不完全な人達

神崎

文字の大きさ
168 / 289

167

しおりを挟む
 倉庫の窓を開けて脚立を使い、普段在庫として保管してある備品を棚から下ろしていく。そして天井に張った蜘蛛の巣や埃を落とし、棚に溜まった埃を払って雑巾で拭き上げていく。
 その間、清子はその既存の在庫を数えていった。棚卸しの意味も込めて、やることは多いのだ。
「どう?十六時までに終わりそう?」
 史が倉庫をのぞいてくる。マスクをした社員が煙そうに、掃除をしていた。その中に居る清子もマスクをして数を数えながら、史の問いに答えてくれる。
「終わると思いますよ。」
「わかった。最大は十七時までだから、早く終わる分には助かるよ。」
 それにしてもよくこんなに物がここに入っていたなと感心する。片隅には、試供品としてもらった古い型のディルドなんかもある。
「懐かしいな。これ。」
「あー。今はこれの後継機だろ?でもこっちの方が割といい反応するみたいだけど。」
「メーカーも必死だよな。こういうおもちゃも売っていかないといけないし。」
「ローションはさすがに捨てようぜ。使用期限とかあるのかね。こういうの。」
 男たちがそういいながら、捨てるものなどをより分けている。試供品で貰った物は、数に入らないのだ。
「お。これまだ新しいな。徳成さんこれいらない?」
 そういって男がローションが入った筒を手にする。
「ローション?化粧水か何かですか?私、化粧水もつけないから……。」
 すると男たちが顔を見合わせて笑う。
「違うよ。これ、セックスの時に使うんだよ。」
「あぁ。そういうローションですか。」
「編集長のでっかいだろ?きつくない?」
 大きいとか小さいとかはよくわからない。だが毎回自分ではないように感じてしまう。
「潤滑油みたいなものですね。」
 すると外から帰ってきた晶が、倉庫をのぞき見た。
「お、だいぶ進んだな。」
 晶は他の部署の依頼で、外に出ていたのだ。この年末ではなくては撮れないモノがあるらしい。
「どうだった?市場。」
「あ、A区だろ?すげぇ人。明日はもっとひどいんだろうな。」
「大晦日だし、明日の方が人が多いだろ?明日の方が良かったんじゃねぇのかな。」
「明日は会社も休みだし、そこまでがつがつしなくていいんだろうよ。写真渡してきたし。ん?清子何持ってんだ?」
 清子が手にしているモノを見て、晶はにやっと笑う。
「ローションか。古いモノだったら、肌が荒れるぞ。」
「そうでもないヤツ。あれだったら持って行っても良いって言ってるんだよな。ほら、編集長のでかいから。」
 その言葉に晶も苦笑いをする。
「そうだったな。でも清子には必要ないだろ?」
「え?」
「ローションいらないくらい濡れるだろうし。」
 さすがにその言葉はない。清子は晶にそのローションを手渡して言う。
「あなたが使ったらどうですか?」
「俺?俺が使ってどうすんだよ。」
「ア○ルにも使えるそうですよ。掘って貰ったら?」
 その言葉に掃除をしていた男たちが笑う。
「ははっ。徳成さんも言うようになったね。」
「そうでなくちゃ、エロ本の編集なんか出来ないよ。」
 対して晶は不機嫌そうに、ローションを清子に返す。
 今日、清子を連れて帰る。そう思っていたが、その隙がない。やはりあの会議室で、やっとくべきだったか。晶はそう思いながら、倉庫をあとにする。

 オフィスに戻るとそこも大掃除をしていて、史はバックナンバーをまとめていた。毎年、バックナンバーはまとめて業者に引き取って貰う。
 中古の雑誌だが、それでもバックナンバーが欲しいという人が利用するのだろう。ゴミになるよりはましだ。
 オフィスに保管しているのは、毎月二、三冊のみ。史は昨年度のモノをまとめている。
「結構量があるな。」
 史の所へやってくると、史は少し笑って晶に言う。
「久住も自分の机を掃除しろよ。十六時までだから。」
「俺、普段から掃除してるから、あまりねぇんだよ。」
「だったら、他の人のを手伝って。倉庫はどうだった?」
「……その前にさちょっと話があるんだけど、あとで時間ねぇかな。」
「話?」
 史は手を止めて晶の方を見る。もしかしたら、今朝のことを告白するのかもしれない。二人でどこかへ行っていたと。今日は気が回らなかったが、仕事が終われば冷静になれる。
「良いよ。終わったらな。」
 そのとき倉庫の掃除を終えた三人が戻ってくる。狭い倉庫なので掃除できる人数がぎりぎりだったのだろう。
「誰かディルドいる?ローションもあるけど。」
「あーあたし、あれ欲しいんだ。」
 女性社員が手を止めてその箱に近づいていく。それを見て史は呆れたようにそちらを見る。女性だからと言って、あまり大人のおもちゃなどに慣れて欲しくないと思っていたのだ。
 清子を見ると、清子の手には何も握られていない。やはり興味がなかったのだろう。少しほっとした。
 今度道具を使ってみようか。縛ってみるのも良いかもしれない。初めては自分がやってみたいと思うのだ。だが本当の初めては史ではない。
 このうだつの上がらないぼさぼさの髪を持ったこの男が、清子の初めてを奪ったのだ。それが許せない。
「あれ?お前、ディルドもってねぇの?」
 晶が聞くと、清子は首を横に振る。
「必要ないですよ。」
「知ってる?ア○ニー用のディルド。」
「自分でやってください。」
 セクハラぎりぎりのような会話を晶としている。気のせいかもしれないが、今日は晶と距離が近い気がしていた。それを清子もいやがっていない。
「了はいらないのか?」
 晶が了にそう声をかけると、了は首を傾げた。
「良いよ。俺は。」
「カッコつけやがって。」
 晶がそういうと、了は少し笑っていった。
「家にあるから。」
「え?」
 了はそういってディルドを手にする。
「電マ無いんですか?」
「それは、電気屋に行った方が良いよ。」
「うちの調子が悪いから、やっぱ防水じゃないといけないですね。あいつすぐ潮噴くし。」
 了がここにいたのは昨日からだ。だが涼しい顔をして興味がないふりをしていただけだったのを初めて知る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...