不完全な人達

神崎

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花火

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 史がトイレから出てくると、慎吾が浴衣姿の女性から声をかけられていた。だがその表情は嫌悪感しかない。史は慌てて慎吾の方へ近づく。
「悪い。待たせたな。」
 すると史の容姿にますます女性たちが色めき立つ。
「お友達ですかぁ?一緒に花火見ません?ちょっと集まってきたしぃ。場所もとってあるから。」
 しかし史は首を横に振る。
「悪いね。ちょっと俺らも人を待たせているんだ。」
「えー?」
「じゃあ、行こうか。あれ?清子はどこに行ったんだ。」
 女の名前に、女性たちは口をとがらせて河川敷の方へ向かう。
「悪かったな。あんな女は好きになれなくて。」
「清子は?」
 史はまた慎吾に聞くと、慎吾は複雑そうに言う。
「久住って言ったか。俺に敵対心を燃やしてるやつ。」
「あぁ……。」
「あいつが連れていった。すぐに戻るからって。」
「え?」
 するとそのとき晶が清子と一緒に戻ってきた。しかし清子の表情は少し浮かない。
「どうしたんだ。」
「何……大したことじゃねぇよ。なぁ?徳成。」
 すると清子は少し笑顔を浮かべた。だがその表情はどこかひきつっているように見える。
「えぇ……花火始まりますね。行きましょう?」
 そういって今度は清子と慎吾、史と晶で河川敷に向かう。

 色とりどりの花火が夜空を彩る。その様子を見て、慎吾は圧倒されていた。
「この火は落ちて火事になったりしないのか?」
 その問いに史は少し笑って言う。
「そういう話は聞いたことがない。ちゃんと管理しているのだろうね。」
「そうか。」
 少し離れたところに清子がいる。そして清子の隣には、晶がいた。清子は手を組みながら、花火を見ていた。
「……清子。明日……迎えに行くから。」
 その言葉に清子は首を横に振る。
「いいえ。一人で。」
「清子。俺も行かないといけないから。」
「……。」
「俺だってあの町には行きたくねぇよ。でも……。あんな連絡が来たら行かないわけにはいかないだろ?お前だって……。」
「そうですね……。気にしていなかったこちらも悪いわけですし……。」
 何の話をしているのかわからない。だが二人ともあまり上機嫌に話をしているわけではないようだ。
「それに……俺もお前に付いてきてほしいと思う。」
「……。」
「じゃないと、俺が潰れそうだ。」
 そういって晶は頭をくしゃくしゃとかき、ため息を付いた。
「必要ですか?」
「お前じゃないと駄目だ。」
 その言葉に清子はうなづくと、また花火を見上げた。ぱっと光を放ち、ぱっと散る。人の命のようだと思った。
 そのとき清子の顔色が悪くなった。その様子にいち早く気が付いたのは史だった。史は立ち上がり、清子に近づいた。
「どうした。徳成さん。」
「……すいません。ちょっと……急に気分が悪くなって……。」
「吐きそう?立てる?」
 史はそういって手を差し伸べると、手を捕まらせて清子を立ち上がらせる。
「悪い。トイレに連れて行くから。」
「大丈夫か?」
 晶も慎吾も声をかけるが、清子は相変わらず顔色を悪くしたまま史に引きずられるように、トイレの方向へ向かう。

 嘔吐した便器を見てみると、ほとんど食事は入っていない。酒ばかりのようだった。
 トイレを出た清子はまだ顔色を悪くしてベンチに座り、史にもたれ掛かっている。
「帯を少しゆるめよう。締めているから良くないのかもしれない。」
 手早く帯を少しゆるめられると、清子は少し息が楽になった気がした。
「ビールばかりしか飲んでない?」
「はい。」
「だったら炭酸がお腹に溜まっていたのかもしれないね。いつもの調子で飲むと、こうなるんだ。夏とは違って、汗もかかないしね。」
 回りはみんな花火を見ているらしく、周りの人は閑散としていた。だがここからでも高く上がる花火であれば見ることは出来る。
「すいません。ご迷惑をかけてしまって。」
「迷惑なんて少しも思っていないよ。」
 やっと二人になれた。このまま手に触れて、引き寄せて、抱きしめたい。キスをしたい。そのあとのこともしたい。その下心もあったのだ。だがそれ以上に聞きたいことがある。きっと普段顔色一つ変えないで酒を飲んでいるのに、こんなに体調を悪くするのは晶に会ってからだった。
「何か言われた?」
「え?」
「久住に。」
 すると清子は史から目をそらす。そして首を横に振った。
「編集長には関係のないことです。」
 その言葉に、史は口をとがらせる。
「清子。」
「……関係ないですから。」
「関係あるよ。」
 その言葉に清子は史の方をみる。
「……好きだっていってる。付き合いたいって。」
「……忘れてください。半年後にはいないので。」
「だったら久住とは半年後も一緒にいるのか?」
 清子はその言葉に、言葉を詰まらせた。
「どこかへいくのか。そんな話をしていなかったか。」
「……関係ないですから。」
 大きな花火が上がって、歓声が上がる。その場にいた人たちも思わずそちらを見ていた。その視線に、史は素早く清子の唇に軽くキスをする。
「やめてください。こんなところで……。」
「ここじゃなきゃ良い?今日、うちへくる?」
「やです。」
「だったら俺が君のところへいく。何も知らないまま離れるのは、地獄だから。」
 史の表情はあくまで優しい。だがそれに頼るわけにはいかないのだ。自分の家の問題であり、史には関係ない。巻き込むわけにはいかないのだ。
「来ないでください。」
「だったら話してくれる?」
「……自分の問題です。」
 そういって清子は立ち上がる。だがまだふらついているようだった。
「少し早いけど、送るよ。」
「駄目です。みんなを駅まで連れていかないといけないんじゃないんですか。部内でやってきたことだから、誰かに何かあれば編集長が責任を問われるでしょう?」
 こんな時でも清子は冷静だった。そういって清子は河川敷に向かい、その後を史が追うようについて行く。
 晶たちのそばに来ると、慎吾も晶も心配そうに清子を見ていた。
「お前、帰った方が良いんじゃないのか。」
「そうですね。バスはまだ出てるし、お先に失礼します。」
 すると慎吾が立ち上がる。
「送る。」
「慎吾さん。」
「正木さんも、そっちのやつも、部内でやってきたことだろう?俺は関係ないから、駅までなら送れる。そこからタクシーに乗ればいいだろうし。」
 正論だ。確かに部内のことだから、史も晶も団体行動をしないといけないだろう。
「最後まで見なくて良いですか?」
 清子はそう声をかけると、慎吾は少し笑って言う。
「十分だ。それに……帰りもあの混雑に巻き込まれるのはごめんだし。」
 相当懲りてしまったのだろう。そのとき、史の所に香子と梶原がやってきた。梶原の顔色もあまり良くない。
「ごめん。徳成さんたちも帰るなら、梶原さんも一緒に帰らせて。」
「どうしたんだ。」
「……うちの母が着付けしたんだけど、あの人着物と同じ要領で着付けしたから帯が苦しいのよ。あーあ。帰ったら言っておかないと。」
 どうやら一人きりではなかったようだ。慎吾は悪い顔を一つせずに、梶原も清子たちと河川敷を離れた。
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