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クリスマスイブの日。街は浮かれているように見える。その街とは裏腹に、慎吾の気持ちは今の空のように曇っていた。
清子に恋人が出来た。相手は清子に一番近い人物。当初は恋人だと思っていたが、それは誤解だった。何度か一緒に講習へ行き、清子とウェブ情の話、プログラミングの話、仕事の話をしているときが一番心が安らげる時間だと思っていた。
だが清子は違った。清子はあの元AV男優の男の側にいるのが一番安らげるのだろう。それが一番やるせない。
「あのー。一人ですかぁ?」
こんな朝から逆ナンパをしてくる女もいるのだ。ため息を付いて、その二人の女をみる。清子とは全く逆のタイプで、きちんと染められた髪は綺麗にカールしているし、この寒いのにミニスカートとブーツが痛々しい。
「いや。待ち合わせ。」
「えー?彼女ですか?」
少し戸惑って、それを否定した。
「いや……違うけど……。」
「だったら連絡先とか交換できません?」
ぐいぐい来る女に、慎吾は少しいらっとする。こういう女が一番苦手だ。
そのとき、慎吾に声をかけてきた人がいる。
「慎吾さん。」
ふと振り返ると、そこには清子が居た。いつものジーパンと黒いセーター。それにダウンのコート。髪を一つにくくっただけの飾り気のない格好はいつもと変わらない、近所のコンビニにでも行くような格好だった。
「すいません。お待たせしました。」
「いいや。まだ時間はあるから。」
声をかけてきた清子に、女たちは顔を見合わせる。自分たちがどれだけ男の目を引こうと、努力してきたのだと思っているのか。それを慎吾があっさりと、何もしていないような清子に声をかけるのは腹が立つ。
しかし選ぶのは慎吾だ。先ほどまでの表情とは違って笑顔になって清子に声をかけている。
「行こう。」
ばつが悪そうに女たちは行ってしまう。慎吾のように綺麗な男はいないかもしれないが、元々誘えるとは思っていない。クリスマスイブに一人でいるよりは、適当な男と過ごした方がいい。一人よりも惨めなモノはないのだから。
いつもよりも浮かれた街を慎吾と歩く。清子はこの街に来たことはない。ビジネス街ではなく、少しお洒落なカフェや洋服屋、美容室が見える。少し小道に入れば、小さな雑貨屋などがあり若いオーナーが店先の花の手入れをしているようだ。
「小さな店が多いですね。」
「あぁ。雰囲気はいい。」
講習が終わったらこういうところに誘いたかった。何も買わなくても見ているだけで楽しいと思う。いいや。清子といれるだけでいい。しかし今日はきっと史が迎えに来る。講習が終わったらそうするのだ。
「しかし……見事なまでにクリスマスムードですね。」
「あぁ。本来はこんな祭りみたいなイベントじゃないんだがな。」
そうだった。慎吾はずっとこの国にいたわけじゃない。もっと大きなツリーの下にいたのだ。
「ケーキくらいは食べるんだろう?」
「甘いモノは好きじゃないんですけどね。」
史から言われれば口にするのだろうか。そんな女だっただろうか。誰に言われても自分を貫くような女じゃなかったのだろうか。それでもそれに合わせるのは、きっと史を想っているからなのだ。
「この店のな……。」
指さしたのはフランス菓子の店だった。まだ開店前のようで、雑踏の中にある街の中で、まだしんと静まり返っている。
「あぁ……フランス菓子ですか。」
「全体的にあまり甘くない。ブッシュドノエルもチョコレートが全面に押されているが、洋酒が効いている。」
「よく知ってますね。」
「去年、男優のイベントで男優がもらった。その切れ端を食べたんだが……。」
「どうしました?」
「……その後仕事にならなかった。」
そのときやっと自分が酒が飲めないことに気が付いた。次の日は、頭が痛くて、さらに仕事が出来なかったからだ。
「そうでしたか。」
清子は少し笑って、その店をみる。古い店構えだ。店舗自体はあまり古くなさそうだが、おそらく違う店が入っていたのだろう。
「……帰りに見てみよう。予約していないと買えないとかあるのだったら、諦めますけど。」
「……。」
あいつと食べるのか。そしてあいつと過ごすのか。それだけが心の中を占める。
「花柳さんは今日はイベントですか?」
「あぁ。どこだったかで、他の男優とイベントをしている。」
「マネージャーは代えましたか?」
その言葉に慎吾は思わず足を止めた。
「え?」
「昨日、最後に調理師か、美容師だとおっしゃったのは慎吾さんです。でも……あの指の写真は加工していた。それをしたのはあなたでしょう?」
「……。」
やはりわかっていた。清子には何もかもわかっているのだろう。
「俺はお前を利用した。」
「そうだと想いました。あの画像は、別の人のもの。わざと加工したモノを私に見せて、私を利用した。」
「……悪かったな。」
「いいえ。そうした方がいいと想います。後は、社長の手腕ですね。」
慎吾は足を止めて、ビルを見上げる。それは四階建ての雑居ビルだった。
「地下があるんですね。」
清子はそう言ってその案内板をみる。地下は撮影スタジオになっているらしい。
「AVの撮影もここですることがあるが、今日は普通の映画のスタジオだな。」
「講習は三階ですね。行きましょう。」
一階はカフェだ。おそらく講習の途中なんかでそのカフェでランチをしたりするのだろう。清子をそこに誘えないのだろうか。それだけが頭を占めていた。
階段を上がる。その細い足が目に映り、それに触れたいと思う。だがそれを清子が望んでいない。
そのときその上から、人が降りてきた。その人を見て清子は驚く。
「久住さん。」
晶は首からカメラを下げたまま、降りてきている。清子と後ろには慎吾がいるのを見て、少し笑う。
「何だ。今日はここで講習か?」
「えぇ。久住さんは撮影ですか?」
「あぁ。月刊誌のグラビア。明神も真っ青なくらいおっぱいが大きくてさ。」
「はぁ……それは良かったですね。」
胸が大きい方がいいのだろうか。自分はがりがりに細いが、胸はなくはない。前ならそんなことは気にしていなかったが、今は少し気になる。気になるのは史の影響だろうか。
「お前、講習何時まで?」
「十五時だそうです。」
「昼休憩あるな。そのとき、ちょっとつき合えよ。」
「どこへ行くんですか?」
「映画の撮影スタジオの方にも顔を出さないといけないだよ。その監督が、うちのホームページ見て管理者に会いたいって前から言われてた。」
「……わかりました。連絡します。」
「じゃあ、よろしく。」
忙しそうに晶は階段を下りていく。そして清子たちは上に上がっていった。
昼休憩の時も、終わってからも清子と一緒にいることは出来ない。慎吾は少しため息を付いて、バッグの中にある包みを確認した。
清子に恋人が出来た。相手は清子に一番近い人物。当初は恋人だと思っていたが、それは誤解だった。何度か一緒に講習へ行き、清子とウェブ情の話、プログラミングの話、仕事の話をしているときが一番心が安らげる時間だと思っていた。
だが清子は違った。清子はあの元AV男優の男の側にいるのが一番安らげるのだろう。それが一番やるせない。
「あのー。一人ですかぁ?」
こんな朝から逆ナンパをしてくる女もいるのだ。ため息を付いて、その二人の女をみる。清子とは全く逆のタイプで、きちんと染められた髪は綺麗にカールしているし、この寒いのにミニスカートとブーツが痛々しい。
「いや。待ち合わせ。」
「えー?彼女ですか?」
少し戸惑って、それを否定した。
「いや……違うけど……。」
「だったら連絡先とか交換できません?」
ぐいぐい来る女に、慎吾は少しいらっとする。こういう女が一番苦手だ。
そのとき、慎吾に声をかけてきた人がいる。
「慎吾さん。」
ふと振り返ると、そこには清子が居た。いつものジーパンと黒いセーター。それにダウンのコート。髪を一つにくくっただけの飾り気のない格好はいつもと変わらない、近所のコンビニにでも行くような格好だった。
「すいません。お待たせしました。」
「いいや。まだ時間はあるから。」
声をかけてきた清子に、女たちは顔を見合わせる。自分たちがどれだけ男の目を引こうと、努力してきたのだと思っているのか。それを慎吾があっさりと、何もしていないような清子に声をかけるのは腹が立つ。
しかし選ぶのは慎吾だ。先ほどまでの表情とは違って笑顔になって清子に声をかけている。
「行こう。」
ばつが悪そうに女たちは行ってしまう。慎吾のように綺麗な男はいないかもしれないが、元々誘えるとは思っていない。クリスマスイブに一人でいるよりは、適当な男と過ごした方がいい。一人よりも惨めなモノはないのだから。
いつもよりも浮かれた街を慎吾と歩く。清子はこの街に来たことはない。ビジネス街ではなく、少しお洒落なカフェや洋服屋、美容室が見える。少し小道に入れば、小さな雑貨屋などがあり若いオーナーが店先の花の手入れをしているようだ。
「小さな店が多いですね。」
「あぁ。雰囲気はいい。」
講習が終わったらこういうところに誘いたかった。何も買わなくても見ているだけで楽しいと思う。いいや。清子といれるだけでいい。しかし今日はきっと史が迎えに来る。講習が終わったらそうするのだ。
「しかし……見事なまでにクリスマスムードですね。」
「あぁ。本来はこんな祭りみたいなイベントじゃないんだがな。」
そうだった。慎吾はずっとこの国にいたわけじゃない。もっと大きなツリーの下にいたのだ。
「ケーキくらいは食べるんだろう?」
「甘いモノは好きじゃないんですけどね。」
史から言われれば口にするのだろうか。そんな女だっただろうか。誰に言われても自分を貫くような女じゃなかったのだろうか。それでもそれに合わせるのは、きっと史を想っているからなのだ。
「この店のな……。」
指さしたのはフランス菓子の店だった。まだ開店前のようで、雑踏の中にある街の中で、まだしんと静まり返っている。
「あぁ……フランス菓子ですか。」
「全体的にあまり甘くない。ブッシュドノエルもチョコレートが全面に押されているが、洋酒が効いている。」
「よく知ってますね。」
「去年、男優のイベントで男優がもらった。その切れ端を食べたんだが……。」
「どうしました?」
「……その後仕事にならなかった。」
そのときやっと自分が酒が飲めないことに気が付いた。次の日は、頭が痛くて、さらに仕事が出来なかったからだ。
「そうでしたか。」
清子は少し笑って、その店をみる。古い店構えだ。店舗自体はあまり古くなさそうだが、おそらく違う店が入っていたのだろう。
「……帰りに見てみよう。予約していないと買えないとかあるのだったら、諦めますけど。」
「……。」
あいつと食べるのか。そしてあいつと過ごすのか。それだけが心の中を占める。
「花柳さんは今日はイベントですか?」
「あぁ。どこだったかで、他の男優とイベントをしている。」
「マネージャーは代えましたか?」
その言葉に慎吾は思わず足を止めた。
「え?」
「昨日、最後に調理師か、美容師だとおっしゃったのは慎吾さんです。でも……あの指の写真は加工していた。それをしたのはあなたでしょう?」
「……。」
やはりわかっていた。清子には何もかもわかっているのだろう。
「俺はお前を利用した。」
「そうだと想いました。あの画像は、別の人のもの。わざと加工したモノを私に見せて、私を利用した。」
「……悪かったな。」
「いいえ。そうした方がいいと想います。後は、社長の手腕ですね。」
慎吾は足を止めて、ビルを見上げる。それは四階建ての雑居ビルだった。
「地下があるんですね。」
清子はそう言ってその案内板をみる。地下は撮影スタジオになっているらしい。
「AVの撮影もここですることがあるが、今日は普通の映画のスタジオだな。」
「講習は三階ですね。行きましょう。」
一階はカフェだ。おそらく講習の途中なんかでそのカフェでランチをしたりするのだろう。清子をそこに誘えないのだろうか。それだけが頭を占めていた。
階段を上がる。その細い足が目に映り、それに触れたいと思う。だがそれを清子が望んでいない。
そのときその上から、人が降りてきた。その人を見て清子は驚く。
「久住さん。」
晶は首からカメラを下げたまま、降りてきている。清子と後ろには慎吾がいるのを見て、少し笑う。
「何だ。今日はここで講習か?」
「えぇ。久住さんは撮影ですか?」
「あぁ。月刊誌のグラビア。明神も真っ青なくらいおっぱいが大きくてさ。」
「はぁ……それは良かったですね。」
胸が大きい方がいいのだろうか。自分はがりがりに細いが、胸はなくはない。前ならそんなことは気にしていなかったが、今は少し気になる。気になるのは史の影響だろうか。
「お前、講習何時まで?」
「十五時だそうです。」
「昼休憩あるな。そのとき、ちょっとつき合えよ。」
「どこへ行くんですか?」
「映画の撮影スタジオの方にも顔を出さないといけないだよ。その監督が、うちのホームページ見て管理者に会いたいって前から言われてた。」
「……わかりました。連絡します。」
「じゃあ、よろしく。」
忙しそうに晶は階段を下りていく。そして清子たちは上に上がっていった。
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