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第二章 メインヒロイン決定戦 

シリー生徒達に問題を押し付ける

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 塾ヒロシの特別教室には、続々と生徒達が集まって来ていた。

 まずは唯一の男の子。ニック ファイヤー。騎士団家系の次男。英雄ランキング序列5位という出来の良い兄と常に比較されて育ち、落ちこぼれの人生を歩んできた。シリーは自分と似たような人生を歩んできたニックに対して人一倍強い想いと親近感を持っている。

「シリー先生。ハンナ先生。みんな、おはよう。」

「わはははは。ニックおはよう。今日も良い笑顔だ。最&高。」

 ニックはシリーと同じように笑顔で親指を立てながら席についた。続いてシリーが新たに勧誘した新入生のエクレア ゴールドとセイラ アースが一緒に登校してくる。   

「ふんっ。まったくここは落ちこぼれ達の吹き溜まりね。空気がとても悪いわ。」

「エク姉。また口が悪くなってますよ。」

「セイラ。可愛いあなたは例外だからね。よしよし。」

「がはははは。口が悪いのもまた一興、素敵だぞエクレア。生徒全員が同じ性格でもつまらんだろう。」

「うるさいっ。ヘタレ講師。褒められても全然嬉しくないんだからね。」

 エクレアが照れ隠しに暴言を吐くとスカーレットとアマンダがそれに怒り出す。自分達が蔑まれた方はまだ許せるが、シリーへの暴言は許せないのだ。

「エクレア。シリー先生への悪態は許さないわよ。」

「スカーレットの言う通りよ。態度を改めなさい。」

「わはははは。スカーレット、アマンダ。生徒同士で対立するのは、模擬戦の時だけにしなさい。あ。うーん。やりたいなら今から場所を変えて今日は模擬戦にでもするか?」

 スカーレットとアマンダは、シリーの言葉でしぶしぶ折れる事になる。エクレアの言動はとても許せないが、それよりも、今日の課外授業を早く受けたいのだ。強くなる事こそが二人の本懐である。
「いえ。冷静になります。」「私も大丈夫です。」

 特別教室の生徒達5名全員が集まった所で、シリーは、自分のピンチを救って貰うべく話始める。

「おはよう。わはははは。では、みんな揃ったな。今日の授業を始める前にみんなにひとつ課題を与える。現在、塾ヒロシには苦情が殺到している。それは私の言い付け通り、君達が魔法学園を辞めこちらの塾に専念した事が原因だ。私は、君達の保護者から塾の担任から外せと抗議されているのだ。」

「まあ。そうなるでしょうね。殆どが大貴族だし、塾へは相当のプレッシャーがあったはずよ。」

「そうだなあ。だが私はこの事で君達に疑問を抱いている。なぜ、保護者にそんな事をさせたんだ? 君達はいずれ英雄となる器だぞ。何か行動を起こすなら、あらかじめその行動によるリスクを考えなければならなかった。それが現実だ。どうだ? 意味が分かるか? スカーレット以外にはなるが君達は失敗をしたのだ。」

「そうですね。私達はもっと考えるべきでした。」

 アマンダがその言葉に同調する。

「あはははは。しかし、人間は失敗をしても取り戻せる事もある。これから、君達はそれぞれの親に抗議を取り下げるように説得するのだ。期限は私がクビになるまでの一週間。英雄達よ。どうだ? この難しい課題が君達に出来るか?」

「「はい。」」

 生徒達はこのいい加減講師のシリーにまたもや騙されている。ただ、シリーは本当に悪いわけではない。本来のシリーであればハンナが無事だった段階で、とっくに諦め辞職している。婚約者に死なれた絶望の中でひとり悲しく死んでいくかもしれない。楽しく生きる為に足掻く事が本物の方のシリー フロストの遺言であり彼の意志なのだ。シリー フロストの楽しく生きろという意志を、自分を守って死んだ彼の為に忠実に守っているに過ぎない。

 エクレアだけがその話に異を唱える。

「良い風に言ってるけど、結局自分の問題でしょ?」

「いいや。君達の問題だ。」

「わかった。そこまで言うなら解決するわ。けど、その代わり、それが私達のせいだと言うのなら、私自身の問題の方をあなたに解決して貰っても良いかしら? 私は死ぬ程、後悔し、憎み、恨んでいる。」

「良いだろう。それなら授業が終わった後に相談に来なさい。」


 シリーはそれが何事なのかは分からないが、自分の危機を脱する為にそれを了承していた。エクレアもそれで納得する。エクレアはシリーが問題を本当に解決するとは思っていない。だが、それでも自分とセイラだけで抱えるにはあまりに大きすぎる問題なのだ。
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