195 / 289
実家
194
しおりを挟む
病院に運ばれた晶は頭を少し打っていて額に切り傷ができていたのを手当され、そのあとCT検査機で十分に調べられた。そしてその結果は異常なしと判断される。
「レントゲンやCTではわからない影響があるかもしれません。」
「むち打ちとか?」
女性の医師は、どことなく清子に似ていた。深夜のしかも正月に勤務するような医師だ。研修医にしては若くはないように見える。ほとんど化粧気はなく、縁のない眼鏡をかけていた。
「むち打ちもそうなんですけど、首や背中に影響があるのだったら入院して検査をした方が良いですね。」
「何の科になるの?」
「脳神経外科。」
その辺はよくわからない。
「それが、いつ影響が出るかわからないんです。半年後、一年後に影響が出るときもありますから。周りの人たちに「歩き方がおかしい」とか姿勢がおかしいと言われたら、受診をしてください。」
「あー。わかった。」
「外傷がないので軽く考えているのかもしれませんが、事故というのはいつどこでその後遺症が出るかわからないです。二、三日は無理をしないようにしてくださいね。」
「そうだな。カメラも車もパソコンも全部おじゃんだ。仕事も出来ねぇよ。」
その言葉にも表情を変えることはない。パソコンに向かってカルテを書いている。
「診断書を発行します。保険会社と、相手方の保険会社、それから会社宛ですね。」
「会社?」
「仕事の帰りだったのだったら、労災が降りると思いますよ。」
これが会社の良いところかもしれない。全てが無くなっても、自分が手出しすることなくまた全てを用意してくれるのだ。
「薬と、湿布を受け取ってください。処方箋を持って調剤薬局の方へ行ってください。」
「わかったよ。世話になったな。」
「明日も来てくださいよ。」
「わかってるって。」
世話好きな医師だ。姿は清子に似ているかもしれないが、あまりこういうところは似ていない。あまり世話を焼かれるのは、好きじゃない。自分は自分で勝手にしたいからだ。
診察室を出ると、その横にあるソファーに四人の人影があった。
「晶兄貴。」
一人は了だった。隣には亜希子がいる。おそらく連絡があって来たのだろう。
「悪いな。こんな遅く来てもらって。」
「良いよ、別に。体は大丈夫なのか?」
「わりと平気。でも車は廃車だろ?」
「あぁ。さっき見たけど、あれはもう買い直した方が良いよ。」
「くそ。あの車ビンテージだったのにな。」
珍しい形の車だったのは、晶の趣味だった。海外を転々としていたときに一目惚れした車で、海外からこの国に持ち込むのは色んな手続きやエンジンの細かい規制などが面倒だったがそれだけに愛着があった。
「車は国産の方が良いわよ。不具合があったらケアしてくれるし。」
「そんな問題じゃねぇんだよ。あーあ。車もそうだけどカメラがなぁ……。」
割と元気そうだ。史はそう思いながら、その様子を見ていた。すると晶はそちらに気が付いて、史と清子の前に立つ。
「編集長と清子も悪かったな。わざわざ来てくれて。」
「良いよ。もうそろそろ出ようかと思っていたから。」
隣に座っている清子は、何も話さない。思ったよりも元気な姿を見て、ほっとしているのだろうか。
「清子が心配していた。」
その言葉に晶は清子の方をみる。
「悪かったな。清子。心配した?」
意地悪そうに聞く晶に、いつも通りだと清子は首を横に振る。しかしその頬につっと涙がこぼれた。
「何だよ。泣くなよ。死んだ訳じゃねぇよ。」
眼鏡を外して、清子はたまらずに顔を両手で覆う。
「良かった……何事もなくて……。これ以上、誰かが死ぬのは……嫌だから。」
大事な人を次々に失った清子の言葉は重かった。両親は行方不明。祖母は死に、祖母の長男は拘置所にいる。そしてこれからきっと祥吾を失うのだ。
それを感じて、晶は手を伸ばしかけた。しかしその役目は自分ではない。隣にいる史が、清子の肩に手をかけてその感情を抑えるように肩を撫でた。その行動に、晶は延ばし掛けた手をぐっと握りまだ泣いている清子に言う。
「俺は死なねぇよ。前に言われたことがあるわ。「殺しても死にそうにない」って。前にさ、撮ってきて欲しいって言う戦争の激しい地域に行ったけど、普通に帰ってきたら「マジで帰ってきた」って驚かれたもん。そんなに簡単に人は死なねぇから。」
その言葉に綾子は少し笑う。すると向こうから看護師が晶を呼んだ。
「久住さん。診断書発行と処方箋が出来てますから、受付に来てもらって良いですか?」
その間にも救急車の音がする。正月は救急外来が一年で一番多いらしい。
薬局で薬を受け取っている間、史は会社の方へ連絡をしていた。晶の事故は、新聞社からの依頼でT山の方へ行っていたので、労災はどっちから降りるかという話をしていたのだ。
依頼をしていたのは新聞社。だが籍は「三島出版」にある。新聞社の仕事はアルバイトみたいなもので、別に新聞社と契約をしていないのだ。
「大きな額になると思う。社用車ではなく、個人の車だしカメラもパソコンも個人のものだからね。」
堀が会社に出ていて、事故の内容を聞いていたのだ。結局「三島出版」がその新聞社の指示を受けたからということで労災はこちらから出るらしい。
「診断書と事故証明が必要だろう。今から届ければいいのか?」
時計を見ると、もう日が変わろうとしていた時間だ。検査に結構時間がかかってしまったらしい。
堀との連絡を終えて、調剤薬局の方をみる。まだ四人は出てきていない。
清子があんなに取り乱したのを初めて見た。それは晶だったから慌てていたのか、それとも自分が事故をしてもあんなに取り乱すのだろうかとどうしても疑心暗鬼になってしまう。
他人に興味が無く、自分にすら興味がないような清子が、他人をあんなに思うことがあったのだろうかと思う。
やがて四人が出てきた。晶の手にはビニールの袋がある。その中には湿布や痛み止めの薬が入っているのだろう。
「痛くねぇって言ってんのにな。」
「事故はあとからくるんですよー。あたしがそうだったから。」
亜希子もまた昔事故に巻き込まれて生死をさまよったらしい。だから言えることだ。
「このまま何もなければいいんですけどねぇ。」
「何もねぇよ。」
「兄貴。家に送ろうか?」
了がそう言うと、晶は首を横に振る。
「お前ら家が逆方向だろ?別に良いよ。」
「でももうバスとかもないからさ。歩いて行くには、ちょっと距離あるし。」
「タクシーでも何でも捕まえるから。」
その答えに、史が口を出す。
「久住。今から会社の方に事故証明と診断書を出しに行くから。俺が送る。」
「誰か居るの?」
「堀さんが来てくれているらしい。」
「あぁ。あんたの元カノな。」
晶には悪気はない。だが清子は気分が良くないだろうと思う。
「清子は一旦家に帰る?」
史の問いに清子は少し首を横に振った。そして晶の方をみる。
「食欲はありますか?」
「俺、昼も食いっぱぐれたんだよ。検査受けてるときも腹がぐーぐー鳴ってさ。」
「だったら何か作ります。うちで……。」
すると晶はポケットに入れていた鍵を清子に手渡す。
「うちの近所にさ、二十四時間営業のスーパーがあるんだよ。作ってくれないか。」
「久住さんの家で?」
「家わかるか?」
「行ったことないです。」
「地図アプリ出せよ。」
そう言って清子の携帯をのぞき見て、指さした。会社から歩いても十分くらいだろう。
「ここの交差点の所に、スーパーがあるんだよ。」
「そうですか。でしたらそこで何か買います。」
「酒もな。」
「それはやめておいた方が良いです。明日も病院なんですよね。影響でますよ。」
「大丈夫だよ。俺、昨日も飲んでねぇんだよ。お前らすげぇ飲んでたから良いかもしれないけど。編集長。用事終わったら酒買いに行こうぜ。」
「駄目。」
「けち。」
頬を膨らました晶を見て、やっと清子の顔に笑顔が見えた。その表情に心が少し痛い。
「レントゲンやCTではわからない影響があるかもしれません。」
「むち打ちとか?」
女性の医師は、どことなく清子に似ていた。深夜のしかも正月に勤務するような医師だ。研修医にしては若くはないように見える。ほとんど化粧気はなく、縁のない眼鏡をかけていた。
「むち打ちもそうなんですけど、首や背中に影響があるのだったら入院して検査をした方が良いですね。」
「何の科になるの?」
「脳神経外科。」
その辺はよくわからない。
「それが、いつ影響が出るかわからないんです。半年後、一年後に影響が出るときもありますから。周りの人たちに「歩き方がおかしい」とか姿勢がおかしいと言われたら、受診をしてください。」
「あー。わかった。」
「外傷がないので軽く考えているのかもしれませんが、事故というのはいつどこでその後遺症が出るかわからないです。二、三日は無理をしないようにしてくださいね。」
「そうだな。カメラも車もパソコンも全部おじゃんだ。仕事も出来ねぇよ。」
その言葉にも表情を変えることはない。パソコンに向かってカルテを書いている。
「診断書を発行します。保険会社と、相手方の保険会社、それから会社宛ですね。」
「会社?」
「仕事の帰りだったのだったら、労災が降りると思いますよ。」
これが会社の良いところかもしれない。全てが無くなっても、自分が手出しすることなくまた全てを用意してくれるのだ。
「薬と、湿布を受け取ってください。処方箋を持って調剤薬局の方へ行ってください。」
「わかったよ。世話になったな。」
「明日も来てくださいよ。」
「わかってるって。」
世話好きな医師だ。姿は清子に似ているかもしれないが、あまりこういうところは似ていない。あまり世話を焼かれるのは、好きじゃない。自分は自分で勝手にしたいからだ。
診察室を出ると、その横にあるソファーに四人の人影があった。
「晶兄貴。」
一人は了だった。隣には亜希子がいる。おそらく連絡があって来たのだろう。
「悪いな。こんな遅く来てもらって。」
「良いよ、別に。体は大丈夫なのか?」
「わりと平気。でも車は廃車だろ?」
「あぁ。さっき見たけど、あれはもう買い直した方が良いよ。」
「くそ。あの車ビンテージだったのにな。」
珍しい形の車だったのは、晶の趣味だった。海外を転々としていたときに一目惚れした車で、海外からこの国に持ち込むのは色んな手続きやエンジンの細かい規制などが面倒だったがそれだけに愛着があった。
「車は国産の方が良いわよ。不具合があったらケアしてくれるし。」
「そんな問題じゃねぇんだよ。あーあ。車もそうだけどカメラがなぁ……。」
割と元気そうだ。史はそう思いながら、その様子を見ていた。すると晶はそちらに気が付いて、史と清子の前に立つ。
「編集長と清子も悪かったな。わざわざ来てくれて。」
「良いよ。もうそろそろ出ようかと思っていたから。」
隣に座っている清子は、何も話さない。思ったよりも元気な姿を見て、ほっとしているのだろうか。
「清子が心配していた。」
その言葉に晶は清子の方をみる。
「悪かったな。清子。心配した?」
意地悪そうに聞く晶に、いつも通りだと清子は首を横に振る。しかしその頬につっと涙がこぼれた。
「何だよ。泣くなよ。死んだ訳じゃねぇよ。」
眼鏡を外して、清子はたまらずに顔を両手で覆う。
「良かった……何事もなくて……。これ以上、誰かが死ぬのは……嫌だから。」
大事な人を次々に失った清子の言葉は重かった。両親は行方不明。祖母は死に、祖母の長男は拘置所にいる。そしてこれからきっと祥吾を失うのだ。
それを感じて、晶は手を伸ばしかけた。しかしその役目は自分ではない。隣にいる史が、清子の肩に手をかけてその感情を抑えるように肩を撫でた。その行動に、晶は延ばし掛けた手をぐっと握りまだ泣いている清子に言う。
「俺は死なねぇよ。前に言われたことがあるわ。「殺しても死にそうにない」って。前にさ、撮ってきて欲しいって言う戦争の激しい地域に行ったけど、普通に帰ってきたら「マジで帰ってきた」って驚かれたもん。そんなに簡単に人は死なねぇから。」
その言葉に綾子は少し笑う。すると向こうから看護師が晶を呼んだ。
「久住さん。診断書発行と処方箋が出来てますから、受付に来てもらって良いですか?」
その間にも救急車の音がする。正月は救急外来が一年で一番多いらしい。
薬局で薬を受け取っている間、史は会社の方へ連絡をしていた。晶の事故は、新聞社からの依頼でT山の方へ行っていたので、労災はどっちから降りるかという話をしていたのだ。
依頼をしていたのは新聞社。だが籍は「三島出版」にある。新聞社の仕事はアルバイトみたいなもので、別に新聞社と契約をしていないのだ。
「大きな額になると思う。社用車ではなく、個人の車だしカメラもパソコンも個人のものだからね。」
堀が会社に出ていて、事故の内容を聞いていたのだ。結局「三島出版」がその新聞社の指示を受けたからということで労災はこちらから出るらしい。
「診断書と事故証明が必要だろう。今から届ければいいのか?」
時計を見ると、もう日が変わろうとしていた時間だ。検査に結構時間がかかってしまったらしい。
堀との連絡を終えて、調剤薬局の方をみる。まだ四人は出てきていない。
清子があんなに取り乱したのを初めて見た。それは晶だったから慌てていたのか、それとも自分が事故をしてもあんなに取り乱すのだろうかとどうしても疑心暗鬼になってしまう。
他人に興味が無く、自分にすら興味がないような清子が、他人をあんなに思うことがあったのだろうかと思う。
やがて四人が出てきた。晶の手にはビニールの袋がある。その中には湿布や痛み止めの薬が入っているのだろう。
「痛くねぇって言ってんのにな。」
「事故はあとからくるんですよー。あたしがそうだったから。」
亜希子もまた昔事故に巻き込まれて生死をさまよったらしい。だから言えることだ。
「このまま何もなければいいんですけどねぇ。」
「何もねぇよ。」
「兄貴。家に送ろうか?」
了がそう言うと、晶は首を横に振る。
「お前ら家が逆方向だろ?別に良いよ。」
「でももうバスとかもないからさ。歩いて行くには、ちょっと距離あるし。」
「タクシーでも何でも捕まえるから。」
その答えに、史が口を出す。
「久住。今から会社の方に事故証明と診断書を出しに行くから。俺が送る。」
「誰か居るの?」
「堀さんが来てくれているらしい。」
「あぁ。あんたの元カノな。」
晶には悪気はない。だが清子は気分が良くないだろうと思う。
「清子は一旦家に帰る?」
史の問いに清子は少し首を横に振った。そして晶の方をみる。
「食欲はありますか?」
「俺、昼も食いっぱぐれたんだよ。検査受けてるときも腹がぐーぐー鳴ってさ。」
「だったら何か作ります。うちで……。」
すると晶はポケットに入れていた鍵を清子に手渡す。
「うちの近所にさ、二十四時間営業のスーパーがあるんだよ。作ってくれないか。」
「久住さんの家で?」
「家わかるか?」
「行ったことないです。」
「地図アプリ出せよ。」
そう言って清子の携帯をのぞき見て、指さした。会社から歩いても十分くらいだろう。
「ここの交差点の所に、スーパーがあるんだよ。」
「そうですか。でしたらそこで何か買います。」
「酒もな。」
「それはやめておいた方が良いです。明日も病院なんですよね。影響でますよ。」
「大丈夫だよ。俺、昨日も飲んでねぇんだよ。お前らすげぇ飲んでたから良いかもしれないけど。編集長。用事終わったら酒買いに行こうぜ。」
「駄目。」
「けち。」
頬を膨らました晶を見て、やっと清子の顔に笑顔が見えた。その表情に心が少し痛い。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる