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夜会
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晶が上手く清子を誘って、他の課の人たちの輪に加えていた。それはそれで安心できる。あんな壁際で一人でいれば、他の課の男やそれならまだしも会社外の男に声をかけられれば手がつけられない。
案外転びやすい女だから、強引に誘えば嫌がりながらもついて行く可能性があるのだ。まぁ、よく話もしない男について行くとは思えないが。
ふとその輪を見てみると、清子の姿がない。煙草でも吸いに行ったのだろうか。その割には晶はいる。清子が外に出ればついて行くだろうに、あの経済誌の男やファッション雑誌の女と話をしているように思えた。
「少し失礼します。」
史はそういって酒を片手に席を離れて、その晶たちの輪にはいる。
「久住。」
晶に声をかけたが、反応したのはファッション雑誌の女性だった。
「編集長。良いところに来た。あのさ、そっちのファッション雑誌に来年特集組みたいんだと。「pink倶楽部」とさ。」
「ファッション雑誌と?何の?」
「セックスの特集組みたいんですよ。だからエ○メンにインタビューしたいと思ってて。花柳翼とかインタビュー組めません?」
それが狙いか。史は少し笑って、話をしてみますと無難な答えを返した。そして晶の方を見る。
「徳成さんはどこに行ったの?」
「あぁ。なんか帰ってこねぇな。酒が冷えちまうぜ。」
せっかくの熱燗が、冷えそうだった。そのとき清子がこちらのテーブルに入ってくる。
「熱燗、冷えてしまいましたか?」
「電子レンジで温めたのは、冷えやすいんだよ。」
「あまり冷えてなければそれで良いです。」
清子はそういってその酒をお猪口に注ぐ。だがその様子は少し違って見えた。
「……どこへ行ってたの?」
「あぁ。編集長もいらっしゃったんですか。お酒、飲みます?これ結構美味しくて。」
うまく話をはぐらかした。お猪口を差し出すと、清子は酒を注ぐ。
「本当だ。美味しい。」
すると清子の笑顔が見えた。だがその笑顔は少しひきつっているように見える。
携帯電話の時計を見る。そろそろ二十一時になりそうだ。そろそろ会はお開きだろう。課によってはずっとノンアルコールのモノしか飲んでいないところもあり、そこはまた会社に帰ると仕事をするのかもしれない。特に週刊で出しているところは、校了は週に一度。こんなにのんびりしている暇はあまりない。
合併号を出すといって休みを取ることは出来るが、旅行に行ったりするほどの余裕はない。それに比べると「pink倶楽部」は月に一度の発刊であり、それなりに余裕はある。だが時代の流れは見ないといけない。エロ業界は流行の廃れが早いのだ。
「今度デビューする女優なんだけどさ。」
「あぁ。元地下アイドル?」
晶の言葉に史はその顔を思い出した。二十一歳と言っていた割に、童顔でデビュー作は月並みだがアイドルの時の衣装だった。
「結構なMでさ、次回作は輪姦モノらしいぜ。」
「はーっ。制限はないのかな。」
「アイドルよりもこういう世界にはいりたかったんだってさ。自分の性癖が異常だってずっと思ってたって、この間のインタビューでいってた。」
そういう人は少なくない。アイドルというネームバリューを利用して、AVの世界に入れば見切られるファンもいるかもしれないが、開拓されるファンの方が多い。
「それがどうしたんだ。」
「んー。よく話したら、俺が住んでたところの街の出身でさ。見たことあるなーって思ってた。四つ差だから、被ったって言っても小学校の時くらいだけど。」
焼酎を飲みながら、晶は首を傾げていた。
「お前等の居た街か。」
行ったことはないが、港があり海が見えるところだという。
「俺が居た街は昔、事件があってさ。」
「事件?」
「父親が母親を殺して、父親が自殺したんだよ。」
「……すごい事件だな。子供は居なかったのか?」
「居たよ。二人。ねーちゃんと妹。妹の方は、清子と同じくらいの歳だったかな。姉妹揃って仲が良かった。そのねーちゃんの方だけど、その元地下アイドルが言ってた。明奈じゃねぇかって。」
「明奈?あぁ……昔絡んだことがある。今は薬で捕まっているだろう?」
「一度保釈されて、また捕まったみたいだな。実刑になるって言う噂だ。」
薬に転ぶ女優は少なくない。薬を使えば痩せるし、あり得ないくらい感じるらしく、明奈と史が絡んだときは端で見ててもおかしな女だと思っていた。
「妹の方は施設に入った後、行方知れずだ。それを嗅ぎ回ってるヤツが居てさ。あんな昔の事件を何で嗅ぎ回ってんのかな。」
清子に近寄ってきた男がいる。西川充と言っていた。
「でも週刊誌の話によると、西川はそのせいで最近何かに狙われているらしい。この間傷だらけで会社に来てたって言ってたな。」
「薬が絡んでるなら、ヤクザが絡んでいる。」
「AVってのはそういう繋がりがあるのか?」
「繋がりがないわけじゃない。俺らは繋がりを持っている人も居ないことはないと思うが、繋がりが深いのはどっちかというとメーカーとか事務所かも知れないな。しかし……その女性と清子が繋がりがあるのだったら、清子も少し危険なのかも知れないな。」
香子の話に少しうなづきながら、酒を飲んでいた清子の顔色は変わらない。酒ではなく水ではないのかと疑うくらいいつも通りだった。
「あんな格好もしてるしさ、二次会、今日するのか?」
「そっちが本番みたいなものだろう。どこの課もすると思う。」
この会場で他の課との交流を深めるのだったら、二次会は内輪でする飲み会だ。こちらの方が重要だといえる。
「だったら帰りは俺が送ろうかな。」
晶の言葉に史は機嫌が悪そうに言う。
「清子と寝れるとでも思っているのか?」
「普通だろ?送り狼なんて。」
アレ以来抱いていないのだ。抱きたい。感じやすくて濡れやすいその体をずっと、一晩中でも抱きたいと思う。
「やらせない。俺が送るから。」
「編集長はみんなが帰るのを見送った後だろ?俺らが帰ったのを見送ってくれよ。」
「駄目だ。」
コップをテーブルに置くと、史は晶を見下ろす。
「渡さない。」
その雰囲気を察したのだろう。何事かと、周りの人たちも見る。
「どうしたんですか?喧嘩?」
その言葉に清子も史と晶の方を見る。
「何でもねぇよ。あ、明神。二次会どこでするの?」
「良いとこがあるのよ。徳成さんも今日は行けるんでしょう?」
すると清子は携帯電話を見る。するとメッセージが一件入っていた。それを開いて、チェックすると少しため息をついた。
「あの……場所だけ教えてもらって良いですか?」
「え?」
「二次会に行くのはかまわないんですけど、その前に用事が出来てしまって。」
「何?男?」
その言葉に、晶も史も驚いたように清子をみた。自分たち以外の男が居るのかと。
「今度の講習に必要な書類にサインが今日中に欲しいと言われてたのを忘れてました。近くに慎吾さんが居るそうなので、それだけサインをしたら合流しようかと。」
そうだった。清子を狙っているのはこの目の前にいる男だけではない。明らかに自分たちよりも容姿が優れている男だ。
「だったら慎吾さんも来なよ。」
「お酒は飲めないそうですよ。」
「でもいいよねー。目の保養。」
「なんだよ。俺らだけじゃ不満か?」
男性社員が、女性たちに文句を言う。だが聞いていない。好き勝手に盛り上がっている姿を見て、清子はため息をつく。そしてもう一件のメッセージに目を落とした。
案外転びやすい女だから、強引に誘えば嫌がりながらもついて行く可能性があるのだ。まぁ、よく話もしない男について行くとは思えないが。
ふとその輪を見てみると、清子の姿がない。煙草でも吸いに行ったのだろうか。その割には晶はいる。清子が外に出ればついて行くだろうに、あの経済誌の男やファッション雑誌の女と話をしているように思えた。
「少し失礼します。」
史はそういって酒を片手に席を離れて、その晶たちの輪にはいる。
「久住。」
晶に声をかけたが、反応したのはファッション雑誌の女性だった。
「編集長。良いところに来た。あのさ、そっちのファッション雑誌に来年特集組みたいんだと。「pink倶楽部」とさ。」
「ファッション雑誌と?何の?」
「セックスの特集組みたいんですよ。だからエ○メンにインタビューしたいと思ってて。花柳翼とかインタビュー組めません?」
それが狙いか。史は少し笑って、話をしてみますと無難な答えを返した。そして晶の方を見る。
「徳成さんはどこに行ったの?」
「あぁ。なんか帰ってこねぇな。酒が冷えちまうぜ。」
せっかくの熱燗が、冷えそうだった。そのとき清子がこちらのテーブルに入ってくる。
「熱燗、冷えてしまいましたか?」
「電子レンジで温めたのは、冷えやすいんだよ。」
「あまり冷えてなければそれで良いです。」
清子はそういってその酒をお猪口に注ぐ。だがその様子は少し違って見えた。
「……どこへ行ってたの?」
「あぁ。編集長もいらっしゃったんですか。お酒、飲みます?これ結構美味しくて。」
うまく話をはぐらかした。お猪口を差し出すと、清子は酒を注ぐ。
「本当だ。美味しい。」
すると清子の笑顔が見えた。だがその笑顔は少しひきつっているように見える。
携帯電話の時計を見る。そろそろ二十一時になりそうだ。そろそろ会はお開きだろう。課によってはずっとノンアルコールのモノしか飲んでいないところもあり、そこはまた会社に帰ると仕事をするのかもしれない。特に週刊で出しているところは、校了は週に一度。こんなにのんびりしている暇はあまりない。
合併号を出すといって休みを取ることは出来るが、旅行に行ったりするほどの余裕はない。それに比べると「pink倶楽部」は月に一度の発刊であり、それなりに余裕はある。だが時代の流れは見ないといけない。エロ業界は流行の廃れが早いのだ。
「今度デビューする女優なんだけどさ。」
「あぁ。元地下アイドル?」
晶の言葉に史はその顔を思い出した。二十一歳と言っていた割に、童顔でデビュー作は月並みだがアイドルの時の衣装だった。
「結構なMでさ、次回作は輪姦モノらしいぜ。」
「はーっ。制限はないのかな。」
「アイドルよりもこういう世界にはいりたかったんだってさ。自分の性癖が異常だってずっと思ってたって、この間のインタビューでいってた。」
そういう人は少なくない。アイドルというネームバリューを利用して、AVの世界に入れば見切られるファンもいるかもしれないが、開拓されるファンの方が多い。
「それがどうしたんだ。」
「んー。よく話したら、俺が住んでたところの街の出身でさ。見たことあるなーって思ってた。四つ差だから、被ったって言っても小学校の時くらいだけど。」
焼酎を飲みながら、晶は首を傾げていた。
「お前等の居た街か。」
行ったことはないが、港があり海が見えるところだという。
「俺が居た街は昔、事件があってさ。」
「事件?」
「父親が母親を殺して、父親が自殺したんだよ。」
「……すごい事件だな。子供は居なかったのか?」
「居たよ。二人。ねーちゃんと妹。妹の方は、清子と同じくらいの歳だったかな。姉妹揃って仲が良かった。そのねーちゃんの方だけど、その元地下アイドルが言ってた。明奈じゃねぇかって。」
「明奈?あぁ……昔絡んだことがある。今は薬で捕まっているだろう?」
「一度保釈されて、また捕まったみたいだな。実刑になるって言う噂だ。」
薬に転ぶ女優は少なくない。薬を使えば痩せるし、あり得ないくらい感じるらしく、明奈と史が絡んだときは端で見ててもおかしな女だと思っていた。
「妹の方は施設に入った後、行方知れずだ。それを嗅ぎ回ってるヤツが居てさ。あんな昔の事件を何で嗅ぎ回ってんのかな。」
清子に近寄ってきた男がいる。西川充と言っていた。
「でも週刊誌の話によると、西川はそのせいで最近何かに狙われているらしい。この間傷だらけで会社に来てたって言ってたな。」
「薬が絡んでるなら、ヤクザが絡んでいる。」
「AVってのはそういう繋がりがあるのか?」
「繋がりがないわけじゃない。俺らは繋がりを持っている人も居ないことはないと思うが、繋がりが深いのはどっちかというとメーカーとか事務所かも知れないな。しかし……その女性と清子が繋がりがあるのだったら、清子も少し危険なのかも知れないな。」
香子の話に少しうなづきながら、酒を飲んでいた清子の顔色は変わらない。酒ではなく水ではないのかと疑うくらいいつも通りだった。
「あんな格好もしてるしさ、二次会、今日するのか?」
「そっちが本番みたいなものだろう。どこの課もすると思う。」
この会場で他の課との交流を深めるのだったら、二次会は内輪でする飲み会だ。こちらの方が重要だといえる。
「だったら帰りは俺が送ろうかな。」
晶の言葉に史は機嫌が悪そうに言う。
「清子と寝れるとでも思っているのか?」
「普通だろ?送り狼なんて。」
アレ以来抱いていないのだ。抱きたい。感じやすくて濡れやすいその体をずっと、一晩中でも抱きたいと思う。
「やらせない。俺が送るから。」
「編集長はみんなが帰るのを見送った後だろ?俺らが帰ったのを見送ってくれよ。」
「駄目だ。」
コップをテーブルに置くと、史は晶を見下ろす。
「渡さない。」
その雰囲気を察したのだろう。何事かと、周りの人たちも見る。
「どうしたんですか?喧嘩?」
その言葉に清子も史と晶の方を見る。
「何でもねぇよ。あ、明神。二次会どこでするの?」
「良いとこがあるのよ。徳成さんも今日は行けるんでしょう?」
すると清子は携帯電話を見る。するとメッセージが一件入っていた。それを開いて、チェックすると少しため息をついた。
「あの……場所だけ教えてもらって良いですか?」
「え?」
「二次会に行くのはかまわないんですけど、その前に用事が出来てしまって。」
「何?男?」
その言葉に、晶も史も驚いたように清子をみた。自分たち以外の男が居るのかと。
「今度の講習に必要な書類にサインが今日中に欲しいと言われてたのを忘れてました。近くに慎吾さんが居るそうなので、それだけサインをしたら合流しようかと。」
そうだった。清子を狙っているのはこの目の前にいる男だけではない。明らかに自分たちよりも容姿が優れている男だ。
「だったら慎吾さんも来なよ。」
「お酒は飲めないそうですよ。」
「でもいいよねー。目の保養。」
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