不完全な人達

神崎

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 意外だと思ったが、清子は二次会にも付いてきた。どうやら酒が好きらしく、日本酒が美味しい店だと言ったら付いてきたのだ。
 いくら飲んでも顔色一つ変えない。酔った女をグダグダになりながら、ホテルに連れ込むなんて言うシチュエーションでAVを撮ったことがあるが、清子相手ではそれも通用しない。自分の方が潰れてしまいそうだ。
 そう思いながら史は相変わらず晶が隣にいる姿を、後ろから見ているだけだった。
「気になるんですか?」
 向かいに座っていた香子から声をかけられる。ボックス席は四人掛けで適当に座ったのだが、あふれてしまった晶と清子はカウンター席に座って酒を飲んでいるのをじっと見ていたのがばれたらしい。
「いらないことを話してないかなと思ってね。」
「久住さんは大丈夫ですよ。久住さんだってザルなんだし。ほら、海外に行ってたって言ってたじゃないですか。北の国で超強いウォッカ飲んでもけろっとしてたって言ってたし。」
「詳しいね。」
「話してくれたから。」
 このまま清子とくっついてくれればいい。そうすれば史が戻ってくるかもしれないのだから。
「だからさぁ……。お前、もう少し話せよ。人間なんだから、言葉があるんだし、それでコミュニケーション取れるわけだし……。」
 晶は酒を飲みながら何だかんだとグチグチ清子に話をしていた。正直もう飽きた。酒は美味しいがこの話はずっとループしている気がする。こんなにしつこい男だっただろうか。
 ちらっと後ろのボックス席をみる。史の隣には香子がいる。その史と目が合った。それに気が付いてさっと視線をよける。
「何?お前後ろ気になるの?」
「別に良いでしょう?すいません。これと同じものをください。」
「まだ飲むのか?」
「えぇ。」
「明日頭痛いとかあるじゃねぇの?」
「帰ったら明日の準備を。」
「明日の?」
「講習会があるんです。」
 まるで素面のような口調だが、他の人の倍は飲んでいる。
「アレだな。お前。」
「何ですか?」
「あーあたし酔っちゃったーとか言って男をくわえ込むよう真似、絶対出来ないだろ?」
「やったこともないです。」
 すると晶は酒をぐっと飲むと、意地悪く笑う。
「だったら、アレ以来してねぇのか?」
 こそっと他の人たちに聞こえないように、晶は囁いた。
「……関係ないでしょ?」
「俺は、お前以上の女いないと思うけどな。」
「初めてだからそう思っただけでしょう?」
 店員が升に入っているそのグラスに、日本酒を注いだ。そして離れていくと、少し店員が笑った気がする。それを見て、清子は晶をにらみつけるように見た。
「誤解させた。」
「誤解じゃねぇよ。」
 さすがに距離が近すぎる。史はトイレに行くふりをして席を立つ。そのついでに注意をしようとした。だが会話が少しずつ聞こえてきた。
「お前なぁ……その塩対応やめろよ。俺の童貞奪ったくせに。」
「その言い方やめて。私から誘ったんじゃないわ。」
 清子もムキになっている。表情には現れないが、平口になっているからだ。
「おい……。」
 声をかけたときだった。清子はため息を付いて、恨めしそうに晶を見た。
「気の迷いだったのよ。」
「せいぜいそう思っておけ。でもお前の処女奪ったの俺だしな。それは変えられないし、お前、それ以来してないんだったらカビが生えるぞ。」
「生える訳ないでしょ?バカじゃない。」
 その言葉に思わず言葉を失った。そして二人をみる。
「え?」
 お互い初めてだった?処女を奪ったのが晶で、童貞喪失の相手が清子だと言うことだろうか。
「……。」
 声に驚いて、清子は顔をひきつらせた。それに晶も気が付いて、気まずそうに席を立った。
「先、トイレ行って良いですか?ここ一つしかないみたいだし。」
「あぁ……。」
 唖然としている史は行ってしまった晶を見おくり、その席に座る。すると清子も気まずそうに酒に口を付けた。
「……彼氏だった時期があるんだね。」
「違います。」
「だったら……。」
「今考えればどうしてあんなバカみたいなことをしたのかって思う位のことです。それ一度きり。それ以来、久住さんと会うこともなかったし、他の男性とそんなことをすることもありませんでした。」
 清子はそう言ってまた酒に口を付けた。

 日本酒のバーから出てくると、そのまま解散という話になった。時計を見ると、もう電車もバスもない時間だった。同じ方向で帰る人でまとまり、小道から大通りにでる。
「タクシー何台いるかなぁ。」
「三台くらいかな。T区方面とS区方面と……。」
 香子がその辺を詳しく調べている。清子はちらっと史の方をみる。史とは同じ方向だ。当然同じタクシーに乗るのだろう。
「私は結構です。」
 このままだときっと史は付いてくる。それなら、ネットカフェとか適当なところに泊まった方がいい。ネットカフェで明日の準備もできるだろうし。
「駄目。家に帰るんだ。」
 史がそう言って清子を止めた。考えていることがわかったのかもしれない。だがその顔には笑みが浮かべられている。その後のことを考えているのかもしれない。
 困ったな。清子はそう思いながら、自然にフェードアウトをしようとしたがまだ史は清子の方を見ている。ごまかしは利かないだろう。
「徳成さんはT地区方面?」
 香子が聞くと、清子はうなづいた。
「そうです。」
「あたしもそっち方面なんだ。一緒に乗りましょう。」
 正直ほっとした。同じ場所に帰る人がいれば、手を出してくることはないだろう。
「あ、俺もそっち。」
 晶もそう言ってきた。
「編集長もそうだし、ここで一台埋まるね。」
「一番遠いの誰だっけ。明神さんどこ?」
「あたしねぇ……。」
 史は心の中で舌打ちをする。香子は史の家を知っている。清子が降りたところで降りたりすれば、怪しむに違いない。誤解だった噂が、やっと消えたところなのだ。清子だって警戒している。
「一番遠いの編集長ね。」
「そうだね。」
「お世話になります。」
 そう言って、香子はからかった。
 良かった。これで清子と二人でいれることはない。手を出そうとしているのを止められる。そしてちらりと晶をみる。晶も手を出そうとしているのだろう。
「……。」
 晶とひっついてもらえばいい。そうすれば自分に振り向いてもらえる可能性が出てくるのだ。
 だが肝心の清子は全く興味を示していない。男に興味がないのだろうか。
 男に興味のない女がいるだろうか。男が女に興味があるように、女も男に興味がある。だから自分たちの作る雑誌が売れているし、女向けの記事を載せたら部数は増えた。
 清子だって女だ。興味がない訳ない。きっと迫られれば押し切られる。そしてその相手は過去に体を合わせたことがある晶であって欲しい。史では自分の心が壊れそうだ。
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