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噂
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シャワーを浴びて、タオルで体を拭く。そして下着を身につけるとふと玄関先にある姿見の鏡が目に映った。そこには自分の体が映されている。
細身を通り越して、針金のような体だと思う。胸の膨らみだけが女であることを証明しているようだ。だがテーブルにおいてあった「pink倶楽部」に載っている女性のように胸が大きいわけでもなく、かといってロリータを売りにしている子供のようなモデルのように、全く胸がないわけでもない。
人は人。自分は自分。そう思いながら、清子はベッドにおいてあったスウェットの上下を身につけた。そしてバッグの中から携帯電話を取り出す。
「……。」
そこには着信が一件。相手は史だった。あの日本酒のバーで晶が席を立ったとき、電話番号を知りたいというので渋々教えたのだ。何かあったら連絡をすると言っていたのを思い出すが、それは仕事の話であって欲しいと思っていたが、この時間にかかってくるのだからその期待は出来ない。
無視をしようと思って携帯電話をテーブルに置く。しかしまた電話がかかってきた。仕方ない。清子はそう思いながら、その着信に出る。
「はい。……大丈夫です。……え?少し待ってください。」
床に置いてあった通勤用のバッグをテーブルに置く。そしてその横について行るポケットを探った。すると見覚えのない茶色のキーケースが出てくる。それは史のものだった。おそらく飲み会の時にバッグのポケットの中に紛れてしまったのだろう。
「茶色のキーケースですか。バッグの中にありました。え……そうですね。えっと……だったら、降ろしていただいた停留所でお渡しします。そんな……いいです。」
史はその鍵がないと家に入れないのだという。それを取りに行きたいと申し出たのだ。確かにそうだと清子も納得した。だがその受け渡しを、さっき降ろしてもらった停留所でしたいという清子の言い分は、あっさり却下された。こんな夜中に外をうろうろしているのは気が引けると言っていたのだ。
だがどうしてもその言葉にどうしても清子は納得しない。鍵をいれたのもわざとではないか。家に入って何かしたいのではないか。そう思って仕方ない。
「だったら……家の前で。」
家の中までは入られたくない。家に入ればきっと手を出してくる。自分の想像が真実なら、そういう男なのだ。軽くデートに誘ったり、飲みに誘ったりして、そしてその噂すら否定しない男。
「わかりました。待ってます。」
どちらも譲歩した。そんな会話だった。
清子を降ろしたところから、十分ほど行ったところに晶の住んでいるマンションがある。高層マンションで、ある程度の収入がないと住めない場所だった。
それでも晶はそこに住む。史の言ったとおり、そこに住んでいるのは晶だけではない。
自分の住んでいるところの階につき、部屋の鍵を開ける。すると部屋の中は、花のような匂いがした。よく片づいた玄関の脇にあるシューズボックスには、多くの靴やハイヒールが納められている。もちろんその一つ一つは、晶のものではない。
靴を脱いで部屋に上がっていくと、白いソファーに女が座っていた。手にはポラロイドの写真がある。晶はその女に声をかけた。
「ただいま。」
すると女は晶を見て少し笑う。
「お帰り。」
荷物を床におくと、ジャンパーを脱いでハンガーに掛ける。そしてソファーに近づくと、女と軽く唇を合わせる。
「お酒臭い。」
「飲み会だから仕方ないだろう?」
折れそうな手足で、背が高い。顔も小さく、八頭身どころかそれ以上かもしれないと思った。顔立ちも美人で、どことなくこの国の人ではない彫りの深い顔立ちの女。
ファッションモデルの愛。本名は倉橋愛理。世界中を飛び回って写真を撮っていた晶がこの国に帰ってきたときに程なくして、同じく海外のメーカーと契約期間が切れた愛がこの国でも出る活動を始めた矢先に出会った。
こういう世界にいれば嫉妬や妬みが多いのだが、愛理はそれすらも強みに変えるほど自信に満ちあふれていた。プライドも高く、それと同時に惜しみない努力をしている。それはずっとそばにいた晶が一番よく知っていた。
食事も生活スタイルも、すべて自分で管理している。モデルの鏡のような人だと思う。
「お風呂沸いているよ。」
愛理がテーブルに置いたポラロイドの写真を見て、晶は少し笑みを浮かべる。
「これ、庄司さんがとったんじゃねぇな。」
「うん。アシスタントの子。」
「だと思った。あまりよく撮れてないし。何の雑誌?」
「「三島出版」のものじゃないわ。でも今度そっちの会社のものもオファーがあるって言われてる。」
「俺は撮れない。」
「指名すれば撮れるらしいよ。指名しようか?」
「やめてくれ。それでなくても贔屓って言われてるんだから。」
世界を飛び回っていた晶がこの国に帰ってきて、最初の仕事が愛理を撮ることだった。デジタルカメラのポスターで、隙のない完璧な写真に世間の評価は双方上がった。
フリーでモデルをしていた愛理は事務所から声がかかり、晶は「三島出版」から声がかかった。
二度目の仕事をした後、愛理から声をかけられた。そのまま飲みに行き、セックスをした。体の相性も悪くない。
程なくして一緒に住み始めた。愛理の生活は窮屈ではあったが、ほとんど寝に帰るだけの家だから不満はないと思っていた。
だがどうしてだろう。心にこんなに清子がいる。
風呂に入ったあと二人でベッドに横になり、どちらともなく唇を合わせて体を合わせても、どこかに清子の冷たい目がちらついた。
「あっ……。晶……。あっ……。」
絶頂を迎えている愛理を見て、なぜか十年前に一度だけセックスをした清子と重なった。
一度だけでは収まらず、二度、三度と求めた。夜遅くにやってきた清子の家でそのまま朝を迎えたのを覚えている。
満足そうに晶の体に寄り添っていた愛理を見て、晶は少しため息を付いた。今日、飲み会の前に清子に振れた。細い二の腕だった。愛理のように程良い筋肉なんかはない。柔らかくて、そのまま引き寄せようと本気で思った。
だが清子がそれを拒否していた。
「やめてください。」
お互いに好きだとも言わずにセックスをしたのだ。どうしてあのとき家に入れてくれたのだろう。そして今はどうして人を遠ざけるようなことをしているのだろう。
何もわからない。自分のことを話すことはないように、清子も話さないでいいと思っているのだろうか。
「ねぇ。何を考えてるの?」
眠っていたと思っていた愛理が急に声をかけてきた。
「ん……別に。」
「晶。あたしさ……今度ハザーのモデルのオーディション受けてみようと思って。」
「あぁ。あっちの国の雑誌だな。受かったらそっち行くのか?」
「この国だったら限界がある気がするわ。ファッション雑誌って最近、読者モデルみたいな感じの子ばかり。その辺にいる女の子を捕まえて洋服着せてさ、学芸会みたい。」
プライドとプロ意識が高い愛理らしい言葉だ。晶は少し笑って、サイドテーブルにある煙草に手を伸ばした。
「そしたらさ、晶も一緒に行かない?」
「俺も?」
「今って、ずっとあのヌードのモデルとか、AV女優ばっか撮ってるんでしょう?宝の持ち腐れだよ。」
体を起こして灰皿を手にする。そして煙草をくわえると火をつけた。
「愛理は買いかぶりすぎだと思う。」
「そんなことないよ。モデル仲間でも晶に撮って欲しいって人多いよ。」
「まさか……お前、こんなことしてるの言ってんのか?」
「言わないよ。カメラマンとモデルなんて、確かに使い古されているネタだとは思うけどさ……。」
「……俺はこのままでいい。収入も安定してるし、保証もあるし。」
その言葉に愛理はため息をはく。こんな男だっただろうか。行きたいところへ行って写真を撮りたいといっていたのに、会社に籍を置いたとたん保守的になった。
それに最近は、気もそぞろだ。何がそうさせたのか、愛理にはわかっていなかった。
細身を通り越して、針金のような体だと思う。胸の膨らみだけが女であることを証明しているようだ。だがテーブルにおいてあった「pink倶楽部」に載っている女性のように胸が大きいわけでもなく、かといってロリータを売りにしている子供のようなモデルのように、全く胸がないわけでもない。
人は人。自分は自分。そう思いながら、清子はベッドにおいてあったスウェットの上下を身につけた。そしてバッグの中から携帯電話を取り出す。
「……。」
そこには着信が一件。相手は史だった。あの日本酒のバーで晶が席を立ったとき、電話番号を知りたいというので渋々教えたのだ。何かあったら連絡をすると言っていたのを思い出すが、それは仕事の話であって欲しいと思っていたが、この時間にかかってくるのだからその期待は出来ない。
無視をしようと思って携帯電話をテーブルに置く。しかしまた電話がかかってきた。仕方ない。清子はそう思いながら、その着信に出る。
「はい。……大丈夫です。……え?少し待ってください。」
床に置いてあった通勤用のバッグをテーブルに置く。そしてその横について行るポケットを探った。すると見覚えのない茶色のキーケースが出てくる。それは史のものだった。おそらく飲み会の時にバッグのポケットの中に紛れてしまったのだろう。
「茶色のキーケースですか。バッグの中にありました。え……そうですね。えっと……だったら、降ろしていただいた停留所でお渡しします。そんな……いいです。」
史はその鍵がないと家に入れないのだという。それを取りに行きたいと申し出たのだ。確かにそうだと清子も納得した。だがその受け渡しを、さっき降ろしてもらった停留所でしたいという清子の言い分は、あっさり却下された。こんな夜中に外をうろうろしているのは気が引けると言っていたのだ。
だがどうしてもその言葉にどうしても清子は納得しない。鍵をいれたのもわざとではないか。家に入って何かしたいのではないか。そう思って仕方ない。
「だったら……家の前で。」
家の中までは入られたくない。家に入ればきっと手を出してくる。自分の想像が真実なら、そういう男なのだ。軽くデートに誘ったり、飲みに誘ったりして、そしてその噂すら否定しない男。
「わかりました。待ってます。」
どちらも譲歩した。そんな会話だった。
清子を降ろしたところから、十分ほど行ったところに晶の住んでいるマンションがある。高層マンションで、ある程度の収入がないと住めない場所だった。
それでも晶はそこに住む。史の言ったとおり、そこに住んでいるのは晶だけではない。
自分の住んでいるところの階につき、部屋の鍵を開ける。すると部屋の中は、花のような匂いがした。よく片づいた玄関の脇にあるシューズボックスには、多くの靴やハイヒールが納められている。もちろんその一つ一つは、晶のものではない。
靴を脱いで部屋に上がっていくと、白いソファーに女が座っていた。手にはポラロイドの写真がある。晶はその女に声をかけた。
「ただいま。」
すると女は晶を見て少し笑う。
「お帰り。」
荷物を床におくと、ジャンパーを脱いでハンガーに掛ける。そしてソファーに近づくと、女と軽く唇を合わせる。
「お酒臭い。」
「飲み会だから仕方ないだろう?」
折れそうな手足で、背が高い。顔も小さく、八頭身どころかそれ以上かもしれないと思った。顔立ちも美人で、どことなくこの国の人ではない彫りの深い顔立ちの女。
ファッションモデルの愛。本名は倉橋愛理。世界中を飛び回って写真を撮っていた晶がこの国に帰ってきたときに程なくして、同じく海外のメーカーと契約期間が切れた愛がこの国でも出る活動を始めた矢先に出会った。
こういう世界にいれば嫉妬や妬みが多いのだが、愛理はそれすらも強みに変えるほど自信に満ちあふれていた。プライドも高く、それと同時に惜しみない努力をしている。それはずっとそばにいた晶が一番よく知っていた。
食事も生活スタイルも、すべて自分で管理している。モデルの鏡のような人だと思う。
「お風呂沸いているよ。」
愛理がテーブルに置いたポラロイドの写真を見て、晶は少し笑みを浮かべる。
「これ、庄司さんがとったんじゃねぇな。」
「うん。アシスタントの子。」
「だと思った。あまりよく撮れてないし。何の雑誌?」
「「三島出版」のものじゃないわ。でも今度そっちの会社のものもオファーがあるって言われてる。」
「俺は撮れない。」
「指名すれば撮れるらしいよ。指名しようか?」
「やめてくれ。それでなくても贔屓って言われてるんだから。」
世界を飛び回っていた晶がこの国に帰ってきて、最初の仕事が愛理を撮ることだった。デジタルカメラのポスターで、隙のない完璧な写真に世間の評価は双方上がった。
フリーでモデルをしていた愛理は事務所から声がかかり、晶は「三島出版」から声がかかった。
二度目の仕事をした後、愛理から声をかけられた。そのまま飲みに行き、セックスをした。体の相性も悪くない。
程なくして一緒に住み始めた。愛理の生活は窮屈ではあったが、ほとんど寝に帰るだけの家だから不満はないと思っていた。
だがどうしてだろう。心にこんなに清子がいる。
風呂に入ったあと二人でベッドに横になり、どちらともなく唇を合わせて体を合わせても、どこかに清子の冷たい目がちらついた。
「あっ……。晶……。あっ……。」
絶頂を迎えている愛理を見て、なぜか十年前に一度だけセックスをした清子と重なった。
一度だけでは収まらず、二度、三度と求めた。夜遅くにやってきた清子の家でそのまま朝を迎えたのを覚えている。
満足そうに晶の体に寄り添っていた愛理を見て、晶は少しため息を付いた。今日、飲み会の前に清子に振れた。細い二の腕だった。愛理のように程良い筋肉なんかはない。柔らかくて、そのまま引き寄せようと本気で思った。
だが清子がそれを拒否していた。
「やめてください。」
お互いに好きだとも言わずにセックスをしたのだ。どうしてあのとき家に入れてくれたのだろう。そして今はどうして人を遠ざけるようなことをしているのだろう。
何もわからない。自分のことを話すことはないように、清子も話さないでいいと思っているのだろうか。
「ねぇ。何を考えてるの?」
眠っていたと思っていた愛理が急に声をかけてきた。
「ん……別に。」
「晶。あたしさ……今度ハザーのモデルのオーディション受けてみようと思って。」
「あぁ。あっちの国の雑誌だな。受かったらそっち行くのか?」
「この国だったら限界がある気がするわ。ファッション雑誌って最近、読者モデルみたいな感じの子ばかり。その辺にいる女の子を捕まえて洋服着せてさ、学芸会みたい。」
プライドとプロ意識が高い愛理らしい言葉だ。晶は少し笑って、サイドテーブルにある煙草に手を伸ばした。
「そしたらさ、晶も一緒に行かない?」
「俺も?」
「今って、ずっとあのヌードのモデルとか、AV女優ばっか撮ってるんでしょう?宝の持ち腐れだよ。」
体を起こして灰皿を手にする。そして煙草をくわえると火をつけた。
「愛理は買いかぶりすぎだと思う。」
「そんなことないよ。モデル仲間でも晶に撮って欲しいって人多いよ。」
「まさか……お前、こんなことしてるの言ってんのか?」
「言わないよ。カメラマンとモデルなんて、確かに使い古されているネタだとは思うけどさ……。」
「……俺はこのままでいい。収入も安定してるし、保証もあるし。」
その言葉に愛理はため息をはく。こんな男だっただろうか。行きたいところへ行って写真を撮りたいといっていたのに、会社に籍を置いたとたん保守的になった。
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