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清子が言った時間よりは早めにこの街にやってきた。史は車を有料の駐車場に置くと、その駐車場を出る。紺色のジャケットと白いセーターは、どこかのモデルのように見える。
実際、車を降りて何分もしないうちに女の二人組から声をかけられた。
「あのぉ、一人ですか?」
史は少し笑って、首を横に振る。
「いいや。恋人を待っててね。」
ナンパ待ちかと思っていた女たちは顔を見合わせて、そこから去っていく。二十代の頃なら、そういうこともあったかもしれない。だが今はしたくない。清子以外の女に突っ込むのは嫌だと思う。
恥ずかしそうに赤くなる顔と、伸ばされた腕が史の首に手を添える。そして唇を合わせると不器用に絡まる舌と、声が史を求めている。
「やばいなぁ。」
それだけで立ってきそうだ。三十代も半ばなのに、相変わらず性欲は減退しない。
小さな店が多い街だ。美容室も大手の美容室は駅前にあり、あとは個人店で小さい店だと、二席しかないところもある。
ふとそこから出てきた人に目を留めた。それは愛だった。どうやら出てきたのは美容室らしく、金髪の男が見送りをしている。愛もふと史を見つけて、少し笑った。
「史。」
「やぁ。美容室へ行っていたのか。」
「そう。年末に海外で仕事のオファーがあったの。そのためもあってね。」
あまり短さなどはわからない。きっとそろえるだけそろえて、カラーリングやトリートメントなどをしたのだろう。手には何か紙袋が握られている。中身はシャンプーとかトリートメントとかそんなヤツだろう。清子には縁がなさそうだ。
「珍しいわね。この街って、あまり好きになれないって言ってなかった?」
「まぁね。でも恋人がちょっと用事があるみたいでね。」
「ふーん。彼女出来たんだ。」
史はずっと恋人を作っていなかったはずだ。だから恋人と言ったのは少し意外だと思う。
「君も待っているのか?」
「え?」
「久住も今日はこの街に仕事があると言っていた。クリスマスなんだから、一緒にいないことはないだろう?」
すると愛の表情が少し曇った。
「別れた。」
「え?」
「この間、謝恩会があったでしょう?あなたの会社の。あのときに正式に別れた。」
そうだったのか。だが意外だとは思わない。愛はこの性格で晶を振り回してきたのだろう。良く晶が付いてきていたと思う。
しかし元々晶はずっと海外を飛び回っていたし、自由が好きだった。だから会社勤めも、数ヶ月で居なくなるのではないかと思っていたが、案外続いている。それは、愛が居るからだろうと思っていた。
愛から離れた晶はどうするのだろう。会社を辞めてまたどこか海外へ行くのだろうか。
「久住は、君と別れてどこか海外へ行くのか。」
「そんなことはないわ。きっと……あの子が居たら。」
「あの子?」
「徳成さん。」
意外な名前がでた。まさか、まだ繋がっているのだろうか。また急に不安になる。
「よっぽど床上手なのね。晶がずっと想ってたみたいだし。」
「床?」
「セックスうまいんじゃないの?あんな地味そうな顔をして、AV女優顔負けだったりして。」
まだ愛は清子に対して良い印象はない。晶を寝取ったと思っているのだ。
「清子は全く慣れてないよ。」
「清子?」
「俺と付き合ってるから。」
その言葉が一番意外だった。愛は驚いて史を見上げる。しかし首を横に振った。
「長続きしないわよ。」
「どうして?」
「あたし良く覚えてるわ。あんたが言い寄られて付き合った女の子にさ、凄い尽くすでしょ?」
「……喜ぶからね。」
「夜景が綺麗なレストランとか予約してさ、クリスマスディナーとかプレゼントとかも相手が喜ぶようなものを用意して、そのままホテルに行ってセックス。」
「普通のカップルの行動だろう?」
史も少し意地になっているようだった。愛が言ったプランはそのまま清子にしてあげようと思っていたことだったから。
「そういうベタなヤツ、あの子が好きなわけないじゃない。好きでもないことを押しつけられたら、苦痛だわ。」
「それは君にも言えるな。」
「あたしが?」
愛は驚いて史を見上げる。
「久住は君の生活に合わせるのが苦痛だと言っていた。」
「あたしは好きにさせてたわ。別に一緒にジムに行こうとか言ったこともないし、晶に髪を切ってとも言ったことはない。」
「でもその生活に合わせるのが苦痛だった。それに……親父さんが死んだときも、兄貴が出所したときもついてやれなかったんだろう?」
「だって……来なくて良いって……。」
「来なくていいわけがない。好きだったらね。」
すると愛はため息を付いていった。
「そういう押しつけがましいの、嫌だって言われたことないの?」
ある。それは香子が言っていたことだった。自分好みの格好をさせて、メイクも地味にさせた。それが香子が望んでいなくても。
「清子には好きにさせるよ。だから遠距離になっても、俺がそっちに行く。」
「出来ないことは言わない事ね。あたしも言わない。……晶の好きに……。」
そのとき愛の目からぽたっと涙が流れた。
本当は嫌だった。晶の父親が死んだときも、付き添わなくても良いと言われたときも自分では役に立たないからと言われているようだった。清子はその何週間か前に一緒に行ったと言っていたのに。
「愛。」
そのとき愛は史の袖をつかんだ。誰でも良い。側にいて欲しいと思ったから。
「あの日……。徳成さんと生まれた町に行ったって言ってた。絶対……してるから。」
「セックス?してるよ。」
「何であんたそれで冷静なのよ。」
愛はそういって泣きながら史に詰め寄った。すると史はそれを押さえるように、愛の体に手を伸ばして抱きしめる。
「よしよし。」
そういって頭を撫でた。髪からはとても良い匂いがする。美容室の高級なシャンプーやトリートメントの匂いだろう。
道ばたでしている行為に、道行く人たちが高い口笛を吹いた。
「バカにして。」
愛はその行動にどんと、史の体を押しのける。
「十年前、お互い初めて同士でセックスをしたらしい。それから会うこともなかった。その一度きりだ。」
「え?」
「君は、高校生の時に付き合っていた人に嫉妬をするのか。」
予想外の答えだった。だが納得しない。
「そんなことはないけど……でも……。」
「今は何の繋がりもない。それこそ、清子の契約が切れれば縁も切れる。久住は生まれて育った町に帰るつもりはないし、清子は一人で居るつもりだ。」
「あなたはそれでいいの?」
「俺?」
涙を拭いて、史を見上げる。その史は少し笑って言う。
「結婚したいと思ってる。そのとき清子をこっちに呼ぶ予定だ。」
「呼べるの?」
「……どんな家かは知らないけど、清子の祖母の親が建てた家らしい。そんなところにずっと居るわけがないから。」
甘いと思う。だが史を好きだというのだったら、清子は家を手放してまで史と居ることを選択するかもしれない。
うらやましかった。晶もそうすると思っていたのに、あっさり愛を手放したから。
実際、車を降りて何分もしないうちに女の二人組から声をかけられた。
「あのぉ、一人ですか?」
史は少し笑って、首を横に振る。
「いいや。恋人を待っててね。」
ナンパ待ちかと思っていた女たちは顔を見合わせて、そこから去っていく。二十代の頃なら、そういうこともあったかもしれない。だが今はしたくない。清子以外の女に突っ込むのは嫌だと思う。
恥ずかしそうに赤くなる顔と、伸ばされた腕が史の首に手を添える。そして唇を合わせると不器用に絡まる舌と、声が史を求めている。
「やばいなぁ。」
それだけで立ってきそうだ。三十代も半ばなのに、相変わらず性欲は減退しない。
小さな店が多い街だ。美容室も大手の美容室は駅前にあり、あとは個人店で小さい店だと、二席しかないところもある。
ふとそこから出てきた人に目を留めた。それは愛だった。どうやら出てきたのは美容室らしく、金髪の男が見送りをしている。愛もふと史を見つけて、少し笑った。
「史。」
「やぁ。美容室へ行っていたのか。」
「そう。年末に海外で仕事のオファーがあったの。そのためもあってね。」
あまり短さなどはわからない。きっとそろえるだけそろえて、カラーリングやトリートメントなどをしたのだろう。手には何か紙袋が握られている。中身はシャンプーとかトリートメントとかそんなヤツだろう。清子には縁がなさそうだ。
「珍しいわね。この街って、あまり好きになれないって言ってなかった?」
「まぁね。でも恋人がちょっと用事があるみたいでね。」
「ふーん。彼女出来たんだ。」
史はずっと恋人を作っていなかったはずだ。だから恋人と言ったのは少し意外だと思う。
「君も待っているのか?」
「え?」
「久住も今日はこの街に仕事があると言っていた。クリスマスなんだから、一緒にいないことはないだろう?」
すると愛の表情が少し曇った。
「別れた。」
「え?」
「この間、謝恩会があったでしょう?あなたの会社の。あのときに正式に別れた。」
そうだったのか。だが意外だとは思わない。愛はこの性格で晶を振り回してきたのだろう。良く晶が付いてきていたと思う。
しかし元々晶はずっと海外を飛び回っていたし、自由が好きだった。だから会社勤めも、数ヶ月で居なくなるのではないかと思っていたが、案外続いている。それは、愛が居るからだろうと思っていた。
愛から離れた晶はどうするのだろう。会社を辞めてまたどこか海外へ行くのだろうか。
「久住は、君と別れてどこか海外へ行くのか。」
「そんなことはないわ。きっと……あの子が居たら。」
「あの子?」
「徳成さん。」
意外な名前がでた。まさか、まだ繋がっているのだろうか。また急に不安になる。
「よっぽど床上手なのね。晶がずっと想ってたみたいだし。」
「床?」
「セックスうまいんじゃないの?あんな地味そうな顔をして、AV女優顔負けだったりして。」
まだ愛は清子に対して良い印象はない。晶を寝取ったと思っているのだ。
「清子は全く慣れてないよ。」
「清子?」
「俺と付き合ってるから。」
その言葉が一番意外だった。愛は驚いて史を見上げる。しかし首を横に振った。
「長続きしないわよ。」
「どうして?」
「あたし良く覚えてるわ。あんたが言い寄られて付き合った女の子にさ、凄い尽くすでしょ?」
「……喜ぶからね。」
「夜景が綺麗なレストランとか予約してさ、クリスマスディナーとかプレゼントとかも相手が喜ぶようなものを用意して、そのままホテルに行ってセックス。」
「普通のカップルの行動だろう?」
史も少し意地になっているようだった。愛が言ったプランはそのまま清子にしてあげようと思っていたことだったから。
「そういうベタなヤツ、あの子が好きなわけないじゃない。好きでもないことを押しつけられたら、苦痛だわ。」
「それは君にも言えるな。」
「あたしが?」
愛は驚いて史を見上げる。
「久住は君の生活に合わせるのが苦痛だと言っていた。」
「あたしは好きにさせてたわ。別に一緒にジムに行こうとか言ったこともないし、晶に髪を切ってとも言ったことはない。」
「でもその生活に合わせるのが苦痛だった。それに……親父さんが死んだときも、兄貴が出所したときもついてやれなかったんだろう?」
「だって……来なくて良いって……。」
「来なくていいわけがない。好きだったらね。」
すると愛はため息を付いていった。
「そういう押しつけがましいの、嫌だって言われたことないの?」
ある。それは香子が言っていたことだった。自分好みの格好をさせて、メイクも地味にさせた。それが香子が望んでいなくても。
「清子には好きにさせるよ。だから遠距離になっても、俺がそっちに行く。」
「出来ないことは言わない事ね。あたしも言わない。……晶の好きに……。」
そのとき愛の目からぽたっと涙が流れた。
本当は嫌だった。晶の父親が死んだときも、付き添わなくても良いと言われたときも自分では役に立たないからと言われているようだった。清子はその何週間か前に一緒に行ったと言っていたのに。
「愛。」
そのとき愛は史の袖をつかんだ。誰でも良い。側にいて欲しいと思ったから。
「あの日……。徳成さんと生まれた町に行ったって言ってた。絶対……してるから。」
「セックス?してるよ。」
「何であんたそれで冷静なのよ。」
愛はそういって泣きながら史に詰め寄った。すると史はそれを押さえるように、愛の体に手を伸ばして抱きしめる。
「よしよし。」
そういって頭を撫でた。髪からはとても良い匂いがする。美容室の高級なシャンプーやトリートメントの匂いだろう。
道ばたでしている行為に、道行く人たちが高い口笛を吹いた。
「バカにして。」
愛はその行動にどんと、史の体を押しのける。
「十年前、お互い初めて同士でセックスをしたらしい。それから会うこともなかった。その一度きりだ。」
「え?」
「君は、高校生の時に付き合っていた人に嫉妬をするのか。」
予想外の答えだった。だが納得しない。
「そんなことはないけど……でも……。」
「今は何の繋がりもない。それこそ、清子の契約が切れれば縁も切れる。久住は生まれて育った町に帰るつもりはないし、清子は一人で居るつもりだ。」
「あなたはそれでいいの?」
「俺?」
涙を拭いて、史を見上げる。その史は少し笑って言う。
「結婚したいと思ってる。そのとき清子をこっちに呼ぶ予定だ。」
「呼べるの?」
「……どんな家かは知らないけど、清子の祖母の親が建てた家らしい。そんなところにずっと居るわけがないから。」
甘いと思う。だが史を好きだというのだったら、清子は家を手放してまで史と居ることを選択するかもしれない。
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