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第一部・第三章 窮途末路
宇佐美定満の願い
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◇◇
宇佐美定勝は、「はぁ……」と大きくため息をつくと、父親の定満の前で首を横に振った。
定満は彼の様子を見て、肩をがくりと落として口を開いた。
「今日も駄目であったか……」
「あんな堅物に俺は生まれて初めて出会ったぞ……」
そう漏らすと、定勝もまた父親同様、肩を落としたのだった……
二人がこのように恨み節なのも無理はない。
それは辰丸と勝姫の事であった。
京から越後に帰った定勝は、早速辰丸に話を持ちかけたのだ。
辰丸を宇佐美家の婿養子に迎えたいと。
しかし、辰丸は首を縦に振らなかった。
ーー大変ありがたいお話ではございますが、長尾家宿老の名家の名を名乗るのは、私には荷が重すぎます。
それにお勝殿にはもっと高貴なお方が相応しいかと……
定勝は頭をボリボリと掻きながら、苦々しい顔をした。
「まったく……あやつは男女のことになると、途端に固くなる気質であったか。
未だに正室を持たぬお屋形様そっくりじゃねえか」
「他人の事を言えた身でもあるまい。お主も相当な堅物ではないか。
若くして流行り病で亡くなった妻を想って、継室を取らぬとは……」
「ふんっ! 今は俺の事はどうでもいいんだよ!
ああ! まったくこの世は上手くいかないことが多いのう! 」
そのように定勝は言い捨てると自室の方へと歩いて行った。
その背中に向けて定満が慌てて声をかけた。
「もう諦めてしまうのか? 」
すると定勝は振り向くこともなく、片手をひらひらと振ると、一言だけ言ったのだった。
「知っているであろう、俺は諦めの悪い男だ」
と。
定満は口元を緩めると、彼もまた自室へと帰って行ったのだった。
◇◇
永禄2年(1559年)7月ーー
米の収穫前の最後の評定の場で、長尾景虎は、将軍足利義輝からの『御内書』についての発表を行った。
すなわち『長尾三家の統合』と『上杉の名跡を継ぐこと』そして『関東将軍の拝命』の三点であった。
もちろんこの事は事前に上田長尾家当主、長尾政景と、古志長尾家当主、長尾景信の二人は聞いており、その場で強い反対意見が出ることもなく、話はあっさりまとまった。
「時期は来年、六月とする。この事は他言無用。万が一にも武田晴信にだけは知られてはならん。以上だ」
武田晴信には関東将軍の就任時期を知られてはならない……
これは無論、景虎が関東将軍を就任することで、『甲斐と信濃を平定する大義名分』が生まれるからである。
すなわち、武田晴信が甲斐や信濃において景虎に反抗すれば、それは足利将軍家への反逆行為ということになる。
もし武田晴信に景虎の関東将軍就任の時期が知られれば、それより前に彼が軍事行動を起こすことは、火を見るより明らかだからだ。
景虎としては、『関東将軍』の就任より前は、軍事的な衝突を避けたいというのが本音だったのである。
そして、景虎はそう締め括ると、評定の場を後にした。
景虎が去った事で、家老たちも続々と部屋を後にしていく。
末席の辰丸は、いつも通り一番最後に席を立った。
この日は特にこの後にすべきこともない。
屋敷に戻った後は、これまたいつも通りに城を出て農民たちの手伝いをしようかと考えていた。
しかし部屋を出たその時、宇佐美定満が辰丸を待ち構えていた。
「ちょっとよいかのう? 」
辰丸は目を丸くしたが、コクリと頷くと、定満の後へと続いていったのだった。
………
……
御館(おたて)の中でも、人気(ひとけ)のない庭の縁側に腰をかけた二人。
辰丸は定満に声をかけられた時点で、勝姫との婚姻についてのことだろうと直感していた。
勝姫のことを、『心』で考えたならば、辰丸は夫婦となって共に過ごしたい気持ちがないわけではない。
むしろそんな事が叶うなら、どれだけ幸せであろうか……
しかし、『頭』で考えた場合は話は別である。
出自すらもはっきりとしない自分が、長尾家の重鎮の家に跡取りとして入るなど、考えられないことだ。
普通に考えれば、柿崎家などの同じく重鎮の家柄から、婿養子を得るべきだし、そもそも定勝が継室を設けて、嫡男の誕生を待つのが常識であろう。
定勝と定満の親子が自分の事を買ってくれているのは嬉しいが、世の常識をわきまえずに好意に甘えてしまっては、ただでさえここのところ厳しい周囲の目が、より一層厳しいものになるに違いない。
そんな風に辰丸は考えていたのであった。
どこか思いつめたような辰丸の横顔を見て、定満は言葉を選ぶようにして、ゆっくりと話を始めた。
そして、その内容は、辰丸の予想とは大きく異なるものだったのである。
「定勝のことじゃが……お主はどう思う? 」
辰丸は定満の質問の意図がよく分からずに、瞬(まばた)きをして言葉に詰まった。
すると定満は彼の言葉を待つことなく続けたのだった。
「あやつはああ見えて昔から不器用で、無鉄砲な男でのう。
一度、これっと決めたなら、絶対に曲げない奴なのじゃよ」
「定勝殿が……? 」
いつも飄々として、どこか浮世にいるような定勝の態度からは、あまり想像がつかない。
定満は続けた。
「ふふっ、意外そうじゃな。
それも仕方のないことよ。
いつも何を考えているかよく分からない態度ばかりだからのう。
世間からは『長尾家一うだつの上がらない男』などと言われておるしのう」
「い、いえ……私は……」
「いいのじゃ、いいのじゃ、全くその通りだからのう。
しかしあやつは、お主が越後にやってくるずっと前……
もっと言えばお主やお勝が生まれたばかりの頃は、長尾家の家老の一人じゃったのじゃよ」
「え……定勝殿が……」
定勝が長尾家の家老であったことは、辰丸にとって初耳の事で、彼は驚きを隠せなかった。
そして定満は続けた。
「しかしあやつはそこでも不器用な奴でのう……
事もあろうことか、歯向かってしまったのじゃよ。
長尾政景殿に……」
「政景様に……」
「いや、正確に言えば、『上田派』と呼ばれる者たちに反抗してしまった訳じゃ。
『長尾家を惑わす逆賊どもめ! 』などと、評定の場で暴言を吐いてしまってのう」
「それは……」
今の定勝からは考えられない程の、苛烈な発言と言えよう。
辰丸はにわかに信じられなかったが、定満は彼の反応を気にすることもなく続けた。
「……その年のことじゃった……
揚北衆たちが地元で反乱を起こしてな。
その反乱を収めにいったのが定勝。
しかし……」
「まさか……定勝殿は負けてしまわれたのですか……? 」
定満は静かに頷く。
「それは不可解な負けであった。
まるで内部から裏切り者が出たような負け……」
「まさか……」
「しかし結局はお屋形様が自ら軍勢を率いて定勝の窮地を救うと共に、反乱も収めてのう。
定勝は多くの犠牲を出した責任を取らされて家老を降ろされた。
その翌年の事じゃよ……
あやつの家内、お富(とみ)が病に倒れて、帰らぬ人となったのは……」
「そんな……」
「それより先のあやつは、全てに失望してしもうた。
もはや夢も希望も捨ててしまってのう。
こうして、お主も良く知っておる宇佐美定勝の姿が出来上がったという訳じゃ」
「そうだったのですか……」
辰丸はさながら自分事のように、がくりと肩を落とした。
そして、定満は辰丸の口から何か出てくる前に、さらに続けたのだった。
「そんなあやつが変わったのは……辰丸、お主と出会ってからじゃ」
「私と……? 」
「あやつはお主と、若い時の自分を重ねておる。
そして、自分が叶えられなかった夢を、お主に叶えてもらいたい、そう心から願っておるのじゃ」
「定勝殿の夢……」
自然と定満の目から光るものが浮かぶ。
なぜなら……
宇佐美定満は心から息子の事を愛し、息子の行く末を想っているのだからーー
「長尾家に『和』をもたらすことじゃよ。
全員がいがみ合う事なく、手を取り合って長尾家の未来を作る……
それがあやつの成し遂げたかった夢であった」
「長尾家に『和』をもたらす……」
そして……
定満は姿勢を正すと、
辰丸に深々と頭を下げたのだったーー
「どうか、この通りじゃ。
あやつの……息子の願いを叶えてやってはくれまいか!
この老いぼれの一生の願いじゃ! 」
辰丸は慌てて定満の肩に手をかけた。
「頭をお上げください! 私なぞに下げるほどに、軽いものではございませぬ! 」
「すまぬな! わしは息子以上に諦めの悪い男でのう!
お主が首を縦に振らない限り、この頭は上げん! 」
「分かりました! 分かりましたから! 」
「ならばっ! 」
「ええ、私も家中の不和はどうにかしなくてはならないものと思っております。
定勝殿の思い通りになるかどうかは分かりませんが、私も長尾家に『和』をもたらせるよう、努力をいたします。
これでよろしいでしょうか! 」
定満は急いで頭を上げて、辰丸の手を固く握ると、何度も「よろしく頼む」と、懇願するように繰り返したのだった。
そして最後に辰丸に一つの事を突きつけたのだった。
「この先、お主が長尾家の中で渡り合っていくにあたり、絶対に必要になってくることは、『お家』じゃ。
『お家』なきお主が、いかに長尾家中の『和』を訴えたところで、誰も耳を貸さんだろう。
そこで……
お勝のこと……
どうか真剣に考えてはもらえんだろうか。
それに、あの者もお主の事を心より慕っておる。
この老いぼれに孫娘が幸せになっていく様を見せてはもらえんだろうか」
「それは…… もう少しお時間を頂きたく……」
辰丸はすぐには首を縦に振らなかった。
確かに今後の自分の立場を考えれば、『お家』は必ずや必要。
しかし……
どうしても彼には素直に受け入れる事が出来ないのであったーー
宇佐美定勝は、「はぁ……」と大きくため息をつくと、父親の定満の前で首を横に振った。
定満は彼の様子を見て、肩をがくりと落として口を開いた。
「今日も駄目であったか……」
「あんな堅物に俺は生まれて初めて出会ったぞ……」
そう漏らすと、定勝もまた父親同様、肩を落としたのだった……
二人がこのように恨み節なのも無理はない。
それは辰丸と勝姫の事であった。
京から越後に帰った定勝は、早速辰丸に話を持ちかけたのだ。
辰丸を宇佐美家の婿養子に迎えたいと。
しかし、辰丸は首を縦に振らなかった。
ーー大変ありがたいお話ではございますが、長尾家宿老の名家の名を名乗るのは、私には荷が重すぎます。
それにお勝殿にはもっと高貴なお方が相応しいかと……
定勝は頭をボリボリと掻きながら、苦々しい顔をした。
「まったく……あやつは男女のことになると、途端に固くなる気質であったか。
未だに正室を持たぬお屋形様そっくりじゃねえか」
「他人の事を言えた身でもあるまい。お主も相当な堅物ではないか。
若くして流行り病で亡くなった妻を想って、継室を取らぬとは……」
「ふんっ! 今は俺の事はどうでもいいんだよ!
ああ! まったくこの世は上手くいかないことが多いのう! 」
そのように定勝は言い捨てると自室の方へと歩いて行った。
その背中に向けて定満が慌てて声をかけた。
「もう諦めてしまうのか? 」
すると定勝は振り向くこともなく、片手をひらひらと振ると、一言だけ言ったのだった。
「知っているであろう、俺は諦めの悪い男だ」
と。
定満は口元を緩めると、彼もまた自室へと帰って行ったのだった。
◇◇
永禄2年(1559年)7月ーー
米の収穫前の最後の評定の場で、長尾景虎は、将軍足利義輝からの『御内書』についての発表を行った。
すなわち『長尾三家の統合』と『上杉の名跡を継ぐこと』そして『関東将軍の拝命』の三点であった。
もちろんこの事は事前に上田長尾家当主、長尾政景と、古志長尾家当主、長尾景信の二人は聞いており、その場で強い反対意見が出ることもなく、話はあっさりまとまった。
「時期は来年、六月とする。この事は他言無用。万が一にも武田晴信にだけは知られてはならん。以上だ」
武田晴信には関東将軍の就任時期を知られてはならない……
これは無論、景虎が関東将軍を就任することで、『甲斐と信濃を平定する大義名分』が生まれるからである。
すなわち、武田晴信が甲斐や信濃において景虎に反抗すれば、それは足利将軍家への反逆行為ということになる。
もし武田晴信に景虎の関東将軍就任の時期が知られれば、それより前に彼が軍事行動を起こすことは、火を見るより明らかだからだ。
景虎としては、『関東将軍』の就任より前は、軍事的な衝突を避けたいというのが本音だったのである。
そして、景虎はそう締め括ると、評定の場を後にした。
景虎が去った事で、家老たちも続々と部屋を後にしていく。
末席の辰丸は、いつも通り一番最後に席を立った。
この日は特にこの後にすべきこともない。
屋敷に戻った後は、これまたいつも通りに城を出て農民たちの手伝いをしようかと考えていた。
しかし部屋を出たその時、宇佐美定満が辰丸を待ち構えていた。
「ちょっとよいかのう? 」
辰丸は目を丸くしたが、コクリと頷くと、定満の後へと続いていったのだった。
………
……
御館(おたて)の中でも、人気(ひとけ)のない庭の縁側に腰をかけた二人。
辰丸は定満に声をかけられた時点で、勝姫との婚姻についてのことだろうと直感していた。
勝姫のことを、『心』で考えたならば、辰丸は夫婦となって共に過ごしたい気持ちがないわけではない。
むしろそんな事が叶うなら、どれだけ幸せであろうか……
しかし、『頭』で考えた場合は話は別である。
出自すらもはっきりとしない自分が、長尾家の重鎮の家に跡取りとして入るなど、考えられないことだ。
普通に考えれば、柿崎家などの同じく重鎮の家柄から、婿養子を得るべきだし、そもそも定勝が継室を設けて、嫡男の誕生を待つのが常識であろう。
定勝と定満の親子が自分の事を買ってくれているのは嬉しいが、世の常識をわきまえずに好意に甘えてしまっては、ただでさえここのところ厳しい周囲の目が、より一層厳しいものになるに違いない。
そんな風に辰丸は考えていたのであった。
どこか思いつめたような辰丸の横顔を見て、定満は言葉を選ぶようにして、ゆっくりと話を始めた。
そして、その内容は、辰丸の予想とは大きく異なるものだったのである。
「定勝のことじゃが……お主はどう思う? 」
辰丸は定満の質問の意図がよく分からずに、瞬(まばた)きをして言葉に詰まった。
すると定満は彼の言葉を待つことなく続けたのだった。
「あやつはああ見えて昔から不器用で、無鉄砲な男でのう。
一度、これっと決めたなら、絶対に曲げない奴なのじゃよ」
「定勝殿が……? 」
いつも飄々として、どこか浮世にいるような定勝の態度からは、あまり想像がつかない。
定満は続けた。
「ふふっ、意外そうじゃな。
それも仕方のないことよ。
いつも何を考えているかよく分からない態度ばかりだからのう。
世間からは『長尾家一うだつの上がらない男』などと言われておるしのう」
「い、いえ……私は……」
「いいのじゃ、いいのじゃ、全くその通りだからのう。
しかしあやつは、お主が越後にやってくるずっと前……
もっと言えばお主やお勝が生まれたばかりの頃は、長尾家の家老の一人じゃったのじゃよ」
「え……定勝殿が……」
定勝が長尾家の家老であったことは、辰丸にとって初耳の事で、彼は驚きを隠せなかった。
そして定満は続けた。
「しかしあやつはそこでも不器用な奴でのう……
事もあろうことか、歯向かってしまったのじゃよ。
長尾政景殿に……」
「政景様に……」
「いや、正確に言えば、『上田派』と呼ばれる者たちに反抗してしまった訳じゃ。
『長尾家を惑わす逆賊どもめ! 』などと、評定の場で暴言を吐いてしまってのう」
「それは……」
今の定勝からは考えられない程の、苛烈な発言と言えよう。
辰丸はにわかに信じられなかったが、定満は彼の反応を気にすることもなく続けた。
「……その年のことじゃった……
揚北衆たちが地元で反乱を起こしてな。
その反乱を収めにいったのが定勝。
しかし……」
「まさか……定勝殿は負けてしまわれたのですか……? 」
定満は静かに頷く。
「それは不可解な負けであった。
まるで内部から裏切り者が出たような負け……」
「まさか……」
「しかし結局はお屋形様が自ら軍勢を率いて定勝の窮地を救うと共に、反乱も収めてのう。
定勝は多くの犠牲を出した責任を取らされて家老を降ろされた。
その翌年の事じゃよ……
あやつの家内、お富(とみ)が病に倒れて、帰らぬ人となったのは……」
「そんな……」
「それより先のあやつは、全てに失望してしもうた。
もはや夢も希望も捨ててしまってのう。
こうして、お主も良く知っておる宇佐美定勝の姿が出来上がったという訳じゃ」
「そうだったのですか……」
辰丸はさながら自分事のように、がくりと肩を落とした。
そして、定満は辰丸の口から何か出てくる前に、さらに続けたのだった。
「そんなあやつが変わったのは……辰丸、お主と出会ってからじゃ」
「私と……? 」
「あやつはお主と、若い時の自分を重ねておる。
そして、自分が叶えられなかった夢を、お主に叶えてもらいたい、そう心から願っておるのじゃ」
「定勝殿の夢……」
自然と定満の目から光るものが浮かぶ。
なぜなら……
宇佐美定満は心から息子の事を愛し、息子の行く末を想っているのだからーー
「長尾家に『和』をもたらすことじゃよ。
全員がいがみ合う事なく、手を取り合って長尾家の未来を作る……
それがあやつの成し遂げたかった夢であった」
「長尾家に『和』をもたらす……」
そして……
定満は姿勢を正すと、
辰丸に深々と頭を下げたのだったーー
「どうか、この通りじゃ。
あやつの……息子の願いを叶えてやってはくれまいか!
この老いぼれの一生の願いじゃ! 」
辰丸は慌てて定満の肩に手をかけた。
「頭をお上げください! 私なぞに下げるほどに、軽いものではございませぬ! 」
「すまぬな! わしは息子以上に諦めの悪い男でのう!
お主が首を縦に振らない限り、この頭は上げん! 」
「分かりました! 分かりましたから! 」
「ならばっ! 」
「ええ、私も家中の不和はどうにかしなくてはならないものと思っております。
定勝殿の思い通りになるかどうかは分かりませんが、私も長尾家に『和』をもたらせるよう、努力をいたします。
これでよろしいでしょうか! 」
定満は急いで頭を上げて、辰丸の手を固く握ると、何度も「よろしく頼む」と、懇願するように繰り返したのだった。
そして最後に辰丸に一つの事を突きつけたのだった。
「この先、お主が長尾家の中で渡り合っていくにあたり、絶対に必要になってくることは、『お家』じゃ。
『お家』なきお主が、いかに長尾家中の『和』を訴えたところで、誰も耳を貸さんだろう。
そこで……
お勝のこと……
どうか真剣に考えてはもらえんだろうか。
それに、あの者もお主の事を心より慕っておる。
この老いぼれに孫娘が幸せになっていく様を見せてはもらえんだろうか」
「それは…… もう少しお時間を頂きたく……」
辰丸はすぐには首を縦に振らなかった。
確かに今後の自分の立場を考えれば、『お家』は必ずや必要。
しかし……
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