不完全な人達

神崎

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同族

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 修正を終えて、清子はその画像を史に見せる。すると文は少し笑って言う。
「いいね。袋とじはコレでいこう。」
 画像の編集は気を使う。文章もまた気を使うのだろうが、エロ本の大半は文章よりも写真を重視する。かといって見せすぎると良くない。モザイクがありすぎるのも良くないのだ。
「あぁ、徳成さん。例の件だけど。」
「はい。」
 史のいた事務所に話を聞きにいくのだ。史の昔のつてで話を付けてくれた。もちろんそれに史も着いてくる。
 史は正直気乗りはしていない。だが二人でどこかへ行くというだけで、浮かれてしまう。多少の心苦しさは仕方ないだろう。
「コレでどうだろうか。」
 史はメモ紙を一枚折り畳むと、清子に手渡した。清子はそれを見てゆっくりとうなづく。
「わかりました。」
 堂々と二人で出かけるとは言えない。以前二人で飲みに行っただけでも噂になり、清子は一時肩身が狭かったのだ。だから知られるわけにはいかない。
 だからこそっとメモ紙に事務所近くのカフェを指定した。そこで待ち合わせをしていくのだ。
 こっそりデートをするようで、嬉しかった。
 その様子を香子は見ながら、少しため息を付く。

 史が指定したのは、この町とは少し離れている街だった。若者の街で、清子はそこへ行ったことはない。だが史がいた事務所を調べると本社はその街にあるらしい。
 清子はもらったメモ紙のカフェを、トイレから帰るときに調べてみた。通り沿いにあり、割とわかりやすいかもしれない。そのとき、向かいから香子が歩いてきた。
「徳成さん。」
「はい。」
「……帰るなら、ついでに倉庫からプリンターのインク持って行ってくれる?ブラックが切れそうなの。」
「わかりました。」
 プリンターはあまり使うことがないので、部署に大型のモノが二台あるだけだ。そのうちのインクが切れそうなのだろう。
 だがそんなことを言いたいのではない。史と何かあったのだろう。そう聞きたいのに、何も言わせない。
「……あのさ……。」
 もう行こうとした清子に香子は話しかける。
「どうしました?」
「編集長と何かあった?」
「何かとは?」
 表情が変わらない。だが清子は普段からあまり表情を変えない人だ。何かあっても表情に出ないだろう。
「あぁ……そうだった。明神さんにも話があったんです。」
「あたしに?」
「今度時間をとれませんか。すぐに終わりますから。」
「いいわ。今日、二人で飲みに行く?」
「今日は予定があって……。」
 史とどこかへ行くのか。そう思うと拳に力が入る。
「じゃあ、今度ね。」
「わかりました。」
 清子はそう言ってその場を離れる。そして課の横にある倉庫の扉を開いて入っていく。それを見て、香子はトイレへ行こうとした。そのとき、倉庫の扉が開く音を聞いた。振り向くとそこに入っていったのは史だった。
「……。」
 密室で二人きり。使い古されたAVのようだ。だが清子相手では何も起きない。そう思いたいのに、その扉を開ける勇気もないのだ。

 脚立を使ってプリンターのインクを探していると、どうやらここにもインクがないようだ。黒のインクはすぐ切れるので、箱で在庫を切らさないように一番上の棚においているのだがそれもない。清子は少しため息を付いて、総務課に連絡をしようと思いながら脚立を降りようとした。
 そのとき倉庫の扉が開いた音がして振り向く。そこには史の姿があった。
「徳成さん、いたんだ。」
「えぇ。プリンターのインクがないとか。」
「俺も持ってこようと思ってた。」
「でも在庫もないですね。総務課に連絡をしないと。」
 脚立に上がっている足が生々しい。そこに触れたくなるが、そこで触れたら大騒ぎになるだろう。それより以前に清子がそれを望んでいない。
 だがそこにも用事がある。史はその下から清子に声をかけた。
「そこにPPC用紙ある?」
 その言葉に清子は折りかけた脚立をまた上がり、再び棚の上を見る。そこには束になった用紙が二つあった。
「それはあと二つありますね。」
「一つ持ってきてくれないか。」
「はい。」
 用紙の束を清子は手にすると、今度こそ脚立を降りた。そして史に手渡す。
「用紙も発注しないとな。」
「ボードに書いておかないと。」
 必要な消耗品は、気が付いた人がボードに書く。それを発注したら消していくのだ。届いたら、納品書がボードに貼られることになる。それを見ながら、無駄な在庫を抱えないようにしているのだ。
「在庫が切れそうになったら発注するように言っているんだけどな。インクの黒なんて、すぐ無くなるから。」
「そうですね。」
 倉庫は狭い。だから脚立を片づける清子との距離が近い気がする。思わずその腰に触れたくなった。だが自分を押さえないといけない。
 そのとき前に一緒になったバスのことを思い出す。あのときも距離が近かったので引き寄せたいと思っていたが、うまく自分を押さえれていた気がする。
 だが今は駄目だ。明との距離が近い気がする。それが許せない。
「徳成さん。」
 不意に声をかけられて、清子は振り向いた。
「はい。」
「……今日の待ち合わせの場所わかる?」
「さっき調べました。見つけやすそうなので、良かったです。」
 だが無難なことしか言えない。それが悔しかった。
「良い店なんだ。コーヒーも美味しいし。コーヒー好きなんだろう?いつも飲んでる。」
 よく見てるな。清子はそう思いながら、脚立をしまう。
「えぇ。家ではインスタントで十分だと思うんですけど、やはり丁寧に入れると美味しいですね。豆の種類なんかはよくわからないけど。」
 その言葉に史は少し笑った。清子らしい言葉だ。
「葵さんの店もいい店だっただろう?でもあそこもやはりもうすぐ閉店するらしいよ。」
「そうですか。閉店する前に一度行っておきたいモノですね。」
「だったら今度……。」
「一人で行きます。昼間だったら行けないこともないと思うので。」
 突っぱねているように見える。自分との距離を取るようにしているように見えて、やるせなくなった。
「いいや。一緒に行こう。二人だったから何ともなかったけど、年頃の女性が一人で行くようなところじゃないしね。」
「歳はそうでも私には欲情しませんよ。」
 清子はそう言って、史の横を通って倉庫を出ていこうとした。そのとき、腕が後ろから回される。それは史の腕だった。両腕が体を後ろから包み込むように回されて、用紙が床に落ちた音がする。
「徳成さん……イヤ……清子。」
「やめてください。」
 清子は冷たくそう言うと、その腕を振りきって倉庫の扉を開ける。
 抱きしめたのは一瞬だった。なのにその感触が倉庫を出てもリアルに感じられる。
「あれ?編集長。用紙を取りに行ったんじゃないんですか?」
 清子はいつものように自分のデスクに戻り、部下にそう言われた史は少し苦笑いをしてまたオフィスを出ていく。
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