不完全な人達

神崎

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火祭り

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 商工会の事務所の片隅にある会議室で、今日の打ち上げをしていた。朝になれば初日の出を見ながら、海に飛び込む。それがこの土地の若い男たちの習わしだった。漁師や市場関係の男たちは気性が荒いが、そういった昔ながらの風習は大事にしている。
 打ち上げは朝まで続いて、酒が大量に消費される。茂は酒は飲めないこともないが、なんせずっと刑務所にいたのだからあまり酒に慣れていない。それに体質もあるのだろう。酒の美味しさはわかるが、すぐに眠ってしまうのだ。
 商工会の人たちの中には女性の姿もあるが、彼女たちはある程度時間がたったら家に帰って行く。その中には夏生の姿もあった。夏生は海女をしながら商工会の手伝いをしていて、その過去を知るものはあまり居ない。周りには「モデルをしていた」と言っていたのだ。どんなモデルかまでは聞かないのは優しさなのだろうと思っていた。
 だが女たちが帰って行ったあと、一人の男がその夏生の後ろ姿を見てにやっと笑った。
「あいつ、AV女優だったんだろ?」
 その言葉に周りの男が色めき出す。
「AV?マジで?」
「おっぱい大きいじゃん。モデルって言ってたから、どんなんかと思ったらほら。」
 そういって男は携帯電話の配信サービスをしているサイトを開き、夏生がまだAV女優「Satomi」として活躍していたページを開いて男たちに見せる。
「おー。すげぇ。動画見せろよ。」
 見たくなかった。だから茂は片隅にあるお茶を手にして、それをコップに注いだ。だが声を大きくしたらしく、聞き覚えのある声が耳に届いた。
「すげぇ。縛られてんじゃん。」
「パイ○ンだしさ。ほら。中だししすぎて出てきてる。かぁー。こんな女だったんだな。」
 すると一人の男がそれを見て、怪訝そうな顔をした。
「汚ねえ女だな。」
 その言葉に茂は思わずコップをおいて、男をみて声をかけた。
「汚い?」
「AV女優なんて、何人もさせるような女だろ?ヤリ○ンで汚ねえ。女ってのは、もっと貞淑でいるべきだろ?バカみたいな声上げやがって、その乳はホルスタインか。」
 牛を飼っている男だから言える言葉だろう。だがその言い方はない。茂は思わず立ち上がろうとした。
「でもさ、何人もしてんなら俺らもお世話になりてぇって思わないか?ほら、この辺、ソープ行くのも結構距離あるし、片隅のソープなんかババァしかいねぇじゃん。」
 女日照りだとこんな考えしかないのだろうか。
「お前頼んでみたら?やらしてって。どうせAV女優なんだから、一人だろうと二人だろうと別に気にしちゃいねぇだろ?」
「でもなぁ……。」
「何だ。」
「がばがばのあれに突っ込んでも、気持ち良くねぇだろ?」
「お、でもア○ルいけるらしいぜ。」
「マジか。ディルドとか突っ込んだら絞まるか?」
「だったら今度相手しろって言うか。」
「断ったらみんなにばらそうぜ。」
「だな。」
 その会話に茂は、思わず立ち上がりその男たちを止めようとした。だがそんな茂を止めたのは、茂の後輩で茂を雇ってくれている後輩の雨宮昇だった。
「やめておけ。」
「でも……。」
「茂が気があるのはわかってる。でも、仕方ないだろう。そういうイメージなんだから。」
「……でも……どっちにしても、夏生は……。」
 ばらされても、断らなくても、夏生は居心地が悪くなる。そうなればこの土地を去らないといけないかもしれない。茂は確かに人を殺した。だがそれを受け入れてくれたのは、昇をはじめとした受け入れてくれる人がいるからだ。
 だが夏生は違う。誰も居なければ、夏生がここにいる理由はない。
 それを感じて、敦が二人の元へ歩み寄った。
「なに二人でこそこそ話してんだよ。」
「いいや……。別に。」
「茂さん。あんたあまり飲んでないのに、顔色悪いな。寝るか?」
「いいや。大丈夫だ。」
 その言葉に敦は少し笑った。
「あんた、あの女とデキてるのか?」
 その言葉に周りの男たちが、ざわめいた。
「なに?夏生とデキてんの?」
「マジで?茂さん。良いなぁ。AV女優とデキるのって。何でもしてくれそうじゃん。」
 今日、そう言っただけだ。なのにどうしてそんなことを言われないといけないのだろう。
「いい組み合わせだよな。元AV女優と、元殺人犯。子供が可哀想だ。」
 するとその言葉に反応したのは、茂ではなく昇の方だった。昇が敦に手を挙げた。

 パン!

 派手な音がして、茂は思わず目をつぶった。そして再び目を開けたとき、敦の胸ぐらを昇がつかんでいたのだ。
「昇。やめろ。」
 茂がそれを止めにはいる。しかし敦は冷静にいった。
「こんなヤツを雇うお前が悪いんだろ?漁師になりてぇやつなんか、もっと居る。わざわざ人殺しなんか雇うことはないだろうが。」
「人の事情なんか知るか。俺は、茂の人格を見て……。」
「真面目だけで世の中やっていけないんだよ。産まれたときからここを出たことのねぇあんたにはわからねぇだろうけどな。」
「てめぇ!」
 それから茂が止めに入っても、他の人が入っても無駄だった。茂も何発か拳を喰らいやっと二人を離したが、結局茂が原因だったのもあり、茂は帰った方が良いとその場をあとにした。敦も、昇も帰って行った。
 だが昇は帰り間際、茂にいう。
「誰に何て言われても、あんたを解雇する気はないよ。人手も足りないし、あんたほど真面目にする人はいないしな。」
「いいのか?」
「かまわない。人が多ければ、言い違いもあるだろう。あんたが学生の時に言ってたことだよ。」
 部活の先輩と後輩だった。そして敦も後輩だった。敦はうまく周りとやっていっているように見えたが、昇はそう言うことが全く出来なかった。実力はあるが、個人プレーが目立つ昇に、顧問すら「もっとうまくやれ」と言うくらいだった。だが茂はそう言わない。
「人が多ければ、言い違いもある。だけど、言葉は通じる。話してわからない人は居ないよ。」
 茂は確かにそう言ったのだ。それをずっと昇は心の糧にしていた。
「わかったような口を聞いてたな。俺。」
「でも……それが良かった。あんたがとりあえず独立するまで、俺が面倒見るから。」
「……悪いな。」
「解体は出なくていいのかな。まぁ、あの人数で出来ることじゃないから、朝にでも来ればいいか。茂。あんたも来てよ。」
「わかった。」
「家は一人か?」
「弟がいる。それから……弟の上司と、ほら……徳成さんの所の。」
「清子ちゃんか。へぇ……。あの子急にいなくなったよな。生きてたのか。」
「あぁ。元気そうだ。」
 すると昇は少し首を傾げて言う。
「清子ちゃんの家って、変なヤツに目を付けられていたな。」
「宗教が入ってただろう?」
「じゃなくて。清子ちゃんの祖母さんとなんか相当言い合ってた。あれ、何だったんだろう。」
 夕暮れ時の部活帰りだった。黒いコートの男と、清子の祖母が珍しく感情的に言い合っていたのだ。それが何なのか、昇にはわからない。
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