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来訪
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本当に日本酒を飲んでいるのだろうか。お湯のように飲むペースは全くゆるむことはなく、清子は次々に酒を口に運んでいる。その割にはあまりつまみには手を伸ばしていない。
ランチに誘おうとしたら、昼は食べないのだという。だったら胃の中は空っぽに近いのだろうに、どうしてこんなに飲めるのかわからない。そう思いながら優も酒を口に運んでいた。
「すいません。熱燗を追加で。」
さっきから酒を運んでいる店員もあきれたように、オーダーを取っている。
「いっそ一升瓶を持ってきた方が早いかもね。」
優はそう言いながら注いできた酒を飲んでいる。
「はぁ……。」
「徳成さんは職業訓練校でこういったことの基礎は学んだって聞いているけど、そこで我孫子さんに会ったの?」
「そうですね。そのときの講師でした。」
ただの講師と生徒の関係なのだろうか。我孫子が清子のことを語るとき、「あいつほど熱心で、授業料をよけいに取ろうかと思った奴はいない」と言っていた。常に何が最善なのか考え、なのに自分に出来ることをやっている。だからミスも少ない。その分、冒険をしないとも言えた。ここ最近はいろんな講師の勉強会に顔を出しているようだが、少し前までは我孫子が関係しているものしか興味がなさそうだったのに。
「ウィルス関係に特化しているの?」
「いいえ。ウィルスにはそこまで……。日々進化しているので、もっと情報が得られるところにいればもっと違うのでしょうが。」
「だったらどうして研究所なんかに籍を置かないの?」
「……。」
「それに派遣という形ばかりを取っていたようだ。派遣ではやれることが少ないだろうに。」
「すいません。自分のことはあまり言いたくないです。」
何かしらの理由がある。だがそれを口にすることはない。清子も酒を口に含むと、ポケットの中の携帯電話を取り出した。どうやらメッセージが来ているようで、わずかに笑った気がする。
相手は慎吾だった。慎吾は以前のことを「気の迷いだった。これからはこのようなことがないようにするから、今まで通り付き合って欲しい」と史と清子を前にして直々に挨拶にきたのだ。そこまでされれば、付き合わない理由はない。
性差のない付き合いが慎吾とは出来る。この飲んでいる相手たちも、そうなればいいと思った。
「在宅勤務になると言っていた。」
「そうですね。」
「行き先を聞いて驚いたよ。久住の出身の町だね。」
すると向こうで我関せずと態度をとっていた了が、こちらを見た。お互いあまり触れたくなかった話題だったのだろうに。
「あの町は光は飛んでいる?」
「ネット環境は問題ありません。田舎だと言っても郊外に当たるのでしょうから。」
「車でも一時間くらいか。そこまで離れているわけじゃないみたいだね。本社勤務でも通えないことはなさそうだ。」
「無理でしょう。交通費の方がかかります。」
そのとき、清子の携帯電話が鳴った。着信のようだ。清子はそれを手にして、相手を見る。
「すいません。少し席を外します。」
そう言って清子は部屋を出ていった。その後ろ姿を見て、了は呆れたようだった。
「まるで素面だ。足下もおぼついていないように見えない。ほら。これ、二人で飲んだ酒。」
徳利がテーブルに並べられている数は、相当数になる。二人で何升飲んだだろう。ざると言われていてこういう飲み会では生徒を何人もつぶしてきた優だったが、こっちが潰れそうだと煙草に手を伸ばす。
「酔わせて何かしようっていう考えは通じないな。こっちが潰れる。」
了はその徳利を見ながら、昔を思い出していた。
祖母同士で仲が良かったし、死んだ父にも祖母が言って聞かないことを口やかましくいっていたように思える。
だが周りの評価は違った。清子の祖母は、昔、広い家を利用して民宿ではいりきれなかった客を泊めさせていた。そのときの客が男なら、床へ誘うことがしばしばあったのだという。
そういう人の孫だから、清子も似たようなものだろう。編集長である史にも、そして兄である晶にも色目を使っている。そう思えた。
しばらくすると清子が戻ってきた。さっき席を立ったときと同じ様子に思える。
「会社から?」
「えぇ。編集長からです。」
「何かあった?」
「編集長のコラムをホームページに載せてるのですけど。」
「あぁ。元AV男優だと言っていた。今でも人気はあるの?」
「あるみたいです。町中にいると、声をかけられることもあるみたいで。」
目立つ容姿だから、おそらくAV男優と知らなくても声をかける女性は多いかもしれない。
「その元AV男優がどうしたんだ。」
了はウーロン茶をお代わりして、その話に耳を傾ける。
「コラムには夏頃まで編集長の写真を載せていました。知っている人がいれば、目を留めるだろうと思ってのことですが。ですが、夏頃に少しトラブルがあって、写真を削除したんです。本誌にもコラムは載っていますが、そこの写真も削除しました。」
「人気者はつらいねぇ。」
同じ歳だというのに、未だに人気がある男優と容姿だけで軽い女が近づいてくる優では全く違う。優は器用に女を避けることも出来ないのだ。だからその言葉は少し嫌みのつもりで言った。だが清子の関心はそんなところにはない。
「するとSNS上でうちの批判をしている人がいるらしく、編集長の根も葉もない噂を吹聴しているとメッセージが届いたらしいです。」
清子のお猪口に酒を注ぐと、清子はそれに口を付ける。
「SNSか。了。お前アカウント持ってただろう?それ見てくれないか。」
「わかりました。」
了はそういって携帯電話を取り出して、そのページを見る。するとその顔から笑顔が消えた。
「結構ひどいこと言われてるな。」
「何?」
優も了の携帯電話を受け取ると、そのつぶやきを見て顔をひきつらせた。
「「子供を堕胎させた」「キャバクラ嬢につぎ込んでいる」「ギャンブル癖が直らない」これ、本当?」
「編集長は進んで女性のいる店に飲みに行ったりしませんよ。ギャンブルはしませんし、子供は……知りませんが。」
携帯電話を了に返すと、優は酒に口を付けて少し笑った。
「口先とベッドのテクニックだけでAV男優になったような男だ。言われても仕方がない。」
その言葉に清子は鼻で笑った。
「何?」
「ずいぶんAVを下に見ているんだなと思って。」
「は?」
本当なら優のお猪口なんかに酒を注ぎたくない。だがそれを拒否は出来ないだろう。
「もう少しで「pink倶楽部」の部署に来て一年たちますが、男優が気持ちいいことをして金を稼げる仕事だと思っていたら大間違いです。」
「実際そうだろう。」
了もそういって唐揚げに手を伸ばした。しかし清子は首を横に振る。
「でしたら、何人もいるスタジオの中でライトががんがんに当たり、カメラを何台も向けられた中で勃起できますか?」
その言葉に、二人は言葉に詰まる。
「女性だって綺麗な女性だけではない。精神的に不安定な人もいますし、自分の性癖にあわない人もいるでしょう。でも入れ込まないといけない。それが仕事なんですから。」
了はじっと清子を見る。それはこの世界を知ったから言えることなのか。それとももっと感情があるのか。それはわからない。
「悪かったね。軽く見過ぎた。」
優はそういって清子のお猪口に酒を注ぐ。すると清子は首を横に振った。
「すいません。少し言い過ぎました。」
「で、そのデマはどうするつもり?」
「時がたてばたつほど広がるかもしれません。なのでその発信源のアカウントを運営に言って、凍結してもらうようにします。」
「それがいいかもしれない。いい判断だ。もう少しでこれも名誉毀損だといって訴えることが出来るかもしれないしね。」
「そうなんですか?」
「あぁ。難しい問題かもしれないが、法が今度改正されるらしい。噂の域を越えないが、詳しいことは法律のプロに聞いた方がいいかもしれないけど。」
大人しく見えて、結構気が強い女だ。了はそう思いながら、きっと晶とならうまくやっていけるかもしれないと思っていた。うまくひっついてもらって、兄にも幸せになって欲しい。兄と弟に挟まれて一番苦労していたのだから。
ランチに誘おうとしたら、昼は食べないのだという。だったら胃の中は空っぽに近いのだろうに、どうしてこんなに飲めるのかわからない。そう思いながら優も酒を口に運んでいた。
「すいません。熱燗を追加で。」
さっきから酒を運んでいる店員もあきれたように、オーダーを取っている。
「いっそ一升瓶を持ってきた方が早いかもね。」
優はそう言いながら注いできた酒を飲んでいる。
「はぁ……。」
「徳成さんは職業訓練校でこういったことの基礎は学んだって聞いているけど、そこで我孫子さんに会ったの?」
「そうですね。そのときの講師でした。」
ただの講師と生徒の関係なのだろうか。我孫子が清子のことを語るとき、「あいつほど熱心で、授業料をよけいに取ろうかと思った奴はいない」と言っていた。常に何が最善なのか考え、なのに自分に出来ることをやっている。だからミスも少ない。その分、冒険をしないとも言えた。ここ最近はいろんな講師の勉強会に顔を出しているようだが、少し前までは我孫子が関係しているものしか興味がなさそうだったのに。
「ウィルス関係に特化しているの?」
「いいえ。ウィルスにはそこまで……。日々進化しているので、もっと情報が得られるところにいればもっと違うのでしょうが。」
「だったらどうして研究所なんかに籍を置かないの?」
「……。」
「それに派遣という形ばかりを取っていたようだ。派遣ではやれることが少ないだろうに。」
「すいません。自分のことはあまり言いたくないです。」
何かしらの理由がある。だがそれを口にすることはない。清子も酒を口に含むと、ポケットの中の携帯電話を取り出した。どうやらメッセージが来ているようで、わずかに笑った気がする。
相手は慎吾だった。慎吾は以前のことを「気の迷いだった。これからはこのようなことがないようにするから、今まで通り付き合って欲しい」と史と清子を前にして直々に挨拶にきたのだ。そこまでされれば、付き合わない理由はない。
性差のない付き合いが慎吾とは出来る。この飲んでいる相手たちも、そうなればいいと思った。
「在宅勤務になると言っていた。」
「そうですね。」
「行き先を聞いて驚いたよ。久住の出身の町だね。」
すると向こうで我関せずと態度をとっていた了が、こちらを見た。お互いあまり触れたくなかった話題だったのだろうに。
「あの町は光は飛んでいる?」
「ネット環境は問題ありません。田舎だと言っても郊外に当たるのでしょうから。」
「車でも一時間くらいか。そこまで離れているわけじゃないみたいだね。本社勤務でも通えないことはなさそうだ。」
「無理でしょう。交通費の方がかかります。」
そのとき、清子の携帯電話が鳴った。着信のようだ。清子はそれを手にして、相手を見る。
「すいません。少し席を外します。」
そう言って清子は部屋を出ていった。その後ろ姿を見て、了は呆れたようだった。
「まるで素面だ。足下もおぼついていないように見えない。ほら。これ、二人で飲んだ酒。」
徳利がテーブルに並べられている数は、相当数になる。二人で何升飲んだだろう。ざると言われていてこういう飲み会では生徒を何人もつぶしてきた優だったが、こっちが潰れそうだと煙草に手を伸ばす。
「酔わせて何かしようっていう考えは通じないな。こっちが潰れる。」
了はその徳利を見ながら、昔を思い出していた。
祖母同士で仲が良かったし、死んだ父にも祖母が言って聞かないことを口やかましくいっていたように思える。
だが周りの評価は違った。清子の祖母は、昔、広い家を利用して民宿ではいりきれなかった客を泊めさせていた。そのときの客が男なら、床へ誘うことがしばしばあったのだという。
そういう人の孫だから、清子も似たようなものだろう。編集長である史にも、そして兄である晶にも色目を使っている。そう思えた。
しばらくすると清子が戻ってきた。さっき席を立ったときと同じ様子に思える。
「会社から?」
「えぇ。編集長からです。」
「何かあった?」
「編集長のコラムをホームページに載せてるのですけど。」
「あぁ。元AV男優だと言っていた。今でも人気はあるの?」
「あるみたいです。町中にいると、声をかけられることもあるみたいで。」
目立つ容姿だから、おそらくAV男優と知らなくても声をかける女性は多いかもしれない。
「その元AV男優がどうしたんだ。」
了はウーロン茶をお代わりして、その話に耳を傾ける。
「コラムには夏頃まで編集長の写真を載せていました。知っている人がいれば、目を留めるだろうと思ってのことですが。ですが、夏頃に少しトラブルがあって、写真を削除したんです。本誌にもコラムは載っていますが、そこの写真も削除しました。」
「人気者はつらいねぇ。」
同じ歳だというのに、未だに人気がある男優と容姿だけで軽い女が近づいてくる優では全く違う。優は器用に女を避けることも出来ないのだ。だからその言葉は少し嫌みのつもりで言った。だが清子の関心はそんなところにはない。
「するとSNS上でうちの批判をしている人がいるらしく、編集長の根も葉もない噂を吹聴しているとメッセージが届いたらしいです。」
清子のお猪口に酒を注ぐと、清子はそれに口を付ける。
「SNSか。了。お前アカウント持ってただろう?それ見てくれないか。」
「わかりました。」
了はそういって携帯電話を取り出して、そのページを見る。するとその顔から笑顔が消えた。
「結構ひどいこと言われてるな。」
「何?」
優も了の携帯電話を受け取ると、そのつぶやきを見て顔をひきつらせた。
「「子供を堕胎させた」「キャバクラ嬢につぎ込んでいる」「ギャンブル癖が直らない」これ、本当?」
「編集長は進んで女性のいる店に飲みに行ったりしませんよ。ギャンブルはしませんし、子供は……知りませんが。」
携帯電話を了に返すと、優は酒に口を付けて少し笑った。
「口先とベッドのテクニックだけでAV男優になったような男だ。言われても仕方がない。」
その言葉に清子は鼻で笑った。
「何?」
「ずいぶんAVを下に見ているんだなと思って。」
「は?」
本当なら優のお猪口なんかに酒を注ぎたくない。だがそれを拒否は出来ないだろう。
「もう少しで「pink倶楽部」の部署に来て一年たちますが、男優が気持ちいいことをして金を稼げる仕事だと思っていたら大間違いです。」
「実際そうだろう。」
了もそういって唐揚げに手を伸ばした。しかし清子は首を横に振る。
「でしたら、何人もいるスタジオの中でライトががんがんに当たり、カメラを何台も向けられた中で勃起できますか?」
その言葉に、二人は言葉に詰まる。
「女性だって綺麗な女性だけではない。精神的に不安定な人もいますし、自分の性癖にあわない人もいるでしょう。でも入れ込まないといけない。それが仕事なんですから。」
了はじっと清子を見る。それはこの世界を知ったから言えることなのか。それとももっと感情があるのか。それはわからない。
「悪かったね。軽く見過ぎた。」
優はそういって清子のお猪口に酒を注ぐ。すると清子は首を横に振った。
「すいません。少し言い過ぎました。」
「で、そのデマはどうするつもり?」
「時がたてばたつほど広がるかもしれません。なのでその発信源のアカウントを運営に言って、凍結してもらうようにします。」
「それがいいかもしれない。いい判断だ。もう少しでこれも名誉毀損だといって訴えることが出来るかもしれないしね。」
「そうなんですか?」
「あぁ。難しい問題かもしれないが、法が今度改正されるらしい。噂の域を越えないが、詳しいことは法律のプロに聞いた方がいいかもしれないけど。」
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