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嫉妬
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コーヒーとともに出されたのは、味を見てほしいと言っていたチョコレートだった。かわいらしいアルミ製のカップに入っていて不格好だが、何かをコーティングしているように膨らんでいる。
コーヒーを飲んだあと、それを一口口に入れる。柔らかくて甘い触感に少し驚いた。
「マシュマロですか?」
「そう。ナッツとね。どう?」
「甘いですけど……チョコレートとコーヒーは良く合うし、女性は好きかもしれませんね。」
「あまりチョコレートは食べない?」
「ブランデーと合わせることはありますけど。」
酒を飲むらしい。最近の若い女性とはちょっと違うように感じる。こういうのが史は好きなのか。
「冬山祥吾さんとはお知り合いですか?」
「あぁ……見てたんだね。大学の時の同期だよ。文学部でも奴は天才だったからね。」
天才ね……。その言葉も少し嫌みに聞こえるのは、夕べ史から話を聞いたからだろうか。
「ファンかな。」
「いいえ。叔父です。」
「え?」
「最近まで知りませんでしたけど、私の父か母が兄弟だそうです。」
「どっちか知らないの?」
「両親に会ったことはありません。すぐに祖母に預けられたので。」
チョコレートを口に含む。普段はあまりこういうお菓子みたいなものを口にしないので、新鮮だった。それに疲れているときは、こういう甘いものはいいのかもしれない。
「祥吾は昔から変わらない。王様でないと気が済まないんだよ。」
「……そうですか。」
「張りぼてだと思うけどね。」
余ったコーヒーを東二も口を付けた。
「張りぼて?」
「何でもないよ。それより、徳成さんは恋人はいないのかな。」
「居ませんね。」
うまく話を誤魔化された気がする。清子はコーヒーを口につけると、煙草をくわえた。そしてジッポーで火をつける。
「それは、年ごとに職場が変わるからと言うこと?」
「はい。」
「派遣は何年目?」
「十八の時からですから、八年目ですね。」
「だったらそろそろ定職についた方が良いんじゃないのかな。」
「我孫子さんにも言われました。」
「兄貴から?一番ふらふらしていた人が何を言ってるんだろうな。」
少し笑って東二もコーヒーに口を付ける。
「男優さんはフリーだから大変だったでしょう?」
「あぁ。そうだね。今はちゃんとプロダクションがあるところもあるみたいだけど、俺の時はなかったな。」
「……大変ですね。」
「それに今は時代が悪い。昔よりもハードルが低くなったから、気軽にAVに出ようという女性は多くなったのに、AVは売れない時代だよ。気軽な無料動画もあるし、ストリーミングで十分という人も多い。金を落としてくれなければ、意味がないからね。」
「それはAVだけではなく、雑誌や映画、テレビの世界も同じみたいです。うちの編集長も頭を悩ましていました。」
「正木君が?」
「えぇ。この間、アイドルや芸能人のアイコラをつくって公開していた人が捕まって、うちの画像を使っていたのでうちの課にも警察が来ましたよ。」
「……正木君は何か言っていた?」
「こういうこともあるとずいぶんおおらかでしたけど。」
「彼らしいね。楽観的で……それが痛い目に遭わせているとは思ってないのだろう。」
「痛い目?」
すると東二はカップを置くと、清子に言う。
「徳成さん。あいつに手を出されていないだろうか。」
「編集長に?」
「やはり……口先だけだと、昨日、改めて確信した。あいつは逃げたんだ。卑怯な根性は直っていない。」
「……。」
ずいぶんな言われようだ。清子は少し驚きながら、東二を見る。
「逃げた?」
「実はね、知り合いの監督に正木君はもう下積みが長いから、ある程度のことはわかっているだろうと、メインで使うことを検討していたんだ。だが、あいつは逃げた。」
「内容で逃げたということですか?」
「いいや。受けたんだけどね、いざ現場になって女優との絡みのシーンになったとたん、「降ります」なんて言ったんだ。」
「そんな……責任感のないこと……。」
「そう。責任感のない男だ。それから女性向けのAVに転身した。逃げたんだよ。」
史がそんなことをするだろうか。清子は煙草を消して、首を傾げる。そして東二に言った。
「何か事情があったのかもしれません。」
「ずいぶんかばうね。」
「そんなつもりはありませんが……編集長の働きを見ていたら、そういう行動は何か事情があったのかもしれないと思います。」
「事情?女絡みとか?」
「いいえ。たぶん違う……もしかしたら……。」
清子は携帯電話を取り出すと、ウェブのページを開いた。そして「pink倶楽部」のページを開く。史のコラムのバックナンバーに同じようなことが書いていたのを思い出したのだ。
「……あった……。」
清子はそのページの史の文章を、覚えていた。AV男優というのは、ちゃらく見えて案外ストイックだと思っていたのだ。
「性病?」
「そうです。「ここに初めてメインでさせて貰う予定になっていた女性の、性器にびっちりと「コンジローマらしきもの」がついていた。仕事を失う覚悟で、それを断った。」と書いてあります。」
「……俺もそういうのには当たったことがある。俺に移れば、食いっぱぐれるし、この世界に蔓延する可能性もあるからね。」
「それを恐れたんじゃないのでしょうか。」
そのときの東二の表情は少し悔しげに見えた。きっと惚れている。だから幻滅させようと思っていたのに、清子はそれ以上に良く史を理解していた。まるで恋人のように。
「そうかもしれないね。」
「その女優さんは性病であることは?」
「そのあと俺が絡んだときに、俺が監督から言った。病気の治療のあとではないと絡みは出来ないと言ってね。」
「……だったら東二さんも知っていたんですね。」
「あぁ……。」
「幻滅する理由にはなりませんよ。」
すると東二はコーヒーを口に入れると、少しうつむいた。娘のことを言うべきなのか。きっと娘のことを言えば、清子はきっと祥吾の思惑通り史から離れるだろうに。
だが娘のことについては、あまり言いたくない。
「……東二さんはそれを受けますか?」
「いいや……。コンドームをしても無理だよ。」
「編集長は悪い人ではないと思います。良い人にも見えませんけどね。」
「……君でもそう思うかな。」
「えぇ。胡散臭い。」
「男優というのはそんなものだよ。口先だけだ。」
「ご自分もうだったのに、すごい言いようですね。」
「女性向けの甘いAVなんかに出ている奴と同じに思われたくない。」
やはりそうだ。東二はその女性向けのAVに出ている人たちを下げずんで見ている。それが娘の為だとしたら、それは違う気がする。
「……編集長は……。」
「ん?」
「夏までストーカー被害に遭ってました。きっかけはSNSだそうです。」
「……自業自得だよ。」
「女性の心を掴むというのは大変なことだと思います。女心と秋の空と言うくらい気持ちはころころ変わりますし、それを掴んで離さないようにしなければ人気が落ちますから。」
「……。」
「だから丁寧に受け答えをして、ファンを大切にしていた。なのに……それを裏切るようなことをする人がいるのも事実なんです。」
「……。」
「盗撮もされたそうですし、盗聴の被害にも遭っていました。女優さんにもあるんでしょう?」
「あぁ……。でも女優は事務所が守ってくれるからね。」
「男優さんはそれがない人が多い。だからずっと一人で耐えてたそうです。」
「……何が言いたいのかな。」
「それくらいのことをしないと人気はでなかった。それを「口先だけで」というのはお門違いだと思います。」
清子はそういって、席を立つ。
「ごちそうさまでした。おいくらですか。」
すると東二は我に返ったように笑顔で言った。
「コーヒー代だけで良いよ。無理矢理誘ったようなものだしね。これは、明日から並べることにしよう。」
「人気はでると思います。」
コーヒー代を支払うと、東二はカップを片づけながら清子に言う。
「君は、正木君のことが好きなんだね。」
すると清子は首を横に振る。
「いいえ。私は誰も好きにならない。私は一人ですから。」
清子はそういって店を出る。こういう意固地な女は、男心をくすぐるだろう。史もそうされたのだろうか。
コーヒーを飲んだあと、それを一口口に入れる。柔らかくて甘い触感に少し驚いた。
「マシュマロですか?」
「そう。ナッツとね。どう?」
「甘いですけど……チョコレートとコーヒーは良く合うし、女性は好きかもしれませんね。」
「あまりチョコレートは食べない?」
「ブランデーと合わせることはありますけど。」
酒を飲むらしい。最近の若い女性とはちょっと違うように感じる。こういうのが史は好きなのか。
「冬山祥吾さんとはお知り合いですか?」
「あぁ……見てたんだね。大学の時の同期だよ。文学部でも奴は天才だったからね。」
天才ね……。その言葉も少し嫌みに聞こえるのは、夕べ史から話を聞いたからだろうか。
「ファンかな。」
「いいえ。叔父です。」
「え?」
「最近まで知りませんでしたけど、私の父か母が兄弟だそうです。」
「どっちか知らないの?」
「両親に会ったことはありません。すぐに祖母に預けられたので。」
チョコレートを口に含む。普段はあまりこういうお菓子みたいなものを口にしないので、新鮮だった。それに疲れているときは、こういう甘いものはいいのかもしれない。
「祥吾は昔から変わらない。王様でないと気が済まないんだよ。」
「……そうですか。」
「張りぼてだと思うけどね。」
余ったコーヒーを東二も口を付けた。
「張りぼて?」
「何でもないよ。それより、徳成さんは恋人はいないのかな。」
「居ませんね。」
うまく話を誤魔化された気がする。清子はコーヒーを口につけると、煙草をくわえた。そしてジッポーで火をつける。
「それは、年ごとに職場が変わるからと言うこと?」
「はい。」
「派遣は何年目?」
「十八の時からですから、八年目ですね。」
「だったらそろそろ定職についた方が良いんじゃないのかな。」
「我孫子さんにも言われました。」
「兄貴から?一番ふらふらしていた人が何を言ってるんだろうな。」
少し笑って東二もコーヒーに口を付ける。
「男優さんはフリーだから大変だったでしょう?」
「あぁ。そうだね。今はちゃんとプロダクションがあるところもあるみたいだけど、俺の時はなかったな。」
「……大変ですね。」
「それに今は時代が悪い。昔よりもハードルが低くなったから、気軽にAVに出ようという女性は多くなったのに、AVは売れない時代だよ。気軽な無料動画もあるし、ストリーミングで十分という人も多い。金を落としてくれなければ、意味がないからね。」
「それはAVだけではなく、雑誌や映画、テレビの世界も同じみたいです。うちの編集長も頭を悩ましていました。」
「正木君が?」
「えぇ。この間、アイドルや芸能人のアイコラをつくって公開していた人が捕まって、うちの画像を使っていたのでうちの課にも警察が来ましたよ。」
「……正木君は何か言っていた?」
「こういうこともあるとずいぶんおおらかでしたけど。」
「彼らしいね。楽観的で……それが痛い目に遭わせているとは思ってないのだろう。」
「痛い目?」
すると東二はカップを置くと、清子に言う。
「徳成さん。あいつに手を出されていないだろうか。」
「編集長に?」
「やはり……口先だけだと、昨日、改めて確信した。あいつは逃げたんだ。卑怯な根性は直っていない。」
「……。」
ずいぶんな言われようだ。清子は少し驚きながら、東二を見る。
「逃げた?」
「実はね、知り合いの監督に正木君はもう下積みが長いから、ある程度のことはわかっているだろうと、メインで使うことを検討していたんだ。だが、あいつは逃げた。」
「内容で逃げたということですか?」
「いいや。受けたんだけどね、いざ現場になって女優との絡みのシーンになったとたん、「降ります」なんて言ったんだ。」
「そんな……責任感のないこと……。」
「そう。責任感のない男だ。それから女性向けのAVに転身した。逃げたんだよ。」
史がそんなことをするだろうか。清子は煙草を消して、首を傾げる。そして東二に言った。
「何か事情があったのかもしれません。」
「ずいぶんかばうね。」
「そんなつもりはありませんが……編集長の働きを見ていたら、そういう行動は何か事情があったのかもしれないと思います。」
「事情?女絡みとか?」
「いいえ。たぶん違う……もしかしたら……。」
清子は携帯電話を取り出すと、ウェブのページを開いた。そして「pink倶楽部」のページを開く。史のコラムのバックナンバーに同じようなことが書いていたのを思い出したのだ。
「……あった……。」
清子はそのページの史の文章を、覚えていた。AV男優というのは、ちゃらく見えて案外ストイックだと思っていたのだ。
「性病?」
「そうです。「ここに初めてメインでさせて貰う予定になっていた女性の、性器にびっちりと「コンジローマらしきもの」がついていた。仕事を失う覚悟で、それを断った。」と書いてあります。」
「……俺もそういうのには当たったことがある。俺に移れば、食いっぱぐれるし、この世界に蔓延する可能性もあるからね。」
「それを恐れたんじゃないのでしょうか。」
そのときの東二の表情は少し悔しげに見えた。きっと惚れている。だから幻滅させようと思っていたのに、清子はそれ以上に良く史を理解していた。まるで恋人のように。
「そうかもしれないね。」
「その女優さんは性病であることは?」
「そのあと俺が絡んだときに、俺が監督から言った。病気の治療のあとではないと絡みは出来ないと言ってね。」
「……だったら東二さんも知っていたんですね。」
「あぁ……。」
「幻滅する理由にはなりませんよ。」
すると東二はコーヒーを口に入れると、少しうつむいた。娘のことを言うべきなのか。きっと娘のことを言えば、清子はきっと祥吾の思惑通り史から離れるだろうに。
だが娘のことについては、あまり言いたくない。
「……東二さんはそれを受けますか?」
「いいや……。コンドームをしても無理だよ。」
「編集長は悪い人ではないと思います。良い人にも見えませんけどね。」
「……君でもそう思うかな。」
「えぇ。胡散臭い。」
「男優というのはそんなものだよ。口先だけだ。」
「ご自分もうだったのに、すごい言いようですね。」
「女性向けの甘いAVなんかに出ている奴と同じに思われたくない。」
やはりそうだ。東二はその女性向けのAVに出ている人たちを下げずんで見ている。それが娘の為だとしたら、それは違う気がする。
「……編集長は……。」
「ん?」
「夏までストーカー被害に遭ってました。きっかけはSNSだそうです。」
「……自業自得だよ。」
「女性の心を掴むというのは大変なことだと思います。女心と秋の空と言うくらい気持ちはころころ変わりますし、それを掴んで離さないようにしなければ人気が落ちますから。」
「……。」
「だから丁寧に受け答えをして、ファンを大切にしていた。なのに……それを裏切るようなことをする人がいるのも事実なんです。」
「……。」
「盗撮もされたそうですし、盗聴の被害にも遭っていました。女優さんにもあるんでしょう?」
「あぁ……。でも女優は事務所が守ってくれるからね。」
「男優さんはそれがない人が多い。だからずっと一人で耐えてたそうです。」
「……何が言いたいのかな。」
「それくらいのことをしないと人気はでなかった。それを「口先だけで」というのはお門違いだと思います。」
清子はそういって、席を立つ。
「ごちそうさまでした。おいくらですか。」
すると東二は我に返ったように笑顔で言った。
「コーヒー代だけで良いよ。無理矢理誘ったようなものだしね。これは、明日から並べることにしよう。」
「人気はでると思います。」
コーヒー代を支払うと、東二はカップを片づけながら清子に言う。
「君は、正木君のことが好きなんだね。」
すると清子は首を横に振る。
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