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実家
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晶の家は会社から歩いて十分ほど。その途中に二十四時間開いているスーパーがあった。正月らしくオードブルなどもあったが、パーティをするわけではないのだ。
二十四時間を歌っているスーパーだが、こんな夜中では生鮮品はそんなにそろっていない。その上野菜はあるが、割と割高だと思う。それにどれだけ調味料があるのかわからない。まぁ、無ければまた買いに来ればいいと、冷凍のうどんを手にした。炊飯器もあるか、鍋もあるかなどは聞いていなかったからだ。
そして指定されたアパートへ向かう。あまり新しいアパートではないが、駐車場込みだというアパートは裏手が寺になっていて、墓地が見える。だから安いのだろう。
一階は駐車場になり、二階以降が住宅スペースになる。その三階が晶の家だ。階段を上がって二つ目の部屋。そこに鍵を挿すと、隣の部屋のドアが開いた。
「もういい!出ていくから!」
「待てよ。理彩。子供はどうすんだよ。」
「あんたの子供なんか、産みたくもないわ!」
そう言って痩せた金髪の女が出ていった。騒がしい家だな。そう思いながら、ドアを開く。
電気をつけると、思ったよりも狭い部屋だとわかった。部屋の隅にきちんと畳まれた布団。テーブルと、ミニコンポ。そしてカメラの機材。パソコンはない。おそらくいつか見たノートパソコン以外は持っていなかったのだろう。
畳敷きで、ベランダはない。おそらく一つある窓に干すのだろう。どちらにしても一人暮らしではないときつい部屋だ。隣のカップルがここと同じ間取りに住んでいるとすれば、四六時中顔を合わせないといけないだろう。
清子は買ってきた食材を冷蔵庫に入れる。思ったよりも食材はあるようだ。ウィンナーや卵、冷凍できる野菜は冷凍庫にあっていつでも食べれるようになっている。
炊飯器はない。やはりうどんにして良かったと思った。清子はコートを脱ぐと、エアコンのスイッチを入れた。ワンルームの狭い部屋だとすぐに暖かくなりそうだ。
そしてうどんの汁を作り始める。豚肉や、蒲鉾、ネギ、白菜を入れる。お湯が沸くまで、キャベツとピーマンとウィンナーを切りフライパンで炒める。塩とこしょうで味を付け、少し醤油を入れれば香りが高くなる。
そしてそれを皿に盛ると、今度はうどん用にお湯を沸かした。そのとき、部屋の玄関のドアが開いた。
「ただいまー。んーいい香りがするなぁ。」
「お帰りなさい。うどん作っておきましたよ。あれ?史は来ないんですか?」
帰ってきたのは晶一人だった。すると晶は頭をかいて、清子の方へ近づく。
「何か総務部に社長が居てさ、話があるって連れて行ったわ。」
「え?」
「前から言われてる話を進めとこうと思ったんじゃねぇ?」
「話?」
お湯が沸いて、清子はうどんをその中に三玉入れた。
「新聞社と合同で雑誌出すんだろ?タウン誌。」
「タウン誌?」
「既存のタウン誌がうちでも出しているけど、新聞社の方も出しているんだよな。新聞社の方は、フリーペーパーだから広告ばっかだけど。それを合併して新規でタウン誌を出すみたいだ。」
「それに史を?」
「フリーペーパーはやっぱ宣伝が中心だろ?これまでの「pink倶楽部」も結構宣伝が多くてつてが広いんだろうって思われてるんだろうな。」
「つてって……AV関係のつてですか?」
「それだけじゃねぇよ。編集長ってあぁみえて、出版業界にも顔が広いみたいだ。秋野っていうライターのコラムを載せれるようになったのは、編集長の腕だったみたいだし。」
その言葉に、清子は箸を止めた。そして晶の方をみる。
「秋野さんと史は連絡が取れるんですか?」
「秋野が書いてるところだったら、担当の編集だけじゃなくて編集長も連絡が取れるようになってんだろ。担当が休みの時は、編集長が行くのが当たり前だし。」
秋野というフリーライターと春川という作家は同一人物だ。それをきっと史は知っている。なのに黙っていたのだ。
「……どうして黙ってたんでしょう。」
「何が?」
「私が……春川さんに渡したいものがあると知っていたのに、それを知らないふりをしていた理由がわからない。」
すると晶が頭をかいたが、傷口に手が当たったのだろう。その手をよけた。
「秋野と春川が一緒の人だとお前は知ってんのか。」
「はい。」
「でも他では知られてはいけないことだ。春川は、自分の正体がばれたら書くのを辞めると言っている。そんなことになれば、出版業界自体の損失だろう。」
「……。」
「それを考えて言ってなかったんだろうな。」
そうなのだろうか。うどんが湯がけてざるに移す。すると湯気で眼鏡が曇る。眼鏡を外して、そのうどんを見た。
「でも……こっちにはこっちの事情がある。編集長にさ、早いところ春川に連絡を取ってもらった方が良い。」
「どうして?」
「そりゃ……人の生死の問題だしな。」
その言葉に清子が晶に詰め寄る。
「誰の生死ですか。もしかして……。」
「落ち着け。落ち付けって。」
体が近い。胸が触れそうだ。こんな状態で迫られて、手を出さない男が居るだろうか。
思わず清子の肩に手を置いて、引き離そうとした。だがそのとき腕に筋肉痛のような痛みを感じる。
「いてっ。」
「え?どこか打ちましたか。」
座り込んでいる晶の前で清子がしゃがみ込んで様子を見る。これも無意識だったら、本当にたちが悪い。
「大丈夫だ。筋肉痛みたいな痛みが……。」
「事故はあとで来ますからね。立てますか?」
そのとき、玄関のチャイムが鳴った。史が来たのだろう。清子は手をさしのべて晶を立ち上がらせると、玄関へ向かった。
「はい。」
そこにはやはり史の姿があった。手には筒のようなものがある。
「遅くなった。悪いね。」
「いいえ。あの……それは?」
「あとで説明するよ。良い匂いがするね。何を作ったの?」
「うどんです。消化が良いものの方が良いかと。」
「だと思うよ。上がらせてもらう。あぁ。ここに来るときに、ゆずを買った。レモネードの要領で、ゆずで出来ないかな。」
「ゆず湯みたいなものですか。出来ると思いますよ。」
「久住の様子はどう?」
「痛みが出てきてるみたいです。」
さっきうずくまってしまったのだ。さっさとうどんを食べさせて、薬を飲ませた方が良い。
二十四時間を歌っているスーパーだが、こんな夜中では生鮮品はそんなにそろっていない。その上野菜はあるが、割と割高だと思う。それにどれだけ調味料があるのかわからない。まぁ、無ければまた買いに来ればいいと、冷凍のうどんを手にした。炊飯器もあるか、鍋もあるかなどは聞いていなかったからだ。
そして指定されたアパートへ向かう。あまり新しいアパートではないが、駐車場込みだというアパートは裏手が寺になっていて、墓地が見える。だから安いのだろう。
一階は駐車場になり、二階以降が住宅スペースになる。その三階が晶の家だ。階段を上がって二つ目の部屋。そこに鍵を挿すと、隣の部屋のドアが開いた。
「もういい!出ていくから!」
「待てよ。理彩。子供はどうすんだよ。」
「あんたの子供なんか、産みたくもないわ!」
そう言って痩せた金髪の女が出ていった。騒がしい家だな。そう思いながら、ドアを開く。
電気をつけると、思ったよりも狭い部屋だとわかった。部屋の隅にきちんと畳まれた布団。テーブルと、ミニコンポ。そしてカメラの機材。パソコンはない。おそらくいつか見たノートパソコン以外は持っていなかったのだろう。
畳敷きで、ベランダはない。おそらく一つある窓に干すのだろう。どちらにしても一人暮らしではないときつい部屋だ。隣のカップルがここと同じ間取りに住んでいるとすれば、四六時中顔を合わせないといけないだろう。
清子は買ってきた食材を冷蔵庫に入れる。思ったよりも食材はあるようだ。ウィンナーや卵、冷凍できる野菜は冷凍庫にあっていつでも食べれるようになっている。
炊飯器はない。やはりうどんにして良かったと思った。清子はコートを脱ぐと、エアコンのスイッチを入れた。ワンルームの狭い部屋だとすぐに暖かくなりそうだ。
そしてうどんの汁を作り始める。豚肉や、蒲鉾、ネギ、白菜を入れる。お湯が沸くまで、キャベツとピーマンとウィンナーを切りフライパンで炒める。塩とこしょうで味を付け、少し醤油を入れれば香りが高くなる。
そしてそれを皿に盛ると、今度はうどん用にお湯を沸かした。そのとき、部屋の玄関のドアが開いた。
「ただいまー。んーいい香りがするなぁ。」
「お帰りなさい。うどん作っておきましたよ。あれ?史は来ないんですか?」
帰ってきたのは晶一人だった。すると晶は頭をかいて、清子の方へ近づく。
「何か総務部に社長が居てさ、話があるって連れて行ったわ。」
「え?」
「前から言われてる話を進めとこうと思ったんじゃねぇ?」
「話?」
お湯が沸いて、清子はうどんをその中に三玉入れた。
「新聞社と合同で雑誌出すんだろ?タウン誌。」
「タウン誌?」
「既存のタウン誌がうちでも出しているけど、新聞社の方も出しているんだよな。新聞社の方は、フリーペーパーだから広告ばっかだけど。それを合併して新規でタウン誌を出すみたいだ。」
「それに史を?」
「フリーペーパーはやっぱ宣伝が中心だろ?これまでの「pink倶楽部」も結構宣伝が多くてつてが広いんだろうって思われてるんだろうな。」
「つてって……AV関係のつてですか?」
「それだけじゃねぇよ。編集長ってあぁみえて、出版業界にも顔が広いみたいだ。秋野っていうライターのコラムを載せれるようになったのは、編集長の腕だったみたいだし。」
その言葉に、清子は箸を止めた。そして晶の方をみる。
「秋野さんと史は連絡が取れるんですか?」
「秋野が書いてるところだったら、担当の編集だけじゃなくて編集長も連絡が取れるようになってんだろ。担当が休みの時は、編集長が行くのが当たり前だし。」
秋野というフリーライターと春川という作家は同一人物だ。それをきっと史は知っている。なのに黙っていたのだ。
「……どうして黙ってたんでしょう。」
「何が?」
「私が……春川さんに渡したいものがあると知っていたのに、それを知らないふりをしていた理由がわからない。」
すると晶が頭をかいたが、傷口に手が当たったのだろう。その手をよけた。
「秋野と春川が一緒の人だとお前は知ってんのか。」
「はい。」
「でも他では知られてはいけないことだ。春川は、自分の正体がばれたら書くのを辞めると言っている。そんなことになれば、出版業界自体の損失だろう。」
「……。」
「それを考えて言ってなかったんだろうな。」
そうなのだろうか。うどんが湯がけてざるに移す。すると湯気で眼鏡が曇る。眼鏡を外して、そのうどんを見た。
「でも……こっちにはこっちの事情がある。編集長にさ、早いところ春川に連絡を取ってもらった方が良い。」
「どうして?」
「そりゃ……人の生死の問題だしな。」
その言葉に清子が晶に詰め寄る。
「誰の生死ですか。もしかして……。」
「落ち着け。落ち付けって。」
体が近い。胸が触れそうだ。こんな状態で迫られて、手を出さない男が居るだろうか。
思わず清子の肩に手を置いて、引き離そうとした。だがそのとき腕に筋肉痛のような痛みを感じる。
「いてっ。」
「え?どこか打ちましたか。」
座り込んでいる晶の前で清子がしゃがみ込んで様子を見る。これも無意識だったら、本当にたちが悪い。
「大丈夫だ。筋肉痛みたいな痛みが……。」
「事故はあとで来ますからね。立てますか?」
そのとき、玄関のチャイムが鳴った。史が来たのだろう。清子は手をさしのべて晶を立ち上がらせると、玄関へ向かった。
「はい。」
そこにはやはり史の姿があった。手には筒のようなものがある。
「遅くなった。悪いね。」
「いいえ。あの……それは?」
「あとで説明するよ。良い匂いがするね。何を作ったの?」
「うどんです。消化が良いものの方が良いかと。」
「だと思うよ。上がらせてもらう。あぁ。ここに来るときに、ゆずを買った。レモネードの要領で、ゆずで出来ないかな。」
「ゆず湯みたいなものですか。出来ると思いますよ。」
「久住の様子はどう?」
「痛みが出てきてるみたいです。」
さっきうずくまってしまったのだ。さっさとうどんを食べさせて、薬を飲ませた方が良い。
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