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同族
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会社を出ると、駅の方へ向かう。史がいた事務所はこの街よりも少し離れたところにあり、電車を乗り継がないといけない。普段は若者の街と言って、にぎやかな場所だった。だが清子はそんなモノにあまり興味がない。こんな事でもない限り、行くことはないだろう。
そのとき後ろから清子は声をかけられた。
「よう。終わったのか。」
それは晶だった。晶も仕事を終えたのか、いつものバッグを持っている。
「はい。」
「飲みに行かないか。」
その言葉に清子は首を横に振る。
「いいえ。今日は予定があるので。」
「何だよ。予定って……。」
「関係ないでしょう。」
清子はそう言って駅の方へ向かおうとした。それに晶は思いついたのか、清子の肩に手をかける。
「編集長とデートか?」
「どうして編集長が出てくるんですか。」
清子はそう言ってまた駅の方へ向かおうとした。
「今度、お前時間作れねぇか?」
「何ですか?」
「ちょっとな……気になることがあるんだよ。」
「内容によっては都合をつけますが……。」
「んー。ちょっと今は言えねぇな。はっきりしねぇし。」
「そうですか。ではまた今度。」
急いでいるようだ。肩から手を離されて、清子は小走りのように駅へ向かう。その後ろ姿を見て、晶はため息を付いた。いつもはバスのはずなのに駅の方へ向かうのを見て、やはり史と何かあるのではないかと勘繰ってしまう。それだけ女々しい感じもする。そして自分のモノにしたいと晶は思っているのに、清子は意固地になっているように避けている。それはキスをした晩からのことだろうか。
またキスをしたい。いいや。キスだけじゃなくて、抱きたい。一晩中、求めて、求められたいと思う。あの夜のように。
大手の事務所だと、「三島出版」のようにビルが丸ごと事務所というのもあるが、AVの業界ではほとんどない。さらに男性向けの事務所となれば、おそらく一件もないだろう。
ビルの三階の一角が芸能事務所になっていて、中にはいるとポスターが所狭しと貼られている。
AV女優であれば、自信のあるところを強調してポスターに写る。それは胸だったり、尻だったり、足だったり、普通のアイドルのように顔を売りにしているのはなかなかいないだろう。
だが男優となれば違う。ここのポスターはまるでアイドルのように顔が中心だ。場合によっては裸になっているモノもあるが、それは上半身だけに限られる。
股を開いて性器を加工しているAV女優のモノとは少し違うな。清子はそう思いながら、史のあとを歩いていった。
狭いオフィスには、女性が三人と、男性が一人。それとは別に一番奥にいるのが年頃は四十代後半か五十代くらいの女性。細身の女性で、顔の皺がそれを物語っている。
「……正木。」
「お久しぶりです。」
「うちにはもう顔を見せないって言ってたのにね。」
その女性は深くため息を付くが、周りの女性達はきゃあきゃあと騒いでいた。
「やだ。本物。」
「かっこいいねぇ。今でもいけんじゃない?男優。」
「年頃はさ、恵と一緒くらいでしょ?」
そう噂をしていたが、そのうちの男性だけ話にも言わずにパソコンの画面を食い入るように見ていた。金色の髪で、どこかこの国の人ではないような容姿の男だった。
「社長。ここにきたのは……。」
「わかってる。その後ろのお嬢さんでしょ?」
すると清子は用意されている名刺を女性に差し出した。
「「三島出版」でウェブ関係を担当しています徳成と言います。」
「それはご丁寧に。あたしはこういうモノよ。」
女性は名刺を差し出すと、清子に手渡した。そこには「阿久津美夏」と書かれてあった。
「……しっかりしたセキュリティのホームページを拝見いたしました。」
「うちはウェブ担当は一人だけ。そこの慎吾って男ね。」
男は一人だけだ。驚いて清子は男を見る。ホームページの管理から、動画のダウンロード、視聴、またはソフトの販売までしているのだろうか。
「一人で回るような……。」
「あぁ。ソフトの販売は外部に依託しているから、正確にはホームページとダウンロードなんかだけね。あとの社員は男優の管理と、売り込みなんか。」
「最近はどうなんですか?」
史がそう聞くと、美夏はさらにため息を付く。
「……男優はともかく、女優の質が落ちてる。隙あれば手を出してこようとするんだから。それに男も付いてくるんだから、肉食系が多くなった女は手が負えないわ。」
呆れたように美夏は言うと、ちらっと清子をみた。
「あんた、結構良いわね。」
「は?」
「こういう女優ってあまり美人すぎても良くないけど、不細工すぎても駄目なの。細いけど、胸はそこそこありそうだし、女優になったらいい線いくわ。」
清子は少し笑うと、美夏に言う。
「そんなことは出来ませんよ。私に出来ることはウェブの管理や更新だけです。」
「セックスに興味がないって事?」
驚いたように美夏は言うと、清子は首を縦に振る。
「驚いた。興味がないのに、こんな仕事をしてるなんてね。」
「仕事だから出来るんですよ。」
美夏はその言葉に、少し笑った。
「良いお嬢さんね。慎吾。」
美夏が声をかけると、慎吾と呼ばれた男はヘッドフォンをはずして清子の方をみた。
「「三島出版」の方。徳成さんよ。」
ひょろっと背が高く、細身で、何より国の人ではないような顔立ちは、まだ少年の面影があるような男だった。金色のウェーブのかかった髪がその印象に拍車をかけている。
「あぁ。急に「三島出版」のセキュリティが強化されたの、あんたのお陰か。」
だがこの国の言葉を使いこなしている。外見だけなのだろう。
清子はその男のデスクに近づくと、男に頭を下げた。
「徳成です。」
「……下の名前は?」
「清子です。」
「じゃあ、清子。あんたの会社のセキュリティはどこの……。」
いきなり仕事の話ははじめる男。それに清子も答えている。その様子を見て、史はため息を付く。
「正木。あんた、もううちと関わりたくないっていってた割には、あの娘のためなら何とも思わないのね。」
美夏はそう言ってふと笑う。
「出来るなら関わりたくないですよ。でも一応うちの雑誌の方向性も考慮すれば、関わりたくないと自分の一存で言える事じゃないですし。」
「え?そうなの?」
「えぇ。秋の特集は、エ○メンですから。紹介してくださいよ。一押しの男優。」
その笑顔に誰もがだまされてきたのだ。美夏はため息を付くと、後ろの棚からファイルを取り出して、ページをめくる。
「この子。」
それはまるで史が若くなったような男だった。
「何て子ですか。」
「花柳翼っていうの。ホストにいたんだけど、見極めをつけてこっちの世界に入るっていうのよ。」
「へぇ……歳は?」
「二十五。スタートは遅いけど、アイドルに見えない事もない。そっちが好きな人にはたまらないわ。」
二十五と言えば清子と同じ歳だ。清子もやはりこういう男が好きなのだろうか。
だが隣に完璧に見えるような男を目の前にしても、仕事の話しかしていない清子を見ると、それはそれで安心だと思う。
「加納恵とかどうなんですか。」
「やっても良いわよ。でもあいつ、今度男性用のAV出るって言ってたわ。」
「許可したんですか。」
「別に止めないわ。」
「昔と違うんですね。うちと契約してるんだから、個人的な契約なんか結ばせないって言ってたのに。」
すると美夏は初めて目を細めて笑った。
「そんな昔の話をするなんてね。」
史がこの事務所を辞めたのは、それも原因の一つだった。女性用のAVに出ることは悪いことではない。悪いこともあったが、それなりに充実していた。
女が二人で自分を責めるモノも、ゾクゾクした。
だがやはり自分の性癖には合っていない。清子は、どんな反応をするのだろう。最近はそれを想像するだけで、自慰のネタに出来るのだ。
そのとき後ろから清子は声をかけられた。
「よう。終わったのか。」
それは晶だった。晶も仕事を終えたのか、いつものバッグを持っている。
「はい。」
「飲みに行かないか。」
その言葉に清子は首を横に振る。
「いいえ。今日は予定があるので。」
「何だよ。予定って……。」
「関係ないでしょう。」
清子はそう言って駅の方へ向かおうとした。それに晶は思いついたのか、清子の肩に手をかける。
「編集長とデートか?」
「どうして編集長が出てくるんですか。」
清子はそう言ってまた駅の方へ向かおうとした。
「今度、お前時間作れねぇか?」
「何ですか?」
「ちょっとな……気になることがあるんだよ。」
「内容によっては都合をつけますが……。」
「んー。ちょっと今は言えねぇな。はっきりしねぇし。」
「そうですか。ではまた今度。」
急いでいるようだ。肩から手を離されて、清子は小走りのように駅へ向かう。その後ろ姿を見て、晶はため息を付いた。いつもはバスのはずなのに駅の方へ向かうのを見て、やはり史と何かあるのではないかと勘繰ってしまう。それだけ女々しい感じもする。そして自分のモノにしたいと晶は思っているのに、清子は意固地になっているように避けている。それはキスをした晩からのことだろうか。
またキスをしたい。いいや。キスだけじゃなくて、抱きたい。一晩中、求めて、求められたいと思う。あの夜のように。
大手の事務所だと、「三島出版」のようにビルが丸ごと事務所というのもあるが、AVの業界ではほとんどない。さらに男性向けの事務所となれば、おそらく一件もないだろう。
ビルの三階の一角が芸能事務所になっていて、中にはいるとポスターが所狭しと貼られている。
AV女優であれば、自信のあるところを強調してポスターに写る。それは胸だったり、尻だったり、足だったり、普通のアイドルのように顔を売りにしているのはなかなかいないだろう。
だが男優となれば違う。ここのポスターはまるでアイドルのように顔が中心だ。場合によっては裸になっているモノもあるが、それは上半身だけに限られる。
股を開いて性器を加工しているAV女優のモノとは少し違うな。清子はそう思いながら、史のあとを歩いていった。
狭いオフィスには、女性が三人と、男性が一人。それとは別に一番奥にいるのが年頃は四十代後半か五十代くらいの女性。細身の女性で、顔の皺がそれを物語っている。
「……正木。」
「お久しぶりです。」
「うちにはもう顔を見せないって言ってたのにね。」
その女性は深くため息を付くが、周りの女性達はきゃあきゃあと騒いでいた。
「やだ。本物。」
「かっこいいねぇ。今でもいけんじゃない?男優。」
「年頃はさ、恵と一緒くらいでしょ?」
そう噂をしていたが、そのうちの男性だけ話にも言わずにパソコンの画面を食い入るように見ていた。金色の髪で、どこかこの国の人ではないような容姿の男だった。
「社長。ここにきたのは……。」
「わかってる。その後ろのお嬢さんでしょ?」
すると清子は用意されている名刺を女性に差し出した。
「「三島出版」でウェブ関係を担当しています徳成と言います。」
「それはご丁寧に。あたしはこういうモノよ。」
女性は名刺を差し出すと、清子に手渡した。そこには「阿久津美夏」と書かれてあった。
「……しっかりしたセキュリティのホームページを拝見いたしました。」
「うちはウェブ担当は一人だけ。そこの慎吾って男ね。」
男は一人だけだ。驚いて清子は男を見る。ホームページの管理から、動画のダウンロード、視聴、またはソフトの販売までしているのだろうか。
「一人で回るような……。」
「あぁ。ソフトの販売は外部に依託しているから、正確にはホームページとダウンロードなんかだけね。あとの社員は男優の管理と、売り込みなんか。」
「最近はどうなんですか?」
史がそう聞くと、美夏はさらにため息を付く。
「……男優はともかく、女優の質が落ちてる。隙あれば手を出してこようとするんだから。それに男も付いてくるんだから、肉食系が多くなった女は手が負えないわ。」
呆れたように美夏は言うと、ちらっと清子をみた。
「あんた、結構良いわね。」
「は?」
「こういう女優ってあまり美人すぎても良くないけど、不細工すぎても駄目なの。細いけど、胸はそこそこありそうだし、女優になったらいい線いくわ。」
清子は少し笑うと、美夏に言う。
「そんなことは出来ませんよ。私に出来ることはウェブの管理や更新だけです。」
「セックスに興味がないって事?」
驚いたように美夏は言うと、清子は首を縦に振る。
「驚いた。興味がないのに、こんな仕事をしてるなんてね。」
「仕事だから出来るんですよ。」
美夏はその言葉に、少し笑った。
「良いお嬢さんね。慎吾。」
美夏が声をかけると、慎吾と呼ばれた男はヘッドフォンをはずして清子の方をみた。
「「三島出版」の方。徳成さんよ。」
ひょろっと背が高く、細身で、何より国の人ではないような顔立ちは、まだ少年の面影があるような男だった。金色のウェーブのかかった髪がその印象に拍車をかけている。
「あぁ。急に「三島出版」のセキュリティが強化されたの、あんたのお陰か。」
だがこの国の言葉を使いこなしている。外見だけなのだろう。
清子はその男のデスクに近づくと、男に頭を下げた。
「徳成です。」
「……下の名前は?」
「清子です。」
「じゃあ、清子。あんたの会社のセキュリティはどこの……。」
いきなり仕事の話ははじめる男。それに清子も答えている。その様子を見て、史はため息を付く。
「正木。あんた、もううちと関わりたくないっていってた割には、あの娘のためなら何とも思わないのね。」
美夏はそう言ってふと笑う。
「出来るなら関わりたくないですよ。でも一応うちの雑誌の方向性も考慮すれば、関わりたくないと自分の一存で言える事じゃないですし。」
「え?そうなの?」
「えぇ。秋の特集は、エ○メンですから。紹介してくださいよ。一押しの男優。」
その笑顔に誰もがだまされてきたのだ。美夏はため息を付くと、後ろの棚からファイルを取り出して、ページをめくる。
「この子。」
それはまるで史が若くなったような男だった。
「何て子ですか。」
「花柳翼っていうの。ホストにいたんだけど、見極めをつけてこっちの世界に入るっていうのよ。」
「へぇ……歳は?」
「二十五。スタートは遅いけど、アイドルに見えない事もない。そっちが好きな人にはたまらないわ。」
二十五と言えば清子と同じ歳だ。清子もやはりこういう男が好きなのだろうか。
だが隣に完璧に見えるような男を目の前にしても、仕事の話しかしていない清子を見ると、それはそれで安心だと思う。
「加納恵とかどうなんですか。」
「やっても良いわよ。でもあいつ、今度男性用のAV出るって言ってたわ。」
「許可したんですか。」
「別に止めないわ。」
「昔と違うんですね。うちと契約してるんだから、個人的な契約なんか結ばせないって言ってたのに。」
すると美夏は初めて目を細めて笑った。
「そんな昔の話をするなんてね。」
史がこの事務所を辞めたのは、それも原因の一つだった。女性用のAVに出ることは悪いことではない。悪いこともあったが、それなりに充実していた。
女が二人で自分を責めるモノも、ゾクゾクした。
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