不完全な人達

神崎

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奪う

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 対処法を知って、牧原はそれを実践するようにとホームページを管理している担当の男と話をしている。男も納得したようにうなづきながら、タブレットをいじっていた。
 それを見て晶は、清子と一緒にスタジオを出て行く。清子は携帯電話を見て、まだ時間に余裕があると思っていた。コーヒーを買って煙草を吸って、丁度いい時間だろうか。
「SNSは諸刃の剣だな。うまく使えば話題になるけど、変な奴に目を付けられると大変なことになる。気をつけないと。」
「夕べ、慎吾さんの事務所でも同じようなことを聞かれました。SNSで身近になるのはかまわないと思うんですけど、勘違いはしやすくなるかもしれません。ある程度一線を引かないと。」
 丁度喫煙所が見えた。そこで煙草でも吸おうかと、目を付けたときだった。その中に一人の女性が入っていく。和服姿が様になっている、髪を昔風に結った人だ。
「……あの方も役者さんですか。」
「牧原絹恵だな。結構有名な役者なのに、お前知らないのか?」
「映画はよく見るんですけど、この国の映画はあまり。」
「従順な人妻とか良妻賢母の役なんかやらせたら凄いうまい役者だよ。」
「この映画にも?」
「ちょっと意外だと思ったけどな。主人公を陥れる男と手を組む役だし……。まぁ、旦那の監督のモノだから出演したいと思ったのかもな。」
 原作を読んだ清子には、確かに違和感を覚えた。だが女優なのだから、どんな役でもしないといけないのだろう。それにイメージを覆すような役は成功すれば、役の幅が広がるだから。
「そう……。こっちはこっちでうまくやるわ。えぇ……。うまくさらってね。姉と同じ血を引いているのだから、薬で転ぶのは目に見えてる。そうなれば、そちらで「処理」してもらって良いわ。」
 薄いアクリル版で囲まれた喫煙所は、電話で話の内容がわかる。あまり愉快ではない内容に、晶は清子の方を見下ろした。
「さらう?」
「物騒な話ですね。」
 すると絹恵はアクリル版の向こうで、清子と晶の姿に気が付いてさっと視線をそらせた。
「行こうぜ。煙草を吸いたいと思ったけど、外でも良いか。」
「そうですね。自販機があるかな。」
「お前、コーヒーばっかだな。たまにはお茶でも飲めよ。」
「自販機のお茶って、美味しくないでしょう?」
 二人が住んでいたところでは、お茶の木を植えているところもあった。それは清子の祖母にしても、晶の祖母にしても、初夏になれば茶摘みの手伝いをするところがあり、そのお裾分けをもらうことがあって飲むことがあったのでお茶の味には厳しいのだ。
「この間撮影に行ったところ、お茶が美味しいところでさ。茶葉を買ってきた。お前いるようだったら分けようか?」
「この季節のお茶ですか?」
 清子は少し笑いながら、地上にあがっていく。そしてビルの表に出ると、カフェの入り口よりも少し離れたところに灰皿と自販機があった。そこに近づくと、清子は自販機のコーヒーを買った。すると向こうから慎吾が歩いてきている。二人を見て急ぎ足で近づいてきた。
「清子。」
「あぁ。慎吾さん。食事へ行っていたのですか?」
「そこにサンドイッチの店があって、美味しかった。」
 だが慎吾の表情は少し浮かないように見えた。何かあったのだろうかと、煙草に火をつけた晶が慎吾に聞く。
「何かあったか?」
「いいや。別に。何かあったように見えるか?」
「んー。まぁいいや。」
 慎吾も自販機に向かうと、温かいお茶のボタンを押す。

 講習が始まっても、頭の中でさっきの光景が離れない。慎吾はため息を付いて、ペットボトルのお茶を手にする。この講習の会場は飲食が禁止だが、蓋付きのものなら持ち込める。清子もコーヒーを買っていたようだが、やはり蓋付きのものを買ったらしい。
 隣にいる清子が冷静にパソコンを当たっている。自分だけが冷静ではないようで、とても嫌だ。
「どうしました。阿久津さん。」
 講師の男がテキストを持って慎吾に近づく。手が止まっていたのが気になったのだろう。
「いいえ。別に。」
「食事をして眠くなったかな。」
 その言葉に周りの受講生たちから笑いが起きる。
「いいえ。そんなことはないです。」
 しかしそんな中でも清子はそれを無視したように画面を見ていた。当人なのに残酷だと思う。
 昼にサンドイッチを食べた店から出てきた。手にはコーヒーが握られている。少し時間があるから、清子に渡そうと思っていたのだ。
 出されたコーヒーは美味しかったし、よければ今度の講習会ででも誘うことは出来るかもしれないという期待も込めてのことだった。
 コーヒーを手に大通りから小道に入ろうとしたとき、高い口笛が聞こえた。何だと思って、慎吾は振り返る。そこには男が女を抱きしめているように見えた。
 背の高いカップルだ。女もかなり背が高いが、抱きしめている男と並んでもそれほど見劣りはしない。
「……こんなところで……。」
 もし清子を恋人にしても、自分ならこんな往来の場でそんなことをしないだろう。清子も望んでいないだろうし、何より自分が恥ずかしい。
「ん?」
 男が女を離す。その男の顔に見覚えがあった。
「あれは……。」
 男は史だった。そして女も見たことがある。どこで見たのだろう。わからないが、手足がやたらに長いモデルのような女だった。
 史は本来こういう女が好きなのだろうか。慎吾は振り返って、その心がもやもやしているのを感じた。
 あんな女が好きならば、清子は何なのだろう。遊びだったのか。そう思ったとき、手に持っているコーヒーが派手に道路にこぼれた。
「あ……。」
 転げる紙コップと広がるコーヒーの闇が、自分の心にも暗い影を落としそうだと思う。
 紙コップと蓋を拾い上げ、コンビニのゴミ箱に捨てようとしたときだった。雑誌コーナーの表紙がこちらを見ている。そこに先ほどの女性が写っていた。慌ててそのコンビニにはいると、その雑誌を手にしてみる。
 そこにはモデルの「愛」という人物が写っていた。
 海外の有名なブランドと一時は専属モデルをしていたキャリアがあり、この国に帰ってきてもその名前だけで数多くの商品やファッション紙のモデルになっている。
 こんな女が好きなのだろうか。女を全面に出すと言うよりも、ただ綺麗で空虚な女が好きなのだろうか。だったらどうして清子とつきあっているのだろう。
 遊びだったのか。
 だったら自分に振り向いて欲しい。隣の清子の横顔がまぶしいと思った。
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