不完全な人達

神崎

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同族

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 自分の課のオフィスに戻ると、そこには史の姿があった。いつも社員食堂や、外に食べにでているのに今日は弁当を持ってきたらしい。手作りらしく、紺色の弁当のケースがデスクの横にある。
「戻りました。」
「あぁ。お帰り。」
 急に電話がかかってくることもあるから、休憩中と言っても誰もいないと言うことは出来ない。いつもだったら男性社員がいるのだが、今日は帰ってしまった。妻に子供が産まれそうなのだという。史はそれを見通して、最近弁当を作ってきているのかもしれない。
「編集長。お話があるのですが。」
「何?」
 清子は史のデスクに近づくと、史は携帯電話から目を離す。だがいつもよりもどこかよそよそしいと思った。
「私が入る前のウェブ管理のことなんですが……。」
「俺もその話をしようと思ってた。ウェブ管理課から、メッセージが届いている。」
 そう言って史は自分のデスクの上のパソコンのスリープ状態を解除した。そして車内チャットのメッセージを開いて、清子を自分の席の横に呼んだ。
「……やはりそうでしたか。」
「想定の範囲?」
「えぇ。」
 「pink倶楽部」のホームページ、または本誌から抜き出された画像を元に、タレントや女優などの顔をはめ込まれたアイコラ画像が、流出しているらしい。それがタレント事務所から、責められているらしい。
「過去の画像ですね。今はそんなことを出来ないようにしていますが、本誌からスキャンしてはめ込まれればそれも禁止は出来ません。」
「どうすればいいと思う?」
「過去さかのぼったバックナンバーの画像と、今公開しているモノも少し手を加えます。コピーできないようにしたり、画像を保存できないようにすることは簡単でしょうから。」
「……そう。だったらそうしてくれるかな。それから……明神の件だけど。」
 少し前に話しておいた。その間校了があって、ごたごたしていたからうやむやになっていたと思っていたのに、しっかり覚えていたのだ。
「明神さんの動画の件ですか。」
「あぁ。無料の動画サイトにアップされていた。今はそれは削除されているけど、いつそれが再び公開されるかわからない。」
 検索機能を使い、無料、動画、AVなどとキーワードを入れれば簡単に動画を見ることは出来る。この沢山あるサイトの一つ一つを検索するわけにはいかない。
「俺のモノもある。」
「編集長のモノも?」
「あぁ。でも……確かに本意ではないな。どうだろう。徳成さん。俺のいた事務所へ行ってみるかな。」
「え……。」
「俺のいたところは結構大手だったから、その辺の対処の参考にはなるかもしれない。」
 そう言って、史は自分がいた事務所のホームページを開いた。するとそこにはまだ史のページがあり、白いシャツだけを羽織っている少し若い史がそこにいた。
「……アイドルみたい。」
「そう言わない。このときまだ二十六だったんだし。若かったな。穴があったら誰でも良いと思ってた頃だったし。」
「はぁ……。若ければそんなものじゃないんですか。」
「今は好きな人としかしたくないな。」
 そう言って史は清子を見上げる。しかし清子は相手にしないようにその画像を見ていた。そして画像の所にカーソルを合わせる。
「この画像もあまり十分とは言えませんね。」
「え?」
「特殊な方法ですが、コピーできないことはない。少なくともこの国の人で出来なくても、他の国では出来る人がいるかもしれませんね。」
 この国ではこういったことに劣っている。それは我孫子が言っていたことだった。おそらく、我孫子の息子が世界を放浪していると言っているのも、我孫子にある程度の援助をしてもらっている。その報酬として、放浪する資金を与えているのだ。
 我孫子がそう言った面に強いのは、そう言う理由もある。
「うちはどうだろうか。」
「うちも十分とは言えませんし、出来ないことはないと思います。ただ特殊な方法を使わないとそれは出来ません。つまり……この画像も、うちの画像も、コピーをするくらいなら本誌を買った方が良いとかまたはそれに見合った収入が見込めるとか、そう言ったことがないとメリットがありません。」
「つまり……この画像をコピーするには、ある程度の資金と費用が必要だと言うことか。」
「そうですね。そこまでコピーする必要性があるのだったらやればいい。費用をかけてなおかつ法に触れてまでするつもりなら。」
 こう言うときの清子は血が通っていないように見える。
「しかし……このページを作った人は、かなり出来る人なんですね。」
 そう言って史のパソコンのマウスを動かしながら、そのページを見ている。その距離が近くて、思わず触れたくなったがそういうわけにはいかない。誰もいないオフィスと入っても、監視カメラはついている。こんなところで手を出すわけにはいかないのだ。
「話を聞きたいです。」
 手を止めて清子は史の方を振り返った。そのときデスクに清子の手が当たり、置いておいたペンが床に転がる。それを見て、清子はペンを拾い上げるのにしゃがみ込んだ。
「あぁ、良いよ。」
 史もいすから降りて、デスクの下に転がったペンを拾い上げ、一足先に史がペンを拾い上げると、立ち上がろうとする。
「編集長。頭に気を付けって……。」
「え?」
 ゴン!と言う派手な音がした。清子はあわてて史に寄る。
「大丈夫ですか。」
 すると史は頭を押さえながら、微笑んだ。
「大丈夫。」
 心配そうな清子の顔が史のすぐ側にある。だが史は頭を押さえているだけだった。
「くらくらするけどね。」
 強がるようにそう言うが、ずっと頭を押さえている。
「一度座った方が良いです。」
 前よりも派手な音がした。大丈夫なのだろうか。そう思いながら、清子は史を覗き見る。前のようにへらへらした笑いはなく、頭を押さえている。相当痛かったのかもしれない。
「手を貸しますから……。」
 そう言って史に手をさしのべると、史は素直にその手に捕まっていすに座る。しかしその手は清子の手を離そうとしない。
「あの……。」
「もう少ししたらみんなが帰ってくる。それまでこうしててくれないか。」
 普段は手を握ることも出来ない。その華奢な手にいつも触れたいと思っているのに、それも出来ないのだ。自分のモノにしたい。晶にはさせたことを、自分でもしたいと思う。
 手を握っただけでこんなに心が動揺している。それだけ清子のことが好きなのだ。
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