不完全な人達

神崎

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食卓

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 前に見た実家とは違う。妙なお札も張っていない代わりに、私有地という看板が建てられている。それを見て清子は少しため息を付いた。そして史をみる。
 史は予想以上に大きな家で驚いていた。祖母の父が建てた家だというから築百年近く経っているのだろうが、全くそんな風に見えない。確かに古い建物ではあるのだろうが、門構えもその柱も手入れされていて木々の手入れの怠りもない。
「ずいぶん立派な家だ。家というよりも……寺のような……。」
「寺ではないです。でも祖母が若い頃は、民宿であふれた漁師の世話をしていたと聞いています。」
 「三島出版」と契約したときから、清子の手には鍵を手渡された。社長個人の物件のようだが、社長本人がきたのは一度きりだという。清子は鍵を開けてその中にはいっていった。
 門をくぐり、中にはいるとやはり立派な日本家屋が見えた。玄関の横にある棚も、その奥の広間も、畳やふすまを張り替えないといけないのかもしれないがすべてに歴史があるようだった。
「叔父が……あの宗教団体に貸していたのも良かったのかもしれない。」
「え?」
「人気がなければ家は痛む。宗教団体であれば、修行として家の手入れもしてくれるだろうと思ってたみたいですから。」
 これからは自分がやってきて空気を入れ替えたり、庭の手入れをしないといけないだろう。住んでいなくてもそんなことをしなければ家はさび付くのだから。
「清子。一人で住むつもりか。」
「……そのつもりです。」
 こんなところに一人でいるつもりなのだろうか。この広い家にぽつんと明かりがつき、その部屋の中で黙々とパソコンに向かい合っている清子の姿が安易に想像できる。だがそんなことをさせられない。
「俺が来ても?」
「編集長が通える距離ではないですよ。それに……私ではなくても……。」
 柱に手を当てる。立派に見える家だが、それでもガタがきていた。それにすきま風がある。修理は必要かもしれない。そう思いながら、奥の部屋へ行こうとした。そのとき後ろから腕が伸びる。史が清子を抱きしめていたのだ。
「清子。今日は不安にさせた。悪かったね。」
 すると清子は首を横に振る。そしてやっと二人は向かい合うと目を合わせた。
「まだ、信じてもいいんですか。」
「信じてくれるのか。」
「……そうですね……私も今日は裏切ってしまいましたし。」
「え?」
「慎吾さんから好きだと……。」
 史は改めて、清子をみる。清子の首には見覚えのない白いマフラーがあった。それが慎吾の気持ちなのだろうか。
「手を出されたの?」
 正確には慎吾だけではない。晶ともキスをしたのだが、それをいうつもりはなかった。
「いつもだったら押しのけていたのでしょうが……私の気持ちが揺れていて……。」
「そんなにさせたのは俺が悪かった。軽く抱きしめたりするのが悪かったのか。うーん。こんな事は普通だと思っていたから。」
「普通ではないです。」
「だったらこれからはやめておくよ。抱きしめるのは君だけだ。」
 史はそういって清子を正面から抱きしめる。そしてその額にキスをした。
「……。」
 すると清子の頬が赤くなる。どうしてだろう。慎吾の震えているキスよりも、晶の激しいキスよりも、自分の感情が高ぶる気がした。
「どうしたの?」
「あの……こんな事を言って良いのか。」
「ん?」
「嬉しくて。」
 すると清子はマフラーに顔を埋めて恥ずかしそうに少し微笑んだ。その姿に、史は清子の手を引くとぐっと顎を持ち上げる。
「こっちを見て。」
「え……。」
「正直に言って。」
 すると清子はその視線を逸らそうとした。だがその優しげな瞳に触れたいと思う。
「好き……です。」
「俺も好きだから。良かった。セックスの時に言うんじゃなくて、こう言うところで聞きたかったから。ねぇ?もう一度、聞かせて。」
「やです。もう恥ずかしくて……。」
 風呂上がりのように顔が赤くなっている。すると史は少し笑って、清子の唇にキスをする。すると清子も史の首に手を伸ばして、それを求めた。

 二人は港に戻り、それから清子の案内で晶の家に向かう。晶の家は駅から少し離れたところにある山の上の集落だった。
 清子の家とは比べものにならないほど小さい家だが、普通の広さとも言える。最近まで父が暮らしていて、そして兄が住むようになった。一人で暮らしているらしいが、その掃除が行き届いていないなんていうこともない。
 車は数台停められるようだが、その下は崖になっていて少し怖い。
「土砂崩れなんかはないのかな。」
 そういってみかんの山を見上げる。すると清子は少し笑っていった。
「この辺は地盤がしっかりしているんです。地震でもない限りは大丈夫でしょう。」
 すると家の中から茂の声がした。
「晶。お前、何でキノコ類っていったらエノキなんだよ。シメジ買って来いよ。それから鶏肉何で買ってこないんだ。」
「いるって言わなかったじゃん。あー。もうわかったよぉ。買ってくるから。」
 その声に二人は顔を見合わせる。これでは近所の人には、すべてがダダ漏れだろう。
 史はその勝手口を開けると、出て行こうとした晶に声をかける。
「久住。俺が行ってこようか。」
「え?」
「声、すごい漏れてた。シメジと鳥モモでいいのか?」
「あー。うん……。あ、清子。ついて行くか?」
「良いよ。行きがけにあったスーパーでいいんだろう?清子は食事の用意を手伝ったら?」
「そうします。」
「あぁ。その前に、これを冷蔵庫に入れてくれるか。」
 そういって史は自分の車の後部座席から、白い箱を取り出した。
「何ですか?」
「ケーキ。今日はクリスマスだからね。」
 すると晶は少し笑って、史に言う。
「二人で食うつもりだったんだろ?いいのか?俺らも食って。」
「良いよ。明日も食べればいいと思ってたから。」
 史はそういってその箱を清子に手渡すと、車に乗り込んだ。すると中から茂がエプロン姿で勝手口から出てきた。
「あ、スーパー行くんなら、ビールもついでに。」
 すると史は窓を開けて、微笑んだ。
「良いですよ。銘柄の指定はありますか?」
「あのスーパーは二種類しかビール無いから、どっちでも良いです。」
「わかりました。」
 そういって史はハンドルを切って、麓に降りていく。
「あ……今の誰だ?」
 茂は首を傾げて聞くと、晶は笑いながら言った。
「今更?俺らの上司だけど。」
「マジか?使いっぱしりさせて悪かったなぁ。」
「させとけ。させとけ。こんな事でもねぇと編集長を使いっぱしりさせれ無いしな。」
 すっきりした顔をしている清子が去っていく車を見ている。それを見て、元の鞘に戻ったのかもしれないと思った。
 元の鞘なんかに戻って欲しくないと、どこかで思うところがあった。だがそれを清子が望んでいなかったのだ。
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