不完全な人達

神崎

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夜会

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 ホテルから出ると、清子は身震いをした。ショールを羽織っているとはいっても、その下は肩を露出させているのだ。ビル風が身を切るように感じる。
 先ほど香子から、二次会の会場の場所を書いた名刺をもらった。それは仁の店らしく、タクシーで向かうらしい。
 清子はタクシーに乗り込む社員たちを後目に、携帯電話を取り出した。慎吾も用事が終わったらしく、近くにあるチェーン化されたカフェにいるらしい。そちらに足を向けようとしたときだった。
「徳成さん。」
 声をかけられて振り返ると、そこには史の姿があった。
「はい。」
「都合が良ければ慎吾さんと一緒に来ると良い。待っているから。」
 史はおそらく遠回しに、「慎吾と抜けるな。」と言いたいのだろう。それは嫉妬からだ。
「わかりました。」
 すると香子がそれに気がついて、清子に声をかける。
「慎吾さんはともかく、徳成さんは来ないとね。」
「あぁ……服がそちらにあったんですよね。それを引き取りに行かないと。」
「ドレスはクリーニング出さなくても良いって。」
「それで三千円は安いですね。」
「でしょ?あたし毎年あそこで借りてるの。」
 探せばいい店はあるものだ。そう思いながら、清子はタクシーに乗っていく史たちを見送り、カフェの方へ足を踏み出した。

 深夜のカフェは十二時まで。店内には、水商売の女性やホストの男。学生が勉強をしていたり、仕事が終わらないサラリーマンがパソコンを持ち込んで仕事をしていた。
 だがその中に異質な人がいる。女性の店員が、コーヒーを男の前に置いてもその視線ははずせなかった。それくらい綺麗な男だったから。
 だが慎吾はその視線がうっとうしいと思っていた。良いから色目を使わずにさっさと仕事をして欲しいと思う。
 コーヒーを一口飲み、携帯電話のニュースに目を落とす。するとそこにはSNSで拡散されている偽善の会社のニュースがあった。
 障害者の雇用に力を入れていた食品会社。だがその実体は、はるかに安い賃金で障害者をこき使い、なおかつ暴力と虐待が日常だった。だが自分の動画が注目されたいと何も考えていない、その会社のある社員がインターネット上で上げた動画がきっかけになって、その会社は窮地に陥っている。
 そっとそのニュースに張り付けられている動画をタップすると、青白い顔の男が業務用冷凍庫から転がるように出てきた。鼻水や涎がすでに凍りかけていて、がたがたと震えながら「寒い、寒い」と蚊の鳴くような声で訴えている。それを笑い数人たちの男の声が聞こえ、その倒れている男を足蹴にする。
 胸くそが悪くなる動画だ。慎吾は途中でその動画を切り、ふと店内に誰かが入ってきた音がした。そちらを見ると、紺色のドレスに灰色のショールを身につけている清子が居た。いつも一つにくくってあるだけの髪は綺麗にまとめ上げられて、メイクもきちんとしているようだった。
 その姿に一瞬慎吾は言葉を失う。あまりにも綺麗だったから。
「すいません。お待たせしまして。」
 清子はそういって慎吾の向かい合わせに座った。いつもと違う。どきどきして、まともにみれなかった。
「いいや。俺もさっき来たばかりで……。あ、何か飲むか?」
「そうですね。外が寒かったので、温かいモノをいただきたいです。」
 清子はそういってメニューを見ると、すぐにチャイムを鳴らす。すると女性の店員がすぐにやってきた。
「温かいレモネードをいただけますか。」
「はい。少々お待ちください。」
 女連れだった。少し心の中で舌打ちをして、店員は下がっていく。
「サインはどれにしますか?」
「あぁ……そうだった。」
 紺色のドレスを着ると聞いていた。だがこんなに綺麗になるとは思ってなかった。慎吾はそう思いながら、バッグの中から封筒をとりだして、それを清子に手渡す。
「電話番号と名前だけで良いそうだ。」
 受けたことのない講師がする講習会だった。だが慎吾は何度か受けたことがあるらしい。レベルの高いことを教えてくれるし、受けるのはそれを専門に学校で学んだ人たちばかりだ。だが清子はきっとついてくるし、下手をすればそれ以上のことを学ぼうとするだろう。
 ペンを取りだして、紙にサインをする。その指先を見て少しほっとした。いつも通りの指だ。マニキュアなどは付いていない。
「これで大丈夫ですか?」
「あぁ。これを郵送する。それにしても……その格好で外をでるのは寒くないのか?」
「寒かったです。でも……私が住んでいたところよりは、寒くないですよ。」
「海辺だといっていたな。」
「そうです。」
「そういう格好も新鮮だな。……その……。」
 レモネードを持ってきた店員が、清子の前にそれを置いて伝票をテーブルに差し込んだ。
「あまりしたくないですね。結婚式とかだとこういう格好をするのでしょうか。」
 レモネードのはいったカップに手をつけて、清子はそれを口に運ぶ。前にみた調子だと、相当酒は強いのだろう。だがいつもと変わらないように見えた。
「……似合ってる。」
 思わずレモネードを吹きそうになった。
「は?」
 カップを置いて、清子は慎吾を見る。だが史のように口先だけで女性を口説いているのではないのだろう。それが本音に聞こえた。
「それは、ありがとうございます。」
 清子は素直にそういうと、少し笑った。
「これからどこへ行くんだ。」
「あぁ……そうだった。えっと……二次会があるそうなんです。明神さんの行きつけの飲み屋さんで……。」
「明神……あぁ、香子か。」
 慎吾は海外暮らしが長かった。だから名字よりも名前の方が呼びやすいらしい。
「慎吾さんも来ませんかと言われてました。」
「俺も?俺は酒が飲めなんだけどな。」
「弱いのですか?」
「あぁ。昔……。」
 女からレイプされた。そのとき抵抗できなかったのは酒が入っていたから。だから酒は飲みたくなかった。
「そうでしたか。」
「飲めないヤツが行ってもいいのか?」
「飲めない方は他にもいらっしゃいますから、気にしなくても良いと思いますけど。」
 すると慎吾はコーヒーに手をつけて、清子を改めて見る。綺麗だと思った。女は苦手だと思っていたが、清子は違う。出来るなら、このままさらって、どこかへ行きたい。キスをしたい。抱きたいと思った女は初めてかも知れない。
 二次会などへ行かずに、自分のそばにいてくれないだろうか。本気でそう思った。
「わかった。一緒に行こうか。」
 意外だな。あまり人と馴染まないと思っていたのに、付いてくるのかと清子は思っていた。そして清子は慎吾のその真意はわからないままだった。
「行くんですね。だったらちょっとメッセージを送ります。」
 清子は携帯電話を取り出すと、史にメッセージを送った。
「どっちにしても送らないといけないだろう?」
「え?」
「あんたは、自覚がなさすぎる。浴衣を着ていたときもそうだが、女ってだけで十分襲われることもあるんだ。」
 自分が男だったというだけで襲われた。だから清子にもそんな思いをさせたくない。そして出来るなら、自分の腕に抱きしめて守りたいと思った。
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