不完全な人達

神崎

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対面

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 車を停めて、家に帰ってくる。その間も浮かれているように晶の足下は軽い。エレベーターに乗って、自分の住む階に付くと家のドアを開けた。まだ愛は帰ってきていないようだ。そっちの方が都合が良い。
 冷蔵庫を開けて、食材を見る。オーガニックの野菜、肉、ハムやウィンナー、チーズもすべてこだわっている。それが不味いわけはないが、値段が高いから特段美味しいわけでもない。簡単にパスタでも作るかと、食材を取り出したときだった。
「ただいま。」
 玄関から愛の声が聞こえた。帰ってきたらしい。
「お帰り。どうだった?撮影は。」
「うん。まぁね……。」
 愛はバッグをソファに置くと、その中からポラロイド写真を数枚取り出して、晶に手渡す。すると晶はその写真を見ながら少しため息を付いた。
「どうしたの?」
「ん……まぁ……俺ならこの構図では撮らないと思っただけ。誰だ。カメラマン。」
「庄司さん。」
「ふーん。もうろくしたな。あいつも。」
 どこかの山の中で撮ったポスターとCM。シャンプーのCMでオーガニックを全面に出した商品だった。だから愛の顔やスタイルよりも髪を中心に写している。だが主役は髪かも知れないが、人があっての写真だろうと晶は思っていたのだ。
「何か作るの?」
「昼も食いっぱぐれたから、軽く作ろうと思って。」
「ふーん。食べれなかったんだ。」
 パスタもカロリーを計算したもので、普通のものよりはカロリーが抑えめだ。
「お父さん。どうだった?」
「また痩せてたな。もうあまり長くねぇかも。」
「だったら無理してでも挨拶に言けば良かった。」
 愛はそういってソファに座る。その言葉に晶はへらっと笑って、愛の方を向かないまま言った。
「何で?」
「だって……このままだったら……。」
「結婚はしねぇよ。お前のところも嫌がるだろ?兄貴が犯罪者だって。しかも殺したのは身内だって。」
「……親なんか関係ないよ。」
 ベーコンとほうれん草、タマネギを加えたトマトソースのパスタ。ソースは冷凍庫にストックがあり、暇なときに愛が作っているものだった。
 それをダイニングテーブルに持って行くと、粉チーズをかけて晶はそれを口に運んだ。不味くもないが、美味くもない。だがなじみは薄い味だった。
「愛。」
「何?」
「俺、やっぱここ出るわ。」
 その言葉に愛は立ち上がって、晶が座っているダイニングテーブルの向かいに座る。
「何で?」
「窮屈。」
 晶はそう言うと、パスタに入っているベーコンをフォークで刺した。
「……晶。」
「……前から思ってた。どんなところに行っても、何でも口にしたし、人と関わりを持ったし、最悪なところで寝泊まりもした。それに比べりゃ、ここはすげぇ良いと思うよ。」
 晶は立ち上がるとキッチンに立ち、コップに水を注いだ。
「でもその分窮屈だ。」
「だから、一緒に余所の国へ行こうって……。」
「先進国に興味はねぇよ。作られた遺跡なんか、どうでも良い。」
 水を注いだコップを手にすると、またいすに座ってその水を飲む。
「徳成さんもそんなところに行かないわ。」
 清子の名前に、思わず水を噴きそうになった。
「何で清子?」
「へぇ……呼び捨てに出来るんだ。」
 愛はそう言って目を細める。だが笑ってはいない。晶は黙ってコップをテーブルに置く。
「幼なじみだったしな。」
「初めて聞いたわ。その話。」
「そうだっけ。」
 上手く隠していたのに思わずぼろが出たのは、清子と体を重ねたからかも知れない。何度だってしたくなるような気持ちの良い体だった。
「あいつも墓参りに来てた。」
「ふーん。」
「悲惨なものだ。」
「だから同情したの?」
「同情じゃ……。」
 心の中で舌打ちをする。誘導尋問する気なのかと、不機嫌になった。
「言っとくけど、あの子は史が手を着けてる。どこがいいのかわからないけど、よっぽど床上手なのかしら。あぁ……インターネットとかでそういうのも調べられるものね。」
 その言葉に思わず晶は立ち上がる。そして皿を片づけると、バッグを持った。
「どっか行くの?」
「あぁ。」
「どこに?」
「お前の居ないとこ。」
 その言葉に愛は立ち上がって晶を追いかけた。
「ごめん。言い過ぎた。」
 後ろから抱きしめられる。だがこの温もりじゃない。晶はそのまま愛を振り切ると、玄関を出て行った。
 自分が侮辱されるのはかまわない。だが清子を侮辱されるのは耐えられないと思った。
 地下の駐車場で自分の車に乗り込むと、押さえきれない怒りを露わにする。
 清子が侮辱されただけじゃない。今頃史が清子の元にいるのだろうと思うだけで、腹が立つ。エンジンをかけると、晶はそのまま車を発進させた。

 食事を終えると、清子は食器を片づける。その間史は、ベッドに腰掛けて清子の持っていたジッポーを手にしていた。
 祖父のものだと言っていたような気がする。だがそれも怪しい話だと思った。だが叔父という人物も同じようなジッポーを持っている。それを清子は目にした。
「……清子。」
 皿を洗い終わって清子は、史の前に立つ。
「はい?」
「墓で会った人物は、冬山祥吾って人だったのか。」
「そうです。住職さんが言うのに、作家をしているとか。」
「読んだことは?」
「ありますね。でも違和感を持って読むのを辞めました。」
「違和感?」
「……。」
 清子は棚にある一冊の本を取りだした。それは「五月雨」という本で、作者は「遠藤守」と書いてあった。
「遠藤守って言うと……サスペンスとかミステリーとかの作家じゃなかったかな。」
「詳しいですね。」
「本は俺も好きなんだ。でも、これミステリーなの?」
「違います。どちらかというと……純文学みたいな。親子の話です。別れ別れになった親子が再会するみたいな……。」
「ん?それって……。」
「冬山祥吾の「江河」によく似ているんです。」
 模倣でないのかと言われた。それから遠藤はこの本を絶版にし、もうこういう話を書かなくなった。
「デビューは冬山祥吾の方が早い。だったら遠藤守が模倣したというのは正しいかも知れない。」
 しかし違和感を感じたのは、ストーリーだけではなく言い回しなどもよく似ていると思ったのだ。まるで同じ話を読んでいるかのような感覚だった。
「遠藤守はもう亡くなっています。そのあとに発見された遺作も、どこか似ていると思ってて。」
「冬山祥吾に?」
「えぇ。模倣する人というのは、一人の作家に特化することはないんです。ばれてしまうから。でも……この人はそうしている。」
 だったら逆ではないのか。そして清子は最近の作品にも違和感を持っていた。
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