不完全な人達

神崎

文字の大きさ
136 / 289
食卓

135

しおりを挟む
 車を走らせて、向かっている先がどこなのかわかった。きっと自分たちが住んでいた町へ行きたいのだ。車は町中をすぎて、山の中に入っていく。いつかキスをした展望台が見えて、清子は目をそらせた。
 すると晶はその様子を見て、その展望台の駐車場にいれた。夕日がかかってきていて、空が赤くなっている。そしてこの車の他にも車が数台止まっていた。
「悪かったな。さらうような真似して。」
「……さらって……。」
「編集長と居たかったのだろうけど……その前に、やっぱ話をしたいと思って。」
「……。」
 晶はそう言ってポケットから煙草を取り出した。そのとき、清子の携帯電話が鳴る。相手は史だった。あれから一時間はたっているから、心配したのかもしれない。
「史に……連絡を取りたい。」
「だったら、この場所教えておいて良いから。それか……町まで来るかな。」
「電車で?」
「車で来てるみたいだ。」
 清子は電話を通話にして、史の声に答える。
「すいません。ちょっと……あの……。」
 なんと言って良いのかわからない。戸惑っている清子の変わりに、晶が電話を奪うように手にした。
「編集長?あのさ……悪いけど、一時間くらい俺に清子を貸してくれないか。うん……例のヤツ。女と一緒にいた方が良いから……。わかってるよ。でもいざとなったら目を瞑ってくれよ。そのあと、俺の家に帰る。あんたは直接町に来ると良い。……あぁ。場所?あとでメッセージで送るから。」
 晶は電話を切ると、清子の方を向いた。
「聞きたいのは一つだけ。」
 携帯電話を清子に手渡すと、晶は灰を灰皿に捨てる。
「お前さ、編集長が好きなの?」
「……好き……だと思います。」
「その割には関心がなさそうだな。」
「そんなことないですよ。」
 その言葉に清子は首を横に振る。しかし晶は煙草を吸い終わって灰皿にそれをいれると、清子の方をみる。
「いつ好きだと思った?」
「……いつ?」
「食事してるときとか、仕事してるときとか、お前等一緒に住んでたこともあるもんな。」
「一緒の社宅にいたと言うだけですが。」
「そんなことは聞いてねぇんだよ。編集長があんなに気が回るから好きになったのか?」
 そんなことはない。だが改めて何が好きかと言われても困る。戸惑っている清子に晶はため息を付く。
「言っとくけど、セックスの時に好きって言うのは嘘だからな。」
「え?」
「当然じゃん。体の相性が良くて離れられないってのは別に愛情じゃねぇし、だったら俺のことも好きって事だろ?」
「久住さんのことが?」
「あんだけお前が感じまくって、あんだけ俺もやったのは久しぶりだし……あれが相性が良い訳じゃないって言うんだったら、普段のセックスはただの演技だな。俺もAV男優になれるわ。」
 清子が座っているシートに、晶は手を伸ばす。そしてそのまままたキスをするのかと思った。だが晶には別の目的があるようだった。
「よし。やってんな。」
「え?」
 つられて清子もその外を見る。すると止まっている車が少し動いているように見えた。すると晶は後部座席から、ボックス型のバッグを取り出して、カメラを出す。
「……まだ明かりがあるからいける。」
 清子に乗りかかるようにして、晶はカメラを構えて写真を写す。その目が間近に見えて、少しどきどきした。
「ほら。見て見ろよ。」
 カメラから目を離して、清子にその画像を見せる。するとそこには、車の中で全裸になっている女の姿が写し出されていた。
「この辺は民家はないからセックスしようと露出プレイしようとかまわないんだけど、ほら……あれ見て見ろよ。」
 晶が指さした先を見る。そこには枯れかけている木々がある。
「寒いとアイドリングしてするわな。すると排気ガスで植物が枯れるんだとよ。」
「ここって……町が運営しているんですよね。」
「そう。だからあの街路樹も全部税金。なのにそんなことで枯らすわけにはいかないんだろ?その決定的なヤツ撮ってきてくれって言われててさ。」
 なるほど。そう言うことか。だから女性連れが良かったのだろう。
「あ、やべ。こっちに向かってくる。」
 おそらくさっきカメラで撮っていたところを見られていたのかもしれない。黒いバンの車から体格のいい男が降りて、こちらに向かってくる。
「清子。ちょっと我慢しろよ。」
 カメラを後部座席におくと、晶は容赦なく清子の唇にキスをした。
「な……ん……。」
 シートベルトをはずされて、胸に手を押かれる。その手がセーター越しに触れてきた。
「んっ……。」
 見せるようなキスだと思う。派手に音を立てて、舌を絡ませていた。まるでAVでされていたキスのように感じる。そうだ。このキスは、史のキスに似ている。前のように戸惑いはない。それに胸元に当てている手も、とても嫌らしい。
 唇を離すと、首もとに唇を寄せてきた。その様子を見てだろうか。足音が遠ざかっていく。遠くで車のドアが閉まる音がした。
「やっぱな。」
「何?」
 晶が清子から離れて、その黒いバンを見ている。
「あれ、AVの撮影だな。」
「撮影なんですか。」
 距離はとったが、まだ清子に乗りかかるようにして、その車の外を見ている。黒いバンの側には、白いバンがあった。
「あれ、前にも見ただろう?外でする撮影のヤツ。」
「野外プレイって事ですか?」
「そう。たぶん、こんなところでするんだから、裏だろうけど。」
「裏……。」
 あまり良い印象はない。
 裏ビデオには規制がないので、モザイク処理がされていない。少し前なら規制がまだ緩かったので、本当の未成年が出演していることもあった。ゲイビデオに関してもそうだ。
 金に困った親が、子供を売るのだろう。どちらにしても非人道的だ。
「ナンバーも押さえておくか。もしかしたら、規制されるかもしれないし。」
「どうしてそこまで?」
 後部座席にカメラを置いていた晶に清子はそう聞くと、晶はまたカメラのファインダーを覗いてシャッターを切る。そしてまたカメラをバッグにしまった。
「これが証拠で、警察が手を出すかもしれない。そのとき、これが証拠になるから。」
「それも頼まれているのですか。」
「あぁ。だから編集長が許可したんだ。お前といるのを。」
 そう言って晶は清子から離れると、エンジンをかけた。良かった。これ以上する事はないのだろう。清子はほっとしてシートベルトに手をかけた。
「さてと、家に帰るか。お前、編集長に連絡しろよ。撮影終わったって。」
「場所は伝えているんですか?」
「駅まで行けば、わかるだろ?俺の家、わかりにくいし。お前はそこで降ろすから。」
 本当は降ろしたくなかった。だがそういうわけにはいかない。あくまで清子は史の恋人であって、自分のものではない。
 演技とはいってもキスができた。それだけで満足できるはずはないのに、史の元へ返さないといけないのは身を引き裂かれる思いだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...