不完全な人達

神崎

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 コーヒーが半分くらいに減って、史は晶をちらっと見る。今朝、きっと晶は清子と居た。夕べ、香子の恋人である仁の所にシャワーを借りに行くと言っていたが、結局仁の所に行かなかったらしい。それに気がついたのは晶だった。晶はその前にあったヤクザとのことを気にしていたのだ。
 ヤクザなどと繋がりなどない方がいい。AVをしていたときもそうだ。まともに売れなくなった女優を、裏で流すためにそういう繋がりをメーカーは持っていることもあるのだから。裏で流さなくても、ソープに落としたり、キャバクラに紹介したり、AVよりも稼げるときがあるからだ。
 清子をそんな目に遭わせたくない。晶はずっとそう言っていた。だから止めるよりも早く、晶は会社の外に出た。自分も行きたかったのだが、止めたのは了だった。
「あんた、明日まともに仕事をしない気か?」
 疲れはとっくにピークを超している。足下もおぼついていない史を行かせるわけにはいかなかったらしい。
 そして今朝、目を覚ますと晶と清子は居なかった。二人でオフィスに帰ってきたのだ。二人でどこかにいたという証拠はないが、何もなかったという証拠もない。
「久住。正直に言うんだ。」
「何?改まって。」
 へらっとした笑いが感に障る。誤魔化そうとしているときによく見る笑いだ。
「清子と寝たのか。」
 その言葉に晶はまたバカにしたように笑う。
「何で?」
「夕べじゃなくてもいい。ただし十年前というのではなく、最近の話だ。」
「……。」
「再会したのが今年の春。それから寝たのか。」
「ちっちゃいことを言うなよ。寝ただの寝てないだの、どうでもいいじゃん。」
「どうでも良くない。清子のことだ。」
 すると晶はコーヒーを一口口に入れると、史を見る。
「あいつ、言ったよな。俺と寝たのは十年前。それから何もしてないって。」
「あぁ。」
「信用できないの?」
「もしそこで寝たと言えば、清子は嘘をついたことになる。だがそれは必要な嘘だろう。俺が傷つくって思ったのだろうし。」
「そうじゃねぇよ。自分の身が可愛いからだろ?」
「……。」
「あんたさ、女がどんだけ綺麗だと思ってんだよ。女だって嘘もつくし、人を騙すことだって、裏切ることだってある。あんたAVしてたんだったら、そういう女を見てきただろ?」
「清子は……。」
「清子だって同じだよ。どれだけ清子が綺麗だと思ってんだよ。あんたの理想に固められた清子が、どんだけ苦痛だと思ってんだ。」
「……。」
 そうかもしれない。自分が勝手に清子の家に転がり込み、この年末だけでも一緒に住んだ。そして正月には実家につれて帰ろうとしている。それはすべて史が言い出したことだ。
「明神が言ってたな。あんた、女を作ったら自分好みにするって。従順で、言うことを聞く女が好きなんだろ?で、清子は全くそういうことに慣れていない。元々、人付き合いが苦手な方だ。だからあんたのことを好きだって思ったときに、あんたの言うとおりにしないといけないって合わせてんじゃねぇの?」
 しかし史は首を横に振る。
「お前の想像だろう。そして外から見た清子の印象だろう。肝心の清子は何を思っているのかわからない。だが、言い出したのは確かに俺かもしれない。でも拒否しなかった。」
「無理矢理な。」
 晶は煙草を吸おうとして、もう箱が空なのに気がつくとその箱を握りつぶした。
「お前はその嫌がる清子を見ていないのか?お前も無理矢理地元に連れて行ったんじゃないのか。」
「……。」
 やばい。あの町へ清子と回ったときのことを言っている。あのとき確かにセックスをした。あのときが最後だ。それ以来キスしかしていない。ぼろが出てはすべてが駄目になる。清子がそれを望んでいないから。
 あのとき、はっきり清子は「寝ていない」と言ったのだ。だから自分と寝たことを、史に知られたくないのだろう。だったら自分も黙っておいた方がいい。
「急に愛のところを出たというのも不自然だな。」
「愛のところは窮屈だったから。」
「だったら会社にいるのも窮屈か?だから退社という言葉がでたのか?」
「違うね。俺は「pink倶楽部」に居て良かったと思う。」
「どうして?」
「俺は、ずっと世界中を回って自然物を撮ってきた。でもここに居て一番綺麗なのは、人間の体だって思い知った。今は金のために色んなモノを撮っている中で、スポーツ選手の体も障害を持っているヤツの体も完全に無駄がない自然物なんだ。」
「一番撮りたいのは清子か?」
 その言葉に晶は少し笑う。そうきたかと。
「まぁ……無駄はなさそうだけどな。ちょっと細すぎるというか……あんた、もう少し食えって言えよ。」
 どうしても知りたいのか。寝ただの寝てないだの、どうでもいいような気がするが。
「でもさ……寝たって言ってどうするの?清子を責めるのか?何で嘘をついたんだって。」
「……そんな気はないが……もやもやする。」
「あんたの自己満足かよ。」
 呆れたように晶はそういうと、いらついたように髪をくしゃっと撫でた。
「あんたがそういう態度なら、やっぱ俺が奪ってやる。それで、あいつのしたいことをさせる。あんたの都合で、振り回している清子を救ってやる。」
「させるか。」
 そのとき史の携帯電話が鳴った。メッセージのようだ。それを開くと、清子からのモノだった。
「……あいつ……。」
「どうしたんだ。」
「どこかへ行っているみたいだ。」
 メッセージを見ると、「寄る所が出来たので、食事は済ませてきてください」と書いてあった。
「寄る所?あいつ、どっか行ったのか?」
「さぁ……。」
「っていうか、あいつの知り合いなんてこの辺じゃたかがしれてるだろ?どこに行ったんだ。大人しく帰れよ。」
 すると今度は晶の携帯電話が鳴る。それを見ると、着信のようだった。相手は了だった。
「もしもし……何だよ。え……。お前、余計なことを言うなよ。」
 焦ったような晶の口調だった。だが了には悪意はなかった。それに清子がどんなことを思うかなど、理解していなかったのだ。
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