不完全な人達

神崎

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実家

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 食事をすませたあと、皿を洗い終わった清子がレモネードの要領で作ったゆず湯を持ってくる。それとは別にコップにお湯を注いだ。
「薬を飲んでくださいね。」
「あー。何かさっきから体がバキバキ言っててさ。これが影響なのかな。」
「時間がたつと出てくる。なんだかんだ言ってもトラックだったんだ。その程度の怪我で良かった。」
「むち打ちになってるかもしれないって言ってたな。医者が。」
「むち打ちはレントゲンやCTじゃ写らないからな。むち打ちならリハビリにだいぶかかるぞ。」
「げぇ。病院って苦手なんだよな。」
 風邪などの軽い病気なら病院に行かず、薬も飲まない晶だ。ため息がでる。もらった薬を出して、それを口に入れるとお湯で流し込んだ。
「社長はなんて?」
 清子がお茶に口を付けると、史にそれを聞く。すると史は持ってきた筒状のものを取り出して、その蓋を開けると中に入っている紙を取り出した。
「これって……設計図?」
 設計図は、家の間取りのように見える。だがよく見れば、何かしらの事務所にも見えるが、それよりも気になるのはその間取りだった。見覚えがある間取りだと思う。
「清子の家を事務所に改築したいらしい。」
「え?」
 その言葉に清子は驚いて史を見た。
「つまり、あの家を出版社の事務所にしたいってことか?」
「そう言うこと。その中に清子の個人的な部屋も組み込まれている。もちろん社宅扱いだけど。」
「社宅兼事務所ってことか。」
 史も煙草を取り出してそれを口にくわえる。ちらっと清子を見ると、清子の手が少し震えているように見えた。予想外のことだったからだろう。
「うちが発行しているタウン誌と、新聞社が発行しているフリーペーパーを共同させた雑誌を秋発刊で考えている。新聞社との共同作業だから、これがポシャることはない。一応、既存のタウン誌の事務所がこの町の近くにある。けど、そこは老朽化が激しいから取り壊されるらしい。」
「元々、あの建物は喫茶店か何かだったんだろう?結構古かったな。」
 薬を飲み終わって晶も煙草に手を伸ばした。
「板張りにする気ですか?」
 一番大きな応接間。そこが事務所になるらしい。元々そこには民宿をしていたときに食事や宴会をするスペースだった。だが清子と祖母の二人暮らしの時は、あまりにもがらんとしているので伏すまで仕切って片隅しか使っていなかったのを思い出す。
「畳は維持にお金がかかるからね。それにテーブルとパソコンを置いたり、機械類を置くと畳がすぐ駄目になるから。フローリングだと、そんなに気にならないだろうし、年一度か二度、ワックスを掛けるくらいだろう。」
「お風呂場もガスに?」
「そっちの方が君も手間が減るだろうと。」
「……。」
 清子がそのタウン誌に関わることはない。清子がするのはあくまで、会社全体のウェブ管理だ。インターネットが繋がっているから、在宅でも可能だからと言う理由で在宅を許可されたのだ。
「清子の仕事部屋はここ。自室は、ここだと言っていた。」
「……仕事部屋は祖母の部屋だったところですね。でも……校了の前なんかは、ここに寝泊まりする方もいるでしょうね。」
「良い待遇だよな。ここに配属になったやつ。そのメンツが来そうなんだ。」
 それが晶にとって一番聞きたいことだろう。もし史がここの編集長になれば、清子とここに住むことも出来るだろう。そうなれば結婚が本当に見えてくる。
「うちが発刊しているタウン誌の編集長は、課の移動を希望している。そろそろ町に帰りたいんだと。」
「へぇ……フリーペーパーの方は?」
「辞めて、自分で会社を興したいと。」
「だったら空白じゃん。どうするんだよ。」
「まだ白紙だそうだ。人事部が選定している。」
 自分に話が来たことを言わなかった。何を狙っているのだろう。
「清子。家が改装されるのに抵抗はある?」
 すると清子はその設計図から目を離した。そして首を横に振る。
「特には。この家は社長のものですし、私がとやかく言うことではありませんから。」
「これで進めて良いってこと?」
「えぇ。」
 もっと抵抗するかと思った。確かに今のままでは人は住むことが出来ないだろう。だがその設計図の事務所兼自宅は、あまりにも清子が住んでいた頃と違う。
 最近は古民家をリフォームして住んでいる人も多い。その要領で社長も話をしていたのだろう。
「良かったよ。冬山さんには反対されていたみたいだけど、君が良いって言ってくれるならこれで話を進められる。」
「冬山さんに反対された?」
 おかしなことを言うものだ。祥吾は確かに中学生の頃まであの家に住んでいたようだが、そんなに愛着があるとは思えないのに、どうしてそんなことを言うのだろう。
「自分が住んでいた所だからかな。冬山さんはいつも和服だし、家も見事な和風建築だって言っていた。だからフローリングなんかって思っていたみたいだし。」
「……ふーん。入院するときも、和服だからな。そんなにこの国が好きかね。」
「入院?」
 その言葉に清子は驚いて晶の方をみる。そしてその設計図をまた丸めた。
「あー。言ってなかったっけ。俺、今日冬山祥吾に会ったんだよ。」
「今日?」
「正月なのに入院するんだとさ。もう長くねぇって。」
 やはりそうだったのか。祖母が入院するときも、そして晶の父が入院したときも、同じような顔色をしていた。
「終末医療って言ってたか。」
 だとしたら、やはりあの鍵を春川に渡さないといけない。清子は史の方を見る。
「どうしたの?」
「あの……春川さんに連絡を取ってもらえませんか。」
「春川さんに?俺知らないよ。」
「あ……秋野さんという方でした。」
「秋野さんね。ライターの人か。残念だけど、俺そっちも知らないんだよ。」
 その言葉に晶は驚いて史を見た。
「連載してんじゃん。秋野のコラム。編集長と、担当編集だったら知ってるだろ?」
「俺は知り合いのつてで秋野さんと連絡を取った。けど、俺は顔が広すぎるから嫌なんだと。だから中野さんに担当してもらった。俺が何か言うときは、いつも中野さん越しなんだよ。」
 中野には言ったことがあるが、中野は絶対口を割らないだろう。どうしたらいいだろう。
「だったらさ、編集長。桂ってAV男優と連絡は付かないか。」
 晶の言葉に、史は驚いて今度は晶をみる。
「桂さん?あぁ……確かに連絡は付く。でもあの人はもうAVに出ないらしいし、一般の俳優になると言っていたけど……どうして彼が出てくるんだ。」
 すると晶は煙草を消して、口を開く。
「……どうやら春川は、その桂って男優とデキてるらしいな。だから冬山祥吾が相当嫌ってる。」
「どうして……。」
「夫婦だったんだよ。春川と冬山祥吾が。助手兼妻。でも春川が桂に転んで出ていった。」
「……自分の作品を盗作されて、黙って妻とか、助手とかは出来ませんよ。自然な流れだったのでしょう。」
「でも世話になってる。なのに、死にそうなヤツを捨てて新しい男に転んだってのも、どうにかしてると思うけど。」
 清子は不機嫌そうに煙草を取り出した。そしてそれに火をつける。
「まぁ……ここで予想を話し合っても仕方がない。事情はだいたいわかったから、ちょっと桂さんに連絡をしてみるよ。」
 史はそう言って携帯電話を手にして、外に出ていった。その間清子は不機嫌そうに、煙を吐き出す。
「お前なぁ……。」
 晶は文句の一つでも言おうと思ったのだろう。しかし清子は、バッグから鍵を取り出した。そしてそのコンテナハウスの鍵を見ている。
 コンテナハウスは、港近くのT地区にあるらしい。コンテナハウスや、倉庫の多いところだ。不自然なものがあってもあまり気にならないだろう。こんなところに何を預けているのか、清子には予想もつかなかった。
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