不完全な人達

神崎

文字の大きさ
5 / 289
入社

4

しおりを挟む
 見積書を会計室に提出したとたん、史のところに会計室から連絡がきた。
「何なんですか、この見積もり。パソコンのセキュリティーの向上だってそんなにかかるわけ無いでしょ?」
 史は会計室に呼び出されて、席を立った。すると清子が相変わらずヘッドフォンをつけてパソコン操作をしているのが目に留まる。
「……徳成さん。」
 目の前で手を振ると、清子はヘッドフォンをとる。
「はい。」
「一緒に会計室に来てくれる?あの見積書は、俺が説明できることではないと思うから。」
 その言葉に清子は席を立った。
「わかりました。」
 部屋を出て、二人でエレベーターに乗る。エレベーターにボタンはない。そのかわりパスをかざすと勝手に連れて行ってくれるのだ。会計室も、総務部も一階にあるため、史たちのパスは十階と一階しかいけない。ほかの階に用事があるときは階段で移動するのだ。
「俺もあの値段はないと思ってたんだけどね。」
「……本気でそんなことを思ってるんなら、ウェブに参入しない方が良いですよ。」
 その言葉に清子の方をみるが、清子の表情は変わらない。

 他の課のウェブ担当者が、怒りを露わにして会計室をあとにした。その様子を涼しい顔で清子はみている。
「徳成さん……。」
「私は真実しか言っていません。」
 ウェブに力を入れると口で言いながらもずさんなセキュリティー体制だった。その証拠を清子は見せたのだ。
 簡単なパスコード。それをかいくぐって、見せた本部の会計。不自然な金の流れがある。それからまだウェブ上にも乗せていない、作家の原稿。それが露わになったのだ。
「……セキュリティーは二重にするべきですね。それから今のウィルスは消去させるソフトを入れない限り、出版する度に誤字があったことを訂正させる記事を載せないといけません。」
「ウィルスはどこから?」
「海外のサーバーです。ヨーロッパの方ですね。この国からのようですが、中継させているのではっきりしたところがわかりません。それから……。」
 つつけばつつくほどぼろが出る。電子書籍の方に手が回っていなくて良かった。個人情報が流出などされたら、信用問題になる。
「……わかりました。この金額でみてみます。」
「よろしくお願いします。」
 清子は頭を下げると、史とともに会計室を出ていった。その様子に会計の女はため息を付いた。
「どうしたの?」
「すごい出来る人だなと思って。どうして普通のウェブの会社とかに行かなかったのかしら。」
「さぁね。でもあの徳成清子って噂があるよね。」
「何?」
「……超仕事は出来るけど、人間関係で煙たがられてるって。仕事だけみて延長したいってところもあったみたいだけど、あの人から断ってるみたいだし。」

 十階にたどり着いて、清子は住ぐに仕事場に戻ろうとした。しかし史が足を止める。
「一服していかない?」
 連れだって煙草など吸いたくない。それがよけいな誤解を与えるのだろうし。
「いいえ。仕事に戻りたいです。」
「どっちにしてもセキュリティーが強化されないと、仕事も出来ないんじゃないの?」
 面倒だな。清子はそう思いながら、首を横に振る。
「煙草忘れてきましたから。」
「俺ので良ければ吸っていく?」
 赤いパッケージの煙草だ。それを見て清子は喫煙所に促された。三度断ると、さすがに人間関係がいびつになると思ったから。
「どうぞ。」
 機嫌が良さそうに煙草を勧める。清子はそのうちの一本を取り出して、火をつけてもらった。その時そばに寄ってみてわかった。着飾っていないし、黒縁の眼鏡をしているが、顔立ちは悪くない。むしろ美人な方だろう。
「……何か?」
「いいや。」
 さすがに見すぎだ。史はそう思いながら煙草を自分も取り出して、それをくわえた。
「それにしてもこういうウェブって、専門学校か何かに通って習ったの?」
「そうですね。職業訓練校ですが。取れるだけ資格を取りました。」
「へぇ。職業訓練校か。専門学校じゃないんだね。」
「専門学校だったらもっと深く学べたかもしれませんが……あとは独学で資格を取りました。」
 なるほど。これがおそらくあまり人間関係を円滑にしていない理由だろう。
「でも抵抗無い?エロ雑誌なんてさ。」
「……別に。仕事ですし。」
「処女にはきついだろうなと思って。」
 その言葉に思わず清子は煙草を落としかけた。そして史を見上げる。
「誰が?」
「処女っぽいなって思って。」
「失礼ですね。」
「違うんだ。」
「……違いますけど。」
 良かった。昼休憩の時の晶との会話を聞かれてなかったのだ。
「意外。」
「そうですか?」
「堅そうだから。」
「堅くはないですよ。体に悪いとわかっていても煙草はやめれない。お酒も適度なら良いけれど、適度ではないし。」
「お酒飲むんだ。だったら歓迎会を……。」
 いい機会になった。清子は灰を落とすと、史に言う。
「歓迎会なんて結構ですから。」
「どうして?」
「一年契約です。来年には居なくなるし、歓迎会なんて……。」
「俺は歓迎してるけどね。」
 史も灰を落とすと、少し笑う。その煙の向こうの笑顔がまぶしい。だが清子には何も響いてこない。
「ホスト並の気遣いが必要だって言ってましたね。」
「え?」
「AV男優。女性向けなら尚更ですか?」
 その言葉に、今度は史がひきつる番だ。
「何を?」
「……ウェブ上のコラムに、編集長のものがありましたから。プロフィールを読みました。」
「あぁ。そうだったね。でも俺、別に隠してないし。」
「三十五ならまだ現役でいけそうですけど。」
「無理だな。仕事はともかく、何かストーカーみたいなのに追いかけられてね。SNSのDMで自分のマ○コの画像を送りつけてくる人とかいるし。」
 その言葉に清子は眉をひそめた。話には聞いていたが、そんなところもあるのかと。
「オ○ニーの動画とか。」
「もう結構です。」
 表情が変わらないと思っていたが、案外変わる。赤くなったり、眉をひそめたり、本来はこんなに忙しいお嬢さんなのだろう。
「AV今でも見るんですか。」
「そうだね。コラム書かないといけないし。今度一緒にみる?」
「いいえ。自分で見ますから。」
 そう言うことにも慣れていかないといけないのだろう。と同時に、昔のことを思い出してしまった。
 晶とセックスをしたときのこと。初めてだったのに、ずいぶん感じてしまったような気がする。一度目は痛かったが、二度、三度と苦痛よりも快感が勝っていた。
 自分が淫乱になった気がする。もう二度としたくないとあのとき以来、セックスはしていない。声をかけられることもない。
 だから史のこの言葉を素直に受け取ることは出来なかったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...