そしてふたりでワルツを

あっきコタロウ

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外伝(むしろメイン)

異聞一   ゲツトマ冒険記( 原住民の地 編)

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メイン:ゲツエイ、トーマス ジャンル:様式美(ある意味ダーク、またはコメディ)

*********************************************


 トーマスの視界にうつるもの。木、木、木。木木木木木!
 右も、左も、前も後ろも、どこもかしこも木ばかり。

 行き先を定めぬ旅路。国を出てはじめに辿り着いたのは国境の原生林。彷徨う視線、変わらない景色に嫌気が差す。はやくこんな不衛生なところを抜けて、羽虫の飛ばない空気を吸いたい。
 
「ゲツエイ」
 立ち止まり呼ぶと、頭上から降ってくる逆さの顔。ゲツエイが、そばの樹の枝に膝をかけてぶら下がっている。
「果物か木の実を探してこい」。多少の空腹を覚え、そう指示を出そうとした矢先。

 突如、周囲の木々が騒々しく揺れだした。風も無いのに一斉に枝を振り乱して。
「なんだ?」
 葉が暴れ、幹が揺れ。しばらくザワザワと木々は動き続け、やっと静かになったとき。


 霧を纏い出現した集団に、ふたりは、取り囲まれていた。



 彼らは、肌も髪も黒く――裸である。
 下半身のみ、葉っぱを束ねた腰ミノのようなもので隠し、手には、棒の先端に石をくくりつけた槍らしきものと、木でできた丸い盾のようなもの。
 頭には、けばけばしい色の羽根で装飾された木彫の面。

 この辺りに暮らす民族だろうか。

 そのうちのひとり、ひときわ装飾が派手な老人が一歩進み出て、一言。


「フンババ!!」


「なっ……に……?」
「フガフガ! フヌ! ンババア!」

 理解は一切不可能ながら、何かを必死で伝えようとしている……とは感じられる。

 民族の様子に、木からぶら下がっていたゲツエイが体を揺らし反動をつけ、一回転して地に降りた。向き合うように一歩、前へ。
 身振り手振りで相手との意思の疎通をはかりはじめる。
 
「フンバー! フンババア!」

 民族の男が足を地面にうちつけ鼻息荒くまくしたてれば、ゲツエイは自分達が来た方向を指し飛び跳ねて応答。
 ひととおりコミュニケーションを取った(?)あと、ゲツエイは振り返り、背後のトーマスをおもむろに担ぎ上げると、民族達と一緒に密林を駆けだした。

「おい、どこへ行く、おい!」
「ンババ!」

 トーマスの問いに共通の言語で返答できる者、残念ながら居らず。






 走ること少々。
 中央で大きな篝火が煌々と燃え盛る広場に到着。四方に配置されたやぐらの上から野生的なリズムで打楽器が鳴り響き、民族達が儀式的に踊る。
「フンババウンババ、ズンドコドコドコ、ダダダダダダダン!(ヤーッ!)」

 到着してすぐ、トーマスが案内されたのは、色彩鮮やかな肉や野菜、果実やジュースが広げられた丸太の前。

「ゲツエイ」
 果実をひとつ放り投げれば、ゲツエイはパクリと口で空中キャッチ。咀嚼、嚥下。しばし待って――変化無し。毒は無いようだ。

「歓迎と判断して良さそう、か」
 一段高くなった王座のような丸太に腰掛けると、集まってきた美女達(おそらく美女なんだろう、この民族の美的感覚においては)に、足元から葉っぱでがれ、貢物だと言いたげにうやうやしく木彫りの面を差し出された。民族工芸品らしい大胆な彫りは面白い趣きでなかなか良い面である。

 果物の皮を剥いて口に運べばもぎたてのみずみずしさで、バナナ味のジュースは喉を焼きそうな濃厚さ。アルコールの香りはしないが、この感覚は、酔いに近い。
 眠くなり目をこすると、察した民族に、柔らかな葉っぱをふんだんに盛られた寝床へ誘導される。土汚れが無いのを確認し遠慮なく横になると、すぐにトーマスの意識は夢の淵へおちていった。


*


 炎が消え、あたりは闇に包まれて、夜に鳴く鳥が活動を開始する頃。

 自然の香りに抱擁され眠るトーマスと、少し離れたところで丸くなるゲツエイ。

――そこからさらに離れたところで、ふたりを眺める複数の影。民族。武器を、手に持って。



『起きてな! ゲツエイ! 危険が迫ってる!』

 蜘蛛の声で、ゲツエイは目を覚ました。

『あいつら、君達を食べるつもり! 油断させる為に歓迎してるふりをしてたんな! 今、どうやって殺すか相談してる!』

 すぐさまゲツエイは起き上がり、民族の居る方向を察知。
 そして、疾駆。

『行け! ゲツエイ! 殺られる前に、殺ってしまえ!』

 

 ひとつ、首が飛ぶ。血しぶきを上げて。
 ふたつ、四肢を失う。骨からスッパリと。
 みっつ、内臓が破裂。皮膚を突き破って。

 暗闇で、ひとり、またひとり。
 
 獲物が目覚めたことにすら気づいていない民族に、感染していく恐怖の波紋。次々と仲間が倒れる謎の現象。

『ンバアアアアア!』

 雄叫びをあげて、民族達はやみくもに槍を振り回す。仲間同士で傷つけ合って、暗闇のなかパニックonパニック。
 ゲツエイはその合間を縫い、着実に、標的を狩る。
 地を蹴り、宙を舞い、笑顔を浮かべ。
 最後のひとりを右手の鉤爪で貫いて、死体の山に放り投げたら、その頂上で幾度目かの――。
 

 全て終わって、ゲツエイは再び寝床に丸まった。
 おいしい食事、適度な運動、性の処理。

 いたれりつくせり。楽しい気持ち。
 良い夢が見られそうだ。


*


「あっ……。チッ」

 翌朝。
 目覚めたトーマスは、あたりの惨状に舌打ち。何が起きたかは一目瞭然。
 惨状の当事者は黙って、いつもと変わらずじっと立つのみ。

「まあいい。行くぞ。どうせここに長居する気は無かったしな」

 行くぞ、の合図でふたりは進む。
 積み上げたものを振り返らず。なぜなら、求めるものは、前にあるからだ。


 異聞一 END




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