……今直ぐって訳には いかないだろうけど……絶対に その方が どっちに とっても良いから。……ああ。……懐樹は取り敢えず家に住まわせてるから。……落ち着いたら また連絡するよ。……だから、兄貴も頼むよ。……ああ。大丈夫だよ。……それじゃ、また……」
通話終了をタップして俺はスマホの電源を切ると、何も映らない画面を やや暫く見つめてから後ろを振り返る。すると、やや大きめなバッグを手にした懐樹がアパートの階段を降りて来た。
「おじさん。お待たせ!」
「ああ。……じゃあ、行くか」
「うん!」
俺は有給を取って懐樹と数年振りの旅行へと行くことにした。特に行く当ても無い気ままな旅だ。
「楽しみ!」
「そうだな。……さて、どっちに進む?」
「……どっちでも! ……あ、最後に言ったのが南の方だったから……北かな?」
「北か……。じゃあ、先ずは東北目指すか」
「うん!」
俺にとって懐樹は甥っ子であるのは変わり無いし、男の姿をしていようが、女の姿をしていようが そこに何かしらの問題は無い。急ぐ必要は無いのだ。時間が解決してくれるのを俺自身が知っているのだから何も心配は無い。目を離さずに見守り続けていれば それで良いだろう ━━。
ただ、━━ たった一つだけ兄貴も義姉さんにも決して言えない、二人だけの秘密が出来てしまった。
「……ん……ん……ちゅ……ちゅ……ん……ん……んっ。……んふ……どう? おじさん、気持ち良い?」
「ああ。……懐樹お前……上手くなったな。……でも、本当に無理して無いか? ……抵抗とか?」
「ん……無理なんてしてないから。……だって、わたしの方から こうしたんだよ? ……おじさん、襲っちゃったんだからさ」
「……あー……まぁ、そうなんだけど……な」
「……おじさん、全然わたしのこと女って見てくれないからさ。……思い切って寝込みを襲っちゃったよ」
「本当だよ。……何か変な感じしたから目を覚ましたら……まさか、お前にな……咥え込まれてたなんて思いもしなかったよ」
「……でも、ホント言うと……嫌がられるって思ったんだけどさ。……だって、わたしさ、おじさんから見たらやっぱり甥っ子だし……わたしが男の姿の時しか知らないからさ」
「……そうだな。……やっぱり、最初は抵抗はあった。……頭に浮かぶのは男としての お前の姿だったからな」
そう、懐樹が俺の家に来て数日が経った夜、━━ 寝静まっていた俺の布団に潜り込んで来て懐樹がフェラチオをして来たのだ。当然、俺は目を覚まして驚愕するが、なし崩し的に そのまま関係を持ってしまったのだ。
その兆候が無かった訳では無い。懐樹は風呂上がりに平気で俺の前で裸になっていたし、扇動するようなポーズを見せて来たりしていたのだ。それでも、俺が まったく相手にしていなかったため、強硬手段を取って来たと言う訳である。
「それは分かってるからさ。……おじさんの欲望を解放して上げないと無理だと思って! ……過去の わたしより、今の わたしを見て貰うためにね。……だから、無理矢理襲っちゃった。……結局、これも わたしの勝手だからさ……自分勝手! ……だから、おじさんは全然気にしないで気持ち良くなってくれれば……わたしは嬉しい……!」
「……あー、もう……そりゃ、効果は覿面だったよ。……お前の その身体……おじさんの俺には眩しすぎる。……お前が甥っ子……男であるのを忘れたよ。……完全に一人の立派な女性だ」
一線を越えてからは俺は完全に懐樹の女性としての肉体に夢中になってしまっていた。叔父と甥っ子と言う立場、男とTSした女と言う立場、そんなものは俺たち二人の間には如何程の障害とも なり得なかった。
「……ん……ちゅ……ん。……嬉しい! ……おじさん……オッパイ触って……!」
懐樹は俺のチンポを握り締めながら これ見よがしに自らの豊満な乳房を寄せ上げてみせる。両腕に挟まれた胸の谷間は まるで お尻のように見えていた。
俺は生唾を飲み込むと、無遠慮に人差し指と中指の付け根で乳首を挟み込むように胸を鷲掴みにする。触るまでも無く、乳首も乳輪も既に ぷっくりと膨らんでいた。胸のサイズを果物に例えたりもするが、懐樹のは明らかにスイカである。
「……いや、しかし……懐樹……お前、本当に凄いオッパイだな。今の若い子って皆こんな感じなのか?」
「そうだね。……割りと皆スタイルは良いと思うよ。……でも、他の子の話題は嫌! ……あ! ほら、おじさん。アイス溶けて来てるよ」
そう、ここは旅行先なのだ。ふらりと寄った町の旅館に立ち寄って温泉に入浴した後に、部屋で寛ぎながらアイスを食べている最中に懐樹に突然フェラチオをされたのである。
いや、━━ 突然では無い。明らかに俺たちは ”これ” が目的で この旅館へと立ち寄ったのだ。
「じゃあ、ほら……残りのアイス食ってくれよ。さすがにチンポより良いだろ?」
「えー……わたし、おじさんのチンポの方が良いよ。……でも、溶けたら勿体無いから貰うけどね。……ん」
懐樹は片手でアイスの棒を握りながら、もう一方の手では俺のチンポを握っている。初めて俺の布団に潜り込んで来た時の たどたどしかった扱い方も、今では俺も唸る程の上達振りだ。
ある意味では気持ち良いところを知り尽くしている元男性 ━━ TS女性ならではと言えるのかもしれない。
「あ、そうだ!」
言って懐樹は残りのアイスを しゃぶってから俺のチンポを咥え込んだ。
「うおっ!? 冷た!?」
「ん……んふふ……ちゅ……どう? 冷たくて気持ち良くない?」
「そ、そうだな。……冷たいのが段々と熱くなって……あー……やばいやばいやばい!」
「ん……あ! おじさんのチンポ……びくびくしてきた! ……出そう?」
「んっ……あっ……ダメだ。……あっあっあっ……で、出る! だ、大丈夫か!? く、口の中に出るぞ!?」
懐樹は俺のチンポを咥え込んだまま俺を見上げて目元で笑みを見せると、カリ周りを舌先で舐め回しながら陰茎を上下に激しく しごき始めた。そのテクニックを前に俺は一瞬で絶頂を迎えてしまう。
「んっ……な、懐樹……お前、う……上手っ……あっ……で、出る……!!」
陰茎が律動し、大量の濃厚な精液が懐樹の口内へと吐き出された。懐樹は目を閉じたまま それを必死に飲み干していく。その上で、陰茎を根元から亀頭の方へと何度も しごき上げて尿道に残った精液までも搾り出し、カリ周りに こびり付いた精液までをも綺麗に舐め上げていった。
俺が その仕草に見惚れていると懐樹はチンポを咥え込んだまま自らの浴衣の襟を肌蹴て自慢のスイカ大の乳房を さらけ出し、陰茎を その乳房の間に挟みこもうとした。
「な、懐樹……ふ、風呂場行こう……!」
「……ん……ちゅ……うん! 分かった」
借りた部屋には露天風呂が備え付けられていた。二人で楽しむために一番高い部屋を借りたのである。俺と懐樹は浴衣を脱ぎ捨てながら露天風呂へと続く窓を開けて外へと出る。フェンスで囲われてはいるが解放感は抜群だ。周囲は夜の闇に包まれているが空には満天の星空が広がっている。
俺は浴場で腰を下ろすと直ぐに懐樹が しがみ付くように下半身に覆い被さり、俺の いきり勃った陰茎を二つの豊満な乳房で挟み込んだ。そして、外側から両手で押さえ込むと陰茎に刺激を しごくように動かし始め、更に胸の谷間から顔を出した亀頭を舌先で ちろちろと小刻みに刺激を与えていく。
「ちゅ……ん……おじさん、凄いね。……射精したのに固いまんま……」
「お前のオッパイが凄過ぎるんだよ。……こんな若い子のオッパイ……おじさんの俺には……」
「ん……ん……おじさんだって、まだ三十代なんだから若いよ!」
「そ、そう言われるのは、悪い気はしないけどな……」
そう言いながら俺は目の前で上下に動いている乳首を摘んでみせた。その固さと弾力に俺は益々興奮を昂ぶらせてしまう。
「……おじさん……乳首……良い……!」
懐樹の身体が痙攣のように震える。懐樹は感度も抜群だったのだ。俺は乳房の片側を懐樹から奪うように下から引っ張り上げると、そのまま先端を口に含んだ。スイカサイズだからこその芸当と言えよう。乳房の膨らみから更に一段階膨らんだ乳輪を丁寧に舐め上げてから、その中心に そそり立つ乳首に吸い付いた。ミルクなど出はしないのに吸い付きたくなるのは男の性だ。
だが、それが絶妙な愛撫となり、心地良い快感となって懐樹を震え上がらせていった。
「おじさん……! もう……欲しいよ! ……わたし……我慢出来ない!」
よく見ると既に太ももには幾筋もの愛液の痕が残されており、俺を受け入れる準備は万端なのが窺い知れた。
「懐樹……愛液溢れ出してるぞ」
「だって……早く……入れて欲しいから……!」
「そうか……」
━━ そうだな、俺も早く入れたい……!
懐樹の代わりの両方の胸を鷲掴みにすると、懐樹は そのまま ゆっくりと上半身を起こしていく。それに従って下半身が露となり、影となっていた股間の部分が俺の目にも映る。恥毛は薄く、割れ目と剥き出しのクリトリスも はっきりと見て取れた。
「お、おじさん……そのままで居てね」
言うや否や懐樹は俺のチンポを掴みながら腰を浮かせて自らの膣口に亀頭の先端を宛がう。挿入を待てない俺は乳房の愛撫を始めた。懐樹は恍惚とした笑みを浮かべながら下半身を下ろしていった。
「懐樹……!」
「おじさん……!」
互いに呼び合いながら俺たちは結合を果たした。懐樹の膣内は当然ながら狭く、きつく、俺のチンポは挿入しているだけで絶頂を迎えそうになる。
「は……あ……あ……おじさんのチンポ……入ってる。……わ、わたし……ま、また、おじさんと……セックスしてる!」
「またって……昨日も しただろ」
「んふ……そうだったね。……わたしが襲い掛かってから毎日してたっけ」
「そうだよ。おかげで俺も元気になったよ」
「それは、わたしのセリフだよ。……ん……おじさんのチンポ……子宮口に当たってる! ……じゃあ、動くね」
懐樹は俺の両肩を掴んで身体を支えると、熱い吐息を漏らしながら腰を上下に動かし始めた。その動きに合わせるように俺は懐樹の胸を揉み回しながら乳輪を口に含んで乳首を甘噛みすると、懐樹は短く嬌声を上げて腰の動きを止めてしまう。
「どうした、懐樹? 腰の動きが止まってるぞ」
「……んっ……おじさん。だって、乳首弱いの知ってて……」
「……ほら、そこに四つん這いになって お尻を こっちに向けて……俺に任せておけ」
「うん。……おじさん。バックから好きだね」
「嫌いか?」
「ううん。おじさんが好きなら何でも好きだよ!」
にっこりと笑みを浮かべると懐樹は腰を引き上げてチンポを抜き、四つん這いで背中を向けてから お尻を突き出して来た。膣口が ぱっくりと開いており、愛液に濡れている膣壁が淫猥に蠢いている。俺は思わず その眼前の光景に感嘆の息を漏らしてしまった。それに気付いた懐樹は思わず嬉しそうに言葉を零(こぼ)す。
「……エロい?」
「……い、いや……まぁ……エロいな。……ひくついてるぞ」
「早く入れて欲しいの……! おじさんのチンチンで掻き回して欲しいの!」
俺は、ふと頭に浮かんだ疑問を懐樹に ぶつけてみた。
「……ちょっと思ったんだけどな。……答え辛かったら良いけど。……その、男の時って……入れられたいとか思うものなのか?」
「……んー? ……そうだね、わたしは男の姿の時は性的関係を持ちたいとかは思わなかったなぁ。……おじさんの家に来てからだもん。おじさんと一緒に過ごしてる内にね……どんどん好きになってって……欲しくなっちゃったの」
「欲しくなった?」
「……おじさんの……おちんちん!」
「……懐樹……お前……本当に けしからん甥っ子だ!」
俺は眼前の お尻を両手で鷲掴みすると亀頭の先端を膣口に宛がって、一気に根元まで挿入した。
「んあっ!!」
懐樹の上半身が大きく跳ね上がり、双つの巨大な胸がゴム鞠のように激しく上下に揺れた。深く息を吐いて呼吸を整えると俺は懐樹に告げる。
「んっ……本当……懐樹のオマンコ……きつい! ……いきなり激しくするからな!」
「あっ! お、おじさん……おじさん!!」
肌と肌とが ぶつかり合う音が風呂場に響き渡る。一突き一突きに力と想いを込めて俺は懐樹のオマンコを貪る。俺の愚息を受け入れながらも、懐樹のオマンコは侵入者を許さないとばかりに押し出そうとする。
そんな か細い抵抗をも俺は子宮口へと突き上げる一撃で打ち破った。
「あっ……!! んあっ!! あっあっあっあっあっ!! んっ、あっ、あっあっあっあっあっ!! ……い、イク……イク、イク……お、おじさん。……わ、わたし……い、イっちゃう……あっあっあっあっあっ!! ……イっちゃう……イっちゃうよ!!」
「ああ。イけ! 懐樹!!」
そこから俺は力を振り絞って懐樹に何度も何度も腰を打ち付けた。そして、徐々に腰の奥の熱量が陰茎の根元へと集まり、それが陰茎全体を支配していくと、途轍も無い快感の前触れと共に射精感が襲い掛かって来る。
一方の懐樹も絶頂の前兆とも言うべき衝動と快感の明滅に襲われた。
「い、イク……イっちゃう……い、イクイクイクイクイク……んっ……あっ……イ……っク……あっ……!!」
懐樹の身体が激しく痙攣を起こしながら俺のチンポを激しく締め付けた。そして、凄まじい勢いで襲い来る快感と射精感に抗うように、一瞬 陰茎に力を込めると懐樹のオマンコからチンポを引き抜いて それを お尻の上に乗せた。
ほぼ同時に、━━ 脈打つ愚息から熱を帯びた大量の白濁液が懐樹の真っ白な背中に吐き出された。
━━ ……はー……危なかった。
危うく膣内で射精する寸前だった。まさしく間一髪と言えよう。だが、懐樹としては それが不満だったようである。
「……はー……はー……はぁ……お、おじさん。……また、膣内で射精してくれなかった」
「そりゃ、膣内射精なんて出来る訳無いだろ。……最初に言っただろ。兄貴たちには内緒の、俺たちだけの秘密だってな」
「……うん。……分かってるけど。……うん。ごめんね」
「……まぁ……な。これも、きっと時間が解決してくれるさ。……俺だって我慢出来ずに膣内射精しちゃうかもしれないしな」
「そうだね。……そうなるように、わたしも頑張るよ……! もっと、おじさんが気持ち良くなれるようにね……!」
その己の言葉を実践するとでも言うように懐樹は俺のチンポを握り締めると、そこに こびり付いた精液を舐め取り始めた。
「……ん……おじさん凄い。……まだ……固い……!」
俺は愚息から じんわりと伝わる快感に耽るように目を閉じる。
━━ ……この旅行の間に膣内射精しそうだな……。
既にTSした元男性が妊娠、出産をするのは実証済みである。だからこそ俺たちは、この禁断関係を知られてしまう可能性を少しでも減らさなければならないのだ。懐樹を孕ませる訳にはいかないのである。
━━ 膣内射精してくれって言うのは単純に俺のことを好いてくれているからなのか……それとも、俺の子を産みたいからなのか……。
俺は満天の星空を見上げてから俺の愚息を嬉しそうに舐めている甥っ子の姿を見下ろす。
━━ ……まぁ、どちらでも良いさ。……そうなったら、その時だ。
「……暑いな……」
「……ん……ちゅ……んっ……そうだね。まだ夏も真っ只中だし……」
この、━━ 俺たち二人を覆う熱量は果たして夏の暑さなのだろうか。夏が過ぎて秋を迎えた時に、俺たち二人の関係が どうなっているのかは分かりはしない。
それでも、たった一つだけ断言出来るのは、━━ 必要とされている限り俺は懐樹を見守り続けると言うことだけだ。
雨は退勤途中の電車の中で降り始め、駅を出る頃には土砂降りとなっていたが、どうやら それも にわか雨のようだった。俺は傘を畳んで軽く左右に振り、雨粒を払い落とす。街灯の灯りに照らされている自宅アパートは目と鼻の先だ。
厳しい暑さが続いている中での雨も一服の清涼剤とはならず、ただ不快な蒸し暑さが増すだけだった。
アパートは駅から多少離れた二階建ての古い建物だ。家庭持ちなら快適な生活は難しいかもしれないが、幸いにも、━━ その言葉が適切かは分からないが、俺は一人暮らしのため何ら不自由を覚えたことは無い。
錆だらけの手すりを掴まぬよう、俺は自室のある二階への階段を上る。
━━ ……ん?
俺の部屋の前で膝を抱えて うずくまっている女性と思しき姿が目に入った。一番奥の部屋だから決して見間違いでは無い。俺は やや緊張しながらも訝しげに近付いていくと、顔を覗き込むようにして恐る恐る話し掛けてみた。
「……あの、どちらさま?」
うずくまっていた人物は俺の言葉に反応するように顔を上げた。━━ やはり、女性だ。その女性は俺の顔を見るなり若干の疲れが混じった笑みを浮かべる。
「……あ……おかえり。おじさん」
「おじさん……?」
ぱっと見た感じ、十代後半から二十代前半と言ったところだろうか。俺には そんな年頃の女性から ”おじさん” と呼ばれるような関係性を持った人物に心当たりなど無い。
だが、俺の顔を じっと見つめたまま顔色一つ変えないのを見る限り、他の誰かと勘違いしていると節も無さそうである。
「えーと……君は……」
ここで、ふと、━━ 俺は女性の顔に既視感を覚えた。懐かしいとか、何かを思い出したとかでは無く、単純に ”似てる” と思ったのだ。俺は ぽつりと呟く。
「もしかして……懐樹……?」
「……うん。……やっぱ、分かる?」
「いや……まぁ、何と言うか……似てる気がしたからな……俺に。……何と無く」
「……そっか」
懐樹は俺を見上げながら力無い笑みを見せた。
どうしたものか、と俺は立ち尽くしながら懐樹に気付かれないよう軽く溜め息を吐く。
懐樹は俺の兄の息子だ。つまり ”甥っ子” である。
しかし、目の前に居るのは どう見ても女性の姿だ。スカートから覗く足の筋肉質は女性の それであり、何よりも膝を抱えていても胸の膨らみがシャツ越しに確認出来ている。
「……TS……か」
「……うん」
今度は気付かれても構わないくらいに大きく一つ溜め息を吐いた。
TSとはトランスセクシャル、━━ 性転換を意味している。
甥っ子ならば兄弟の息子なのだから俺に似ていても何ら おかしくは無い。ただ、まさか甥っ子が性転換をしているなど夢にも思わなかったため、今の女性としての懐樹の顔を見ても真っ先に思い浮かぶのが男性の頃の懐樹の顔では無く、血縁関係者としての俺自身の顔が浮かんだのだ。
「何で また そんな……」
非難の言葉に聞こえたのだろうか、懐樹は無言で目を伏せる。
かつては心身ともに多大な危険を伴う大手術以外では不可能だった性転換が、何ら副作用も無いTS薬の登場によって安全且つ容易に可能となったのだ。
肉体的に完全な状態に性が転換するのである。身体が作り変わると言った方が早いかもしれない。
結果、━━ 当初こそ多少の混乱はあったものの、それ以前より性の多様性が認められつつあった世界はTS薬を すんなりと受け入れ、今では望む人すべての元へと届くようになっていた。
「兄貴は お前が ここに居るのは知ってるのか?」
懐樹は無言のまま首を横に振る。どうやら兄貴には内緒で来たようだ。いや、━━ 内緒と言うよりは、むしろ何か訳ありと考えるべきなのかもしれない。
「そもそも お前が ━━」
そう呟いたところで俺は言葉を止めた。
━━ そもそも懐樹が性転換したことを兄貴は知ってるのか?
俺は膝を抱えながら目を伏せている懐樹を見下ろしながら三度目の溜め息を吐いた。いつまでも玄関前で話し込む訳にもいかない。
「まぁ、何だ……いつまでも そこに座ってないで……取り敢えず中に入んなよ」
「……うん」
懐樹は立ち上がるとドアの前から離れた。俺はポケットから取り出した鍵を鍵穴に差し込みながら懐樹に ちらりと目を向ける。
「……背……縮んだのか?」
「うん。……骨格も変わるから」
「そうか。……何か、不思議だな」
「うん」
昔より受け入れられるようになったと言っても、あくまで それはマイノリティに配慮するような世相や世論の流れに合わさなければならないと言う、言ってしまえば同調圧力に近いようなものが後押しした結果とも言えない訳ではない。
大手術も必要とせずに骨格さえも変化すると言う理由から、TS薬自体が一定数の人々からは受け入れられてないとも耳にしている。人は己の理解の範疇を超えると排斥したがる生き物なのだと改めて思い知らされたりもした。
俺でさえも見知った甥っ子が こうして女性の姿になったのを目の当たりにすると、まるで魔法を見ているように思えてしまうのだ。
ならば、━━ もっとも近しい兄や義姉の心中は決して穏やかで無いのは想像に難くない。
俺はドアを開けて懐樹を部屋の中へと促す。
「ほら」
「……うん。お邪魔します」
「電気点けて。直ぐ横の」
「……ん……あ、これかな」
玄関に電気が灯り、懐樹の姿が薄暗かった室外よりも一層 鮮明になる。びしょ濡れとなったシャツはブラジャーが透けており、反応に困った俺は思わず顔を しかめてしまった。
「……びしょ濡れじゃ無ぇかよ」
「傘持ってないから。……濡れちゃった」
「あー……じゃあ、そのまま風呂入れよ。そこの手前のドア。奥はトイレだから。……ガスとか分かるよな?」
「うん。多分」
「何も持って無いのか?」
「うん」
「晩メシは?」
「まだ」
「じゃあ、そこのコンビニで何か買ってくるから風呂入ってろ。……そうだ、何が良い?」
「何でも良い。好き嫌い無いから」
「……あー、そうだったな」
独り言のように呟きながら俺は鞄と傘を置くと玄関から外へ出た。玄関の横の浴室の窓から灯りが漏れ、換気扇が回り始める。それを横目に鍵を締めると、アパートの階段を降りながら俺はポケットからスマホを取り出した。
「……もしもし。兄貴か? ……ああ、そう。……いや、ちょっとな。調子はどうかなって……ああ、そうか。……そういや……懐樹は……どうしてる? ……は? 何だよ、あんなヤツなんて どうでも良いって。……ああ。……え? ……そう……か。懐樹が……か。……ああ。……ああ。……本当に それで……兄貴は本当に それで良いのか? ……ああ。……分かった。……ああ。……ああ。……じゃあ……」
通話終了をタップして俺はスマホの電源を切ると、何も映らない画面を やや暫く見つめてから、アパートの前の道路から二階の自室の方へと振り向いた。
『……知らん。……あんなヤツなんて どうでも良い』
『……あのバカ。……親に相談もせず勝手にTSしやがったんだよ』
『理由を問い詰めても何も言わないで……挙句に飛び出していきやがった。もう知らん』
『もし、そっちに行っても追い返せよ。助けようとなんかするな。放って置けば良い』
『……せめて、相談は欲しかったよ』
━━ ……どうしたものか……。
俺はスマホをポケットに しまって何度目かの溜め息を吐くとコンビニへと歩き出した。
TSは当事者だけの問題では無い。周囲の理解が あってこそなのだ。昨日まで男だった人間が翌日には女に なったとして、それを無条件で受け入れられる程、人も世界も まだ成熟はしていない。
━━ また、降るかな。
晴れるのか、はたまた ふたたび降りだすのか。━━ まるで、今の俺の何とも形容し難い気分を表しているかのような空模様だ。
━━ 最後に会ったのは いつだったか……。
コンビニで適当に弁当を選びながら俺は昔を思い出す。確か中学生だっただろうか。年相応よりも幼さを感じさせていた。
━━ 男子は女子よりも子供っぽいと言うが……そうか、そんな あいつも……もう大学生……だったか。
アパートの階段を上り、ふと自室へと目を向ける。ドアの横の窓からは まだ橙色の灯りが漏れたままだった。更に近付くと回っている換気扇から生暖かく湿気った空気の匂いも漂っている。
この壁の一枚向こう側に裸の女性が居ると言うのに、脳裏に浮かぶのは昔のままの、━━ 少年のままの懐樹の姿だ。
「……あー……そうか……」
俺自身も まだ、懐樹がTSをした事実を受け入れられていないのだ。
鍵を開けて部屋の中へと入ってから、もはや習慣付いてしまったようにテレビを点けると、ようやくバスタオルを用意しなければならないのを思い出す。
「あ……バスタオルか。……あ、しまった……」
バスタオルを収納ケースから取り出しながら、今の懐樹に合う下着が無いのに気付いた。俺は こめかみ辺りを指で掻きながら溜め息を吐く。
「……未使用はあるけど……男物……」
ブラジャーをしているのならば下だけが男物だとは考え辛い。だからこそ、どんな理由が あったのか分からない以上は、男物の下着を渡すのはTSをした者に対する ”当て付け” と捉えられてしまう恐れもある。
「……迂闊か。……まぁ、考え過ぎだろうが」
男の一人暮らしなのだから女物を用意してある方が おかしな話だ。取り敢えずは袋に入ったままの下着も持って風呂場へと向かうと、わざとらしく音を立てるように風呂場の扉を開けて浴室の半透明のガラス戸越しに呟き掛けた。
「バスタオル置いとくからな。……あと、シャツとジャージと……悪いけど下着は男物しか無くてな。……一応 未使用だから」
「あ……うん。大丈夫。……ありがとう……」
浴室のガラス戸は表面に不規則な凹凸のある ”型ガラス” だったため、浴室内の様子は はっきりとしたシルエットすらも判別出来ない仕様となっている。このガラス戸の向こう側に女性が居るのだが、やはり脳裏に浮かぶのは甥っ子の、━━ 男子としての姿だ。
俺は蒸した熱気から逃げるように風呂場から出ると直ぐに冷房を点けた。その冷風を受ける位置に腰を下ろすと、コンビニの袋の中身をテーブルの上に広げる。パスタ、おにぎり、サンドウィッチ、蕎麦、からあげ弁当、お茶、プリン、━━ 取り敢えず一種類ずつ買ってみました、とでも言うようなラインナップだ。
「……蒸すな……」
何を話しかければ良いのかとか、どのように接すれば良いのか、━━ と言うような変な緊張感は無い。そこは、やはり赤の他人では無いからだろう。
やがて、━━ 風呂場のドアが開く音がして、懐樹が居間の方へと姿を現した。
「出た」
「おう」
俺はテレビを見たまま敢えて懐樹の方を振り向かずに返事をする。懐樹はテーブルを挟んだ向かい側では無く横に座った。そこで、ようやく俺は懐樹の方へと振り向く。どうやら俺が風呂場に置いたシャツとジャージを着ているようだ。
一度目を向けて直ぐに背けるのも変な話なので、俺は まじまじと懐樹の姿を眺める。改めて直視すると面影は やはり昔の懐樹のままだった。
「……本当に……懐樹なんだよな」
「……うん。そうだよ」
疑う余地など無いのだが、それでも頭から信じられないのも事実である。
「濡れた服とかは洗濯機 使って良いぞ。……あと、ドライヤーも風呂場に置いてあるけど。……何なら ここで使っても良いぞ。風呂場は暑いからな」
「あ……うん。洗濯機 借りるね。びしょ濡れだし。……あ、そうだ。パンツわざわざ新品 出してくれてありがとね」
「……サイズとか合わないだろ?」
「うん。でも、大丈夫だよ。びしょ濡れのパンツ履きたくないし、ノーパンも嫌だし」
「……そりゃ、そうだ」
びしょ濡れが嫌だと言うならば今はノーブラなのか、━━ と脳裏に浮かんだりもするが、それ以上でも それ以下でも無かった。俺は ぼうっとしたままテレビを眺め続けるのみである。
一週間の仕事を終えた一人暮らしの金曜の夜など この程度のものだ。
━━ 明日の休みは……どうするかな。
洗濯機の回る音が聞こえて来ると、続けてドライヤーの音も聞こえて来る。
━━ ……どうしたものか。
そもそも、触れて良いものなのかさえ分からないような、━━ 実の親である兄貴でさえも知り得ない複雑な事情を抱え込んでいるのだ。
やがて、ドライヤーの音が止まると懐樹が ふたたび居間へと戻って来る。
「洗濯用のネットとかあるんだね。助かったよ」
「ああ。靴下とか纏めて放り込むと楽だからな」
「あー……生活の知恵的な?」
「そうそう。……ん? お前も使ったのか?」
「うん。ブラの形 崩れちゃうからね、ネット無いと。……ホントは手洗いが良いんだけど。そんな高いのじゃ無いから」
甥っ子の口から ”ブラ” と言う言葉が飛び出して来たのに若干の戸惑いを覚えてしまったが、それを察せられる訳にはいかない。俺は勤めて平静を保ちながら敢えて その話題に乗っかってみた。
「なるほど。……何だ、じゃあ、今やっぱりノーブラなのか」
「そうだよ。……何なら見てみる?」
思わず どきりとしてしまうが、やはり察せられる訳には いかない。面白半分に話しているようには見えなかったからだ。
「は? 何だよ、見てみるって」
「興味無い? 実際TSした身体とかってさ、見ること無いでしょ?」
確かに、━━ と俺は首を傾ける。完全に身体が変わると聞いてはいるが、実際に自分の目で確める機会など そうそう ありはしない。だからと言って興味半分で確めようとするのも何と無く心に引っ掛かるものがある。
「……言われてみれば……そうだな。気にならないって言ったら嘘になるけど……まぁ、別に……逆に変なところがあるって言う方が、見てみたい気もするかな」
「あはは! 何それ。でも、そうかもね。ホント普通だよ。普通の女子の身体だもん」
「……普通……か」
「うん。至って普通」
普通と言う言葉に色んな意味も込められていそうだが、そう言うのならば敢えて確める必要など ありはしない。俺は僅かに残った好奇心を打ち消すべく風呂場へと向かおうとする。
「そうか。……あ、そうだ。俺も風呂入って来るから、好きなもん食っててくれ」
「分かった。ありがとう」
風呂場に入ると洗濯機は既に脱水が始まっていた。もう直ぐ止まるかな、と脳裏に浮かべながら浴室へと入ると、やはり想定通りに終了を告げるブザーが鳴った。
俺がシャワーを頭から浴びている間に懐樹が風呂場へと入って来る。洗濯物を取り出しながらだろうか、懐樹の声が飛んで来た。
「おじさん」
「……ん? どうした?」
「ハンガー借りるよ」
「ハンガー? ……ああ、どうぞ」
更に一刻の後に、━━ 声が掛けられる。
「おじさん」
「……ん?」
「背中流して上げようか?」
「……あー……別に気を使わなくて良いぞ。飯食ってろよ」
そう呟きながら俺は懐樹が まだ小学校の低学年だった頃、一緒に お風呂に入ったのを思い出した。シャンプーが目に入って泣いていたのを今でも覚えている。
シャワーを止めると、━━ 唐突に浴室のドアが少しだけ開かれた。
「……おじさん」
「……あー……分かった分かった。頼むよ」
変に遠慮するよりも普段通りに振舞った方が良いだろう。俺は懐樹に悟られぬよう顔を伏せて溜め息を吐いた。
「よーし!」
気合を入れながら懐樹はジャージのズボンの裾を膝まで捲くり上げてから、━━ 何故かシャツを脱ぎ出し始めた。これには、さすがに俺も仰天してしまう。
「おい!?」
「だって、濡れちゃうじゃん」
「替えなら、いくらでもあるから!」
「分かった」
何が分かったと言うのだろうか、━━ とうとう懐樹は俺の目の前でシャツを脱いでしまったが、目を背けるタイミングを逸した俺は眼前の双つの山を凝視してしまう。
それは豊満と言う言葉が よく似合った物体だった。いや、━━ それ以上と言っても過言では無い。張りや艶も申し分無く、そんな巨大な物体が垂れもせずに重力に逆らいながら途轍も無い存在感を主張しているのだ。
上向きに付いている乳首も薄紅色で、あろうことか、━━ 恥ずかしげも無く ぴんと勃っていた。
「……お前な……」
「……えへへ……どうかな?」
懐樹は恥ずかしそうに笑みを浮かべながらも隠そうとせず、むしろ俺に見せ付けようとしている。正直言って懐樹が何を考えているのかは分からないが、俺としては性的に褒めるのでは無く、無難に先程の話の延長と捉えようとした。
「……ああ。そうだな……確かに変なところは無いと思う。世間で言われている通り、完全に変わっちゃうんだな」
「でしょ? ね、凄いよね」
懐樹は笑みを浮かべたままだったが、その心中は計り知れない。もしかしたら、━━ 性的に褒めて貰いたかったのかもしれない。
俺は今は一人暮らしだが、決して女性と付き合いが無かった訳では無い。これまでに何人かの女性と関係も持って来た。それを以ってしても、たった今 間近で凝視している懐樹の豊満な胸は大きさも形も一番だと断言出来た。
━━ ……それでも……な。
「……じゃあ、頼むよ」
「うん。分かった」
それでも、俺の中で湧き上がる衝動的な ”何か” は無かった。いくら女性の身体になったとしても懐樹は俺の甥っ子なのだ。俺自身が意識の根底から そう認識してしまっている。
だからこそ、素晴らしい身体を目の当たりにしても ”欲望” と言った類が湧き上がって来なかったのだ。
懐樹は俺の背中を洗い始める。何と言えば良いのだろうか、やはり女性の力の入れ具合だ。
「痛く無い?」
「全然」
「気持ち良い?」
「……何で小声なんだよ」
突然の悪戯っぽい思わせ振りな喋り方に俺は苦笑してしまった。
「……ねえ、おじさん」
「……ん?」
「おじさん。……今、お付き合いしてる人とか居るの?」
「……何だよ、唐突に。……んー……いや、居ないなぁ……」
互いに裸の この状況で女性関係を聞かれるのは何と無く居心地の悪さを覚えてしまうが、そんな俺の思いなど気にも留めずに懐樹は更に踏み込んで尋ねて来る。
「そうなんだ。……あの……前 会った時に話してた人は?」
「……前? ……あー……そうか、兄貴は言わなかったんだな。……亡くなったんだよ」
「……え? ……そうなんだ。……ごめんなさい」
「いや、良いさ。もう……五年も前の話だ。……事故でな」
そう、俺が最後に付き合っていた女性は五年前に交通事故で亡くなっていた。
何と無く気が合って、気が付けば どちらからとも無く付き合い始めていて、気が向いたら その内にでも結婚しようかと言い続けていた女性だった。
━━ もう、五年前……か。
互いに気を使うことも無く、一緒に居るだけで幸せな気持ちになれる人など、後にも先にも彼女のみだった。
「……やっぱり、辛かった?」
「そうだな。……生きる気力ってやつが本当にあるなんて、あいつが亡くなって初めて知ったな。何も手に付かなくて……まぁ、それでも……結局時間だよ。解決するのは……な」
「……そっか。……時間か……」
良い思い出もあれば悪い思い出も ある筈なのに、思い出すのは良い思い出ばかりだ。今となっては こうして突然 尋ねられても笑って話せるようになっている。
時間が俺を癒してくれたのだ。
「……もう、誰かと付き合いたいとか無いの?」
「……何だ、ぐいぐい来るな」
「良いじゃん。教えてよ」
「……そうだな。……まぁ……是が非でも欲しいとかは無いなぁ。……亡くなった彼女も そうだったけど……自然の流れで出会えれば……じゃ無いかな」
「……そっか。……じゃあ……例えばだけど、TSした元男性とかでも良いの?」
「……そうだな。考えたことも無かったな……そう言えば。……まぁ、好きになったやつならTSしてようが どんなのでも気にはならないだろ」
「男でも?」
「……そんなもんじゃ無いのかな」
「……うん。……そう……だよね」
心なしか懐樹の声が弾んだように聞こえたが、背中を預けている俺には その表情は窺い知れない。
「はい。終わり!」
「ああ。ありがとう」
「はい、タオル」
「……ん……ああ」
ボディタオルを受け取る際に ふたたび懐樹の胸が視界に入ってしまう。やはり性的な衝動は湧き上がらないが、だからと言って大っぴらに褒められた行為では無い。
大の大人同士なのだから あれこれ言う必要も無いと言えば それまでだが、取り敢えずは一言だけ忠告をしておく。
「……なぁ、懐樹。……TSしたのは女性に なりたかったから……なんだろ?」
「……うん。まぁ……そうなる……かな」
「だったら、もう、そうやって人前で簡単に肌を晒したりするなよ」
「……うん。……あの……おじさん。……わたしの胸見て……どきどきしたかな?」
俺は一瞬 言葉に詰まってしまった。質問の意図が汲めなかったからだ。
「……あー……いや、何か……嫌らしい言い方になるけど……何だ。……立派だとは思うけどな。……思うんだけど……正直なところ甥っ子としてしか見られないから……な」
「……そっか。……まぁ、そうだよね」
「昔の お前を知ってるからな、どうしても そうなるだろ。……すまんが今直ぐに女性扱いしろと言われても ちょっと難しいかもな。それこそ時間が解決してくれるとは思う」
「……うん」
「ただな、一つだけ言っておくけど、お前が男だろうが女だろうが俺と お前の関係は変わらないからな。お前は兄貴の子供で俺は お前の叔父だ。どんな姿だろうと、どんな事情があろうと俺は お前の味方だからな」
「うん。……ありがとう。おじさん……」
懐樹は その言葉と共に、背後から俺の首に腕を回して来た。当然のように、━━ 俺の背中には直接 ”あれ” が当たってしまう。
「な、懐樹……お前!?」
「女性扱いするの難しいんでしょ?」
「い、いや……そう言ったけど……」
背中に直接当たる感触は否が応でも その大きさを際立たせる。いや、大きさだけでは無い。柔らかさや張りまでもが背中越しに伝わって来た。その一方で中心から伝わって来る乳首の感触は乳房とは別の、━━ 固さと言うベクトルで主張をして来ている。
「……これでも……無理かな……おじさん」
「……懐樹……」
俺は ふと言葉では言い表せない違和感のようなものを覚えた。単純に懐樹が女性扱いして欲しいのか、それとも それ以上を望んでいるのかは明らかでは無いが、俺の覚えた違和感のようなものは そう言った色恋の類とは無縁だと直感した。
━━ TSするまでに……あるいはTSしてから……懐樹に何か あったのか……?
直接問い質せば話は早いのだが、そもそも問い質して良いものなのかどうなのかも難しいところである。人の心に踏み込むには相応の資格と覚悟が必要だからだ。
ただ一つ確実なのは、こうして直接 胸を押し当てられようが俺の中から”男”としての衝動が湧き上がっては来なかった、━━ と言う事実のみである。懐樹は兄貴の子供である以上、━━ 肉親に近い存在なのだ。
それに気付いたのか懐樹は俺の背中から離れると取り繕うような笑みを浮かべた。
「あはは……ごめんね、おじさん。変なこと言っちゃって」
「……ああ。……いや、まぁ……何だ。……さっきも言ったけど昔の お前が俺の記憶に残ってるだけだから。……時間が経てば ちゃんと女性として扱えるようになるさ」
「うん。……ありがとう」
そう呟くと懐樹は浴室を後にした。俺は高鳴る鼓動を抑えるために水シャワーを頭から被る。
━━ ……まったく。子供だと思ってたが……そうか、もう二十歳過ぎてる筈だよな。
背中に残る感触が熱を帯びて、それが今になって股間を反応させてしまう。だが、それは懐樹に反応した訳では無く、あくまで背中に残った女性の感触に対して反射的に反応を示しただけだ。
果たして、今の行為に何らかの意図は あったのか。単純に からかって来ただけなのか、それとも女性としての肉体を改めて確認して欲しかったのか、あるいは、━━ 俺に対して男女の関係としての好意を示してくれたのか。
━━ 何か……あったか……。
俺が覚えた違和感の正体は まだ分からないが、何かを抱え込んでいるのは確かなのだろう。そもそも ずぶ濡れのまま大した荷物も持たずに、俺の部屋の前で膝を抱えている時点で何らかの問題が発生していたのは確実である。
━━ TSか……。
両親に無断でTSする程、━━ 何かに対して思い詰めていたのだろうか。
浴槽に浸かりながら様々な可能性を考えてもみたが、所詮可能性の話に過ぎない。人に話して楽になると気付けば自ずと話して来るだろう。しばらくは そっと見守り続けるしかない。
溜め息を吐きながら浴室を出た俺の目の前に飛び込んで来たのは、洗濯ハンガーに吊るされた真っ白なブラジャーとパンツだった。思わず口から飛び出す言葉は ただの感想である。
「……でかいな……」
風呂場から出ると冷蔵庫へと直行し、火照った身体を鎮めるための至極の一本を取り出した。
「懐樹」
「……何?」
「ビール飲むか?」
「飲む!」
俺は もう一本取り出すと居間へと戻り、先程と同じ場所に座りながら懐樹の前にビール缶を差し出した。
「ほらよ」
「ありがとう! あっ、ビールじゃん!」
「だから、ビールだって言っただろ?」
「……いや、てっきり発泡酒かと……」
「……あー……週末くらいな……」
「お楽しみって訳ね」
「そう言うこと」
「お裾分け、いただきます」
「……ん」
プルトップを開けた缶を懐樹が差し出して来たため、俺は自分が持っている缶を それに軽く当ててみせた。
TSは十九歳以下は親の同意が必要だが、二十歳以上は自己申告のみで可能だ。懐樹は両親に相談せずにTSしたのだから二十歳は超えているのである。
━━ 酒は大丈夫と……。
未成年者では無いのだから取り敢えずは一安心と言えよう。
「まだまだ あるからな。遠慮しなくて良いぞ」
「ホント!? ありがとう!」
酒を飲みながらの会話は取り留めの無い話ばかりだ。懐樹も特に嫌がる素振りも見せずに男だった頃の話も交えて昔話に花を咲かせる。過去の自分を否定したい訳では無いのだと俺は一応の安堵を覚えた。
「わたし、おじさんと旅行 行くの楽しみだったんだよね」
「……あー、そう言えば俺が引っ越す前は毎年夏休みに お前と二人で旅行に行ってたな。兄貴も義姉さんも忙しい人たちだから」
「ホント楽しみだったんだよ。どこ行くか決めないでさ。一週間一緒に色んなとこ連れてってくれて」
「そうだな。楽しかった」
懐樹は昔から人懐っこい性格で俺にとっても甥っ子でありながら、弟のような存在だった。一緒に旅行に行って温泉に入ったり、兄貴や義姉さんたちに代わって悩みの相談なんかも受けたりしていた。
「引っ越してからは行ってないの?」
「まぁな。……そんな気も湧かなくてな」
引っ越して直ぐに彼女が亡くなったのだ。それ以来どこかへ旅行へ行く気にもならずに今日までを過ごしている。有り体に言えば無気力と なってしまったのだ。
「……そっか。……また行きたいなぁ……」
「そうだな。また行くか」
「ホント!? 行きたい!」
姿は変わってしまったが甥っ子を前にして俺も あの頃の楽しい時間を思い出していた。俺自身も今のままの無気力で良いとは思っていない。こうして懐樹が会いに来てくれたのが ちょうど良い切っ掛けになるのかもしれなかった。
━━ そうだ。俺も……いつまでも このままじゃ……な。
気が付けば、━━ 俺も懐樹も完全に酔いが回ってしまっており、テーブルの上は空き缶だらけとなっていた。もはや まともな会話にすらなっておらずに、ただ馬鹿笑いをしているだけである。
だが、心の底から笑えたのは本当に久しぶりだったかもしれない。
飲み干した何本目かのビール缶をテーブルに置くと、懐樹はアルコールで紅潮した顔に笑みを浮かべたまま俺の隣へと近付いて来る。
「おじさん……暑いよ。脱いで良い?」
「おう。脱げ脱げ」
「はーい! 懐樹、脱ぎまーす!」
言って懐樹は腕を交差させながらシャツの裾を持って一気に引き上げた。すると、風呂場でも見た巨大な胸が上下に何度も揺れながら俺の目の前に露となった。
「……お前……育ったなぁ……」
「おじさん。変態みたい……!」
「男は皆 変態だよ」
「あはは! そっかー……変態かー」
そう言いながら懐樹は自らの豊満な胸を両手で持ち上げるように寄せ上げると怪しげな笑みを見せて来た。
「……ねぇ、おじさん。……わたしのオッパイ……どう?」
「……そうだな。……凄いよ」
思わず生唾を飲み込んでしまう程だ。酔いが回っているせいなのか、意識の向かう先が甥っ子と言う立場にでは無く、完全に女体に向かってしまっていた。その証拠に股間に熱いものが流れ始めている。
懐樹は胸を持ち上げたまま俺の隣に来ると、そのまま俺の口に乳首を差し向けて来た。
「おじさん……」
「……な、懐……樹……!」
そう呟くために開いた俺の口内に、━━ 懐樹は乳首を差し入れて来た。一瞬 目の前が くらくらと回るような錯覚に襲われると、口内に甘い香りが漂い始める。
実際に そのような味が広がったのでは無く、耽美な状況が脳に そう認識させたのだ。
「……んっ……!」
気が付けば俺は両手で懐樹の胸を鷲掴みにしていた。指先に力を込めて柔らかさを楽しむように激しく何度も揉み上げてから、乳首を強調するように搾り上げると、そこで ようやく びんびんに固くなっている口内の乳首に吸い付く。
「おじ……さん!」
懐樹の甘く、甲高い声が漏れると、口内の乳首が益々甘く感じられた。声にならない声を漏らす懐樹を押し倒し、俺は吸い付いている方とは反対の乳首を摘んで激しく しごいていく。びんびんに尖った乳首は俺の指をも押し返すような弾力だった。
余りの必死さから俺は じゅるじゅると音を立てながら しゃぶるように吸い付いてしまっていた。
「は……あ……あっ……お、おじ……さん……!」
懐樹の激しい鼓動が吸い付いている口に直接伝わって来る。それが更に俺を興奮させた。
「んっ……お、おじさん……! そこ……!」
俺の手は自然と懐樹の下半身へと向かっていた。腰の辺りからジャージの内側へと手を忍ばせていくと、懐樹の履いているパンツは薄っすらと汗ばんでおり肌に張り付いていた。
「……懐樹……!」
俺は湧き上がる激しい衝動のままにジャージを下ろした。懐樹の履いているパンツは色気の無い男物だが俺の興奮は鎮まりはしない。肌に張り付いているパンツに指を掛けて下ろそうとするが、懐樹は必死に掴んで抵抗してみせる。
「……だめ……おじさん。……恥ずかしい……!」
「オッパイも確めたんだから……こっちも確認しないといけないだろ!」
「……うん。……そう……だね」
懐樹が手を離したのを見計らい俺は隠された秘部を想像しながら、━━ ゆっくりと下ろしていった。
「……!? 懐……樹!?」
そこで目にした物に俺は驚愕をする ━━。
「……ち……!?」
俺は唐突に覚醒した。どうやらテーブルに突っ伏して眠りこけていたらしい。空き缶がテーブルの上に所狭しと散乱している。部屋が消灯されているのは懐樹が消したからだろうか。
先程まで居た場所に懐樹の姿は無く俺は室内を見渡した。
━━ ……お。
目を凝らすと窓際で腰を下ろして外を眺めている懐樹の姿があった。
━━ ……夢……か。
酔っていたとは言え、とんでもない夢を見たものである。懐樹の豊満な胸を直接見ても そのような感情が湧き上がりは しなかったが、無意識の底では求めていたとでも言うのだろうか。
━━ まさかな。
単純に女性の肉体に飢えていただけだろう。無気力になって押さえ込まれていた精力が、女性の身体を前にして蘇ったのだと考えるべきだ。俺は夢の中で頬を紅潮させていた懐樹の顔を、窓際で腰を下ろしている実際の懐樹の顔に重ねる。
街頭の灯りに照らされた懐樹の顔は どこか儚げだ。そのまま消えてしまいそうな危うさのようなものを覚えた俺は、居ても立っても居られずに声を掛ける。
「懐樹……」
俺の声に ぴくりと反応を見せた懐樹は ゆっくりと振り向く。その顔に笑みは無かった。俺の脳裏に亡くなった彼女の顔が浮かぶ。夢の中での邪な感情は一瞬で消えた。
「……懐樹……お前……泣いてるのか?」
「……おじさん」
何が、━━ と言い掛けたところで俺は口を噤む。この期に及んで懐樹の心に踏み込むことに躊躇いが生じたのだ。両親に相談もせずにTSをした上に、行き先も告げずに着のみ着のままで俺の家にまで来た以上、━━ 抱え込んでいる事情は並大抵では無い筈である。
━━ ……懐樹……。
その時、懐樹の肩が小刻みに震える。感情が涙と共に静かに溢れ出したようだ。
「……懐樹……何か あったのか……?」
資格とか覚悟とか小難しいことは頭から完全に消え、言葉が自然に口から漏れ出していた。
懐樹は、━━ ぽつりと呟き始める。
「おじさん。……わたし……逃げて来たんだ」
「逃げて来た?」
「うん。……逃げて来たの。……全部……嫌になって……何もかも全部」
「……だから……TSしたのか?」
嫌になって、逃げ出して、━━ 新たな人生を始めるのならば、もしかしたらTSは打って付けなのかもしれない。
だが、━━ 俺は懐樹から放たれる言葉に自身の甘さを思い知らされることになる。現実は非情なのだ。
「ううん。……違う。……逃げたのは……TSしてから。この姿になってから……逃げ出したの」
「……女性の姿に……なってから?」
「……うん」
「つまり……その、何かあって……逃げるためにTSしたんじゃ無くて……TSしてから……何か あったと言うこと……か」
「……うん。……そう」
何かが切っ掛けとなってTSしたのでは無かったと言うのだろうか。俺は懐樹の近くに寄ると真剣な面持ちで相対する。
「懐樹。……話せるか?」
「……」
「話した方が楽になる時もある」
「……」
懐樹は無言だ。核心については話したくないようだ。ならば、これ以上 無理に聞いても悪戯に懐樹の心を傷付けるだけになってしまう。俺は小さく一つ頷く。
「……そうか。分かった。これ以上は聞かない。……でもな、懐樹。さっきも言ったが、何があっても俺は お前の味方だからな。話しても良いと思える日が来たら話してくれ」
「……」
やはり無言のままの懐樹に俺は ふたたび頷いてみせる。何かが あったのは確かなのだろう。だが、肝心なのは本人に話す意志が あるかどうかだ。それを無視して心の奥底にまで踏み込む訳にはいかない。
俺は懐樹から目を離して振り向こうとする ━━。
「……おじさん……!」
消え入りそうな声を搾り出す懐樹に俺は ふたたび顔を向けた。
「……懐樹……」
わたしね、━━ と声に ならない声を囁いてから懐樹は顔を伏せて、今度は震える声で呟き始める。
「……わたしね……好きな人が居たの」
「好きな人……」
居た、━━ と言う表現に俺は自分を重ねてしまいそうになった。
「……その人……男……だったの」
「……男……」
━━ そう言うこと……か。
男性を好きになってしまったがためにTSをして、告白をして、━━ 振られたのだろう。
掛ける言葉が見つからず、黙すことしか出来ない俺に懐樹が続ける。
「その人は高校の同級生で……優しくて一番の友達で……その頃から好きだったの。いつも一緒で……他愛も無いことばかり言い合ったし、彼女が欲しいとかも……勿論それに関しては わたしは話を合わせるだけだったけど。……それで、同じ大学に進んで……時間だけが過ぎて……日に日に感情だけが膨らんで……抑えられないようになって、このままで良いのかと思うようになって……その人の前で笑い続けるのも辛くなって。……それで、自分の感情に決着を付けようって思ったの。……完全に わたしの我が侭。相手の気持ちなんて何も考えてない……だから、罰が当たったんだわ」
「……罰……?」
ただ振られただけならば ”罰” なんて言葉が飛び出す筈も無い。俺は生温い夏の夜の湿った空気とは別の、何か背中に張り付くような心地の悪さを覚えた。
「……先週……もう、会えなくなるのも覚悟して……わたし、正直な気持ち伝えたの」
「それは……TS前?」
「うん。……そう、TS前。……わたしの顔見て只事じゃ無いと察してくれて……真剣に聞いてくれて……笑わずに……そしたら、その人……言ってくれたの。TSしてくれれば良いよ、━━ って」
「TSしてくれば……」
「うん。……わたし、浮かれちゃった。……深く考えないで、わたしの この気持ちを認めてくれたと思って……ちょっと考えればTSすれば良いよって即答するなんて……おかしな話なのにね。……そんなの……目的は一つしか無いよね……」
━━ 目的……。
いくら懐樹から告白したとは言え、女性になれば付き合えると返すのは余りにも相手にとって都合の良過ぎる条件だ。しかも、即答である。普通ならば同姓から告白されれば驚愕や苦悩が あって然るべきだろう。それをTSすれが良いと即答するのは むしろ、TSさせるために懐樹の恋心を利用しているとしか思えない。
そして、TSさせる目的と言うのは、━━ 当然、女性へと身体を変えさせるためだ。
ならば、何故 女性の身体へ変えさせる必要があったのか。━━ 理由は一つしか無い。
俺は苦虫を噛み潰したような顔で一言だけ声を絞り出す。
「……懐樹……」
「襲われたの わたし。……レイプされちゃった」
余りにも痛々しい自嘲気味な言葉と笑顔。
━━ やはり、そうか。
顔を伏せる俺に懐樹は淡々と続ける。
「舞い上がって……躊躇無くTSして……女性になった姿を早く見て貰いたくて、会いに行って……そしたら、その人わたしの姿を見て喜んでくれて……直ぐに一緒に来て欲しいって、どこか知らない場所に連れてかれたの。……わたし、何も疑いもしないで……そしたら……そこに四人の男が居て……」
「……四人……?」
「わたし……驚いて……どう言うことって聞いたら……い、今から……今から……」
懐樹の身体が震える。忌まわしい記憶、━━ 思い出したくない記憶が蘇っているのだろう。俺は咄嗟に懐樹の身体を支えようとするが触れる直前で手を止めてしまう。触れることが正しいのかさえ分からない。
懐樹は自らの傷口を抉るように言葉を吐き出した。
「今から……こいつら全員の相手をしてやってくれって……こ、こいつら女性経験が無いから……お、お前が……や、やら……やらせてやってくれって……わたし……嫌だって言ったのに……四人掛かりで無理矢理……お、押さえ込まれて……!」
俺は思わず顔を しかめてしまう。それが女性になったばかりの懐樹にとって、どれだけの恐怖だったのか計り知れない。
「あ、あいつら皆 笑ってて……誰一人 真面目じゃ無かった。……こんなの遊びだからって……お前も良い経験になるだろって。……と、友達だと思ってたのに……その人、大学で知り合った仲間に良い顔をしたいからって……どうせ、またTSすれば元通りになるんだから良いだろって……女性物の下着を着けてるの見て……わ、笑って……お、俺……ほ、本気だったのに……本気で好きだったのに……でも、そんなの全部 俺が勝手に相手を好きになっただけで……俺の独り善がりだった……!」
━━ だから”罰”……か。
一方的な愛は独善に過ぎないと、━━ 勝手な好意と思い込みを向けただけの独り善がりに対する罰が下ったのだと懐樹は解釈したのだ。
「結局、俺自身も そいつのこと何も考えて無かった。知ってたつもりになって、その実……何も知らなくて……好きになった相手に言われたことだから、無条件に信用して……俺の告白も冗談半分だと思われてて……笑いながら……か、代わる代わる……お、俺に覆い被さって来て……!」
懐樹の言葉遣いが男女入り混じり始める。感情の落とし所を見失っているのだろう。
「だから……俺……逃げて来たんだ。何もかもが嫌になって……こんな現実なんてって……でも、一番は自分……何よりも自分自身の馬鹿さと情けなさが嫌になって、全部捨ててしまいたかった。……消えてしまいたかった!」
好きな人のためにTSして、その人に尊厳を奪われたのだ。希望の象徴だったTSによって絶望の底へと突き落とされたのである。
「それで駅に着いて……ホームに立ってた時に……思い出したの。……おじさんと行った夏休みの旅行のこと。そしたら、楽しかった思い出が溢れて来て。……わたし……泣きながら電車に乗って……気付いたら おじさんの家に来てた」
━━ ……駅のホーム……か。
俺は そこで懐樹の絶望の程を知った気がした。懐樹の頭に過ぎったのは俺の想像で間違って無い筈である。ただ、そこで懐樹は俺と一緒に電車に乗って旅行へ行った時のことを思い出したのだ。
「……ごめんね、おじさん。……こんな話……本当……ごめんなさい。……迷惑掛けて、ごめんなさい……」
懐樹は肩で息をする。溜め込んでいた様々な感情を矢継ぎ早に吐き出したためだろう。顔を伏せては居るが涙の痕が街灯の灯りに照らされていた。
━━ ……懐樹。
中学生の頃からの成長を考えれば やはり小さな身体だ。TS ━━ 女性の身体に なったのだと改めて思い知らされる。果たして、━━ どれ程の間 思い悩み続け、苦しんで来たのかは筆舌に尽くし難い。
一体、━━ 俺に どんな言葉が掛けられると言うのか。心と身体に傷を負わされた甥っ子に掛ける言葉など俺には見付からない。
だが、━━ それでも、たった一つだけ どうしても伝えなければならない今の俺の正直な気持ちがあった。
「懐樹。……会いに来てくれて ありがとうな」
逃げ出して、駅のホームに向かって、━━ そこで最悪の事態を選択せずに、良くぞ俺に会いに来てくれた。俺には それ以上の言葉は見付からない。だが、それは俺の嘘偽りの無い言葉であり、紛う事無き本心だ。
「……おじさん……」
懐樹は顔を上げると俺を見つめる。そして、身体を震わせながら嗚咽と共に涙を溢れ出させた。
「懐樹……」
人に直接 傷付けられた以上、無断で抱き締めるのも憚られてしまう。俺は懐樹の その姿を見守るしか出来なかった。だが、それで良いのだろう。もっとも大切なのは俺が懐樹の味方であるのを示し続けることなのだから ━━。
少しずつで良いから前に進められれば、━━ それで良い。
━━ 今日も暑いな。
懐樹が俺の家に来てから十日程が経過した。表面上は元気を取り戻したようには見えるが、その心中までは推し量れはしない。大学の夏休みも あと数週間で空けてしまうが、その後どうするかは まだ決めかねているようだ。
その間は好きなだけ俺の部屋で住むよう告げてある。部屋の中には女性物が増え、男の一人暮らしの部屋が すっかり同棲カップルが住むような部屋へと変貌していた。
隣近所には何も説明していないが果たして、どのように見られているのだろうか。まぁ、近所の目など気にする必要も無いのだが ━━。
「……もしもし。兄貴か? ……ああ、そう。……あー……それがな。……今、懐樹が俺ん家に来てるんだよ。……そうは言っても話くらい聞くべきだろ? 一方的に兄貴の話だけ鵜呑みには出来ないし。……でな、兄貴。……懐樹に話 聞いたんだけどな。兄貴も一度ちゃんと聞いてやってくれ。……ああ。……俺から詳しい話は出来ないけど。……懐樹には懐樹にちゃんとした理由が あるんだよ。……だからな、兄貴。……俺としては兄貴や義姉さんの気持ちも理解はするつもりだよ。俺にとっても息子に近い存在だからな。勝手にTSして許せない気持ちも分かるよ。でもな、懐樹にも何も言えない理由が ちゃんと あるんだよ。……今直ぐって訳には いかないだろうけど……絶対に その方が どっちに とっても良いから。……ああ。……懐樹は取り敢えず家に住まわせてるから。……落ち着いたら また連絡するよ。……だから、兄貴も頼むよ。……ああ。大丈夫だよ。……それじゃ、また……」
通話終了をタップして俺はスマホの電源を切ると、何も映らない画面を やや暫く見つめてから後ろを振り返る。すると、やや大きめなバッグを手にした懐樹がアパートの階段を降りて来た。
「おじさん。お待たせ!」
「ああ。……じゃあ、行くか」
「うん!」
俺は有給を取って懐樹と数年振りの旅行へと行くことにした。特に行く当ても無い気ままな旅だ。
「楽しみ!」
「そうだな。……さて、どっちに進む?」
「……どっちでも! ……あ、最後に言ったのが南の方だったから……北かな?」
「北か……。じゃあ、先ずは東北目指すか」
「うん!」
俺にとって懐樹は甥っ子であるのは変わり無いし、男の姿をしていようが、女の姿をしていようが そこに何かしらの問題は無い。急ぐ必要は無いのだ。時間が解決してくれるのを俺自身が知っているのだから何も心配は無い。目を離さずに見守り続けていれば それで良いだろう ━━。
ただ、━━ たった一つだけ兄貴も義姉さんにも決して言えない、二人だけの秘密が出来てしまった。
「……ん……ん……ちゅ……ちゅ……ん……ん……んっ。……んふ……どう? おじさん、気持ち良い?」
「ああ。……懐樹お前……上手くなったな。……でも、本当に無理して無いか? ……抵抗とか?」
「ん……無理なんてしてないから。……だって、わたしの方から こうしたんだよ? ……おじさん、襲っちゃったんだからさ」
「……あー……まぁ、そうなんだけど……な」
「……おじさん、全然わたしのこと女って見てくれないからさ。……思い切って寝込みを襲っちゃったよ」
「本当だよ。……何か変な感じしたから目を覚ましたら……まさか、お前にな……咥え込まれてたなんて思いもしなかったよ」
「……でも、ホント言うと……嫌がられるって思ったんだけどさ。……だって、わたしさ、おじさんから見たらやっぱり甥っ子だし……わたしが男の姿の時しか知らないからさ」
「……そうだな。……やっぱり、最初は抵抗はあった。……頭に浮かぶのは男としての お前の姿だったからな」
そう、懐樹が俺の家に来て数日が経った夜、━━ 寝静まっていた俺の布団に潜り込んで来て懐樹がフェラチオをして来たのだ。当然、俺は目を覚まして驚愕するが、なし崩し的に そのまま関係を持ってしまったのだ。
その兆候が無かった訳では無い。懐樹は風呂上がりに平気で俺の前で裸になっていたし、扇動するようなポーズを見せて来たりしていたのだ。それでも、俺が まったく相手にしていなかったため、強硬手段を取って来たと言う訳である。
「それは分かってるからさ。……おじさんの欲望を解放して上げないと無理だと思って! ……過去の わたしより、今の わたしを見て貰うためにね。……だから、無理矢理襲っちゃった。……結局、これも わたしの勝手だからさ……自分勝手! ……だから、おじさんは全然気にしないで気持ち良くなってくれれば……わたしは嬉しい……!」
「……あー、もう……そりゃ、効果は覿面だったよ。……お前の その身体……おじさんの俺には眩しすぎる。……お前が甥っ子……男であるのを忘れたよ。……完全に一人の立派な女性だ」
一線を越えてからは俺は完全に懐樹の女性としての肉体に夢中になってしまっていた。叔父と甥っ子と言う立場、男とTSした女と言う立場、そんなものは俺たち二人の間には如何程の障害とも なり得なかった。
「……ん……ちゅ……ん。……嬉しい! ……おじさん……オッパイ触って……!」
懐樹は俺のチンポを握り締めながら これ見よがしに自らの豊満な乳房を寄せ上げてみせる。両腕に挟まれた胸の谷間は まるで お尻のように見えていた。
俺は生唾を飲み込むと、無遠慮に人差し指と中指の付け根で乳首を挟み込むように胸を鷲掴みにする。触るまでも無く、乳首も乳輪も既に ぷっくりと膨らんでいた。胸のサイズを果物に例えたりもするが、懐樹のは明らかにスイカである。
「……いや、しかし……懐樹……お前、本当に凄いオッパイだな。今の若い子って皆こんな感じなのか?」
「そうだね。……割りと皆スタイルは良いと思うよ。……でも、他の子の話題は嫌! ……あ! ほら、おじさん。アイス溶けて来てるよ」
そう、ここは旅行先なのだ。ふらりと寄った町の旅館に立ち寄って温泉に入浴した後に、部屋で寛ぎながらアイスを食べている最中に懐樹に突然フェラチオをされたのである。
いや、━━ 突然では無い。明らかに俺たちは ”これ” が目的で この旅館へと立ち寄ったのだ。
「じゃあ、ほら……残りのアイス食ってくれよ。さすがにチンポより良いだろ?」
「えー……わたし、おじさんのチンポの方が良いよ。……でも、溶けたら勿体無いから貰うけどね。……ん」
懐樹は片手でアイスの棒を握りながら、もう一方の手では俺のチンポを握っている。初めて俺の布団に潜り込んで来た時の たどたどしかった扱い方も、今では俺も唸る程の上達振りだ。
ある意味では気持ち良いところを知り尽くしている元男性 ━━ TS女性ならではと言えるのかもしれない。
「あ、そうだ!」
言って懐樹は残りのアイスを しゃぶってから俺のチンポを咥え込んだ。
「うおっ!? 冷た!?」
「ん……んふふ……ちゅ……どう? 冷たくて気持ち良くない?」
「そ、そうだな。……冷たいのが段々と熱くなって……あー……やばいやばいやばい!」
「ん……あ! おじさんのチンポ……びくびくしてきた! ……出そう?」
「んっ……あっ……ダメだ。……あっあっあっ……で、出る! だ、大丈夫か!? く、口の中に出るぞ!?」
懐樹は俺のチンポを咥え込んだまま俺を見上げて目元で笑みを見せると、カリ周りを舌先で舐め回しながら陰茎を上下に激しく しごき始めた。そのテクニックを前に俺は一瞬で絶頂を迎えてしまう。
「んっ……な、懐樹……お前、う……上手っ……あっ……で、出る……!!」
陰茎が律動し、大量の濃厚な精液が懐樹の口内へと吐き出された。懐樹は目を閉じたまま それを必死に飲み干していく。その上で、陰茎を根元から亀頭の方へと何度も しごき上げて尿道に残った精液までも搾り出し、カリ周りに こびり付いた精液までをも綺麗に舐め上げていった。
俺が その仕草に見惚れていると懐樹はチンポを咥え込んだまま自らの浴衣の襟を肌蹴て自慢のスイカ大の乳房を さらけ出し、陰茎を その乳房の間に挟みこもうとした。
「な、懐樹……ふ、風呂場行こう……!」
「……ん……ちゅ……うん! 分かった」
借りた部屋には露天風呂が備え付けられていた。二人で楽しむために一番高い部屋を借りたのである。俺と懐樹は浴衣を脱ぎ捨てながら露天風呂へと続く窓を開けて外へと出る。フェンスで囲われてはいるが解放感は抜群だ。周囲は夜の闇に包まれているが空には満天の星空が広がっている。
俺は浴場で腰を下ろすと直ぐに懐樹が しがみ付くように下半身に覆い被さり、俺の いきり勃った陰茎を二つの豊満な乳房で挟み込んだ。そして、外側から両手で押さえ込むと陰茎に刺激を しごくように動かし始め、更に胸の谷間から顔を出した亀頭を舌先で ちろちろと小刻みに刺激を与えていく。
「ちゅ……ん……おじさん、凄いね。……射精したのに固いまんま……」
「お前のオッパイが凄過ぎるんだよ。……こんな若い子のオッパイ……おじさんの俺には……」
「ん……ん……おじさんだって、まだ三十代なんだから若いよ!」
「そ、そう言われるのは、悪い気はしないけどな……」
そう言いながら俺は目の前で上下に動いている乳首を摘んでみせた。その固さと弾力に俺は益々興奮を昂ぶらせてしまう。
「……おじさん……乳首……良い……!」
懐樹の身体が痙攣のように震える。懐樹は感度も抜群だったのだ。俺は乳房の片側を懐樹から奪うように下から引っ張り上げると、そのまま先端を口に含んだ。スイカサイズだからこその芸当と言えよう。乳房の膨らみから更に一段階膨らんだ乳輪を丁寧に舐め上げてから、その中心に そそり立つ乳首に吸い付いた。ミルクなど出はしないのに吸い付きたくなるのは男の性だ。
だが、それが絶妙な愛撫となり、心地良い快感となって懐樹を震え上がらせていった。
「おじさん……! もう……欲しいよ! ……わたし……我慢出来ない!」
よく見ると既に太ももには幾筋もの愛液の痕が残されており、俺を受け入れる準備は万端なのが窺い知れた。
「懐樹……愛液溢れ出してるぞ」
「だって……早く……入れて欲しいから……!」
「そうか……」
━━ そうだな、俺も早く入れたい……!
懐樹の代わりの両方の胸を鷲掴みにすると、懐樹は そのまま ゆっくりと上半身を起こしていく。それに従って下半身が露となり、影となっていた股間の部分が俺の目にも映る。恥毛は薄く、割れ目と剥き出しのクリトリスも はっきりと見て取れた。
「お、おじさん……そのままで居てね」
言うや否や懐樹は俺のチンポを掴みながら腰を浮かせて自らの膣口に亀頭の先端を宛がう。挿入を待てない俺は乳房の愛撫を始めた。懐樹は恍惚とした笑みを浮かべながら下半身を下ろしていった。
「懐樹……!」
「おじさん……!」
互いに呼び合いながら俺たちは結合を果たした。懐樹の膣内は当然ながら狭く、きつく、俺のチンポは挿入しているだけで絶頂を迎えそうになる。
「は……あ……あ……おじさんのチンポ……入ってる。……わ、わたし……ま、また、おじさんと……セックスしてる!」
「またって……昨日も しただろ」
「んふ……そうだったね。……わたしが襲い掛かってから毎日してたっけ」
「そうだよ。おかげで俺も元気になったよ」
「それは、わたしのセリフだよ。……ん……おじさんのチンポ……子宮口に当たってる! ……じゃあ、動くね」
懐樹は俺の両肩を掴んで身体を支えると、熱い吐息を漏らしながら腰を上下に動かし始めた。その動きに合わせるように俺は懐樹の胸を揉み回しながら乳輪を口に含んで乳首を甘噛みすると、懐樹は短く嬌声を上げて腰の動きを止めてしまう。
「どうした、懐樹? 腰の動きが止まってるぞ」
「……んっ……おじさん。だって、乳首弱いの知ってて……」
「……ほら、そこに四つん這いになって お尻を こっちに向けて……俺に任せておけ」
「うん。……おじさん。バックから好きだね」
「嫌いか?」
「ううん。おじさんが好きなら何でも好きだよ!」
にっこりと笑みを浮かべると懐樹は腰を引き上げてチンポを抜き、四つん這いで背中を向けてから お尻を突き出して来た。膣口が ぱっくりと開いており、愛液に濡れている膣壁が淫猥に蠢いている。俺は思わず その眼前の光景に感嘆の息を漏らしてしまった。それに気付いた懐樹は思わず嬉しそうに言葉を零(こぼ)す。
「……エロい?」
「……い、いや……まぁ……エロいな。……ひくついてるぞ」
「早く入れて欲しいの……! おじさんのチンチンで掻き回して欲しいの!」
俺は、ふと頭に浮かんだ疑問を懐樹に ぶつけてみた。
「……ちょっと思ったんだけどな。……答え辛かったら良いけど。……その、男の時って……入れられたいとか思うものなのか?」
「……んー? ……そうだね、わたしは男の姿の時は性的関係を持ちたいとかは思わなかったなぁ。……おじさんの家に来てからだもん。おじさんと一緒に過ごしてる内にね……どんどん好きになってって……欲しくなっちゃったの」
「欲しくなった?」
「……おじさんの……おちんちん!」
「……懐樹……お前……本当に けしからん甥っ子だ!」
俺は眼前の お尻を両手で鷲掴みすると亀頭の先端を膣口に宛がって、一気に根元まで挿入した。
「んあっ!!」
懐樹の上半身が大きく跳ね上がり、双つの巨大な胸がゴム鞠のように激しく上下に揺れた。深く息を吐いて呼吸を整えると俺は懐樹に告げる。
「んっ……本当……懐樹のオマンコ……きつい! ……いきなり激しくするからな!」
「あっ! お、おじさん……おじさん!!」
肌と肌とが ぶつかり合う音が風呂場に響き渡る。一突き一突きに力と想いを込めて俺は懐樹のオマンコを貪る。俺の愚息を受け入れながらも、懐樹のオマンコは侵入者を許さないとばかりに押し出そうとする。
そんな か細い抵抗をも俺は子宮口へと突き上げる一撃で打ち破った。
「あっ……!! んあっ!! あっあっあっあっあっ!! んっ、あっ、あっあっあっあっあっ!! ……い、イク……イク、イク……お、おじさん。……わ、わたし……い、イっちゃう……あっあっあっあっあっ!! ……イっちゃう……イっちゃうよ!!」
「ああ。イけ! 懐樹!!」
そこから俺は力を振り絞って懐樹に何度も何度も腰を打ち付けた。そして、徐々に腰の奥の熱量が陰茎の根元へと集まり、それが陰茎全体を支配していくと、途轍も無い快感の前触れと共に射精感が襲い掛かって来る。
一方の懐樹も絶頂の前兆とも言うべき衝動と快感の明滅に襲われた。
「い、イク……イっちゃう……い、イクイクイクイクイク……んっ……あっ……イ……っク……あっ……!!」
懐樹の身体が激しく痙攣を起こしながら俺のチンポを激しく締め付けた。そして、凄まじい勢いで襲い来る快感と射精感に抗うように、一瞬 陰茎に力を込めると懐樹のオマンコからチンポを引き抜いて それを お尻の上に乗せた。
ほぼ同時に、━━ 脈打つ愚息から熱を帯びた大量の白濁液が懐樹の真っ白な背中に吐き出された。
━━ ……はー……危なかった。
危うく膣内で射精する寸前だった。まさしく間一髪と言えよう。だが、懐樹としては それが不満だったようである。
「……はー……はー……はぁ……お、おじさん。……また、膣内で射精してくれなかった」
「そりゃ、膣内射精なんて出来る訳無いだろ。……最初に言っただろ。兄貴たちには内緒の、俺たちだけの秘密だってな」
「……うん。……分かってるけど。……うん。ごめんね」
「……まぁ……な。これも、きっと時間が解決してくれるさ。……俺だって我慢出来ずに膣内射精しちゃうかもしれないしな」
「そうだね。……そうなるように、わたしも頑張るよ……! もっと、おじさんが気持ち良くなれるようにね……!」
その己の言葉を実践するとでも言うように懐樹は俺のチンポを握り締めると、そこに こびり付いた精液を舐め取り始めた。
「……ん……おじさん凄い。……まだ……固い……!」
俺は愚息から じんわりと伝わる快感に耽るように目を閉じる。
━━ ……この旅行の間に膣内射精しそうだな……。
既にTSした元男性が妊娠、出産をするのは実証済みである。だからこそ俺たちは、この禁断関係を知られてしまう可能性を少しでも減らさなければならないのだ。懐樹を孕ませる訳にはいかないのである。
━━ 膣内射精してくれって言うのは単純に俺のことを好いてくれているからなのか……それとも、俺の子を産みたいからなのか……。
俺は満天の星空を見上げてから俺の愚息を嬉しそうに舐めている甥っ子の姿を見下ろす。
━━ ……まぁ、どちらでも良いさ。……そうなったら、その時だ。
「……暑いな……」
「……ん……ちゅ……んっ……そうだね。まだ夏も真っ只中だし……」
この、━━ 俺たち二人を覆う熱量は果たして夏の暑さなのだろうか。夏が過ぎて秋を迎えた時に、俺たち二人の関係が どうなっているのかは分かりはしない。
それでも、たった一つだけ断言出来るのは、━━ 必要とされている限り俺は懐樹を見守り続けると言うことだけだ。
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