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第二章 メインヒロイン決定戦 

ハンナ土下座をして謝る

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 トリニティー迷宮ラビリンス

 Aルート 空中迷宮 天空岩エアーロック 

  
「シリー先生。大変です。このダンジョンやばい。子供達も……どこにもいません。それに、なんて広大な空間。地下に空があるなんて。」 

  
 副担任のハンナはダンジョンの異様ともいえる行動にとても焦っていた。それもそのはずでAランク以下のダンジョンが何らかの意志を持つという話は今までに聞いた事がない。ダンジョン自体が意志を持ち冒険者を狩るという話はないわけではない。だが万が一あるとするならば、それはランクSオーバーの危険度となる。また、それ程のエネルギーを有するダンジョンならば、そこで育ったモンスターはAランク以下では考えられない程に強力なものとなる。 

 しかし、シリーは、それでもまったく動揺していない。 

「がははははは。ハンナ先生不安にならないで下さい。生徒達は英雄を目指しています。これもまた一興です。」 

「笑っている場合ですか!」 

「それを言うなら、むしろ心配をしている場合ですか? 私はハンナ先生に教える義務がない。むしろ扱いは同等であるべき。これがどういう意味を持っているか分かりますか?」 

「まさか。私を見捨てるおつもりですか?」 

「その逆です。ハンナ先生と二人だけという状況は、私が直接手を出しても問題ないという事です。つまり、ダンジョン内でハンナ先生だけは、非常に安全だという事になります。」 

「……虹ランク冒険者にそう言って頂けるなら、安心出来ますね。」 

「ですが言っておきます。この状況であなたも教師であるなら、私と一緒に戦って下さい。私達は全員がパーティーを組んでいます。そして、我々にはモンスターの討伐で、モンスターカードが強化できるという強みがある。一分一秒でも早く、生徒達にここで戦えるだけの力を与えましょう。」 

 シリーはそういって、ダンジョンの奥に、文字通り飛んで行った。 

「わははははははは。」 

「嘘でしょ。早いっ。ていうか、あんな風に空が飛べない限り、このダンジョンを進めないじゃない。」 

 ハンナのいる場所は空中に浮かんでいる大きな岩の上。目の前にはいくつもの岩が浮かび上がり、それが迷宮の奥へと続いている。一本道のように続いてはいるがジャンプでは届かない距離どころか、高さまでバラバラでハンナは先に進む事が出来なかった。恐る恐る岩の下を覗くと底なしのように真っ暗闇が続いている。 

  「ばかっー! 私の安心を返せっーーー!!」

 ハンナがシリーを見ると、進む先々でモンスター達を瞬殺している。ハンナが自分のモンスターカードのデッキを確認すると、上限Lv120のSランクモンスターカードが、続々とLv100オーバーにまで上昇している。 

「え? 今の私。ステータスだけならゴールドランクの冒険者をも超えるんじゃ?」

 現在ハンナが装備出来るモンスターカードの数は、虹ランク冒険者や英雄とも同等になっている。人間の基本3にプラスして、シリーから貰った高ランクジョブ分でプラス6。
 まだレベル分が加算されないとはいえ、9つあるデッキの全てにLv100以上強化されたモンスターカードがあれば、ゴールドランク程度であれば絶対に超えるとハンナにも理解出来る。

「ん? セットしてあったクラス経験値が満タンになっているわ。余剰で2つ分くらいがストックされている。そうか。シリー先生が、笑いながら先に行ったという事は、きっと、この膨大な量のクラスの中に飛行に関するスキルがあるという事ね。くそっ。あの馬鹿ぁ。なんで私にまで教えないのよっ。私は英雄になるわけじゃないっつーの。」

『がはははは。正解です。その中には飛行に関する能力があります。』

「なんで私の声が? あっ。 すっ。すみません。馬鹿というのは、シリー先生に言ったわけじゃなく……。」

『お気になさらずに。それよりも早くコッチに来て下さい。全部の敵を私が倒してしまいますよ。あはははははは。』

(こえ~~~~。やばいやばいやばいやばい。なんなの? 虹ランク冒険者。知れば知る程にやばすぎるだろっ。)

『まあ。そんなに驚かないで下さい。連絡用の心の声はパーティーに入っている時しか繋ぎませんから。』

「ひぇぇ~。すみませんっ。すみませんっ。」

『わははははははっ。』

 その後、ハンナは恐ろしくて、何度も何度も土下座をして謝っていた。
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