不完全な人達

神崎

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同族

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 清子も自分のノートパソコンを取り出して、何か作業をしている。おそらく慎吾というのは、清子と同じレベルくらいでウェブを担当しているのだろう。
「慎吾があんなに話をするの久しぶりに見たわ。」
 美夏はそう言って細い煙草に火をつけた。
「そうなんですか?」
「あいつは小さい頃からパソコンを与えてたからかしら。機械にしか興味がないみたいだったのに。」
 その言葉に史は驚いた。美夏が結婚していたとは知らなかったからだ。
「息子?」
「そうよ。あら、言ってなかったかしら。あたし、結婚三十年目よ。」
 普段は結婚指輪などつけていないのでわからなかった。
「まぁ……無理もないか。普段は外国にいるものね。慎吾だって十四まではそっちの国にいたし。」
 そう言って美夏は引き出しの中から、写真を撮りだした。それは金色の巻き毛の体格のいい男が写っていた。明らかに外国人だ。
「ハーフですか。」
「そう。綺麗な顔をしているでしょう?旦那によく似てる。でもね正木。」
 にやっとして美夏は正木を見上げる。
「慎吾と何かあるとは思えない。」
「どうして?」
「慎吾が十四の時、こちらの国に戻したの。それはね、慎吾があっちの国でレイプされたから。」
 幼い頃からお互いの家を行き来していた女性が急に豹変した。
 それは幼い慎吾にとって悪夢だったのかもしれない。心は嫌がっているのに、体がそうは言っていないから。
「引きこもったようにパソコンに熱中してね。それを忘れさせるためにここに呼んだんだけど、やっぱり一緒だった。十年たって、やっと外に出れるようになったけど、女に嫌悪感を持つのは変わらない。まともにうちの社員とも話せるまで時間がかかったのよ。」
 その割には清子には清子と最初から話しかけて、平口で離す。だが清子は全くそれを気にすることはないらしく、清子の方も普段はあまり見せない笑顔を見せている。
「あなたもそうなりかけたわね。」
「恵のすすめでやり始めたSNSであんな目に遭うとは思ってもなかったですから。」
 正木もそう言って煙草に火をつける。
 慎吾も清子も真剣な顔をしてパソコンに向き合っていた。何を話をしているのかはわからない。だが美夏の言うとおりなら、二人の間には何もないのだ。
「慎吾さん。」
 パソコンの画面から目を離し、清子は慎吾の方を見る。
「どうした。」
「ここの画像はコピーできないようにしてますね。それからストリーミングもコピーできないようになってます。」
「そうした。そうしなければ、無料動画とかで流される。」
「それより以前のモノはどうしていますか。」
 その言葉に慎吾は立ち上がると、美夏の方へ歩いていく。そしてその後ろにあるファイルを取り出した。
「慎吾。何をしているの?」
「契約書。清子が見たがっている。」
「あまり人のものを外部に見せるのは良くないわ。」
「知ったところで清子に何がわかる。こういう世界に興味がなければ、個人情報が知られたところで何の影響もないだろ?」
 さっきから清子と呼び捨てだ。それも史をいらっとさせる。
「契約書だ。ここにサインをしてあるだろう。」
「えぇ。あぁ……コレはでも長期にわたってここに在籍することが前提ですね。」
「一度だけでも書かせる。データなりで手に入れたモノをどうするかは、手に入れたヤツの良心に任せるところもあるしな。」
「……ほかの……たとえば女優の事務所でも同じようなモノを?」
「書かせているところは多い。大手ならなおさらだろう。」
 やはり香子の動画の件は、どうにもならないのかもしれない。
「しかし、それがどうにかなることはある。」
「どうするんですか。」
 その様子に慎吾は少し首を傾げた。
「あんたがでてるのか?」
「いいえ。私ではないのですけど……。」
「案外お節介だな。俺に言わせたら勝手に流しておけと言うところだが。」
「会社に関わりそうなので。」
「だったら会社が辞めさせるようにし向ける。そうさせておけ。」
 それは清子も思っていたことだった。会社に迷惑をかけずに一番いいのは、香子が会社を去ることだった。
 だがそれで本当にいいのだろうか。

 小一時間ほど、清子は慎吾と情報の共有をして、席を立った。その間史はやきもきしながら二人を見ていたが、本当に仕事の話しかしなかったような二人に、少しほっとしていた。
 その間、史は秋に本誌に載せる男優のチェックをしていた。最近の男優も案外いろんなタイプがいるものだと思いながらその何人かをピックアップした。ほかの事務所にも声をかけて、その中から数人を本誌に載せるのだ。
 ノートパソコンをしまった清子に史は声をかける。
「徳成さん。」
 清子はその声に、史のところへ向かう。
「どうかな。この男優。」
 そう言って写真を見せる。そこにはジーパンだけをはいた上半身裸の男が写っていた。綺麗な顔立ちをしているのに体はある程度鍛えられている。
「……いいんじゃないんですか?」
「それだけ?ぐっとくるとかそう言うのはない?」
 その言葉に美夏が笑う。
「前にも久住さんに聞かれたことがあるのですが、私はそう言ったモノに興味がないので……明神さんに聞いてみてください。」
 その言葉は慎吾にも届いていたようで、慎吾は携帯電話を手にすると清子に近づいた。
「清子。連絡先を教えてくれないか。」
「先ほどパソコンの方のアドレスは教えましたけど。」
「いいや。俺が聞きたいこともあるかもしれないし、お前も聞きたいことがあるかもしれないだろう。出来れば、一度お前にその知識を教えたっていう我孫子って言う教授とも話をしたい。」
「……そうですね。」
 三人が集まれば、ますます史は蚊帳の外だろう。
 連絡先を教えている清子を見て、史は軽くため息を付いた。すると美夏が意地悪そうにいう。
「正木。何度もいうけど、慎吾にはその気はないわ。安心して手を出しなさいな。」
「……。」
「三十五でしょ?あたしが三十五の時は慎吾はもう十歳だったわよ。昔からヘタレだったものね。それは今でも変わらないみたい。」
「ヘタレなんかじゃないですよ。」
 そのとき外からスーツを着た女性がオフィスに帰ってきた。
「外、雨が降り出しましたよ。」
 その言葉に、史は驚いて窓の外を見た。昼間は雲一つない天気だったのに雨が降っていると思ってなかったからだ。
「あら。正木、傘は?」
「そこのコンビニで買いますよ。」
「そう。徳成さんは?」
「あ。私、傘は持っているので。」
「用意が良いな。」
 慎吾が少し笑って、また周りの女性社員達の頬が赤くなる。イケメンには慣れているはずなのに、慎吾はまた別格なのかもしれない。
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