不完全な人達

神崎

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 それぞれがタクシーに乗って帰って行った。そして最後のタクシーに四人が乗り込む。一番最後に降りるのが史。最初に降りるのが香子。だから史は一番奥の席に乗り、助手席に香子が乗り込んだ。
 後部座席に乗る史の隣には晶。そしてその隣に清子が乗った。四人が乗るだけでタクシーの中が酒の匂いがするようだ。
 後部座席をちらっと見ると、それぞれが特に意識をしていないような態度だと思う。清子も携帯電話でどこかにメッセージを送っているし、史はつい飲み過ぎたような感じで顔を赤くしている。晶に至っては清子に何か話しかけようとしているが、清子の携帯からの目線が離れないので、諦めているように見えた。
 もしかしたら自分が降りた後、どちらかが清子を誘うかもしれないと思っていたが、その心配はなさそうだ。史はもう飲み過ぎているし、晶には興味がない。
「あ……。」
 その時香子の電話にメッセージが届いた。それを見ると、もう別れるかもしれないと思っていた恋人からのメッセージだった。
 会いたい。
 そう書いてあり、香子はもうすぐ家に帰り着くことをメッセージに送った。きっと別れ話だろう。確かに好きかもしれないと思ってつきあった彼氏だが、実際つきあっていくうちに気持ちが冷めていく。それなのにつきあった男にはそれぞれの男の性癖があり、それが体をどんどん淫らにさせていく。
 それが男をお勘違いさせていくが、香子はそれがいつからかそれをいやだと思い始めて香子の方から別れを告げるか、自然消滅をしていく。
 はっきり別れを告げられたのは史が最初で最後だろうか。
「あ、すいません。そこのコンビニで降ろしてください。」
 香子はそう言うと運転手はウィンカーを出して、コンビニに停める。
「そっか、この辺だったね。家は。」
「引っ越してませんからね。じゃあ、お疲れさまでした。おやすみなさい。」
 タクシーは行ってしまう。そして香子はコンビニでお茶だけを買うと、そのコンビニの裏にある白いアパートに足を向けた。
 部屋は二階。いくつかあるドアをすり抜けて、一番端から二番目の部屋の部屋の鍵を開ける。するともう部屋の中は明るかった。
「お帰り。」
 部屋は狭いが、ほぼ仕事をしているので寝に帰るだけの部屋だからそれで良かった。
「ただいま。」
「会社の飲み会だって言ってたな。楽しかった?」
 茶色の髪の男は、美容師だった。合コンで気があって、その日のうちにセックスして、恋人同士になった。だが土日が休みの香子と、平日が休みの男ではどうしても休みが合わない。
 だからこうしてたまにお互いの家に行っていたが、それも限界かもしれない。
「それなりに。新しい派遣の子が来たから、その歓迎会もかねてだし。」
 ジャケットを脱ぐと、ハンガーに掛ける。このジャケットは明日クリーニングに出そう。そしてクリーニングを頼んでいるジャケットを取りに行けばいい。なるべく着回しが出来て流行も乗り遅れないようなモノが好きだった。
「香子。話があるんだけど。」
 別れ話だ。そう思いながら、香子は男の座っているベッドの隣に座る。
「何?改まって。」
「俺さ……結婚するんだ。」
 その言葉に耳を疑った。結婚するというのは、自分ではなく違う人ということだろうか。
「結婚?」
「つきあっている女に子供が出来たんだ。だから……。」
 二股をかけられていたのだ。仕方ない。自分だってこの男がいても、合コンをしていたりするのだから。
「二股かけてたってわけ?」
「……んーまぁ……結果的にはそうなんだけど、好きなのは香子だけだし。」
「だったら何でその女とつきあってたのよ。子供が出来るってことは、避妊もしてなかったわけでしょ?」
「たまたまだよ。だいたいゴムだって百パー避妊できるわけじゃないじゃん。そういうことだよ。」
「……。」
 自分のせいのくせに自分に非がないような言い方だ。こんな男だっただろうか。香子の目に涙が溜まる。失恋からではなく、自分自身が悔しかったから。
「泣くほどだったのか?」
「当たり前じゃん。」
 泣いているのは失恋からではないのに、勘違いさせた。その様子に男が香子の肩を抱く。
「だったらさ、内緒でつきあうか?」
「え……?」
「別に俺、それでも良いと思う。お前の体は最高だし、お前も俺の気持ちいいんだろ?」
 呆れてものが言えない。なのに男は勘違いしたように香子の肩を抱く手に力をいれて、自分の方に振り返らせた。
「香子……。」
 しかし香子は、その体をぐっと押すと自分から離した。
「やだ。帰って。」
「香子。」
 焦ったように男は香子の方を見下ろす。
「あたし遊んでるかもしれないけど、二股もしてないから。」
「なんだよ。それ。恵美はそれで良いっていってくれたのに。」
 その言葉にさすがに香子はかちんとした。そして男の頬に平手打ちをする。

 タクシーは大通りのタクシーの停留所で停まる。そして清子はそのタクシーを降りた。清子の家はその近所のウィークリーらしい。一年間の契約なので、こう言うところの方が良いというのだ。
 清子を降ろしたタクシーの中、史と晶は互いが不機嫌そうに外を見ている。もしかしたら清子を誘えるかと思ったのに、その考えは儚く消えた。
「また飲み会するんですか。」
 晶はそう聞くと、史は携帯電話を手に持ちながらいった。
「どうかな。あまり得意ではないといっていたけど。」
「清子?そうかもしれないですね。」
 徳成ではなく、清子と呼ぶ。昔からの呼び名かもしれないが、史の神経をさらに逆なでさせた。
「でもあんなに酒飲むとは思わなかったな。ザルって言うんですよね。あぁいうの。」
「昼も食べていないから、吐いたりするかと思ったけどね。」
 それくらい可愛げがあれば、隙があって可愛い女だと思えるのにそれを全く求めていない。だがそういう女を振り向かせたくなる。
「清子は……。」
 ついに史の堪忍袋の尾が切れた。あまり言いたくなかったが、人の気持ちを知っていて言うのであれば、確信犯だ。
「職場の飲み会だよ。仕事のうちだ。その平口をやめたらどうだろうか。あの子は、清子ではなく徳成さんだ。昔はどうだったか知らないが、今は職場の同僚だろう。」
 その言葉に晶は驚いたように史をみる。普段はあまり怒ったり怒鳴ったりする方ではない。柔らかく、それでも冷たく、「だめ」という位なのに、こんなに感情を露わにすることがあっただろうか。
「何?嫉妬してるんですか。」
 その言葉はさらに史を機嫌悪くさせる。そしてぼそっと言った。
「愛に怒られるぞ。」
「え……。」
「一緒に住んでるんだろう?」
「……別に良いじゃないですか。」
「愛のモデルの仕事はまだ勢いがあるし、良いじゃないか。結婚するために、フリーではなくうちの会社に入ったのだろうし。」
 史がわざと晶の恋人の話を出したのは、清子に手を出さないようにするためだった。
 清子は自分のものにしたい。携帯電話に目を移すと、清子の電話番号が登録されていた。今日の飲み会で、聞いたのだ。
 晶が降りたら、連絡する。そのための布石は打ってきた。
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