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第3章 悪魔討伐クエスト。もちろん討伐される側で参戦ですが、何か?

天使vs魔王 序章

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はじめまして、私の名前は「コロン」。
シルフっていう妖精をやってます。
5人姉妹の長女で、自由を謳歌している花の20代独身。
彼氏は募集中。
イケメンで5人姉妹を食べさせていける経済力のある御方を探してるの!
ね、年齢はいくつかって…?
29…よ!
悪い!?まだ『20代』ですもん!
あと43日と13時間45分は『20代』ですもーん!!
その間に私は素敵な御方と運命の出会いを果たして、めでたくゴールイン!
…というのは、もう諦めましたわ。
そもそも5姉妹の面倒を見ながら、私だけが幸せになるなんて…

ゴホン!
まぁ、私の話はこれくらいにして、今回は、私の新しい『親友』とのお話ですの。
しばしお付き合いくださるかしら?

◇◇
私はその時、ひっじょーにイライラしてましたの!


私が魔王様(りのりん)より指示されましたのは、とある女性を手伝って、大量のお料理を作る事ですの。

そのパートナーとなる女性は、イオリとか言うニンゲンですの。
この子が「トロい」もんだから、私はイライラしてますの!

調理器具を運んでは、途中で「何もない」ところで転んで「ガッシャーン!」と落としたり…
リンゴを運んでは、必ず2~3個落として、追いかけっこしたり…

こんなに鈍い子は初めて見ましたの…

「はぁ~…」

「…ごめんなさい…コロンさん…結局、ほとんど運んでもらっちゃって…」

「いいのよ、これくらい。魔王様(りのりん)にあなたのお手伝いをする様に言われてるんだから、気にしないで」

「…で、でも…悪いよ…わたし、やっぱり何か運ぶの手伝おうか!?」

「だから、いいってば!」

「ひっ…!ごめんなさい…」

シュンとして私の後を付いてくるイオリ。
最初の出会いはこんな感じで、お互いにあまり良い印象じゃなかったなぁ。

実を言うと、私は妹たちの面倒をずっと見てきたせいか、他人を助ける事が好きなの。
だからこの時だって、イオリを助けられて、少し嬉しかったのだけど。

この後も、私が何か手伝う度に、こうして恐縮して、謝るもんだから、やりにくいったらありゃしなかったわ。

でも、こんな鈍臭くて面倒くさい子でも、料理の手際はすごく良くて、びっくりしたわぁ。
私も料理は作るけど、こんなに上手くは作れないわ。

しかし手際と味は別物よね。
私は半信半疑で一口食べてみたの。
その時、私に電撃が走りましたわ!
味はもちろん、口どけから、冷めてもいい様な工夫まで。
全てが完璧でしたの!

「美味しいっ!!何これ!?すごいわ!イオリ!」

「…そ、そんな…わたし別にたいした事してないから…魔王城にある素材と調味料がすごく良いものだから…」

たいした事してない…って…
こういう自分を卑下する所が、またイラっとさせるのよね!
まぁ、私は大人だし、口にはしなかったけど…

「…あ、あの…コロンさんの作ったお料理も頂いていいかな?」

くっ…!
この子『天然』でこう言っているのか!?
あんたの料理に比べれば、私のなんて、高級料亭と一般人の料理との差くらい離れてるわよ!
そうか!この子は、私の事を笑いたいのか!
荷物運びの件で引け目を感じたから、ここで今度は私を陥れてやろうって魂胆ね!
『天然』の振りして、この悪魔め!
魔王様りのりんも相当アレだけど、イオリはそれ
以上…

パクッ

「…お、美味しい…!すごく美味しいです!コロンさん!」

え…??

パクッ!パクッ!

「…お、おいひぃです!」


「そ、そんな急いで食べなくても、逃げないわよ!」

「!!?」

ゲホッ!ゲホッ!

イオリは顔を真っ赤にして、喉をつまらせたの!
私は思わず水を差し出す。
それを一息で飲んだイオリは、ようやく元通りに息をした。

「…ごめんなさい…あまりに美味しくて思わず…」

ププッ!

「あははは!イオリは面白いね!」
「…もぅ…そんなに笑わなくても…コロンさん、意地悪です!」
「あはは!ごめん!ごめん!可笑しくて、つい…ね!
それから、私の事はコロンでいいわ!
これから、よろしくね!イオリ!」

私はイオリに手を差し出した。
イオリはその私の手を握り返し、
「…よ、よろしくお願いします!コロン!」
と笑顔を見せたの。
その笑顔を見た瞬間、私にさっきの料理よりも激しい衝撃が走ったの!

ドキンッ!

こ、この笑顔は反則だわ…!
これは…『天使』…そう!『天使』よ!
『天使の笑顔』だわ!

この子…底知れないわ…

こうしてイオリに興味を持った私。
イオリの方も、私と私の作った料理に興味を持ったみたい。


私達はすぐに打ち解けたわ。

お料理の事、趣味の事、イオリの元の世界の事…色んな話をしたわ。

そして、恋の事も…

私の恋の話なんて、どうでもいいのよ!
魔王様(りのりん)の側近のジーク様の事が少し気になっているんだけど…
そ、そんなことは、本当にどうでもいいの!

イオリは、
「…わ、わたしは…恋人はいません…
というより、いた事がありません…」
と顔を赤くしながら、手を振った。

「ふーん」

イオリの世界の男ってのは見る目が全くないのね…
こんな良い子を放っておくなんて…

「…でも、最近変なんです…わ、わたし…ユーさんの事を考えると胸が『トクン』と苦しくなるんです…
これは何でしょう?」

イオリよ…それって明らかに…

「恋に決まってるでしょ!」

「え…!?」

私の指摘にイオリは目を丸くしたの。
この子本当に理解してなかったのね…
自分の事にも鈍感だなんて…
救いようがないわ…
でも、何か私の心に燃えるモノを感じ始めていたの。

「…コロン…わたし…どうしたら…?」

私は「ハァ」と溜め息をついて、
「その答えは、イオリ自身が分かっているんじゃない?」

「…ええ~~っ!?どういう事?」

「イオリ…あなたは、ユーとどうなりたいの?」

私がそう問うとイオリは顔を真っ赤にしてうつむいている。

「ハァ…仕方ないわね~。じゃあ、あなたの本心を私が代弁してあげるわ!」

「えっ!?」

「あぁ、愛しのユー!
わたしは貴方と手を繋いだり、一緒に食事したり、お話したり…
ず~っと一緒にいたいの!
そして…いつか…結ばれて…」
「ちょ、ちょ~~っと!コロン!声が大きいってば!!」


◇◇

「…でも、もう少しお話とかしたいなぁ…っていうのは当たっているかも…」

私達は今日のお仕事を終え、『魔界』の中にあるレストランで食事をとっていた。

食後のデザートまでペロっと頂いた後、お茶しながらガールズトークを再開したの。

「ハァ…全く素直じゃないんだから~」

「…ど、どうしたらいいのかなぁ…わたし?」

イオリはティースプーンをいじりながら、私に尋ねる。

「『好きです!付き合って下さい!』って言っちゃえば?」
「そ、そんな事出来る訳ないです!!
そ、それに…」

「それに?」

「ユーさんには…『結婚』を約束したアカネさんや、恋人の様に振る舞っているりのりんさんがいるし…」

そんな彼女を見て、とうとう私の何かに完全に火がついた…

そうか、私はこの子の恋を実らせる手伝いがしたいんだ。
元来の世話好きの性分が、まさにこの状況の油となっている。

さらに『都合が良い事』に、ライバルが強烈である。

幼馴染で『反則級』のプロモーションを持ち、口約束とは言え『結婚』を約束したアカネ。
アイドルで華があり、悪魔の様な頭脳を持ったりのりん。
それに、「かしら~!」の金髪幼女シェリーも将来的には危ないわね。
揃いも揃って強敵ばかりが恋敵ライバルなのである。

しかし、イオリはなんと言っても『天使の笑顔』を持った美少女だ。
ライバルたちに引けはとっていない。
しかし、致命的な事に、彼女自身が自分の魅力に気付いておらず、鈍感で、お洒落にも無頓着…

このままでは、ドンドン差を付けられてしまうだろう。

そんな迷える子羊を前にして、この私が燃えない理由がない!

「よしっ!イオリ!私に任せなさい!!」

「え…!?」

「私があんたの恋を叶えて見せるわ!」

「ええ~~~!!?」

「さぁ、始めましょう!
イオリの華やかなビクトリーロードはここからスタートよ!」

「ちょっと!コロン!」

「幼馴染がなんだぁ!?魔王がなんだぁ!?まとめて私がぶっ飛ばしてやるわ!」

拳を固めて、イオリを背に立ち上がる私!
決まったぁ!
もはや自分の恋は諦めるわ!
この子を私だと思って、この恋、絶対に叶えて見せる!

…出来れば、その後は私の恋も…

「ちよっと…コロン!不味いわよ…」
イオリの焦った様な声が聞こえる。

「今更立ち止まって、どうするの!?
恋敵ライバルは待ってくれないのよ!?」

「…だ、だから…その…とにかく落ち着いて!」

「止められる程、熱が入るのが私よ!
イオリ!諦めなさい!私は相手が魔王様であろうが容赦はしないわ!」

「へぇ~、それは勇ましぃ~。
相手がアイドルで絶世の美女でもぉ?」

「くどい!イオリ!あんたの『天使の笑顔』は、魔王様のひねくれた笑顔の数百倍は可愛いんだから!
料理にもあんた自身にも、もっと自信を持って!」

「ククク、数百倍とは大きく出られちゃったなぁ」

「あんた!まずはその下品な笑い方から…ええええ~~!!?」

「コロン?私の笑い方がなんですってぇ?」

振り返るとそこにはイオリ…の横に魔王様りのりんが座っていた…

「ま、魔王様…!?」

「労をねぎらいに来てみれば、何やら不穏な相談ですかぁ?」

こうなっては仕方ない…


ハッタリで通す!!


「『不穏』とは人聞きが悪いですわ、魔王様。
ちょっと、相談してただけですよ」

「ふ~ん。私にはそれが『不穏』だと思うんだけどなぁ」

「あら?そうだ!魔王様にも協力して貰いましょう?イオリ!」

「え、ええ~~…!?」

こうなれば押し通すのみ!
伊達に30年…もとい!29年生きてきていないわ!
この程度の修羅場!乗り越える!

「ほぅ…私に何をぉ?事と場合に寄っては、私怒っちゃうかもぉ」

ぐっと唾を飲み込む。
イオリが心配そうに私を見つめている。
この子のこれからを切り開くには、この程度の障害…

やっぱり、ちょっと厳しいかも…

「魔王様にもお手伝いしてもらいたいなぁと…私達の新作料理の試食にね…」

イオリと魔王様が目を丸くしてる…

「ふ、ふ~ん…でも、私もあんまり暇じゃないからなぁ…」

「そ、そうですか!それは残念です!ね?イオリ?」

「え、えぇ…??残念って事でいいのかな!?」

魔王様は私達を「いさめた」事に少し得意顔になっている。
「あんたたちなんか相手にすらならないですぅ」とでも言いたげな表情だ。
そして、魔王様はそのままその場を後にしようと、席を立った。

正直「カチン」ときたわ…


「じゃあ、イオリ…手伝ってもらう人を変えましょうね~」

「…は、はい…」

「そうだ!ユーさんにしましょう!」

魔王様の足が止まる。
イオリの表情は固まる。
私はニヤリと笑う。

「うん!それがいいわ!
あっ…でも私は忙しいから、イオリとユーさんの『二人きり』で試食会をしてね!」

魔王様が振り返る。
悪魔の様な、怖い笑顔だ…

「…え?でも、わたし…」

「ええ、そうしましょう!私が『明日の夜』ユーさんを連れてくるから、後は若い二人でロマンチックに…」

「あれぇ、偶然かもぉ!『明日の夜』の謁見コンサートがキャンセルになって、私空いてるんだぁ」

「あら?魔王様?もうこの話は魔王様とは『一切』関係ありませんから、お引き取りいただいて結構ですわ」

「ククク、この私が『試食』に応じてもよいと言ってるのよぅ。その言い方は失礼じゃないかなぁ?」

「お忙しい魔王様の手を煩わすなんて…滅相もございませんわ!」

「お忙しいのは『私の』ユー先輩も一緒ですよぅ。だって私達、大抵は一緒にいますからぁ」

「あら?今は違うようですけど?」

「ククク、と・に・か・く。
試食は私がしてあげますよぅ。
どんな『新作』かしらぁ?」

魔王様は私の目を覗き込んでくる。

私の「しまった!」と言う表情を見逃さずに…

「ククク、楽しみにしてますよぅ。
『新作』が食べられるのを、ククク」

「ええ!お口に合うものをご用意しますわ!」

そこまでやり取りをすると、魔王様は外に向けて歩き出した。
私もイオリも、ドッと疲れが出た様に、椅子に座り込む。

そんな私達の様子を背中で感じてか、魔王様は忠告をした。

「私はどんな相手でも、徹底的に叩きのめすから。その覚悟があるなら、かかって来なさいねぇ」

私は恐ろしい殺気に固まる。
あまりの怖さに言葉が出ない…


しかし、イオリは違った…


「…りのりんさん…お料理の事なら、絶対にりのりんさんを満足させますから…その覚悟を持って臨みますから、安心して下さい…」

「ククク、地味子先輩は相変わらず手強いなぁ。ヤンデレ幼馴染より、強敵かもぉ」

「…誉め言葉なの?ありがとう。
…ちなみに料理以外でも、私はあなたには負けませんから…」

「ククク、それ前も聞いたわ。私は覚えがいい方だから、絶対に忘れないわよ」

そう言い残して、魔王様は去っていった。

「イオリ!あんたスゴいわね!!」

「…えっ??何がすごいの?」

「魔王様にあんな啖呵切った人…初めて見たわ!」

「…ふふ、コロン見てたら、なんか『燃えて』きちゃって。つい…ね。
でも、もうあんな事言えない…」

この子…やっぱり『大物』だわ!
絶対にこの子を『超一流』にして見せる!
そして魔王様、いや世界中を『ギャフン』と言わせてみせるわ!

そう決意を固めたのだけど…
その前に私達にはやらなきゃいけない事がある…

「「早速『新作』作らなきゃ!!」」

こうして私には『親友』が出来ましたの。
そして事もあろうことか、魔王様りのりんに宣戦布告してしまいましたわ!

でもこれは、これからの長い戦いの序章に過ぎなかったのです。

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