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講習の会場でも、慎吾は注目の的だった。アシスタントとしてやってきている女性や、受付の女性たちが慎吾を見て何かこそこそと話をしている。しかし隣に清子が座ると、「彼女連れだ」と一気に興味が失せたようだった。
清子とこういう講習会に来るのは、こういうメリットがある。一人で来ていればアドレスや連絡先を渡してくる女もいるが、清子がいればそういう女はほとんどいない。それに清子も講習会の内容のことしか言わないので、気が楽だ。
やがて講習会場に講師がやってくる。清子よりも少し年上くらいの若い人だった。だが経歴を見れば、どこかの有名大学の研究者らしい。起業もしていて、言うことはない感じもする。
座学が主な講習会で、ノートパソコンを持ってきたが使うのは昼かららしい。始まりから昼休憩までは休憩らしい休憩はなく、その講師はずっとしゃべり続けていた。
やがて休憩に入り、一時間の時間をおかれる。清子は携帯電話を取り出すと、晶に連絡を取り始めた。
「もしもし。はい……今休憩中です。」
清子はそう言って階段へ向かう。そのときふとその講師がこちらに向かってある居てきているのが見えた。清子の姿を見て、少し笑っているように見える。
「はい……では地下へ向かえばいいですか。」
今晶は地下の撮影スタジオにいるらしい。だから、清子もそれに習って来て欲しいと言うことだった。清子は電話を切ると、階段を下りていこうとした。
そのときだった。
「徳成さんっていってたかな。」
その講師の男が不意に声をかけた。清子は不思議に思いながら、振り返る。
「はい。」
「君の噂聞いたことがある。派遣なのに、パソコン関係で実績を上げて今じゃ君を欲しいと言うところが後を絶たないと。」
「恐れ入ります。」
「どうして定職に付かないの?」
「春からは企業に入ります。」
意外な言葉だった。どんな大きな起業が大金を積んでも行かないといっていた清子が、あっさり一つの起業に絞り込んだというのだから。
「気に入った人でもいた?」
どうして女だから、男だからというのだろう。面倒だな。
「別に……条件が合ったから。それだけの理由です。ウェブだけを仕事にするのだったら、離れた場所でも出来るし。」
納得したわけじゃない。だがそれしか方法はないと思う。
会社は定年まで勤め上げれば、住んでいた家と土地は退職金代わりにするらしい。そのかわり定年まで勤めることが条件だ。そのためには、こういう講習会に出て最新の情報を得ないといけないだろう。
「SNS関係は?」
「最近はトラブルも多いので、困ります。もっと規制を強めればいいのですが。」
「難しいよね。実は、その関係の弁護士とこの後会うことがあるんだ。」
「ウェブのトラブルに詳しい弁護士ですか。」
それは興味がある。だが今日は史が迎えに来るといっていた。無理に行くことはないだろう。
「君も同席しないか。」
「いいえ。会社の意向に従います。こればかりは一人で何とか出来ることではないし。」
「そっか……会社にいれば、勝手なことは出来ないよな。」
「では、すいません。ちょっと人を待たせているので。」
そう言って清子は階下に降りていく。
派遣で自由にしている人だと噂を聞いた。だが会社にはいることで、その自由が奪われていないだろうか。講師は少しそれを気にしていたのだ。
地下の階段を下りていき厚いドアを開けると、少し埃っぽい空気が身を包んだ。忙しそうに走り回る男、着物を持っている女が居てこう言うのが映画のスタジオなんだと、清子は珍しそうに周りを見ていた。
「お、清子。こっち。」
スタジオの一つにはいると、晶が声をかけた。そのそばには少し小太りの男がいる。若くもないが歳でもない。中年くらいの年頃の男だった。
「初めまして。牧原といいます。」
「徳成です。」
スタジオの中は時代を感じるセットで、その舞台は明治時代か大正時代といったところだろうか。
「ウェブ関係に強いと聞いていたから、是非晶に話を付けて欲しいと言っていたんだが。」
「はぁ……私でお役に立てるのか。」
すると牧原は、脇に置いていたタブレットを清子に手渡す。
「何ですか。」
「この映画のホームページ。公開は来年になるんだけど、一応ホームページは開設して、進行状況をブログで伝えているような感じだ。」
清子はそのページを見て、ふと下の方にリンク先があるのに気が付いた。それはSNSのページだった。
「SNSもしているのですか。」
「うん。それが少し問題でね。」
そこをタップすると、やはりコメント欄が荒れている。主な理由は、このキャストになるのだろう。
「AV男優を起用しているんですね。」
「そう。原作者の薦めでね。この役所は、主人公のライバルの役だ。ある考えがあってヒロインに近づいて、最後にはそれがすべて公になり、法の裁きで死罪になる。」
「……汚れた役ですね。こういうのを引き受ける人は限られるだろうし、何よりベッドシーンが多いみたいです。」
「そう。だからそのヒロインの既存のファンからかな。相当叩いてる。」
「本人はそれを知っているのですか?」
「SNSをしない人だ。こんな事は耳にも届いていないらしい。それにその余裕もない。」
すると晶はその言葉にため息を付いた。
「元々役者を目指していたみたいだから、演技力がすげぇ。でもあんたの奥さんからは相当突っ込まれてたな。」
「うちの奥さんも相当だからね。」
妻も女優で、参加させているのか。おそらくその妻も演技とはいえ、他の男に抱かれているのを見て冷静に「撮影だから」と言えるのだろうか。
自分ならどうだろう。史が他の女を抱いている。それは昔、彼がAV男優としてやっていたことだ。それは仕事なのだからと納得ができる。
だが今なら、どう思うだろう。他の女と仕事で寝る。それは仕事だからと清子は納得できるのだろうか。
今なら自殺をしたという史の死んだ恋人の気持ちがわからないでもない。しかしそれはお互い様だ。
クリスマスイブの日に、史以外の男と初めて来る街にいる。それで史は嫉妬しないのだろうか。
「徳成さん?」
「え……あ……すいません。えっと……荒らしのことですよね。」
「そう。どうしたらいいと思う?」
「そうですね……。荒らしはうちでも問題になっているのでしょうが、こういう人たちは……。」
頭をすっと切り替えた。対処法がないわけじゃないのだ。その様子を晶は見て、少しほっとしていた。いつも通りの清子だと。
清子とこういう講習会に来るのは、こういうメリットがある。一人で来ていればアドレスや連絡先を渡してくる女もいるが、清子がいればそういう女はほとんどいない。それに清子も講習会の内容のことしか言わないので、気が楽だ。
やがて講習会場に講師がやってくる。清子よりも少し年上くらいの若い人だった。だが経歴を見れば、どこかの有名大学の研究者らしい。起業もしていて、言うことはない感じもする。
座学が主な講習会で、ノートパソコンを持ってきたが使うのは昼かららしい。始まりから昼休憩までは休憩らしい休憩はなく、その講師はずっとしゃべり続けていた。
やがて休憩に入り、一時間の時間をおかれる。清子は携帯電話を取り出すと、晶に連絡を取り始めた。
「もしもし。はい……今休憩中です。」
清子はそう言って階段へ向かう。そのときふとその講師がこちらに向かってある居てきているのが見えた。清子の姿を見て、少し笑っているように見える。
「はい……では地下へ向かえばいいですか。」
今晶は地下の撮影スタジオにいるらしい。だから、清子もそれに習って来て欲しいと言うことだった。清子は電話を切ると、階段を下りていこうとした。
そのときだった。
「徳成さんっていってたかな。」
その講師の男が不意に声をかけた。清子は不思議に思いながら、振り返る。
「はい。」
「君の噂聞いたことがある。派遣なのに、パソコン関係で実績を上げて今じゃ君を欲しいと言うところが後を絶たないと。」
「恐れ入ります。」
「どうして定職に付かないの?」
「春からは企業に入ります。」
意外な言葉だった。どんな大きな起業が大金を積んでも行かないといっていた清子が、あっさり一つの起業に絞り込んだというのだから。
「気に入った人でもいた?」
どうして女だから、男だからというのだろう。面倒だな。
「別に……条件が合ったから。それだけの理由です。ウェブだけを仕事にするのだったら、離れた場所でも出来るし。」
納得したわけじゃない。だがそれしか方法はないと思う。
会社は定年まで勤め上げれば、住んでいた家と土地は退職金代わりにするらしい。そのかわり定年まで勤めることが条件だ。そのためには、こういう講習会に出て最新の情報を得ないといけないだろう。
「SNS関係は?」
「最近はトラブルも多いので、困ります。もっと規制を強めればいいのですが。」
「難しいよね。実は、その関係の弁護士とこの後会うことがあるんだ。」
「ウェブのトラブルに詳しい弁護士ですか。」
それは興味がある。だが今日は史が迎えに来るといっていた。無理に行くことはないだろう。
「君も同席しないか。」
「いいえ。会社の意向に従います。こればかりは一人で何とか出来ることではないし。」
「そっか……会社にいれば、勝手なことは出来ないよな。」
「では、すいません。ちょっと人を待たせているので。」
そう言って清子は階下に降りていく。
派遣で自由にしている人だと噂を聞いた。だが会社にはいることで、その自由が奪われていないだろうか。講師は少しそれを気にしていたのだ。
地下の階段を下りていき厚いドアを開けると、少し埃っぽい空気が身を包んだ。忙しそうに走り回る男、着物を持っている女が居てこう言うのが映画のスタジオなんだと、清子は珍しそうに周りを見ていた。
「お、清子。こっち。」
スタジオの一つにはいると、晶が声をかけた。そのそばには少し小太りの男がいる。若くもないが歳でもない。中年くらいの年頃の男だった。
「初めまして。牧原といいます。」
「徳成です。」
スタジオの中は時代を感じるセットで、その舞台は明治時代か大正時代といったところだろうか。
「ウェブ関係に強いと聞いていたから、是非晶に話を付けて欲しいと言っていたんだが。」
「はぁ……私でお役に立てるのか。」
すると牧原は、脇に置いていたタブレットを清子に手渡す。
「何ですか。」
「この映画のホームページ。公開は来年になるんだけど、一応ホームページは開設して、進行状況をブログで伝えているような感じだ。」
清子はそのページを見て、ふと下の方にリンク先があるのに気が付いた。それはSNSのページだった。
「SNSもしているのですか。」
「うん。それが少し問題でね。」
そこをタップすると、やはりコメント欄が荒れている。主な理由は、このキャストになるのだろう。
「AV男優を起用しているんですね。」
「そう。原作者の薦めでね。この役所は、主人公のライバルの役だ。ある考えがあってヒロインに近づいて、最後にはそれがすべて公になり、法の裁きで死罪になる。」
「……汚れた役ですね。こういうのを引き受ける人は限られるだろうし、何よりベッドシーンが多いみたいです。」
「そう。だからそのヒロインの既存のファンからかな。相当叩いてる。」
「本人はそれを知っているのですか?」
「SNSをしない人だ。こんな事は耳にも届いていないらしい。それにその余裕もない。」
すると晶はその言葉にため息を付いた。
「元々役者を目指していたみたいだから、演技力がすげぇ。でもあんたの奥さんからは相当突っ込まれてたな。」
「うちの奥さんも相当だからね。」
妻も女優で、参加させているのか。おそらくその妻も演技とはいえ、他の男に抱かれているのを見て冷静に「撮影だから」と言えるのだろうか。
自分ならどうだろう。史が他の女を抱いている。それは昔、彼がAV男優としてやっていたことだ。それは仕事なのだからと納得ができる。
だが今なら、どう思うだろう。他の女と仕事で寝る。それは仕事だからと清子は納得できるのだろうか。
今なら自殺をしたという史の死んだ恋人の気持ちがわからないでもない。しかしそれはお互い様だ。
クリスマスイブの日に、史以外の男と初めて来る街にいる。それで史は嫉妬しないのだろうか。
「徳成さん?」
「え……あ……すいません。えっと……荒らしのことですよね。」
「そう。どうしたらいいと思う?」
「そうですね……。荒らしはうちでも問題になっているのでしょうが、こういう人たちは……。」
頭をすっと切り替えた。対処法がないわけじゃないのだ。その様子を晶は見て、少しほっとしていた。いつも通りの清子だと。
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