不完全な人達

神崎

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受け入れたくない

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 タクシーが来るのは少し待つらしい。もう少しカフェに居てからでれば良かったと慎吾は思っていた。風が少し強くて、こんなに薄着をしている清子には辛いかも知れない。
 コンビニの前にある灰皿の前で、清子は煙草を吹かしていた。しかしその腕も少し鳥肌が見える。煙草を吸い終わって周りを見ている清子に慎吾は近づくと、そのかけていたマフラーを清子にかける。
「え?」
「寒いだろう?鳥肌が立っているし。」
 意外だった。あまり人と関わりたくなく自分は自分と思っているような人だと思っていたのに、こんな優しい行動も出来るのだ。清子は素直にそれを巻くと、少し笑った。
「ありがとうございます。温かい。」
 肌触りの良いマフラーはまだ慎吾の温もりが残っている。清子はそれを感じながら、また周りを見渡した。
「でもこれを私に巻くと、煙草の匂いがついてしまいますよ。煙草は吸わないんですよね。」
「良いから。風邪でもひかれたら困る。」
 ついつっけんどんな言い方になってしまった。それでも清子は気にしないようだった。
 やがて黒色のタクシーがやってくる。二人はそれに乗り込むと、清子は行き先を告げた。どうやら「三島出版」に近い店らしい。
「どんな店なんだ。」
「バーと言ってましたね。そこの店員さんが、そのバーを辞めてほかの街にライブハウスを作るそうなんです。」
「ライブハウスか……。」
 あまり行ったことはない。音楽は好きだが、人混みは嫌いだ。祭りの時でも人混みでうんざりしたが、ステージで音楽を奏でているのを聞くのは良かったと思う。
 清子も生でバンドを見ることがなかったのかも知れない。しきりに「このバンドの曲はオリジナルでしょうか」と聞いてきたのを覚えている。
 外を見るとおそらく大通りを抜けるよりも近いのかも知れないが、小道に入ってきた。ホテル街を通っていると、電飾のついた派手な看板が目に付く。ご休憩、ご宿泊、と表示されていてホテルのグレードによって値段も時間も全く違う。
 ここで良いです。と口に出しそうになって、慎吾はそれを押さえた。だが清子がそれを望んでいない。それに清子は今日、昼間に会ったときよりも少し疲れている気がする。慣れない服や人と会うことで疲労しているのだろう。
 そのときタクシーのラジオがニュースを告げた。
「○○市であった知的障害のある従業員に対するいじめ問題です。」
 そのアナウンスに、清子が口を開く。
「すいません、運転手さん。ラジオのチャンネルを変えてもらっても良いですか。」
「えぇ。」
 赤信号で止まっているのを良いことに、運転手はチャンネルを変えた。するとニュースではなくジャズが流れる。
「どうしたんだ。」
「……いいえ。あまり良い気分のニュースではなかったから。」
「そうだな。弱いモノにつけ込むような奴らなんだろう。」
 だが清子の表情は硬くなっている。何かあったのかも知れない。
「……気分が悪いか?」
「いいえ……。あの……実は……あぁいう所に派遣もされたことがあって……。もしかしたら私が見ていなかっただけで、そういうことが日常の所もあったのかもしれないと思うと……。」
「気にするな。気が付かなかったということだけだろう。」
 ついごまかしてしまった。だが慎吾に真実など言えるわけがない。

 会社近くの繁華街。規模は小さいが、居酒屋もクラブもキャバクラもある。奥まったところには風俗もあるのだ。土曜日の夜は「三島出版」だけではなく、ほかの企業も忘年会のシーズンなのだろう。いつもよりも人が多い。
 清子は携帯電話のマップ機能を起動させて、香子が手渡してきた名刺に書いていた住所の通りに歩いていく。
「この辺だったと思うんですけど……。」
 どこを見てもその店の看板が見あたらない。白い息を吐きながら、その看板を探す。
「こっちじゃないのか。」
 慎吾は清子の携帯電話をのぞき見ると、小道を指さした。
「あぁ……。そうかも知れませんね。」
 そういって清子はその小道に足を踏み入れる。するとピンク色の看板が見えた。「LOVE STORY 休憩二時間三千円から」と書いている。どうやら表から入れない人用のラブホテルの入り口らしい。
「違うみたいですね。」
 引き返そうとしたとき、慎吾がその帰り道を塞いだ。
「どうしました?」
「……その先じゃないのか?」
 その看板の向こうを見ると、目指す屋号の看板が見えた。
「あ……本当だ。ありがとうございます。」
 どうやら地下にあるらしく、見つけづらかったらしい。清子は急ぎ足で、その看板がある建物へ近づいた。すると体ぐらりとバランスを崩したように倒れそうになった。
「危ない。」
 反射的に慎吾がその体を抱き止めた。思った以上に柔らかい。そして温かい。そして何か良い匂いがする。
「……すいません。ヒールに慣れていなかったから……。」
 清子はその腕の中で体勢を立て直そうと、足を踏ん張る。しかし慎吾の腕が離れることはなかった。
「あの……慎吾さん?」
「少し……こうしてて良いか。」
「あの……。」
「すぐ離すから。」
 マフラーを片手で避けると、その白い首筋に唇を寄せた。
「ひゃっ……。」
 思わず声がでた。冷たかったからだ。そしてマフラーを元に戻すと、慎吾は体を離した。
「気をつけろよ。階段だろう?」
「えぇ……。」
 そういって慎吾は清子の手を握ると、階段を下りていく。その横顔は少し赤い。女が嫌いだと、ずっと拒否していた慎吾がどうしてこんな行動にでたのか、清子にはわかるはずもなかった。
 地下へ降りていくと、何個かあるドアの中で一つに手をかけた。すると音楽が聞こえ、煙草とアルコールの匂いがした。
「あー、来た来た。」
 香子はカウンター席にいる。そしてその隣には史が居た。ほかの社員たちも中にいる客たちと話をしているようだ。その客の半分くらいは外国の人に見える。だから慎吾がその中に入っても違和感がない。
「遅かったね。」
「タクシーがなかなか来なかったんです。」
 カウンターの向こうには、ゴシックロリータファッションの仁がいる。今日はベロア生地のワンピースだ。
「あら。あなたははじめましてね。あたしは仁よ。」
「慎吾。」
「あら。こちらの国の方だったの。」
「でも向こうに十四まで居た。仁。ノンアルコールはあるか?」
「ノンアルコールカクテルにする?それともストレートにオレンジジュースとかの方が良いかしら。」
「ノンアルコールカクテル?」
「たとえばねぇ……。」
 仁はメニューを指さしながら、慎吾に説明をはじめた。清子はその間、ほかの店員からジンライムを受け取る。
「清子。変な格好だな。」
 後ろから声をかけられて、清子は思わず振り返る。そこには晶の姿があった。
「何?」
「ショールの上にマフラーか?」
「寒かったから借りたんです。」
 そういって清子はそのマフラーをとる。すると晶の目がその首もとに注がれた。
「お前……なんかしてきたのか?」
「え?」
「慎吾。」
 晶はそういってカクテルの説明を受けている慎吾に詰め寄った。
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