不完全な人達

神崎

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食卓

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 車を走らせて、向かっている先がどこなのかわかった。きっと自分たちが住んでいた町へ行きたいのだ。車は町中をすぎて、山の中に入っていく。いつかキスをした展望台が見えて、清子は目をそらせた。
 すると晶はその様子を見て、その展望台の駐車場にいれた。夕日がかかってきていて、空が赤くなっている。そしてこの車の他にも車が数台止まっていた。
「悪かったな。さらうような真似して。」
「……さらって……。」
「編集長と居たかったのだろうけど……その前に、やっぱ話をしたいと思って。」
「……。」
 晶はそう言ってポケットから煙草を取り出した。そのとき、清子の携帯電話が鳴る。相手は史だった。あれから一時間はたっているから、心配したのかもしれない。
「史に……連絡を取りたい。」
「だったら、この場所教えておいて良いから。それか……町まで来るかな。」
「電車で?」
「車で来てるみたいだ。」
 清子は電話を通話にして、史の声に答える。
「すいません。ちょっと……あの……。」
 なんと言って良いのかわからない。戸惑っている清子の変わりに、晶が電話を奪うように手にした。
「編集長?あのさ……悪いけど、一時間くらい俺に清子を貸してくれないか。うん……例のヤツ。女と一緒にいた方が良いから……。わかってるよ。でもいざとなったら目を瞑ってくれよ。そのあと、俺んちに帰る。あんたはそっちに来ると良い。……あぁ。場所?あとでメッセージで送るから。」
 晶は電話を切ると、清子の方を向いた。
「聞きたいのは一つだけ。」
 携帯電話を清子に手渡すと、晶は灰を灰皿に捨てる。
「お前さ、編集長が好きなの?」
「……好き……だと思います。」
「その割には関心がなさそうだな。」
「そんなことないですよ。」
 その言葉に清子は首を横に振る。しかし晶は煙草を吸い終わって灰皿にそれをいれると、清子の方をみる。
「いつ好きだと思った?」
「……いつ?」
「食事してるときとか、仕事してるときとか、お前等一緒に住んでたこともあるもんな。」
「一緒の社宅にいたと言うだけですが。」
「そんなことは聞いてねぇんだよ。編集長があんなに気が回るから好きになったのか?」
 そんなことはない。だが改めて何が好きかと言われても困る。戸惑っている清子に晶はため息を付く。
「言っとくけど、セックスの時に好きって言うのは嘘だからな。」
「え?」
「当然じゃん。体の相性が良くて離れられないってのは別に愛情じゃねぇし、だったら俺のことも好きって事だろ?」
「久住さんのことが?」
「あんだけお前が感じまくって、あんだけ俺もやったのは久しぶりだし……あれが相性が良い訳じゃないって言うんだったら、普段のセックスはただの演技だな。俺もAV男優になれるわ。」
 清子が座っているシートに、晶は手を伸ばす。そしてそのまままたキスをするのかと思った。だが晶には別の目的があるようだった。
「よし。やってんな。」
「え?」
 つられて清子もその外を見る。すると止まっている車が少し動いているように見えた。すると晶は後部座席から、ボックス型のバッグを取り出して、カメラを出す。
「……まだ明かりがあるからいける。」
 清子に乗りかかるようにして、晶はカメラを構えて写真を写す。その目が間近に見えて、少しどきどきした。
「ほら。見て見ろよ。」
 カメラから目を離して、清子にその画像を見せる。するとそこには、車の中で全裸になっている女の姿が写し出されていた。
「この辺は民家はないからセックスしようと露出プレイしようとかまわないんだけど、ほら……あれ見て見ろよ。」
 晶が指さした先を見る。そこには枯れかけている木々がある。
「寒いとアイドリングしてするわな。すると排気ガスで植物が枯れるんだとよ。」
「ここって……町が運営しているんですよね。」
「そう。だからあの街路樹も全部税金。なのにそんなことで枯らすわけにはいかないんだろ?その決定的なヤツとってきてくれって言われててさ。」
 なるほど。そう言うことか。だから女性連れが良かったのだろう。
「あ、やべ。こっちに向かってくる。」
 おそらくさっきカメラで撮っていたところを見られていたのかもしれない。黒いバンの車から体格のいい男が降りて、こちらに向かってくる。
「清子。ちょっと我慢しろよ。」
 カメラを後部座席におくと、晶は容赦なく清子の唇にキスをした。
「な……ん……。」
 シートベルトをはずされて、胸に手を押かれる。その手がセーター越しに触れてきた。
「んっ……。」
 見せるようなキスだと思う。派手に音を立てて、舌を絡ませていた。まるでAVでされていたキスのように感じる。そうだ。このキスは、史のキスに似ている。前のように戸惑いはない。それに胸元に当てている手も、とても嫌らしい。
 唇を離すと、首もとに唇を寄せてきた。その様子を見てだろうか。足音が遠ざかっていく。遠くで車のドアが閉まる音がした。
「やっぱな。」
「何?」
 晶が清子から離れて、その黒いバンを見ている。
「あれ、AVの撮影だな。」
「撮影なんですか。」
 距離はとったが、まだ清子に乗りかかるようにして、その車の外を見ている。黒いバンの側には、白いバンがあった。
「あれ、前にも見ただろう?外でする撮影のヤツ。」
「野外プレイって事ですか?」
「そう。たぶん、こんなところでするんだから、裏だろうけど。」
「裏……。」
 あまり良い印象はない。
 裏ビデオには規制がないので、モザイク処理がされていない。少し前なら規制がまだ緩かったので、本当の未成年がでていることもあった。ゲイビデオに関してもそうだ。
 金に困った親が、子供を売るのだろう。どちらにしても非人道的だ。
「ナンバーも押さえておくか。もしかしたら、規制されるかもしれないし。」
「どうしてそこまで?」
 後部座席にカメラを置いていた晶に清子はそう聞くと、晶はまたカメラのファインダーを覗いてシャッターを切る。そしてまたカメラをバッグにしまった。
「これが証拠で、警察が手を出すかもしれない。そのとき、これが証拠になるから。」
「それも頼まれているのですか。」
「あぁ。だから編集長が許可したんだ。お前といるのを。」
 そう言って晶は清子から離れると、エンジンをかけた。良かった。これ以上する事はないのだろう。清子はほっとしてシートベルトに手をかけた。
「さてと、家に帰るか。お前、編集長に連絡しろよ。撮影終わったって。」
「場所は伝えているんですか?」
「駅まで行けば、わかるだろ?俺のうち、わかりにくいし。お前はそこで降ろすから。」
 本当は降ろしたくなかった。だがそういうわけにはいかない。あくまで清子は史の恋人であって、自分のものではない。
 演技とはいってもキスができた。それだけで満足できるはずはないのに、返さないといけないのは身を引き裂かれる思いだった。
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